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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第六〇話 調理風景と知られた事実


「──いやはや、それにしても琴葉はエプロン姿もよく似合ってるな! これはあれか? いわゆる新妻的な雰囲気もあっていいな…」

「…も、もう京介。そんなこと言われると照れる…」

「ははっ、だけど本当に思った事なんだから仕方ないだろ? それに琴葉ならたとえどんな格好だって最高に可愛いのは決まって──…」


「……なぁ、お前らは何だ? 定期的にいちゃつくのを見せつけないと気が済まないのか?」


 美穂と琴葉の手によって夕食の調理が進められるという、他の男子共からすれば垂涎物のシチュエーションが展開されているわけだがそんな最中。

 先ほどから飽きもせずに自身の彼女の様相を褒めちぎる京介と、それを耳にすると表情は変わらずとも頬を赤くして恋人からのストレートな称賛に照れる姿を見せるカップル二人。


 …そして、そんな甘ったるいにも程があるやり取りをげんなりとした顔で見ていなければならない蓮。


 この家で仲睦まじい様子を過度に見せつけるのは勘弁してくれとあれほど願っていたというのに、その思いも届かず結局は親しい恋人のワンシーンを目の当たりにしなければならないこの現状。

 無論、険悪な仲を見せられるよりは何倍もマシだがそれにしても限度があるというものだ。


「何だよ蓮。俺たちの楽しいひと時を邪魔しないでくれよな!」

「邪魔するに決まってるだろ、これは。…一応俺の家だっていうことを忘れないでくれよ?」

「………大丈夫。忘れてないから、安心して」

「いや、今絶対忘れてたよな? 俺が止めなかったら確実に引っ付いてたよな?」


 もしあのタイミングで蓮が止めていなければ…おそらくはこの二人はキスなり何なりしていただろう。

 もはやピンク色の空気さえ幻視出来そうな雰囲気を目にしていた身だからこそ分かる。

 彼が口を挟んでいなければ、そして彼らの親密度合いを考えれば間違いなくそんな展開になっていたと。


 だから苦言を呈したのだが、返ってくるのはかなり理不尽な文句と確実に蓮の存在など忘れ去られていたと確信する反応。

 …くっつくなとは言わないから、せめて見極めるべきラインくらいは頭の片隅に入れておいてほしい。


 と、そこまで考えて口からこぼれ出る溜め息を自覚していると……不意に蓮へと声を掛けてくる者が近づいてきていた。


「蓮くん、もう少しでご飯も出来るから待っててね…って、どうしたの? そんなに疲れた顔して…」

「…まぁ、あの二人の対応に疲弊させられてたというか」

「あ~…それは仕方ないね。橋本君と琴葉ちゃんはラブラブだから釘を刺したって意味ないよ」

「分かってるんだがな…こうも目の前で歯の浮いたセリフを言われ続けるとこっちがむず痒くなる」


 パタパタと小さな歩幅を小走り気味に動かしながらやってきていたのは美穂であり、あと少しで夕食が完成することを伝えに来てくれたらしい。

 ただそこで疲れ切ったように椅子にもたれかかる彼の存在を認識し、首を傾げて質問されたが蓮の放った一言で全てを察せられたのだろう。


 あちらの仲睦まじさは今となっては美穂もよく知るところである。


「ふーむ…じゃあもういっそのこと蓮くんも似たようなことを言ってみたら恥ずかしくなくなるんじゃない? 一回やってみようよ!」

「…どうしてそうなる。あと多分効果ないぞ」

「いいから! こういうのは理屈じゃなくてやってみるのが大事なんだよ! ほら、今の私の格好とか見てどう思う? 試しに感想を言ってみて!」


 …が、それでもこうした流れに持ち込まれると自分のペースを作ろうとするのも美穂の特徴として挙げられる。

 現に今も時間や場所を問わずくっつくカップル二人を目の前にして居心地を悪くする蓮に、謎の提案を持ち掛けてきた。


 一体彼女を褒めることでどのような効果が望めるのか全くもって疑問であるが…こうなったら美穂が諦めることは無い。

 意外にも頑固なところがある彼女の要求には素直に従うしかないと彼も学んでいた。


「格好って…別にいつも通り似合ってる、としか」

「…むぅ、それじゃ駄目! 私は全然満足できません! …もっと他になかったりしない? 例えば可愛いとか、見惚れそうだとか……可愛いとか!」

「…それ、答えは実質一択だよな。分かった分かった! …言うから」

「やった! ならしっかりお願いね?」


 もはやここまで来ると感想を述べるというよりも誘導されていると表現した方が近い。

 …例を挙げているはずの美穂が力強く強調しながら勧めてくる褒め言葉を言えと暗に示してくるので、それ以外を言ったところで向こうが満足することは無いと彼も悟ってしまう。


