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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第四七話 秘密談義


「はへぇ…き、綺麗だけどあちこち見回してたら目が回りそう…」

「そりゃあれだけはしゃぎまわってたらそうもなるだろ。大丈夫か?」

「な、何とか………ひゃっ!?」


 特に深く考えることも無くやってきたエリアだったが彼らの想像以上の見所で溢れていたことで美穂はテンションをほぼマックスまで振り切らせていた。

 ただそんな状態を長く続けていればいずれは体力が尽きるのも自明の理。


 こう言ったらあれだが背丈の小ささからしても彼女がそこまで運動神経が抜群であるとは中々思えないので、美穂が持つ体力は一般的なそれと同等…あるいは少し落ち込む程度のもののはず。

 実際激しく動き回っていた彼女はようやく落ち着きを取り戻したかと思うと息を切らしながら蓮の傍まで戻ってきていた。


 …そして、疲労が溜まったことで足元がふらついてしまったのか。


 自分の脚をもつれさせて正面から倒れ込みそうになり………。


「…あっぶな…! 気を付けてくれよ、美穂」

「ご、ごめんね…? 支えてもらっちゃって…」


 …倒れる直前、ギリギリのところで割り込むことに成功した蓮の胸元に飛び込む形で転倒を防ぐことができた。


 先ほどから走り回る美穂の姿を見ていたのであれではいつか転ぶのではないかと彼も予想はしていたものの、まさかこのタイミングで倒れるなど思ってもいなかったので若干焦ったがそれでも無事なことに変わりはない。

 これに関してはファインプレーを成した己の功績を褒めてやりたいところだったが…それよりも彼女の安全を確認する方が先か。


「楽しむのは全然良いと思うけどな。あんま気を抜きすぎるなよ。でないとこんなことになるんだぞ」

「……ふぅむ。でも、転ぶことで蓮くんの胸に飛び込めるならそれはそれでアリなような気も…?」

「おいこら、何をこっそりと企んでるんだ」


 見たところ今の一連の流れで美穂が怪我をした様子は確認出来ないので問題は無いだろうが、だとしても心配なことは事実だ。

 なので美穂にも楽しむのはもちろん構わないがもう少しだけ気を付けてくれと注意を促し…彼の胸元で何やら怪しげなことを画策していた独り言を察知して思わずツッコんでしまった。


「…だって、こんなに蓮くんと密着できるような機会なんて滅多にないもん。う~ん…あ、なんかこの匂い少し安心するかも…」

「どさくさに紛れて何を嗅いでくれてるんだよ…あと問題もないなら離れてくれ」

「……やだ。せっかくのチャンスなんだからこの時間を無駄になんてしないよ!」

「抱き着くなよ!? 周りからも見られてるだろ…!」


 こんな小さなアクシデントさえも抜け目なく利用しようとしてくる彼女の執念にはもはや脱帽しそうになるも、巻き込まれる側としてはたまったものではない。

 今の位置関係としては蓮の胸元に美穂の頭が来るような立ち位置となっているので、そこで離れるような様子もなく何をしているのかと思えば…こちらの体臭を嗅がれていたらしい。


 …人の、それも男の匂いなんて嗅いだところで面白くも良い香りでも無いだろうに。

 付け加えると勝手に身体を嗅がれたことで言い表しようもない羞恥心が蓮の中で込み上げてきてしまったが、苦言を呈したところで美穂は止まらない。


 むしろこの状況を最大限活用してやろうという意気込みさえ感じられる決意と共に彼の背中に腕を回して強く抱き着いてきた。


 そしてそんなことをしていれば…否応にも周囲からの注目も集めてしまう。

 しかしそれはそうだろう。


 あくまでも張本人たちの認識ではまだ特別な関係性でも何でもない友人同士というものだが、そのような事情は他人からしてみれば知ったことではないのだ。

 二人の男女がこんな公共の場で堂々と密着していればそういった関係なのだろうと思われるのは当然のことで、辺りからは微笑ましいものを見るような目を向けられる始末。


 ムキになって締め付ける腕の力を強めてきた美穂の態度がその傾向を更に増長させてしまったらしく…結局、彼女の執着心には勝てず向こうが満足するまでその体勢は継続されるのであった。




 何となくで向かったものの、想定していた以上の感動を得られた水槽のトンネルには文句の一つもない。

 まぁその道中で予想だにしていないトラブルはありもしたが…それに関してはもう諦めた。


 あの後、周囲から温かい目を向けられたことで確実に自分たちのことも誤解されているのだろうことは蓮も察したが、必死に弁明したところで恥を上塗りするだけだとも理解している。

