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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第四八話 片付けようとしたら


 諸々の話し合いもあって決められた次の予定であるが、まだ開催時刻に関してはある程度余裕も残されているのでここで休息を取っていても問題はない。

 というか今までが少しはしゃぎ過ぎていたのと、一切休むことなく歩き続けてきたのがおかしかったのだ。


 一応現時点では身体の方も不調は訴えてきていないがこのペースで動いていればいつ体調を崩すかも分からないので適度に休憩は取らなければ。

 それを考えるとこの場での昼食は悪くない頃合いであった。


「あ~……蓮くん。手が汚れちゃったから少し洗って来てもいいかな? すぐに戻ってくるから!」

「ん? あぁいいぞ。こっちのことは気にしなくていいからゆっくり洗ってきな」

「ごめんね? ちゃっちゃと洗ってきます!」


 しかしてそんなのんびりとした時間の最中に突然美穂が席を立ちあがり、食事をしている中で手が汚れてしまったようなのでそれを洗いに行くと言い出す。

 もちろん蓮もそんな彼女の行動を止めるつもりもないのでそのまま許可を出してしまえば、多少の申し訳なさを滲ませつつも駆け足で席を離れていった。


 …その後ろ姿を見て、不意に彼女を一人にしない方が良かったかという考えも彼の頭には浮かんできたが。

 常に一緒に過ごしているので忘れかけそうになるが美穂は周囲から一目置かれるほどの魅力を携えた美少女であって、それは今回の外出を通じて蓮も痛感させられたこと。


 実際に今に至るまでも数えきれないほどに周囲からの視線を注がれていたことを彼は知っている。

 彼女が楽しんでいる雰囲気を壊すべきではないと思いあえて触れないようにはしていたが…ああも露骨な視線を向けられれば張本人でなくとも気が付くのは容易い。


 こちらが気を抜いたふとした瞬間に、どこからともなく彼女の()()()()を舐めまわすように見つめるような視線が飛ばされてきていたことを。

 …無論蓮とて、そのような視線が自分に向けられたわけではないと言っても美穂をそのような感情をあからさまにして見られれば大なり小なり不快にもなる。


 なので可能な限り平静を装いながらも周囲の目線から美穂を隠せるようにと立ち位置には気を遣っていた。

 当然それだけで隠し通せるほど彼女の持つスタイルはありふれたものではないのだが、それでもやらないよりはマシだと思っておきたい。


 つまるところ何が言いたいのかというと、そんな美穂を一人でこの人混みで溢れたフロアに向かわせてしまって予期せぬトラブルにでも巻き込まれないかと不安になってしまったわけだ。

 今更言うまでもなく魅惑的に過ぎる容姿を誇る彼女の行動は否応にも辺りの目を惹き付ける。


 それは良い類のものもあれば…当たり前だが良からぬものも含まれてしまう。

 考えたくもないが仮に美穂のことを欲望に染まった目で見るような者の視界に留まってしまえば何が起こるのか。

 …ネガティブな想像ばかりを想像したところで無意味なことは分かっているし、今から彼女を追いかけようとしても既に走り去ってしまった少女一人をこの人混みから見つけるのは容易ではない。


 なので彼に出来ることは美穂が無事に戻ってくることを信じてここで待つことのみ。

 自分に出来ることがないという状況は歯がゆくも思え、無力な我が身が恨めしくも思えるが仕方がない。


 彼女も自分の身の安全くらいは最低限意識しているだろうし、そのくらいの対策くらいは心得ているはずだ。

 だったら蓮がそこまで気にすることも無いかと無理やり思考を切り替えようとして…そこで目の前の景色を見て不意にあることを思いついた。


「っと、そうだ。もう食べ終わってるし食器は片付けておくか…その方が後々楽だもんな」


 彼が目を付けたのは蓮と美穂がとっくの昔に食べ終えていた二人分の食器。

 それぞれの店で購入してきた料理であったが食べ始めてからそれなりに時間が経過していたこともあって既に中身は二つとも空である。


 そして蓮自身、今は美穂がいないことも相まって手持ち無沙汰気味。

 暇というほどではないが時間を持て余してしまっている自覚はあるので何かすることは無いかと探していたわけだがそこで見つけたのがこれ。


 見た限り美穂の方も完食しているようなので、この後の行動をスムーズにするためにもまとめて片付けてしまおうか。

 そう考えた蓮は貴重品だけ軽くまとめて服のポケットに突っ込むと、落とさないことだけに集中しながらそれぞれの食器を運ぶべく席を離れていくのであった。




「さて、これで終わりっと。意外と早く片付けられたな」


 昼食のピークは過ぎたとは言えど、まだまだそこらには大勢の来訪客の姿がある。

 ともすれば一歩足を進めるのにも苦労させられそうな混雑具合であるが、予想に反して拍子抜けするくらいにあっさりと片付けは済ませられた。


 もう少し苦戦する者だとばかり思い込んでいた蓮にとっては肩透かしを食らった気分にもなってしまいそうなほどに。

 ただ…それよりも。いや、それ以上に()()()()()が今の彼にはあった。


(しかしさっきから思ってはいたけど…気のせいか? なんか周りから()()()()()ような気がするんだよな…しかも異様に)


