表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/74

第六二話 同時進行するお泊まり


 京介と琴葉の割り込みづらい雰囲気を目の当たりにしたり、美穂から突然予想だにしていない角度からの愛らしさを向けられたりと…想定していた以上に盛り上がった夕食であったがそれも時間が過ぎれば終わっていく。


「──はぁ~…! こんだけ満足いく夕飯は久しぶりに食ったな。つーかここまでのものを今まで蓮は毎日食べさせてもらってたとか羨ましいにも程があるぞ」

「それは分かってるよ。自分が恵まれてるのなんて百も承知だ。だから他の誰にもこのことは言わないように徹底してるんだし」

「……確かに、な。蓮みたいに地味な男が鐘月さんと毎日一緒に過ごしてるなんて知られたら大騒ぎだ。それを実感させられた」

「…地味は余計だ。ただようやく分かってくれたようで何よりだよ」


 夕食を終え、その後の彼らはというと…しばしの間は食休みも兼ねた談笑に興じていた。

 食事を終えてすぐに激しい運動をするのは体調的にも良くないことであるためという判断から自然と場の空気もそうなっていったわけだが、そうなっても話題に挙がるのは先ほどの夕食についてばかり。


 特に美穂の調理技術を初めて目の当たりにした京介なんかはそれが特に顕著だったようで──もちろん彼の評価が最高潮になるのは全て琴葉の料理だったがそれはそれとしても感動していることは疑いようもない。

 むしろこれだけのリアクションを見せておきながら内心では無反応なんて言われたら、演技力の高さを素直に尊敬する。


「それには同意……あと、もうこんな時間になってる。…まさかここまで居座ることになるとは思ってなかった」

「言われてみれば…私はいつもこのくらいまでいるから何とも思わないけど、改めて思うとちょっと遅い時間だよね」

「……美穂。普段はこの時間まで相坂君の家で過ごしてるの? 二人きりで?」

「え? そ、そうだけど…」

「…………こんな可愛い子と二人だけの空間にいて手を出さないなんて、どういうつもり? まさか特殊な嗜好でも持ってる…?」

「おいこらそこ。詳しい内容は聞こえなくても不穏なこと口走ってるのは分かるぞ。ほっとけ」


 それともう一方…先ほどからそれとなく会話内容が細々と聞こえはしていたものの、触れるのは良くないかと思い意図的に放置していた組。

 今夜の集まりの功労者でもある美穂と琴葉が、微かに暗くなり始めている窓の外を見つめながら。

 何やらとんでもない蓮に対してとんでもない悪評が広められかけていたのでそれだけは阻止しておいた。


 別に蓮は美穂と二人で過ごしているからといって良からぬことを企んでいるわけではない。

 無論、容姿端麗でスタイルも抜群な同級生と共にいるのだから思うこともないではないが…そんな視線を向けるのは彼女に失礼であるという一心で押しとどめているだけだ。


 たとえ美穂の方から諸々を押し付けられたとしても、表面上は変化がないだけでその実頭の中では様々な葛藤が入り混じってもいるのだ。

 断じて興味がないだとか無関心というわけではない。


「…でも流石に、これ以上私たちが居座るのも悪い。そろそろ帰らないと」

「琴葉ちゃん、もう帰っちゃうの? まだ居てくれてもいいのに…」

「美穂がそう言ってくれるのは嬉しい。だけど二人に甘えすぎるのも良くないし、うちの親も心配するだろうから今がその頃合いってだけ。だから……()()()()()

「………ん?」

「うん?」


 ──ただそんな時、不意にそれまで静かに美穂と会話を重ねていた琴葉がいきなり帰ろうとする姿勢を見せ始めた。


 何の予兆もなく唐突にそのようなことを言いだされたため、告げられた側である美穂も呆気に取られていたが…言葉を聞いていけば考え無しに宣言してことでもない様子。

 現在時刻にしても、もうそろそろ夏の日差しが傾き始める頃合いでもあり一般的に見れば夕方から夜間に差し掛かる時間帯にもなる。


 そうした理由から帰宅する意思を見せたのだろう。

 ……がしかし、そこで何やらこちらとあちらで意見が食い違っているような発言が飛ばされてきた。


「琴葉、何か勘違いしてるかもだが……今日は俺、()()()()()

