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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第四四話 攻め攻めの姿勢


 楽しみな時間を待つ間というのは長く感じられるものである。


 本来ならただの休日でしかなかったはずの日付が、たった一つ予定が付け加えられるだけで時には何よりも待ち遠しいスケジュールに変じることも多々あるものだ。

 そしてそれは美穂もまた例外ではなく…水族館に行くという約束をしていた土曜日が近づくにつれて彼女にもソワソワとした落ち着きのない動きがよく見かけられるようになった。


 わざわざ尋ねるまでもなく、彼との外出予定を心待ちにしてくれているからこそあのような態度を取ってくれているのだ。

 日頃から見た目とは裏腹に計り知れない頼もしさを感じさせる美穂であっても、こういうった時ばかりは年相応の雰囲気を思わせる。


 子供らしいとでも言うのか…実際にまだ彼らは子供なので間違ってもいないのだが、やはり彼女はそういった振る舞いにも愛嬌が溢れていた。

 ふとした瞬間に蓮と視線が交われば、抑えきれない期待感が表に出てきてしまうのか表情を崩して笑みをこぼすなんてこともザラであった。


 しかしそれを咎めるのは野暮というものであり、何てこともない素振りからも読み取れる美穂の情緒を見て蓮も苦笑を返すのみ。

 かくしてそのような日々が続いてきたわけだが──それも今日までの話。


「美穂のやつは…まだ来てないみたいだな。少し早く到着しすぎたか」


 自宅近辺から電車をいくつか乗り継いでやって来れる場所。


 現在が夏休みということもあっていつもより多くの人で溢れかえっているようにも思える()()()

 その入口近くにて蓮はまだやってきた気配が見られず、事前に待ち合わせをしようと決めていた美穂の姿がないことを確認していた。


 一応は本日も二人での外出となるのであまりだらしない格好は駄目かとも思い、彼の恰好は比較的シンプルなベージュのシャツに紺の半袖カーディガンを合わせてある。

 下もそれと不自然な組み合わせとならないよう黒のワイドパンツを選んでみたが、見てくれの方は…蓮自身の地味なイメージがどうしても払拭できていないのでまぁギリギリ及第点といったところか。


 とりあえず最低限美穂の近くにいても問題視されないくらいの着こなしが出来ていれば良いと判断しておきたい。

 …どれだけ恰好を取り繕ったところで彼女の端正な容姿の前では無力に等しいことは分かり切っているが、それでも清潔感くらいは整えておきべきだろう。



 なお余談であるが、彼らが今日ここでわざわざ待ち合わせをしているのは美穂の発案である。

 最初は蓮からどこかで合流して、そこから水族館に行こうかと提案したのだが…何故だか美穂が現地で待ち合わせをするということに強くこだわってきたのだ。


 どうしてかは知らない。聞いてもいないので理由は不明なままだ。

 それでも美穂の強い要望とあらば断る材料もなく、大して手間のかかることでもないので素直に了承して今に至る。


(しかし…結構人はいるもんだな。そこまで有名な場所ってわけでも無いだろうに、これが夏休み効果ってやつか)


 されど美穂よりも先に到着をしてしまったらしい蓮はその旨を彼女の連絡しておけばそれ以外はほとんどやることも無く。

 ここが水族館だからか近くに何とも目を見張る規模感で備え付けられている噴水の水しぶきを眺めながらそれに付随して見て取れる()()()もまた、認識していた。


 やはり多くの学校に属する生徒らが夏休みに突入したからか、パッと見ただけでも家族連れで訪れる者の姿や友人同士で遊びに来ている者は多い。

 この場所がそこまでの人気スポットであるという噂はついぞ聞いたことが無かったものの、蓮が知らなかっただけで意外とここいらでは有名だったのかもしれない。


「けどそうなると美穂と合流できるかどうか……今いる場所だけでも伝えておいた方が良さそうか。それか、向こうが到着したらこっちから探しに行った方が負担もない──…?」

「──ふふっ、色々私のために考えてくれてたんだ? やっぱり蓮くんは優しいね」


 ──と、そんな時。


 この人の波で溢れかえった状況下でどのようにして美穂と合流を果たすべきかと頭を悩ませていた蓮の背後から、その声だけで隠しきれていない気分の高揚感は感じ取れる。

 今更確認などせずとも分かる。

 唐突に現れたために困惑しかけてしまったが、聞こえてくる声色だけでもその正体には見当などついているのだから。


「…なんだ美穂。黙って背後に立つのは危ないからやめろって……っ!?」

「むっふふ~…どうかな、これ? 今日はせっかくの蓮くんとのデートだから気合い入れてお洋服選んでみたんだ!」


 そうして心当たりなどありまくりな彼女の姿を思い浮かべながら振り返れば予想通り、そこにいたのは美穂である。

 花が咲くような笑顔を振りまきながら登場した彼女の存在を認識し、蓮も若干のサプライズ要素を交えてきた向こうの行動に呆れながら目を向けて……言葉を詰まらせた。


 …彼がこんなリアクションを見せた原因については入り組んだ事情があったわけでもない。

 ただ単純に。どこまでも分かりやすく。


 振り向いた瞬間に目にした美穂の恰好が…()()()()()()()()()である。


 彼のことを下から見上げるような体勢で自身の様相をお披露目する彼女の服装は、上は白を基調としたブラウスであり袖に向かってあしらわれたフリルが清純なイメージを思わせる。

