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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第五八話 宿泊理由


『頼む、蓮!! 今日だけお前の家に俺を泊めて……!』

「黙れ、却下だ。じゃあな」


 ──美穂から投げかけられたとんでもない問いから端を発し、そこから波及して両者がダメージを負うことになった騒動の後。

 あれからというもの、少しの間はお互いに気まずさが残ってギクシャクとした空気が蔓延していたがそれも時間が経てば解決してくれる。


 数日も経過すればいつの間にか彼らの関係は普段通りの距離感に戻り、何てこともない日常生活が戻ってくる。

 そんな穏やかな時間の中で……現在。


 蓮は突然自身の携帯にかかってきた()()に対応していたが、その会話相手──夏休みに入ってから会う機会も減っていた友人の京介の発言を聞いた次の瞬間に返事を聞く間もなく通話を無慈悲に終了した。


「……蓮くん、今の電話切っちゃって大丈夫だったの?」

「あぁ。まともに取り合っても意味ないから問題ない。こっちのことは気にせず続けてくれたらいいから」

「そ、そうなんだ…」


 するとその一部始終を眺めていた人物、リビングにて蓮と共に夏休み中の課題を片付けるための勉強に精を出していた美穂が目を丸くして反応を示していたが、気にするほどの事でもない。

 どうせ口ぶりからしてあちらの要求がくだらないことは分かっているため、これくらい雑な方がちょうどいい。


 それにどうせ…一度断ったくらいで諦めるような相手でもない。

 そう思った矢先、再度携帯が通話を知らせるバイブレーションを響かせてきたので気乗りはしないが改めて電話に出る。


「……どうした。また掛けてきたりして」

『話を聞かずに切るなよ!? お前に親友への思いやりってものは無いのか…』

「あるわけないだろ。あいにく昼間から訳分からんことを言いだすやつに向ける思いやりなんて持ち合わせてないんだ」

『酷くない?』


 携帯の向こう側からいかにも傷ついたような悲痛な声を上げ、しかし全く懲りていないだろうことが容易に窺える京介からの着信。

 渋々ではあるがここで無視をしたところでどうせまた電話を掛けてくるのは目に見えているのだから、多少の面倒には目を瞑って応じれば…さっきの問答に対する文句が返ってきた。


 だがそれについてはこちらも一応の言い分はあり、そもそも開口一番にあんなことを言われれば話を聞く気も失せるというものだ。

 加えて京介からの提案など大半がろくでもないことは確定しているのだから、あれくらいの対応がベストなのはこれまでの経験からも理解している。


「…で、何の用だ。言っておくがくだらない事だったら却下だからな。まぁ大体内容は察したが…」

『あ、そうそう。そのことなんだがな…改めて言わせてもらうと、蓮の家に()()()()()()()()()()!』

「泊める、ねぇ……どういうことだ? まずその理由を話してくれ」


 ただそれであちらが納得するはずもないので仕方なく京介の要求を聞いていけば、飛んできたのは蓮の自宅に泊まりたいとの旨。

 彼の言う事が突発的なのは今に始まったことではなくとも、それだけでは詳細も分からないのでひとまず一通りの事情を把握することに徹する。


『実は情けないことにな…この前琴葉とデートに行ってたんだが、そこで散財しすぎたことが親にバレて叱られたんだ。それで向こうと言い争いになって、そのまま家を出てきたんだけど行く当てがないんだよ』

「……お前、まだ懲りてなかったのかよ。前にも似たようなことで指摘されたばかりだろ…」

『うん、そうだったか? まぁそんなわけで少し蓮の家に厄介になりたいんだわ。どうだ?』

「無理に決まってるだろうが。急すぎるんだよ」

『そんな!?』


 しかし聞いたところで同情の涙を誘うような経緯が出てくるわけでも無い。

 つまるところ京介は恋人である琴葉との時間で色々とやらかし、それを親に咎められたことで感情の赴くままに家を出てきたということだ。


 …以前にも同じようなことをしでかして周囲を騒がせたばかりだというのに、反省するどころか同様の流れを繰り返しているのは呆れる他ないだろう。

 それにこちらの家に来たいなどと言われたところで蓮も許可を出せるはずがない。


『あぁ、もしかして()()()()のこと気にしてるか? そこなら心配しなくても大丈夫だぞ。流石の俺も二人のことを邪魔するつもりは無いから、こっちは気にせず存分にイチャイチャしてくれて構わない!』

