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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第四六話 見るべき場所


「まずはどこから見て回るか。どこか行きたい場所とかあったりするか?」

「そうだねぇ…パンフレットでおすすめの場所とかあるかな?」


 入場口でチケットを使い無事に中に入れた蓮と美穂は水族館内へと足を踏み入れ、外の賑やかさとは正反対なほどに居心地の良い空間で話し合っていた。

 辺り一面は巨大な水槽で囲まれ、そこかしこに目を見張るような魚たちが優雅に泳いでいる様子が確認できる。


 潤沢な水で満たされているということもあって館内は夏だというのに涼しく、人が過ごすのにちょうどよい室温だ。

 そんな場所で二人が何をしているかというと…入口付近で入手したパンフレットを参考にどこから回るかの相談である。


「ここら辺は見た感じだと大型の魚が多いみたいだな。で、少し奥に進むと小型の魚の群れが観察できるんだとさ」

「なるほどなるほど…他には?」

「あとは…ここから離れた場所に珍しい生き物の展示がやってるっぽい。えぇと…タツノオトシゴとかクラゲとかがいるみたいだな」

「あっ、それなら私クラゲ見てみたい! いいかな?」

「中々渋いところチョイスしたな…いいぞ。行ってみよう」


 目に付いた箇所から次々と挙げていけばそれを聞いていた美穂が大きな反応を示したのはまさかのクラゲが鑑賞できるコーナー。

 別に構わないし何ら問題もないのだが、てっきり最初は巨大魚であったり目を引き付けやすいペンギンなんかのところに行くものだとばかり思っていたので少し面食らいもした。


 だが美穂がそれを希望しているのなら蓮も文句はない。

 こう言うとアレだが彼としても絶対に見たいと思えるような展示物はないので、美穂が見たいというものを優先して巡るのが最善だろう。




「はあぁぁ…! 見てみて蓮くん! 凄い綺麗だし可愛いよ!」

「しっかり見えてるから大丈夫だよ。…まさか美穂がそこまで反応するとは思ってなかったけども」


 館内を少し歩いていけば彼らの目指していたポイントにはすぐに到着し、今の二人は…主に美穂は目の前で優雅に水中を漂っているクラゲの魅力にやられていた。

 瞳をこれでもかと輝かせて浮遊感を思わせる軌道を見せているクラゲに対して可愛い可愛いと繰り返す彼女。


 …ただその様を見ていた蓮としてはよもや美穂がここまでのリアクションを示すとは思っていなかったので少し驚かされた。

 さらに言うとクラゲを可愛いと評価することに賛同を求められても、彼から見ると面白い動きをするくらいの感想しか出てこないので若干の温度差もあったりする。


 まぁそれでも美穂が楽しそうなので良いだろう。


「え、クラゲって見てると可愛いなって思ったりしない? こうふわふわってあてもなく漂うところがたまらなく良いとか…」

「申し訳ないけど、あまりそういう感想にはならないな。見てて純粋に面白いって思うことならあるけれども」

「そっかぁ…好みは人それぞれだし仕方ないね。あっ、だったら蓮くんが好きなお魚さんって何? 次はそれ見に行こうよ!」

「ん、俺の好きなもの?」


 ただそんな彼の返答を聞いていた美穂としては納得ができることではなかったようで、彼が好きな魚は何なのかと問うてくる。

 人の趣味嗜好が完全に同一なことなどあり得ない。


 だからこそ、ここで彼女が楽しんだ分だけ今度は蓮が楽しめるような場所に行こうと考えてくれたのだろう。

 明るい笑みを見せながらそう言ってくれるのは他の何者にも代えがたい美穂の優しさゆえだ。


「そうそう! やっぱりここは二人で来たんだから、私だけ楽しんでても意味ないでしょ? こういうのは二人ともで楽しめないと!」

「ふむ…こっちとしては美穂が楽しめてるならそれでも充分だったんだけどな」

「…そうやって言ってくれるのは私としても嬉しいけどね? でもここまで来たのに私の要求だけを叶えてもらうのは蓮くんにちょっと申し訳ないもん」


 けれどもそう言われたところで、蓮とて何か見てみたいところがあるかと尋ねられれば首を横に振るだけ。

 正直に明かしてしまうと最終的に彼が楽しめるようなことがなくとも、美穂さえこの今日の思い出を楽しいものとして覚えてくれていればそれで良いと思っていた。


 それはある意味、日頃から世話になりっぱなしな美穂への恩返しでもあったかもしれない。

 日月を積み重ねていくごとに大きくなるばかりの、積み上げられていくばかりの彼女に対する()()を少しでも返しておきたいという思考が無意識にでも頭の片隅にあったから。