 そして上に合わせられて身に纏っている水色の丈が長めのスカート。確かこれはAラインスカートと呼ばれるものだったと思うがそれもまた見事な着こなしである。


 文字だけを並べれば簡素なものの、実際に目の当たりにすると美穂自身の素材の良さとも相まって思わず意識を奪われてしまいそうな愛らしさだ。

 彼女のスタイルの良さもあるので服の一部では布地がはちきれそうにもなっていたが…それさえも今の美穂には魅力を引き立てる要素の一つでしかない。


 豊満に成長した、蠱惑的なスタイルを持ち合わせながらも与えられる印象は清純という。

 矛盾しているようで完璧に成立しているアンバランスさを前に流石の蓮も口をつぐんでしまった。


「……えっとー、蓮くん? さっきから止まっちゃったみたいだけど…ど、どうかな? も、もしかしてこんなの似合ってなかった、とか…?」

「へ? …あぁいや違う! そうじゃなくてな…」

「そうじゃなくて……何?」

「…何といったらいいものか」


 が、そうして蓮があまりの衝撃から思考停止しているとそんな彼を心配そうに見つめていた美穂が掌を振りながら不安そうに自分の恰好を見つめ直していた。

 どうやら彼の反応から彼女の服装がお気に召さなかったと判断されてしまったようだが、それは大きな間違いである。


 むしろ蓮は美穂の想定外の可愛さに見惚れてしまっていただけだ。

 しかしそれをどう伝えようかと悩んだところで…彼は以前に聞いた()()()()を思い出した。


(あ…そういえば小春さんにこういう時は美穂に対して引くんじゃなくて押すと良いって言われてたよな。つまり褒めるってことなんだろうけど…うん。そうしてみるか)


 蓮が思い出したのはつい先日、小春から受けたアドバイスの文言。

 常日頃からこちらを翻弄してくることが多い美穂への対処法としてこちらから褒める機会を増やすとの助言を受け取っていたが、ここでそれを実践してみようかと思いついた。


 つまるところ図らずも何もリアクションをしなかったせいで不安に思わせた美穂の恰好を褒めるということ。

 それにこういう時、口ぶりからしても彼女はこの外出のためにコーディネートを考え抜いてやってきてくれたのだ。


 だったらこちらがするべきことはまず何よりもそこへの率直な感想を述べること。

 慣れていないことゆえに多少の気恥ずかしさも無いと言えば嘘になってしまうが、己のちっぽけな羞恥心のために美穂の努力を軽視するなどそれこそあってはならないことだろう。


 よって、ここは蓮もブレーキではなくアクセルを踏み込んで彼女のことを褒めにかかる。


「…まぁ素直に言うと、美穂の服装が似合いすぎててちょっと見惚れてたんだ」

「…ふぇっ!?」

「うん。そのブラウスもシンプルだけどその分清廉な雰囲気が引き出されてるし、下のスカートとも合わせたらしっかり可愛く見えてるな。いつもの美穂と比べても淡い色合いの服だから、そこで印象が変わってるから新鮮な感じがするし。あとはそうだな───…」

「ちょちょ、ちょっと待って待って!? …きゅ、急にどうしたのさ蓮くん!?」

「え、どうしたって…」


 良くも悪くも、蓮というのは一度自分で決めたことには徹底してやり遂げようとする性格の持ち主だ。

 普通の人間なら多少なりとも言う事を躊躇いそうなセリフであってもそうすると決めてしまえば彼には躊躇する必要などなく。


 結果として改めて美穂の見た目を確認した彼は次々に褒め殺しの言葉を投げかけていった。

 しかしその発言の弾幕は他ならぬ彼女の手によって止められた。


「い、いきなりそんな真面目な顔して褒められたら…恥ずかしいじゃん! し、心臓も凄い音鳴ってるんだけど…」

「別に俺は素直な感想言っただけなんだけど」

「それが心臓に悪いって言ってるの!! ……で、でも。可愛いって言ってくれたのは嬉しいから、ありがとね。…はぁ、まさか蓮くんの方からこんな不意打ち食らうなんて…」


 流石に褒めるのが突然すぎたからか、美穂は彼の言葉一つ一つを耳にする度に顔を赤くしていき最終的には耳までも赤く染め上げてどうしようもない感情をこちらにぶつけてきていた。


 …ただ、ぷんぷんと怒ったように見せかけながらも服を褒めたこと自体には感謝を伝えられたので、その点については判断は間違っていなかったのかもしれない。


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