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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第一章

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第四話 悩みの種


「…なぁ、マジで寄っていくのか? 正気か?」

「本気も本気だってさっきから言ってるじゃん! それに相坂くんがあそこに居たらそのまま置いていくとか脅してくるし…」

「あれは脅しじゃなくて真っ当な意見だと思うんだが。…じゃなくてお前さ。男子の家に上がることに少しは危機感とか覚えろよ」


 先ほどまで彼らがいた公園とは場所も打って変わって、今はとある住宅地の一角に来ている。

 とはいってもここは彼らの会話内容からも分かる通り、現在の二人は蓮の自宅前までやってきている状態だ。


 …あの時、美穂の口から彼の家にお邪魔してもいいかなんて頭のおかしい提案が飛ばされてきた後。

 もちろん蓮もすぐに認めるわけはない。こんな夜遅い時間に女子が男子の家に上がり込むなど世間体的にも悪すぎる上に、何が起こるか分かったものではないからだ。


 当たり前だが彼としては彼女が家に来たからと言ってどうこうするつもりは無い。

 いかに美穂が魅力的な同級生だとしても食指を動かす理由にはならず、また理由になんてしてはいけないのだから。


 しかしその辺りの事情を差し引いても男子高校生と女子高生が夜遅く、一つ屋根の下にいるというのは嫌な魔が差してしまってもおかしくない。

 多感な時期に男女が同じ空間に放り込まれればどうなるかなど想像も出来ないので、蓮は彼女の要求を認めずそのまま帰ろうとした。


 ……けれどそうして帰ろうとする素振りを見せてしまうと、尚更に向こうの懇願する態度は強まってしまう。

 どうやらさっきの男から言い寄られた一件が終息こそしたが軽いトラウマとなったらしく、曰く一人であの場所に留まり続けるのはもう無理とのこと。


 そして連れて行ってくれないというのならもう勝手についていくなどと言い出し、そうなったら勝手にしてくれとしか言えないのでそのまま返したらまさかの本当にここまでついてきてしまった、というのが主な経緯になる。


「危機感って…今更相坂くんの何に警戒しろって言うの?」

「あんまりこっちに言わせないで欲しいんだが…ほら。俺がお前に衝動的に襲い掛かったりとかそういうことだよ」

「いやいや、それこそありえないでしょ。相坂くんなら尚更だよ」

「…何で断言できるんだよ」


 ホイホイとついてきてしまった割に危機感が微塵も感じられない美穂の様子。

 流石の蓮も、このまま黙って家に上がり込まれてはマズい事態になりかねないので本当は言いたくもないがここを訪れるリスクについて説明もした。


 結果に関してはほぼ無意味であったが。


「だって、私を襲う目的ならあんなにぶっきらぼうに対応もしないしそもそもあそこで助けてもくれないよ。それにこう見えても私、男の人が考えてることは何となく分かるからね。今まで見られてくることも多かったし」

「じゃあ今俺が考えてることも分かるってのか?」

「もちろん。私がびっくりするくらいこっちに興味がない。とことん無害な男の子って感じがする」

「褒められてんだか貶されてるんだか……はぁ。もうそこまで言うなら好きにしろよ」

「はーい、それなら上がらせてもらうよ。あ、あと言ってなかったけど相坂くんのことは素直に信用してるっていうのもあるよ?」

「へいへい…それは光栄なことだな」


 一体こんな自分のどこを見て信用なんてされたというのか。


 全く持って訳が分からない美穂の価値基準には多少呆れそうになるも、彼女がそう言うのなら蓮から語ることも無い。

 とにかく彼に出来ることは自宅に女子が上がるというシチュエーションに舞い上がらず、冷静な対応を心がけること。


 その一点のみだ。


 そう判断すると彼は懐から一本の鍵を取り出して複雑な心境になりながらも家の玄関を開錠していく。

 辺りに硬質的な金属の音が響き渡ればそれと同時にドアは開け放たれ、彼の自宅の内装が美穂の目にも露わになっていった。


「へぇ…相坂くんのお家ってこんな感じなんだね。…何だか物がそこら中に散乱してるように見えるのは気のせいかな?」

「勘違いでも幻でも無いから正常な景色だぞ。うち、親は二人とも長期出張でほとんど家に居ないから一人暮らしみたいなものだし。片付けも面倒でやってないからな。こんなもんだ」