 こうなると降参するほかないので、期待するように微笑む美穂めがけて言うしかない。


「…そうだな。前までは違和感もあったけど今となってはその恰好も馴染んできたと思うし、まぁ…可愛いと思うぞ。客観的に見ても美穂の見た目が整ってることは事実だからな」

「ふーむ…出来ればもう少し蓮くんの主観的な意見が欲しかったところだけど。可愛いとは言ってもらえたから及第点かな? うん、やる気も出てきた! ありがとうね!」

「はいはい…このやり取りに意味はあったのか甚だ疑問だな」

「もちろんだよ! これで残りの作業も気合い入れて出来そう! 琴葉ちゃん、あと少しだけ手伝ってくれる?」

「…分かった。そっちも任せて」


 他人を褒めること自体に忌避感があるわけではない。

 むしろそのような点があるのなら、特に異性に対してそう思えるポイントがあったら素直に口にしていくべきだと蓮は思っている。


 ここで下手に格好つけて内心を隠し通し、称賛の言葉などわざわざ言わずとも問題ないだろうなんて勝手な思い込みで場をやり過ごすことこそ無意味なことなのだから。

 ゆえに褒め言葉を送るのは問題もないのだが…如何せん、こういったシチュエーションに彼がまだ不慣れなことも事実。


 これまで女子の容姿を褒める経験などまともに積み上げてこなかった弊害か、どうしても真正面からそれを要望されると照れくささが入り混じってしまうのだ。

 それでも求められてしまった以上は可能な限りの範囲で応えるように努力はしているので、その辺りで納得してもらいたい。


 すると美穂にもその思いが伝わったのかどうかは…分からないが。

 彼女も一応は満足してくれたようで笑みを浮かべ直して大きく頷くと、その小さな身体を目いっぱい動かしながら琴葉と共にキッチンに舞い戻っていく。


「──ようよう、随分とそっちも見せつけてくれるじゃないの?」

「うるせぇな。…揶揄いに来たのかよ」

「いーや? ただ俺は親友が順調に鐘月さんとの距離を縮めてくれてるのが嬉しいだけさ!」


 ──ただ、そんな会話を重ねていればそれに反応を示す者もこの場にはいる。


 いつもなら美穂と二人きりであるために口を挟まれることも皆無ではあったが、今回に限ってはそのケースから外れており…事実として一部始終を眺めていたのだろう京介からはこちらを弄るような雰囲気を醸し出して話しかけられる。


「何が距離を縮めた、だ。前と大差ないだろ」

「いやいや、それこそありえないって! …鐘月さんを見てたらお前のことを見る目が変わってるのは丸わかりだし、それに…お前の方もお互いに()()()()してるなんて、バレてくれって言ってるようなものだぞ?」

「…っ。…そりゃ、色々あったんだよ」

「色々ねぇ…? まっ、その辺はまた後で詳しく聞かせてもらうとするさ。今はそっちの仲が深まってることを喜ばせてもらおう!」

「……お前ってやつは」


 蓮と美穂の仲について切り込んでくる京介の言葉に、彼も余計なことを口走れば余計な展開になるだけだと分かっているので特別なことなど何もないという様子でやり過ごそうとする。

 が、そうするよりも前に…うっかりと日常の癖が出てしまったのか。


 彼らにとっては既に当たり前の習慣となっていたので誤魔化そうという思考さえ浮かんでこなかったが、京介と琴葉は知らないはずの名前呼びをしているという事実を知られてしまったことで己の失態を悟った。


 そうすると蓮のことを弄れるネタを見つけた京介はこれ幸いにと言わんばかりの勢いで腹の立つ笑みを浮かべ、後々に面倒な事態になることが決まったことを告げてきた。

 …原因が自身にあるので今回ばかりは蓮も言い返す気力が湧いてこず、この後に待ち構えている流れを思ってガックリと肩を落とした。


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