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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第六六話 意固地になる彼女


 美穂の様子が原因も不明瞭なままに変わってしまってから数時間ほどが経過したわけだが、あれからというものの何度かそれとなく探りを入れてみても全く理由が掴めない。

 キッチンで調理をしている最中も手際は変わらず洗練された手つきだったがそれ以上に彼女らしくもなく度々溜め息を吐いていた。


 視線もどこかを気にするように俯いて下を向く様子が散見され、落ち込んでいるのはほとんど間違いないと見ていいだろう。

 問題なのは彼女が何に対して気分を沈めてしまっているのか。

 その要因だけが一切合切把握できないという一点のみだ。


 最初は時間が経てば美穂の気分も持ち直すだろうかという淡い期待も抱いていたが、そんな都合の良い空想が現実になることは無く。

 むしろ時間が経過すればするほどに彼女の深刻そうな面持ちは険しいものとなるくらいで、そしてそれは……現在。


 いつもなら美穂の弾む様な声と蓮の言葉が入り混じる会話の繰り広げられるはずだった夕食の席でさえも、悪化の一途を辿る始末であった。


「美穂、本当にそれだけでいいのか? 絶対に足らないだろ…」

「…え? あ、うん……大丈夫。むしろ今日はこのくらいが……ううん、これくらいでないと駄目だから…」


 心なしか重い空気さえ漂ってしまっているダイニングテーブルにて、蓮は美穂の手料理を味わっているが…今日ばかりはその味に集中しきれない。

 というのも向かい合って座っている美穂の食べる料理の分量はついこの前と比べても明らかに減っており、小食気味な傾向にある彼女でもまず足りないだろうと確信させるほどの量しか口に運んでいないのだ。


 …まさかここまでの落ち込みようになるなど想定もしていなかったが、蓮が思っていた以上に彼女の身に訪れた何かは根が深いらしい。


 今もちびちびと食べられながらも、そのボリュームが激減してしまった夕食を見れば尚更そう思う。

 そこまでになると健康面でも支障が出てしまいかねないとも思うが…そう指摘しても無意味なこともまた変わらず。


 カチャカチャという食器の音だけが静かに響き渡る食卓の中で、虚ろな視線を彷徨わせて覇気の欠片も無くなってしまった彼女にどんな声を掛けてやったら良いのかも分からない。

 ここで中身のない、その場しのぎの一言を呟いても焼け石に水なことは分かってしまっているので下手に手助けも出来ないまま、ただただ無為な時間だけが過ぎ去っていった。



     ◆



 あの美穂の突然の変貌っぷりから一日が経ったが、まだ彼女の様子が回復した気配は感じられない。

 一応一晩が明けたことで最低限の体力と気力が戻ったようには思えるものの、それだって以前と比較したらあまりにも物静かに過ぎる。


 前の美穂なら事あるごとに、何かにかこつけて蓮へ密着しようとしてくるか話しかけてくるかの二択で行動してきていた。

 だというのに今では近寄るどころか何故か距離を置かれてしまっているくらいで、近づこうとするとさりげなく立ち去られてしまう。


 ただそれに関しては彼のことを避けようとしているというよりも、挙動不審になりながら一定の間隔を保とうとする感じであるため嫌われたわけではないと判断した。

 ……まぁ、そのせいで更に現状に至った原因が分からなくなってしまったがそれはそれとしてもここに来て初めて美穂の方から初めて意思表示をされる。


「──蓮くん、私今から少しだけ()()()()()()

「走る…? また随分と急に…そんな恰好までして平気か? 疲れてるならそこまで無理することないぞ」

「大丈夫。というかこれはやらないといけないことだから……とにかく行ってくるね。夜ご飯の前には戻ってくるから、そこは心配しないでいいよ」


 何だか久しぶりに彼女から声を掛けられたので一瞬面食らいかけたが、それよりも今は美穂の恰好と発言の方が気になって仕方がない。


 一体どのタイミングで着替えていたのやら、近くを走ってくるなどと宣言してきた美穂の姿は身軽で動きやすいランニングウェアとなっている。

 頭には一応の日差し対策のつもりなのか帽子を被っているも…正直この夏本番の暑さが照り付けてくる中で走るというのは賛成しかねる。


 そもそも前提として、彼女が落ち込んでいたかと思えば今度は打って変わって運動に取り組もうとする姿勢を見せ始めたのも意図が不明瞭すぎる。


「いや、別に夕飯の心配をしてるわけじゃない。ただ()()()大丈夫なのかって話で…昨日の夜も大して食べてなかったろ? それなのにこの猛暑を走りなんてしたら最悪倒れてもおかしくは…」

