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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第五六話 どっち派


「むむぅ………むぅ…!」


(…なんか、さっきから隣で美穂が唸ってるんだけども。何やってるんだこいつは…?)


 いつもの如く美穂が振る舞ってくれた夕食を味わい尽くし、身も心も確実に健康体へと近づいてきた蓮であったがそれを終えれば後の行動はある程度決まっている。

 二人で使い終えた食器の類を一通り片付けてからはほとんど定位置となっているソファで束の間の休息を満喫し、美穂もまたそれに倣う形だ。


 もちろんこの時間はお互いに何をするのかは自由であり、何をしていても余計な過干渉はしないというのが暗黙の了解なので絶対ではないが大体はこれと似たような流れになる。

 そしてこの場でやることだが…これに関しては特に決まっていない。


 その時その場の気分でしたいことはコロコロ変化するため、日によっては軽く授業の復習をすることもあれば今のように目的もなく携帯を眺めることもある。

 美穂もまた同じような感じだ。


 ただ、彼女の場合は最近だと一人で好きな時間を堪能するというよりも蓮に構うような言動をすることが増えてきている。

 喜んでいいのか困惑すれば良いのか微妙なところであるが、彼への好意を明確なものとしてから距離感がまたもや縮まってきたことで恥ずかしげもなく密着してくることもザラなのだ。


 …けれども、今日に限ってはその傾向にも少しばかり当てはまらない行動が見える。

 というのも先ほどから、何気なく携帯を操作していた蓮の隣で自分の身体を見下ろしながら唸り声を美穂が上げ続けているのである。


 正直に言えば何をしているのか皆目見当もつかない。

 だがこのまま放置していても何故そのような悩まし気な声を出すのか気になって仕方がないので、一度こちらから話題を振った方が良いか。


「どうしたんだよ、美穂。さっきから悩んでるみたいだけど何かあったのか?」

「え? もしかして私声に出してた?」

「出してたというか…漏れ出てたって感じかな」

「そ、そうだったんだ…ごめんね? 実はずっと考えてることがあったんだけど、どうしてもその判断が出来なかったから集中しちゃってたのかも」


 蓮から呼びかけられればようやく美穂も反応を示し、口ぶりからして自分が声を出していたことには気が付いていなかった様子。

 それだけ真剣に悩んでいたことの裏返しとも取れるが一体何にそこまで迷うようなことがあったというのか。


「考え事ってんなら少しは相談に乗るぞ? 話したくないならそれはそれでいいけど」

「あ~……うん。やっぱり()()に答えてもらった方が確実だし、話も早いからそうしよっかな」

「…本人? もしかして悩んでたのって俺に関することか?」

「そうだよ! さっきからずーっと考えてたけど私だけじゃ分からなかったから、良かったら教えてくれると助かります!」


 が、その悩みとやらの正体は未だ不明だが軽く相談には乗ってみようかと提案した矢先。

 口に指を当て、考え込む素振りを見せた美穂の言い方からして彼女の考え事は少なからず彼に関係したことだと判明した。


 まぁこの頃の美穂の動向を思い返せばそこはさほど不思議でもないので軽く流したが、それなら協力してやれないことも無い。

 全ては内容次第という制限は付くものの、本人に答えてもらえればなんてことを言うのを見るに何かしら尋ねたいことでもあったのだろう。


 ならその質問とやらを先に処理してしまおうと蓮は軽く考えて……直後、飛ばされてきた発言の内容に吹き出すこととなる。


「いいぞ。こっちに答えられる範囲内で頼みたいが」

「そんな難しいことは聞かないから大丈夫だよ。じゃあ早速聞いちゃいたいんだけども…蓮くんって、()()()()()()()()()()()()()()?」

「ぶほっ!? …げほっ! ごほっ!?」


 …彼女から至極当たり前のように問われたこと。

 どこからどう考えても自然体な声色で尋ねられてきたのでかなり油断していたが、それに対して内容の鋭さである。


 あっさりとした様子で異性の胸か尻か、どちらをより好むかという一歩間違えればセクハラになりかねない問いを前にさしもの蓮も咳込む。


「い、いきなり何聞いてきてるんだよ…!?」

「何って…だから蓮くんは女の子のお尻と胸だったらどっちが好きかっていう話! これ、結構大事なことなんだよ?」

「大事って、その質問のどこにそんな重要なポイントがあるって言うんだよ…」

「いやほら、前に私が蓮くんを好きなことは伝えたでしょ?」

「……あ、あぁ」


 しかし動揺と混乱が入り混じった頭で聞き返したところで聞き間違いという線を潰すように美穂は再び同じ内容の問いを投げかけ、これが大事な質問だとすら言ってくる。

 …投げかけられた側としてはまるで重要性など感じられない、ただただ気まずさを煽るだけの内容にしか聞こえないがひとまず説明してもらおう。


「で、その時に蓮くんに私のことを好きになってもらえるように努力するって決めたのはいいけど…そのためにも蓮くんの好みを把握しておきたいわけ! それこそ私だと…身長以外はあっちもこっちも大きく実ってるじゃん?」