 そう、それこそが先ほどから蓮も気にはすまいと思っておきはしても無視しきることが出来なかった点。

 こうして席を離れて一人で動いてきたからこそひしひしと実感し始めていたが…何となく、周りからチラチラと視線を送られている気がするのだ。


 単なる勘違いか思い過ごしだと言われてしまえばそれまでかもしれない。

 ただ何度か気になったので視線を感じた方向を振り返ってみると、そこでは一瞬だけ目線が合った面識のない女性と思われる人物がこちらを見つめていたことがあったので考えすぎでも無いだろう。


 数十分前までは隣にいた美穂に向けられていた視線をどうにかしようと頭を悩ませていた蓮。

 だがここに来て彼女ではなく、正真正銘自分に目が向けられているという現状にはこれといった要因も思い当たらなかったので心底首を傾げたくもなった。


 まさか自分に限って()姿()()()()()()()()()、なんてことはありえないと蓮の中では断定しているので余計に原因は不明瞭なまま謎が深まるばかり。

 こういう時には生来の自己評価の低さが仇となる蓮である。


 ただ、彼がいくらそのような評価を下していたとしても周りがどう思うかは別。

 現に今、辺りから注がれる謎の視線の正体に困惑させられていた蓮へと近づいてくる人影が()()ほどあった。

 その人物らはいつの間に接近してきていたのかは分からないが、蓮の容姿を確認するかのような素振りを少し見せると…軽快な声色で語り掛けてくる。


「──あの~、お兄さんって今お一人ですか?」

「うん…? …あ、もしかして自分に言ってます?」

「そうですそうです! あっはは、まさかお兄さん天然な感じ?」


 いきなり蓮へと呼び掛けてきたのは二人の女性であり、聞こえてきた声に違わず何とも整った見た目を持った相手だ。

 どちらも人当たりの良さそうな笑みを浮かべつつピアスの装飾がされた耳元が明るく照らされ、その恰好は大きく肌がはだけている箇所もあってどことなく煽情的だ。


 二人ともがそのようなファッションをしているため、飛び抜けて派手と言うほどでもないが普段から目にしている美穂とはまた異なり派手なイメージを受ける。

 それと呼び止められた瞬間、蓮は自分が話しかけられているとは思ってもいなかったので思わず聞き返してしまったがそれも彼女らの琴線に触れてくれたらしい。


「もし良かったらなんですけど~…私たちと今から一緒に遊びません? もちろん無理にとは言いませんので!」

「どうですか? 絶対退屈はさせませんよ!」


(…あー、えぇっと。もしかしてこれって…ナンパされてるって認識でいいんだよな? …俺を誘ってくる意味が分からないし、酔狂な人もいたもんだ)


 聞き返したこともさほど不快には捉えられなかったようで、全く気にした様子もなくこちらを誘ってくるあちらの態度から流石の蓮も察した。

 おそらくこれは…俗に逆ナンと呼ばれるものなのだろう。


 よもや蓮がその体験をすることになるなど夢にも思っていなかった上に自分のような地味な男に声を掛けてくるなど悪趣味にも程があると、若干失礼な思考にも陥りかけていたがこの誘いを受けるわけにもいかないので断りの言葉はハッキリと伝えておく。


「えっと…すみません。今はちょっとうちの連れを待っている最中なのでそちらと一緒に行くことは出来なくて…」

「あっ、もしかしてお友達と来てる感じでしたか? だったら良ければそのお友達もご一緒でも大丈夫ですよ! 私たちは気にしませんから!」

「そうですよ! むしろ大人数の方が楽しめることもある…みたいな?」

「いえ、そういうわけにもいかないというか…」


 ただこういった事態の対処に慣れていない蓮ではどうしても断りの言葉も口調が弱々しいものとなってしまい、それゆえに向こうにも押し切ればいけると判断されてしまったようだ。

 それにあちらの口ぶりからして蓮が言及した友人も同性の相手と勘違いされたらしい。


 実際のところは連れ添って来たのは美穂であるので、認識の行き違いも良いところなのだが…それについて言及する機会は逃してしまった。

 話せば話すほどにあちらのペースに飲み込まれていくとでも言うべきか。

 このような押しの強さに弱い面がある蓮としてはグイグイと来る彼女らの誘いにもこのままでは流れに引っ張られて承諾してしまいかねない。


 そんな未来さえ幻視してしまった蓮も……されど、その時。

 意識の外側から割り込んできた()()の声によって、場の空気は一変することとなった。


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