「……それでも、こればっかりは蓮くんの言う事でもやめちゃ駄目だから。少しだけだしすぐに戻ってくるもん。じゃあ…行ってくるね」

「あっ……美穂のやつ、平気なわけないだろうが…」


 だとしても突然の奇行を止めてやることも出来ない。

 こんな日差しの下でランニングなどすれば最悪熱中症になりかねないと忠告しても真剣な眼差しでこちらが言いくるめられてしまい、次の言葉を待つよりも先に出て行ってしまった。


 その駆けていく後ろ姿からも、今の彼女が何かを()()()()()ことだけははっきりと分かるのだが…どうしてもそれ以上のことが分からない。

 こんな膠着した状況がいつまで続くのかも不明だというのに、あんな美穂は流石に見ていられない。


 普段の活発さが嘘のように鳴りを潜めてしまった今の彼女はどんよりとしたオーラで覆われてしまっていて、そんな彼女を見たくはない。

 であれば、蓮がやるべきことは一つ。


 現状、安易に美穂の変化に関わる事情へと深く踏み込もうとすると彼女には警戒されてしまって聞き出すことは叶わないだろう。

 ならば今しばらくは表面上はいつも通りの態度を装いつつも、生活の中でさりげなく気を窺って原因を探りに行く。


 そして解決が図れそうなら蓮の方でも手を貸す。

 …中々に難解な任務なのは自覚しているが、これしか取れる手はないのだ。


 それに美穂は、落ち込んだ姿よりも明るく笑った姿の方が遥かに似合っているはずだ。

 あのような沈んでしまった空気は彼女らしくもなく、どうにかしてやりたいと蓮も考えている。

 …いや、してやりたいではない。しなくてはならない。


 蓮の力がどこまで及ぶのかなど予想することも出来ないが、とにかくこういうのはごちゃごちゃと思考を深めるよりも早くに行動へ移した方が解決への最短距離になることも多い。

 今回もそのケースが当てはまるかどうかは判断も出来ないが、ひとまずの行動指針をそう据えた蓮は先ほど出て行ってしまったばかりの美穂がいつ帰ってきても良いよう、少しばかりの用意を整えるべく行動を始めた。




「──た、ただいま…! はぁ……ふぅ…い、いい汗がかけたよ…!」

「やっと帰ってきたか……って、美穂!? そんな汗流して…どれだけ走って来たんだよ!?」

「き、近所を走って来ただけだよ? す、少し疲れただけだからそんな大変でも無かったしね…!」

「…いいから早く水飲め! 今タオルも持ってきてやるから…」


 美穂が走りに行くと言って蓮の家を出てから一時間近くが経った頃。

 ようやっと戻ってきたらしい彼女の気配を感じて玄関先まで出迎えた蓮だったが、そこで見た景色に愕然とする。


 もちろんどのような形であれ運動をしてきたのだから多少なりとも彼女も疲弊した様子にはなるだろうと思っていた。

 ただ、今の美穂は…その多少の範囲を易々と飛び越えてしまいそうなほどに全身から汗を流し続け、呼吸のペースさえも乱れ切ってしまっている。


 明らかに体力を使い果たしており、オーバーワーク状態なことは明白だ。

 そもそもの前提としても美穂は普段から兼ね備えている体力が特別多い方ではなく、常識的な運動量なら問題はないがこれはそんな生易しい走り方ではなかっただろうことは想像に難くない。


 誰がどう見ても過剰に身体を酷使し、蓄積した疲労も限界を超えているのは一目で分かってしまう。

 ただ美穂はこれまた何故だかその運動量を認めようとはせず、あくまでも常識的なランニングだったと言い張る。


 …そこについても延々と問い詰めたいのは山々であったが、とにかくこうなってしまうと彼女の身を優先させなければ。

 すぐにでも水分補給をさせ、その肢体を流れ落ちる汗を拭えるように手頃なタオルを慌てて用意する蓮の頭からは…具体的な経緯を聞き出すことなど完全に後回しとなっていたのだった。



 結局、この日もその後は詳しい事情を聞き出すことは叶わず。

 似たような流れが数日程度経過したところで、ようやく状況に一つの変化が生まれた。


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