「馬鹿か。…まぁあいつの負担が増えそうだからってのも断る理由ではあるけどさ」


 すると京介の方から以外にも鋭く突かれてしまったが、こちらの内心を見抜くかのように提案を蹴った理由として美穂の存在があるからというのも関係している。

 何せ京介が我が家に来るという事はイコールで美穂と彼が対面するということであり、そうなれば彼女にもいらぬ負担を掛けてしまう可能性が高い。


 一応は彼らもクラスメイト同士という関係性ではあっても、あまり絡む様な状況を目にすることは無いので同じ空間に滞在させれば居心地を悪くさせてしまうことも考えられる。

 ただでさえ美穂には諸々の家事を担ってもらって労力を割いてくれているのだから、せめてそれ以外の時間くらいはのんびりと落ち着ける時を過ごしてもらいたい。


 そのため京介を招き入れることにも躊躇していたわけだが…かといってこのまま友人を放置するのも寝覚めが悪い。

 話を聞いた限りでは向こうの完全なる自業自得なようなので同情の余地は無いものの、何かしらの対策くらいは考えてやろうかとも思う。


 であれば、蓮の方から妥協案を示してやるのが精いっぱいの出来ることか。


「…はぁ、仕方ない。それなら美穂にも念のため確認はしてみるから、そこで許しが出たら泊まるのも許可してやる」

『おぉ! 本当か!』

「仕方なくだぞ。…けど向こうが駄目だって言ったらその時は上がらせないから、そのつもりでいてくれ」

『そのくらいは分かってるって! それじゃあ確認は頼む!』

「はいはい…調子いいやつだな」


 本音を言えばこの条件を提示するのもどうかとは思うものの、状況を顧みればこれが最善と思うしかない。

 蓮が懸念している点としては美穂も過ごしているこの家に京介を上がらせてしまっても良いかどうかを迷っているので、彼女の同意さえ得られてしまえば宿泊を許可するのも吝かではないのだ。


 もちろんその時には細かい準備をする必要があるが…それは彼女の返事を確認してから。

 兎にも角にも、まずは現在も黙々と課題に取り組んでいる美穂に声を掛けてみよう。


「あー…美穂。今大丈夫か」

「む? いいよ、ちょうど区切りもついたから遠慮しないで! どうしたのかな?」

「実は今京介のやつから連絡があってな…あいつがここに泊まりに来たいって言ってるんだ。…どう思う?」

「橋本君が…お泊まりに? いいと思うよ」

「えっ、来させても問題ないのか?」


 よって一旦京介との通話から耳を離し、真面目な様子で勉強に取り組み美穂に今交渉中の話題を振ってみた。

 ともすれば渋られることも全然あり得るだろうと思い、そうなったらどうしたものかと頭を悩ませていた話だが……そんな彼の予想に反して。


 それとなく振られた問いかけに対し、何ともあっさりとした雰囲気で京介の宿泊に賛同の意を示されたことで蓮の方が目を丸くしてしまう。


「うん! だってここは蓮くんのお家なんだし、蓮くんがそうしたいなら好きにしたらいいんじゃない?」

「いや、確かにそうなんだけども…あいつが来たらかなり騒がしくなるだろうし美穂も居心地が悪くならないかと」

「…ふふっ、こっちのことまで気にしてくれるなんて蓮くんはやっぱり優しいね。でも気にしなくても平気だよ」


 聞き出していけば聞くほどに美穂の反応は抵抗など一切なく、彼の言葉を全て受け入れるのではと思わされるほどにこちらの意見を飲み込んでくれていた。

 しかしながらこの場に彼女がいる以上、美穂も決して無関係ではないのでその辺りも考慮した結果でしかないのだがそう伝えると彼女は嬉しそうに微笑む。


「橋本君なら蓮くんとも仲良くしてるのを知ってるから、他の男の子よりもずっと安心できるからね。それに琴葉ちゃんていう恋人がいるんだから私も変な真似をされる心配がない分楽なんだよ」

「…なるほど。言われてみれば確かにそう、なのか?」


 美穂が言うにはあっさりと許可を出したのにもきちんと理由があるらしく、他の男子と比べて彼女持ちの京介は自分に良からぬ真似をする心配がないので警戒する必要もないのだとか。

 まぁ彼の恋人である琴葉への愛情っぷりは嫌というほど蓮も見せつけられてきたため、それは理解できる。


 あの京介が琴葉以外の女子にうつつを抜かすなど、それこそ明日にでも国が滅びるというレベルの嘘と同等程度に信憑性がない。


「そうそう。…あっ、せっかくだし橋本君の分もお夕飯作ろっか! 一人分の量ならいつもの作業と変わらないし…うん、そうしよ!」

「ん、美穂がそこまでする必要はないぞ? 何なら今日は俺と京介だけ適当に夕食はコンビニで買って済ませてもいいしな。美穂の負担を無駄に増やすってのは──…」

「駄目! …蓮くんのご飯は私が作るって決めてるので、それは認めません。それにほら…こういうシチュエーションって夫のお友達に料理を振る舞うお嫁さんみたいじゃない? それに少し憧れてたというか……え、えへへ。なので今日のご飯は任せてください!」