 ゆえにあの場は美穂が解放してくれるまで湧き上がる羞恥心を耐え凌ぐこととした。


 そしてしばし時間が経ったことでようやく彼女も満足してくれたのか、やけにツヤツヤとした肌になりながらも感謝を伝えて離れてくれた。

 この一連のやり取りで蓮のメンタルはかなりの量を削り取られてしまったように思えたが…まぁそこはいい。


 話を現在に移すが、今の彼らは大方見れる場所も見て回れたので一旦の休憩を挟むためにもある場所を訪れていた。

 またその場所というのは…特に変わった場所というわけでもない。この水族館内に設置されている()()()()()()である。


「全く…あんな場所で抱き着いてくるなよ。おかげで注目の的だったぞ?」

「しょうがないよ。あんな状況になったら抱きしめ返す以外の選択肢なんて存在しないんだし、何より私にとっては至福の時間だったから!」

「…その至福の時間とやらが俺にとっては居心地が悪かったんだよ」


 時刻はちょうど昼過ぎに近い。

 なので蓮と美穂は空腹感も高まってくるこの時間帯に何か食べようかという話になり、かなりの広さを誇るこのフードコートエリアまで足を運んできていた。


 時間の兼ね合いもあって席はかなりの混雑具合を見せているが、運よく確保も出来たので彼らは束の間の休みを堪能している。

 蓮は近くの店で調達してきたカレーライスを、そして美穂はデミグラスソースのかかったオムライスという何とも洒落た物を口にしながら雑談を交わしていた。


「…ま、言ったところで効果なんてないか」

「えへへぇ…転ぶかと思った時は焦ったけどあんなことになるなら結果オーライだね。蓮くんの匂いも凄い良かったよ?」

「匂いについての感想とかいらないから。恥ずかしいっての」

「照れなくてもいいのに~。…ねぇねぇ、この後はどうしよっか?」


 しかしながら、その雑談の内容も美穂が語ることはつい先ほどの件に絞られている。

 どうやら彼女の心象としてどさくさに紛れて嗅がれていた蓮の匂いとやら相当気に入ったのか、思い出してはだらしない笑みを浮かべてくるのだ。


 …その話題を振られる側としては自分の身体の匂いが良かったなどと言われたところでリアクションに困るだけなのでやめてほしいのだが。

 けれどそう告げたところであちらの口が止まるとは到底思えず、幸い美穂の方から会話の方向も切り替えられてきたのでそれに乗っかっておこう。


「次か…結構見れる場所は見た感じがするけど」

「うん。でもまだまだ時間はあるからこれで終わりっていうのはちょっと味気ないでしょ?」

「確かに、な。でも残ってるところで目ぼしい場所は……あっ」

「なになに? どこかいい場所あった?」


 彼女が尋ねてきたのは次なる目的地であるが、今に至るまでに見れる場所は見尽くしてしまったようにも思えるのでそれを決めるのも難しい。

 まだ回っていない場所で良さそうなポイントはあったかと振り返ってみるもそれらしき箇所など思いつくわけもなく難航する…かと思われた時。


 ふとさっきまで眺めていたパンフレットに載せられていた情報からこの後にイベントがやるのだという事実を思い出した。


「場所というよりはイベントだな。記憶が正しければこの後に()()()()()()()がやるはずなんだよ」

「えっ、そうなの!?」

「あぁ。結構大々的にやるらしいから、時間に余裕があったら見に行かないか?」

「行く! 絶対に見に行くよ!」


 彼が思い出したのはこの水族館でもビッグイベントとして数えられているイルカショーのイベント。

 かなりの敷地面積を誇るこの場所でも有数の注目度を集めるらしく、パンフレットでも大きく宣伝がされていた。


 ただイベントという性質上開催時間はしっかりと定められているようで、そのタイミングを逃してしまえば見ることは叶わなくなってしまう。

 なのでもし美穂が希望するのであれば今度のスケジュールに組み込もうとも考えたが…彼女の返答は迷いなど微塵もない即答。


 …であれば彼も悩むことなど無い。

 美穂がそうしたいと望むのであれば文句などあるはずもなく、拒否する理由だってない。


 よってこの後は一大イベントでもあるイルカショーに赴き、そこでのひと時を満喫することとなりそうだ。


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