「……え、相坂くん一人暮らしなの?」

「あぁ」


 美穂の視界に飛び込んできた景色。

 一軒家であるためにそれなりに広い玄関を通ってリビングへと誘導してやれば、そこにて繰り広げられていた…()()を目の当たりにしたのだろう。


 簡潔に言ってしまえば、見る場所全てのどこかしらに蓮の私物が散乱した汚部屋の有様が。

 …いや、これは仕方がないのだ。


 言い訳のようにもなってしまうが彼の言った通り、実は蓮の親は仕事柄昔から出張のために家を離れていて、彼はほとんど一人暮らしをしているのと同じ状況だった。

 そしてこんなことを暴露するのは情けなさすぎるが…普段は蓮も几帳面な性格をしているのだが、どうしてか家事という一点に関しては生来の特徴なのか過剰なまでの不器用さを発揮してしまうのである。


 掃除や洗濯、料理といったごくごく一般的な生活能力が著しく欠如しているので日頃からこのような状態の部屋で過ごしているのだ。


「…もしかして、相坂くんって意外と面倒くさがり? 家事は雑魚な感じだったりする?」

「ぐ…っ! その通りだから何も言い返せんが、ハッキリ言い過ぎだろお前…」

「だってこれはそうとしか思えないじゃん! …この部屋で本当に生活してるって言われても信じられないよ」

「自覚はしてる。でも何故か片付けようと思っても片付けられないまま時間が過ぎてるんだよ。…ほら、それはいいから適当に座っとけ。適当に飲み物でも取ってくる」

「あ…お構いなく」


 あまりにも予想外に過ぎる部屋の現状にさしもの美穂であっても驚きは隠し切れなかったのか、愕然とした様子でこの家を眺めていた。

 まぁ、そんな反応になる気持ちも理解は出来る。


 繋がりが希薄であってもクラスメイトがこんな家で暮らしていると知れば、蓮とて似たようなリアクションになることは想像に難くないのだから。

 …その当事者に自分がなってしまえば世話ないのだが。


 とりあえずそこはいいか。

 気にしたところで今すぐにどうこうなるわけでも無いのだから、いっそのこと開き直って飲み物の準備でもしてしまった方が良い。

 既に自分の恥とも言える部分が知られてしまった以上、必死に取り繕おうとする方が間抜けとも捉えられる。


「ほい、こんな物しか用意出来なくって悪いな。まともな物を置いてないからそこは我慢してくれ」

「ううん。押しかけたのはこっちだし、相坂くんが謝ることじゃないからいいよ。ありがたく頂くね? …あっ、美味しい」

「そんなら良かったさ。──さて」


 一度開き直ってしまえば案外気楽に動けるもので、家に偶々置いてあった麦茶を注いで持ってきてやれば微かに微笑みながら美穂は受け取る。

 …そんな表情さえも一枚の絵のような完成度を誇るのは、流石としか言いようがない。


 しかし蓮としてはそこにばかり意識を傾けるわけにもいかない。

 確かに彼は美穂がこの家に上がることに許可を出した……押し負けたとも言い換えられるが、ともあれ許可は出している。


 けれどもそれはあくまで一時的な滞在を許しただけで、長居まで認めたつもりは無い。

 なので早いところ彼女に帰ってもらうためには、ここにやってくることとなった根本的な問題を解決する他選択肢が無くなってしまったのだ。


「それじゃあ話を聞いていくが…どうして鐘月はあんなところで泣いたりしてたんだ? ただ事じゃないだろ」

「…っ、うん。そう、だね…」


 根本的な問題というのは当然あの公園にて美穂が泣いていたことについて。

 今までは関われば碌なことにならないと意見を先送りにしてきたが、こうなってしまってはもうそうも言っていられないので多少無遠慮にでも首を突っ込ませてもらう。


 すると、美穂の態度は…話の核心部分に触れたからか一瞬だけ身体を強張らせたかと思えば躊躇いながらも口を開く。


「…その、ね? 多分、相坂くんからしたら大したことでもないって言われると思う。でも私からしたらショックなことで…笑わないでくれる?」

「何で俺が笑うんだよ。そもそもこうなったらお前から事情を聞かないと話も進められないし、他人の悩みを笑う趣味もない」

「……分かった。それなら話させてもらうけど…私のお父さんとお母さんが、さっきまでずっと()()をしていたの」

「───喧嘩?」


 そうして美穂の口から語られたのは、彼女が抱えていた悩みの核心。

 思いのほか容易に聞くことが出来た荒ぶる感情の大元というのはどうやら向こうの両親にまつわることだったらしい。


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