「………えっ?」

「聞いてなかったか? 今日は蓮の家に泊めさせてもらうからここで一晩明かすんだよ」

「……聞いてない、そんなこと。初耳なんだけど」

「………なぁ美穂。もしかしてだが…」

「……あっはは、えっとぉ…うん。それも伝え忘れてました…」

「だろうな」


 彼氏と共に帰ろうとする琴葉に対し、京介からの返答はそれを断る意図のもの。

 しかしそれは当然だ。


 何せ本日の京介は元々の予定からして単に遊びに来たわけではなく…この家に宿泊していく手筈だったのだから。

 どうにも認識の行き違いがあるように思えてならない今のやり取り。


 ただ、もしやと思った蓮が根本の原因を知っているだろう人物──美穂に確認をしてみれば予想通り。

 …曰く、京介が今日ここに泊まって行くことも通達し忘れたとのこと。


 さっきも似たような流れがあったような気がしないでもないのだが…ここでも彼女のうっかりが発動してしまったようだ。


「…ということは、京介は相坂君の家に泊まっていくってこと?」

「まぁ…そういうことになってるな。簡単にまとめれば」

「………………」

「あ、あの……こ、琴葉ちゃん? 凄い渋い顔になってるけど…」


 されど突然の事過ぎたがゆえに流石の琴葉も状況の理解に頭が追い付いていないのか、少し呼吸を整え直すと蓮に今言われたことは正しいのかを再度確認してきた。

 なので蓮の方からもこの事実が間違っていないことをしっかりと伝えれば…その端正な顔をこれでもかと歪ませる始末。


 その渋さたるやあの美穂でさえ狼狽えるレベル。

 加えて言葉にせずとも分かるが、その顔から訴えかけられる意思の大半は──推測するに『蓮ばかりズルい』といった感じだろう。


 別に京介も顔も知らぬ異性の家に泊まるとなれば大問題であろうが、友人の…それも蓮の家に宿泊するくらいなら問題はないはずではある。

 ただこういうのはそんな単純な理屈ではないのだ。


 自分の恋人が、よりにもよって自身の把握していない間に友人知人の家に泊まることが決まっていたとなると少なからず思うことがあってもおかしくない。

 きっと内心では『何故自分の家に泊まろうとしなかったのか』なんて文句も呟かれていることだろうが…とはいえ蓮に出来ることがないのも事実。


 彼とて京介を家に招いたのはあちらから申し出されたからであって、こちら側が強く要望した事情も皆無。

 了承したというよりは押し切られたという表現の方が正しいくらいなので、そんな目を向けられても困るだけなのだが琴葉からしてみればそんな経緯は関係ないということか。


 とはいえこのままでは琴葉も京介の宿泊云々に対して納得の意向を示せぬ状態が続いてしまいかねないため、どうしたものかと彼も少し頭を悩ませて………。


 ──蓮がどうにか良い解決案を出せないかと思案していた中、ある意味でこの状況を生み出してしまった原因に関わっていると言えなくもない少女。

 やらかしてしまったことによる罪悪感からかワタワタと落ち着かない挙動を見せていた美穂がふとした拍子に、ポンと両手を合わせて何か妙案を思いついたような素振りを露わにしていた。


「……そ、そうだ! ねぇ琴葉ちゃん。代わりと言ったら何だし良ければなんだけど…今日この後、許可が貰えたら()()()()()()()()()()()()?」

「………え、美穂の家に?」

「そうそう! 私の両親も仲の良いお友達が来てくれるなら駄目だとは言わないだろうし、もちろん琴葉ちゃんがそうしたいって思ってくれるならの話だけどね。…ど、どう?」

「……なるほど」


 何と美穂から提案したのは彼女の家に琴葉が宿泊していくという、どこか今日の蓮たちと似たようなシチュエーションを彼女にも提供することであった。

 確かにそれならあちらだけが不公平だと感じることは減るだろうし、美穂にしても…もちろん申し訳なさを感じていたからという理由もあるとは思うがそれと同じくらいに仲の良い友人である琴葉と一夜を過ごす経験をしてみたいという思いが根幹にはあったはずだ。


 ゆえにその真摯な感情が伝わったからこそ、今しがた不服そうな面持ちとなっていた彼女も迷いを見せ始め……そう長くもかからない内に答えを出した。


「……分かった。まだ親に聞いてないから何とも言えないけど、説明して美穂の家にお邪魔してもいいか聞いてみる」

「ほ、本当!? それなら私もこの後、お母さんたちに連絡しておくよ! えっへへ…お友達とお泊まり会なんて初めてだからワクワクしてきちゃうかも…!」

「ん、それは私も同じ気持ち」


 顎に指を当てて考え込んでいた琴葉の出した結論は快諾。

 これから自分たちの親に諸々の経緯を説明して許可を貰ったり、少なくない準備が必要であったりとやることは多いだろうが…美穂と琴葉であれば心配する必要もないはず。


 存外しっかりとした面が多い二人のことなのだ。

 仲の良い同性の友人の家に泊まりたいという要望も、それほど強く拒否されることなく認められることだろう。


「というわけなので…ごめんね蓮くん? いつも私のお見送りしてくれてるけど、今日はそれも無しの方向で…いい?」

「気にすんな。天宮が一泊していくことになったんだろ? だったら美穂はそっちの方を優先して楽しんで来たらいいさ」

「うん…ありがとう! …ふふっ、いつもならあとは家に帰るだけで寂しいくらいだったのに…ここから楽しみが増えるなんて思ってなかったな」


 そして着々と次なる予定が決められていく最中、美穂から蓮に語られたのは…一つの謝罪。

 といってもこれは特に大したことでもなく、実を言うと蓮は夜に差し掛かって美穂が自分の家に帰宅しようとした時。


 毎日のように自宅近辺まで彼女の帰路に付き添っていたのだが…それも本日は必要ないとのこと。

 日頃は夜間に女子がたった一人で、それも美穂が単独で夜道を歩いたりなどすればどんな不埒な輩に絡まれるかも分からないという不安の種から行っていたこの習慣。


 もちろん美穂本人にも許可は取っている。

 むしろ彼女にそうさせてくれと提案したところ、食い気味に受け入れられたくらいなので不快に思われていることもない…と思いたい。


 …まぁ何はともあれそんな日課もあったわけだが、今日は事情を聞いていた限りだと美穂だけでなく琴葉も加わって二人で同じ場所に向かうのだろうし過度な用心は不要か。

 それどころか余計なお節介を焼いてしまえば彼女ら二人の、せっかくの時間を邪魔してしまいかねないので大人しく身を引いておくのが今回は吉だ。


 そう判断し、蓮は目の前で突如決まったお泊まり会への期待に胸を膨らませ…純粋な期待感にこぼれ出た笑みを全開にする美穂を、微笑ましい目で見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