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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第四五話 美穂にとっての彼


「はぁ…まだ顔があっついよ。…いきなりあんな不意打ちはズルくない?」

「不意打ちって…そんな変なこと言ってないだろ」

「言ってたよ! というか今まで蓮くんから可愛いなんて言われたことなかったし、なのに急にそんなこと言ってくるから余計驚くの!」


 物は試しにとやってみた美穂への褒め言葉だが、ある意味では蓮の想定以上の効果を発揮していた。

 どうやら小春の指摘は正しかったらしく、私生活ではあれほど彼のことを翻弄してくる彼女も自分が一方的に押される側に回ると立場が弱くなるようだ。


 顔を小さな掌で扇ぐその頬にはまだ赤みが差し、中々逃げていく様子のない熱量に四苦八苦している様からもそれは一目瞭然であろう。

 全て蓮がしたことで発生した事柄であるために美穂も複雑な心境となったようだが、実際今の彼女の服装が似合っていることは誇張でも何でもない。


 事実として周囲を見渡してみれば突如として出現した美少女である美穂の格好に見惚れるかの如く視線を引き付けられる男の姿が多々あり、中には恋人らしき女性が隣にいるのにも関わらず目を向けたことではたかれている者なんかもいる。

 ……ただ、そんな群衆の中で一定数の人物が見つめるのは彼女のファッションというよりも身体つきの方。


 ここまでの魅惑さを誇る容姿を振りまいていれば致し方ないとは思うものの、その一方で美穂へと無遠慮に視線を送ってくるのはやめていただきたい。

 視線を吸い寄せられるのは分かるが彼女の心境を考えると気持ちの良い類のものではないのだ。

 そしてそういった者の一部からは、美穂のすぐ傍に立つ蓮を見て疑念と『何故あんな地味なやつが隣にいるのか』という意思をこれでもかと込められた目も向けられる。


 誰よりも蓮自身がそのことは痛感しているし、彼女ほどの魅力を持った少女の隣に立てるほどの魅力が自分にあるだなんて間違っても思っていない。

 なのでその点に関してだけは正しい観察眼を持っているものだと思いつつ、どうしたものかと頭を掻く。


「…どうしたの、蓮くん? そんな複雑そうな顔して」

「いや、やっぱ美穂は凄いもんだなと思って。今だって周りに見られてるし、それに比べて俺は地味なもんだからな…なんかすまん」

「……地味?」


 すると内心の変化を悟られでもしたのかふと声を掛けてきた美穂に見られていることを告白しつつ、ある意味場違い感もある自分などといることを無意識に謝ってしまった。

 だが、それは…ある意味で彼女の地雷を踏みぬく行為にも等しい。


「地味って…何が? 蓮くんは全然地味でも何でもないし、むしろ格好いいでしょ?」

「お世辞でも言ってもらえるのは嬉しいけどな。でも客観的に見て俺と美穂じゃ釣り合ってないのは明白で、こうやって周りからは一緒にいることを疑問視もされるからさ。なんか少しへこむというか……っ!?」

「──蓮くん。こっちを見なさい」


 キョトンとした顔で彼の言っていることが心底理解できないとでも言うように蓮の発言を否定してくる彼女の優しさは心に染み入る。

 しかしそれでも、周りの反応を見てしまえば蓮と美穂が釣り合っていないことは嫌でも理解できてしまう。


 何故あの二人が一緒にいるのかという疑問を含んだ視線はその事実を何よりも雄弁に物語っており、知らず知らずのうちにネガティブな思考に偏ってしまっていた彼の発言は…強制的に頬を掴んで見せられた美穂の真面目な表情で遮られた。


「…まず最初に言っておくけど、私は周りの反応なんてどうでもいいの。他の人からどんなことを言われても私にとって蓮くんが格好いい事実は絶対変わらないし、蓮くんも気にする必要なんてないの」

「…っ!」

「それにね? 蓮くんは自分なんてって言ってたけど…あまり卑下はしないで? だってほら、こうやって見てみれば…ちゃんと綺麗な目が見えるもん。それに気が付かない人の言葉なんて無視しちゃえばいいんだよ」


