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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第五三話 無価値な根拠


「何から言ったらいいのかな…でも全部、話は俺の中学時代のことなんだ」

「…中学生の頃?」

「あぁ。それで今の俺を知ってたら考えづらいかもしれないけど、その時は結構友人って呼べる奴もいたりしたんだ」


 蓮から語られていく話の中身。

 何故彼がここまで己のことを価値無きように扱うのか。


 どうしてそこまで自己評価が卑屈なものとなっているのかを説明するには…彼の昔話をしなければならなかった。

 そして気になる中身に関しても語られた通り、話題は彼の中学時代。

 今と比較すれば信じられないと思われるやもしれないが、現在とは異なりあの時の蓮はそれなりに人付き合いをしたりもしていたのだ。


「あの時は素直に楽しかったよ。たまにどこかに遊びに行ったり、帰りに適当な寄り道をしてみたり…ただただ、普通に充実した時間だったと思う」

「……うん」


 おそらく、傍から見れば当時の蓮はどこまでも普遍的な中学生にしか映らなかっただろう。

 同級生で気の合う仲間と時間を共にし、時折皆で予定を合わせてどこかに出かける。


 もちろん中学生で行ける範囲などたかが知れているし、使える予算にも限りはあるのだから遊ぶ場所にも限度というものが存在する。

 ただ蓮に限っては…その時から両親が仕事で家を不在にすることが多く、生活費という名目でほんの少しばかりの金銭を貰ってもいた。


 一応両親からも節度を弁えていればその金額を好きに使っていいというお達しをされていたので、ある程度自由に使ってもいた。


 だが昔から物欲が薄かった性格だったこともあって特に浪費することも無く、使用用途と言えば普段の食事と多少の趣味。そしてたまの外出の費用に充てるくらいのもの。

 ……しかし、今思えば()()が良くなかったのかもしれない。


「だけどさ、ある時に他のやつから言われたんだ。『少しだけ金を貸してくれ』…ってさ」

「えっ……」


 それはきっと、今振り返れば終わりの始まりだった。


 何てこともない時。

 時折誘われていた外出の最中、友人であった面々の一人から唐突にそのようなことを申し出されたのだ。


 おそらくは他の相手が中学生という立場ゆえに遊びのための資金捻出に苦労する中、これといって悩むことも無く両親から受け取った生活費の一部を小遣いにしていた蓮の動向に目を付けたのだろう。

 誰かに金を貸す。そのやり取りがどこか危ういものだというのは自覚していたが…相手は友人だ。


 そこで断るのも何かと思い、向こうからも『絶対に返す』と約束を交わしたのでその言葉を信じて蓮は金を貸したのだ。


「そうしたらさ。一回やったらハードルが下がるって言うのかな…他のやつも俺に金をせびるようになってきた」

「…っ。でも、それって……」

「……あぁ、多分美穂の予想通りだ。貸した金は一回も()()()()()()()()()()()

「そ、そんなこと…!」


 ただその時の蓮の考えが足らなかった点があるとするのなら…きっとそれは、一度そういったやり取りを許してしまえば自然と相手のハードルが下がってしまうということ。

 周りもそんな行為を黙認してしまっていたからこそ、こいつに借りるのは問題ないという共通認識が生まれてしまうのは自然なことだった。


 しかしそれでも蓮は問題視していなかった。

 友人に貸したとはいえその際の金額は大それたほどのものではなく、しっかりと返すという言質も貰っていたので心配もしていない。


 交わされた約束通り、いつか返してもらえるという楽観的に過ぎる友人との信頼を盲目的に信じて…結果から言えば、それら全てが返されることは無かった。


「途中から何となくおかしいとは思ってたんだ。金が返されることは無いのに、向こうから貸してくれって言われることだけが増えていって…返済を急かしても、適当にはぐらかされるだけになっていってた」