「…それを俺の口から肯定はしにくいんだけど」

「あ、そっか。まぁそれが今回は逆に武器にもなるから感謝もしてるけどね。…だけど、その中でも特に有効活用するには特定の部位を重点的に使った方が良いと思ったわけですよ!」


 つらつらと語られてくる力強い説明だが大まかなことは理解した…と思いたい。

 …理解したからと言ってそれに共感するかどうかはまた違う話になるだろうが。


「でもね? 例えば胸が好きな人にいくらお尻を使ってアピールしても時間の無駄になっちゃうわけ。…いや、まったく無駄ってわけではないけどやっぱり相手の好みに合わせた方が効果は大きいからさ。逆も然りだよ」

「……で? つまり俺にどうしろと」

「うん。だから蓮くんは私のおっぱいとお尻だったらどっち派か教えてください!」

「出来るか!! そんなこと!」


 ……うん、まぁ。


 一旦話の概要を聞き終えたことで大体の流れは分かったし、あんな発言に至ったのかも理解はした。

 それでもやはり、この質問の答えを口に出来るかどうかを聞かれれば返答など考える間もなくノーである。


 というかそれ以外に選択肢がない。


「お前な……女子の前でそんなこと言えるわけないだろ。どんな罰ゲームだそれは…」

「いいじゃんちょっとくらい! …ほら、恥ずかしいのは少しだけだからどっちが好きなのさ? 言ってみてよー!」

「だから言わないっての…!」


 美穂は彼の口から自身の嗜好について聞き出したいと思っているのだろうが、そんなことできるはずもない。


 確かに、美穂がそういった魅力を兼ね備えているのは認める。

 少し視線を下に動かせば少し動くだけでも豊満な柔らかさを主張する胸と、そのさらに下にはこれまた実りに実った成長を主張する臀部が彼女の身にはあるのだから。


 日常生活でも男であれば見ずにはいられないスタイルを前にして蓮が理性を揺らがされたのは一度や二度の話ではなく、最近になってもそのような機会は爆増した。

 それでも、彼女に対してそんなことを教えるのは…間接的にでも美穂を()()()()()()で見た経験があると自白するのと同義である。


 ただでさえ己の嗜好を美穂に暴露することでさえ耐えがたい羞恥に襲われかねないというのに、いくら何でもそこまで合わさってきてしまえば了承など出せるはずもない。

 しかし相変わらず教えろ教えろと飽きもせず要求してくる彼女は…当人が気が付いているのかどうかは別としてもその実ったスタイルをこちらに再び押し付けてくる始末。


 もうこうなってしまえばどう決着を着けたら良いのかと熱暴走しそうな頭で思考がオーバーヒートしかけたところで、意外なタイミングで静けさは訪れた。


「……ふん、いいもんね! 蓮くんがそんな強情な態度取るって言うならこっちにも考えがあるんだから!」

「は…? …お、おい。何するつもりだ」

「まだ秘密。…だけど、先に言っておくと二階には来ちゃ駄目だよ! 私が良いって言うまでこっちを見るのも駄目!」

「駄目って……わ、分かったよ」


 それまで騒がしく蓮に抱き着いてきた美穂の方からパッと身体を話し、もしや諦めてくれたのかと思ったが…そんなことは無い。

 意図は不明であるが悩まし気な顔を浮かべた後でソファから立ち上がり、リビングから廊下へと続く扉を潜って部屋を出ていった。


 なおその直前にしつこいほどにそっちを見るなと念押しされたが、もとよりそちらを見るだけの余裕が彼には残されていない。

 図らずもやってきた安堵の時間に溜め息を吐きつつ、蓄積した疲労を逃がすように深く息を吐き出して蓮はソファに身を預けていた。


 ……この後に美穂が何をしようとしているのかという一抹の不安はあるが、それはその時になるまで放っておくしかあるまい。


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