 ──かくしてそう告げる美穂の言葉は、どこまでも蓮に対する思いやりで溢れたもの。


 微かな怒りを滲ませたように伝えられてくる発言の一つ一つにはどれだけ自分にとって蓮が大切な存在であるか。

 そして引き寄せられた彼の前髪をそっとかき分け、柔らかな穏やかさを浮かべながら見つめられた瞳はどんなものよりも魅力的なものだと断言してくれたのだ。


 その言葉はあまりにも彼への想いで溢れすぎたもので…たとえ蓮であっても無表情を貫くことなど出来るわけがない。

 至近距離で浴びせられた美穂の言葉には、的確にこちらが望んでいた言葉を投げかけてくれた彼女の発言に嫌でも心臓がうるさく鳴り始めてしまう。


「だから蓮くんも、自分なんか…なんて言わないで? 優しくて周りが見れるのは良いところだと思うけど、そんなこと言われたら私も悲しくなっちゃうよ」

「……悪かったよ。ならもう言わない」

「うん、それで良し! …あっ、そうだ! じゃあせっかくだからこうしてみて…ふふ。今日はこれで過ごしてみよっか?」

「ん…? なんだ、前髪留めたのか?」

「そうそう。蓮くんには自分のことを悪く言った罰として、今日一日はそれで過ごしてもらいます! これで多分自分のイメージも変わると思うよ?」

「髪上げたくらいで変わるとは思えんがな…まぁ美穂がそう言うなら大人しく従うよ」


 仄かな怒りと彼への思いやりで満たされた彼女の動向には、さしもの蓮でも知らぬ存ぜぬを押し通すことは出来ない。

 ここにきてようやく自分が失言をしてしまっていたという事実を思い知らされた蓮も素直に彼女に謝罪し、ここまで彼のことを考えてくれている彼女への感謝も同時に湧き上がってくる。


 ただそれを彼が言葉で伝えるよりも早く、いつの間にか蓮の髪を見つめて触れるような感覚を味わわせてきた美穂の行動に気が付けば彼の前髪はご丁寧にまとめられていた。

 どこから取り出したのやら。おそらくは美穂の物だと思われるヘアピンを使って前髪が目元を隠すことなく明瞭な視界を確保している状態なため、普段よりも視野は良好だ。


 美穂の言う事には今日一日をこのままで過ごせとのお達しであり、今は逆らえるような雰囲気でもないので大人しく聞き分けを良くしておく。


「……むむっ、何だか周りからの視線が増えたような…? それも女の人が多数…あれ、間違いなく蓮くんの方を見てるよね…」

「何ぶつぶつ言ってるんだよ、美穂。そろそろ水族館にも入らないか。ここも暑いしさ」

「あ、うん! でもちょっと待ってね…えい!」

「ぶ…っ!? いきなり何してるんだよ!」


 …すると、そんなやり取りを経てからきょろきょろと辺りを見回した美穂は蓮に聞こえない声量で独り言を呟いていた。

 ただそれに構ってばかりもいられず、流石にもうじき水族館内に入っておこうと蓮が提案を持ち掛ければ大して断られることも無く賛同してくれた。


 だが…その過程で何かを思いついたように両の掌を叩き合わせた美穂はどういうわけか、いきなり蓮の()()()()()()という動作を繰り出してきた。


「うーん……何かって聞かれたら牽制、かな? …放っておいたらすぐにパクッと食べられちゃいそうだし、蓮くんの顔を見ただけで評価を変えるような人なんかに渡すつもりなんてないからね」

「言ってる意味が分からないし…あと、その…色々()()()()()から離れてくれないか?」


 彼女の突発的な行動にも慣れてきたかと思っていたがまるでそんなことも無く、脈絡も無しに繰り出されてきた密着感を高める行為に驚きを隠せない。

 どうしてこんなことをしてきたのかと問いただしたところで返ってくるのは要領を得ない答えだったので意図もつかめず、彼としては困惑するしかない。


 加えて、腕を抱きしめられている関係上蓮の手元から伝えられてくる柔らかすぎる感触の暴力が凄まじいこととなっているので、出来ることなら離れてもらいたい。


「んん? あー、これはね…当たってるんじゃなくて()()()()んだよ? 私のおっぱいだと抱き着いたら当たるのは仕方ないことだからね。…それにほらほら、この機会なんだから堪能しちゃったらどうなのさ~?」

「……しません」

「え~…? …まぁいっか。今はそれよりも水族館だもんね。よし、早く入場手続き済ませて楽しんじゃお!」


 けれどもこちらが必死に抵抗する姿勢を見せれば見せるほどに調子づいてしまうのが美穂の習性であって、したり顔になりながら押し付けられる度に形を変える胸に戸惑う彼のリアクションを楽しそうに眺めていた。


 それでも一応は美穂の中にも今日のメインである目的は失念されていなかったようで、幸いなことにその揶揄いも少し耐え忍べば終わっていった。

 張り切った様子で蓮を引っ張っていく彼女の二転三転する賑やかさは相変わらずであるが…何はともあれ、彼らはようやっと水族館の内側に足を踏み入れていく。


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