 …ゆえに自分は楽しめずとも美穂の意思を最優先にするという、どこか固定観念じみた考えはいつまで経っても彼の中から消える気配がない。



 ──だが、目の前にいる少女はそんな蓮の考えを許してはくれない。

 自分一人だけが楽しむだけでは意味がないと。()()で楽しむからこそ意味があるのだと断言してくれる彼女の言葉は…どこまでも彼に対する思いやりで溢れていた。


「だから教えて? 蓮くんが行ってみたい場所はある?」

「そう、だな……だったらこの辺りとか、か?」

「どれどれ…? おぉ、いいね! 私も少し見かけたけど気になってたんだよ! じゃあそこ行ってみよ!」


 声色は落ち着いたものなれど、意識しない内に自らが楽しむという思考を放棄していた彼を気遣うかのような言動を見せてくれた美穂。

 知ってか知らずか、そのどちらであったとしても…彼女は蓮が取った姿勢の()()()に気が付いていたのかもしれない。


 しかしその点を今追及されるようなことは無く、蓮が館内地図を広げて眺めながら指し示した一点。

 実は密かに気になっていたポイントはあったのだが無理に赴くことも無いと思って流していたものの…こうした流れであれば言わないわけにもいかない。


 それに彼の示した箇所を横からヒョコッと首を伸ばして見て来た美穂も賛同するように声を上げていたので、どうやら次の目的地はこの場になりそうだ。




「わぁ…! 蓮くん、ここ想像していた以上に綺麗だよ!」

「…あぁ。まさかここまでとは思ってなかったな…」


 蓮が希望したエリアまで歩いて移動してきた彼らであったが、そこで目にした光景を前にした瞬間。

 そこにあったのは、簡潔に述べてしまえば一本の通路である。


 ただし単純な壁によって覆われた道とは異なり…周辺全てが()()()()()()()()()道だ。

 分かりやすく言うとトンネル状に形成された水槽であり、泳ぐ魚達をあらゆる角度から眺めることができるというコンセプトの下作られたこの水族館でも一押しのスポットらしい。


 実際、周りを少し見てみれば蓮たちのほかにも多くの人で賑わっているのでその話も嘘ではないのだろう。

 現に蓮もこの光景を目にしてしまえば幻想的な美しささえ思わせる水槽のトンネルの見所を疑うことなどあり得ず、自然の美麗さというものに魅入られてしまったくらいだ。


 そしてそれは美穂も同様だったようで、きっかけは彼に提案されたから来たに過ぎないだろうがこの場所を訪れたことですっかり夢中になってしまったのが見て取れる。

 眼前に広がっている景色に魅了された彼女は溜め息すらこぼして辺りを見回しており、同じようにこれほどまでの印象強さを主張しているとは思っておらず感嘆の息を吐く蓮へ興奮したように声を掛けていた。


「凄い凄い! どこを見ても水槽ばかりだし…私たちも水の中にいるみたいだよ! ねっ、蓮くん!」

「…っ! …だな。これは見れて良かったよ」


 余程この光景に感動したのか、美穂は蓮に張り上げた声量で呼びかけると興奮を抑えきれないといった様子で辺りをクルクルと回転しながら楽しそうなオーラをこれでもかと滲ませている。

 その様子はまだまだあどけなさを残した子供のようでもあり…それでいて、美穂が有する可愛らしさという魅力をこれでもかと閉じ込めたようなもので。


 不意打ち気味に向けられた愛らしさの威力に蓮も返答には少しの時間を要してしまった。


(……随分楽しそうだな。あんなにはしゃいでたら転びそうなもんだけど…楽しんでるところに水を差すのも野暮か。…少し、写真でも撮っておこうかな)


 無邪気さを全開にしながら満喫している美穂の様子は周囲と比べても抜きんでた魅力を秘めている。

 辺りの異性……男だけに限定されるわけではないが、同性も異性も関係なしにあらゆる視線を集めてしまってもおかしくはないと思わされるほどに現在の彼女は楽し気だ。


 無論、その対象には蓮も含まれている。

 情けないことにあそこまでの感情を向けられてしまえば流石の彼でも不動の感情を貫くことは出来ず、ふとあの姿を写真に収めておきたいと思った。


 まだ張本人に確認をしたわけでも無いので撮っても良いかどうか少し悩みもしたが…これもまた一つの思い出だ。

 もし美穂に消してほしいと言われたらその時は即座に消去してしまえば良いので、この瞬間を忘れまいとするために彼は携帯のカメラをそっと向け──…。


(うん、良い感じだな)


 …カメラの画角に収められた、満面の笑顔となった美穂の姿を確認して彼も満足げな表情を浮かべる。

 そうして残された記録の一つには…紛れもない、彼女と過ごした確かな記憶が込められていた。


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