「……っ! …そ、そうか」


 と、そうこうしているととんとん拍子に美穂が今晩の夕食を京介の分まで作ることが決められてしまった。

 最初は彼女にそこまでしてもらうつもりは無かったので蓮もさりげなく断ろうとしたが、彼女の説得に敵うはずも無し。


 それどころか頬に手を当てて何とも可愛らしい憧れを実現できると、緩んだ口元をお披露目する美穂を前にしてしまえば無用な遠慮など出来ないのでここは思い切って一任することにした。


「じゃあ、とりあえずそれで京介には伝えておくよ。……あー、京介。聞こえてるか」

『おっ、待ってたぞ! で? どうだった?』

「結果から言うと来ても問題ないとさ。仕方ないし泊まるのも許可はしてやるよ」

『よっしゃ!! そうこなくっちゃな!』

「あと追加情報だが…なんか美穂がお前の分も夕食作ってくれるらしいから、そのつもりで礼はしっかり言っておけよ」

『マジか!? それは思いがけない幸運だったなぁ…』


 そうして今まで電話越しに待たせていた京介へと事の経緯と結果を簡潔に報告すると、向こうは自分の望む結果を得られたことで喜びの声と共に予期していなかった厚意を受けられる事実に驚いた様子であった。

 まぁその気持ちは分かる。


『でもあれだな。白状すると蓮が毎日のように味わってるっていう鐘月さんの手料理にも興味あったからここで食べさせてもらえるのはラッキーだったな!』

「美穂の料理は美味いからな。ま、ひとまずそんなだからお前もあまり遅れない内に来いよ」

『おうよ! そんじゃ今からそっちに向かうわ!』

「了解。じゃ、また後でな」


 形がどうあれ、同級生の手料理を味わう機会などそうそうあるはずもない。

 ましてやそれが屈指の美少女のものともなれば尚更であって、彼女持ちの京介であろうと同じこと。


 だからこそこの機会は彼にとっても貴重なものであり、先ほどと比較しても喜色が入り混じった声色でこちらに向かうと告げられるとその直後に電話は切れた。


「さて…そうなると準備することも増えてきたな。やることをまとめて動かないと…? 美穂、どうしたんだ?」

「…う~ん。ねぇねぇ蓮くん、ちょっと相談なんだけどいい?」

「相談? いいけど何かあったか?」


 いきなりねじ込まれてきた予定ではあれど、一度決まった以上はやらなければならないことも出てくる。

 諸々の準備をあちらが到着するまでに済ませておかなければならないのでそのためにも動こうとしたところで…ふと、蓮は顎に指を当てて悩む素振りを見せる美穂に声を掛けた。


 もしや今のやり取りで一見納得した返事を出してくれていたがどこかに不満でもあったかと考えたが、そうではなく彼女が見せてきたのは自身の携帯だった。


「その…橋本君が来るなら、仲間外れみたいになっちゃいそうだしせっかくだから琴葉ちゃんのことも誘ってあげたいなぁ…って思ったんだけど。…やっぱり駄目、だよね?」

「……何だ、そんなことか」

「…っ」


 薄く照らされた画面に写っていたのは美穂にとっても友人であり、蓮にとっては友人の恋人である琴葉との連絡を繋げるメッセージ画面。

 恐る恐るといった様子で提案されてきたのはつまるところ、この三人が集まることになったのなら琴葉のことも呼んであげたいというものである。


 ただこれ以上の人を集めてしまうのは家主である蓮に迷惑となるのではという思考と、それでも仲の良い友人を除け者のような扱いにしたくないという美穂の優しい心根が垣間見えて彼も思わず笑ってしまった。


「いいよ、そんくらい。元々京介が来る時点で一人二人増えようが同じようなものだったからな」

「…! ほ、本当!? 琴葉ちゃんのこと誘ってもいいの!?」

「あぁ。天宮にも夕食は振る舞うのか?」

「うん、そのつもり! じゃあ早速琴葉ちゃんのこともお誘いして……よしっ! …これは今日のご飯、気合入れて作らないと…!」


 もちろん蓮がその申し出を断ることはない。

 もとより京介が来ると決まった段階で家が騒がしくなるのは確定しているのだ。


 なら今更一人くらい人数が増えたところで誤差でしかなく、強いて言うならこの場にあのカップルが揃うことで恋人らしいやり取りが展開されてしまうことが懸念点ではあるものの、それを憂いたところでどうしようもない。

 その辺りは蓮が目を光らせ、度を過ぎたような真似をしようとしたら直接とめればよいだろう。


 何より…他でもない友人を誘えるとなって、満面の笑みを浮かべた後に手を握りしめてやる気を漲らせた美穂の姿を目にすれば彼も自分の選択を後悔はしていなかった。

 思わぬ流れから実現した集まりであるが、どうやら今日一日は落ち着いて過ごせそうにもない。


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