 金の切れ目が縁の切れ目なんて言葉もある。

 それほど人との信頼関係において金銭というのは重要な要素を持っており…そして、蓮はそのことを深く理解していなかった。


 友人だから信じていれば、いつの日かは返してくれるなんて無根拠な期待に縋って。

 自分が貸す金額ばかりが増えていくのを目の当たりにしていた日々は愚かだったとしか言いようがない。


 こちらが金を貸すのを当たり前のこととしてしまえば、向こうから止めてくることなどあり得るはずがないと分かっていたはずなのに。


「…だから、さ。そうやって相手を信じるばかりでいた時に…聞こえてきたんだよ」

「……な、何を?」

「………」


 ゆえに、()()()のことはとてもショックだった。

 半ば自分から蒔いた種だったとしても、それでも友人であると信じていた相手から……。


 …具体的な日時や時間のことについては、蓮自身もよく覚えていない。

 自分から思い出そうとすることさえ長い間無くなっていたために、記憶も曖昧になっているのだろう。


 ただどれだけ忘れようと努めたとしても、余計な光景が記憶から薄れていったとしても。

 ふとした時、教室に置き忘れてしまった物を取りに帰ろうとしたところで聞こえてきた…友人たちの声だけは、鮮明に覚えてしまっている。


「…『相坂は俺たちのことなんて信じて馬鹿だよな』とか、『返すつもりなんてあるはずない』…なんてことを言われてたよ。いつからかは分からない。だけど、俺たちの間に信頼関係なんて…いつの間にか無くなってたんだ」

「……っ!?」


 あれは流石にショックだった。

 友人であると信じていた相手から、多少は自分に責任があると理解していたとしても…単なる金を貸す相手としか見られていなかった。


 ただの()()()としか思われていなかったと知って、どうしたらよいのか分からなくなった。


「…まぁ、所詮あいつらにとって俺はその程度の相手だったんだよ。その程度の価値しかなかったんだ」

「……れん、く──」

「あぁ、でも心配しなくても大丈夫だ。その時のことを怪しいって感じた父さんと母さんに話を聞き出されてな。その後にあいつらからは全額まとめて返してもらうことも出来た」


 しかし蓮にとって唯一幸運だったのは、彼の身近にしっかりと味方になってくれる相手がいたこと。

 普段ならありえない金遣いの荒さを察知したからだろうか。


 両親から連絡を受けたことで金を貸した相手から金銭が返されていないことがあっさりとバレ、そのことに怒りを露わにした二人が学校や友人の家に掛け合ったことで金は全て返却された。

 その時の友人たちは無責任な貸し借りを強要していたとしてこっぴどく締め上げられたらしく、蓮も考え無しに金を貸してはいけないと少しばかり説教を受けて事態は収束した。


 無論、そんな件があってからそれまで通りに友人たちと接することが出来るはずはなく。

 事態が無事に終わってからは自然と疎遠になり、高校に入るまでには縁も完全に切れてしまったわけだが…それ以上に、彼の中には深い爪痕が残ってしまっていた。


「…けど、な。多分その時から…俺の中で、こうも思うようになった。人付き合いっていうのは利害の一致が全てであって、見返りを求めない善意なんてあるはずがないって」

「それ、って…」

「馬鹿な話だよ。だから俺は…根っこから誰かを信用するのが怖い。いや、それ以上に…俺には、()()()()()()()()()()()()()()()としか思えなくなった」


 …そう、結局のところそこなのだ。


 かつて信用していた相手だと思っていた面々から裏切られ、都合のいい人物だと認識された結果…蓮は自分の価値を信じることが出来なくなっていた。

 明確な利を相手に提供することが出来ない限り、誰かから何かを与えてもらう価値などあるはずもなく…全ては利害関係あってのことなのだと。


「…失望したか、美穂? でも俺はこんな人間なんだよ。どこまでも救いようがない、無価値なやつで──…ッ!?」

「──蓮くん、私の話を聞いて?」


 こんな情けないにも程がある過去を聞かされて、美穂もさぞや失望したことだろう。

 けれどそれで彼女に見限られたとしても、蓮は文句を言わない。


 悪いのは全てが自分で、誰かが傍から離れていくのはそれに値する価値を自分が持ち合わせていなかったから。

 本心からそう考えてしまう彼の卑屈な心根は…しかしながら。


 次の瞬間、頭を引き寄せられて美穂の柔らかな胸元に優しく抱きしめられたことで…強制的に引きずり出されることとなった。


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