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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第三八話 距離感変わらず


 短くも長かった授業の日々は一旦の幕を下ろし、ようやっと束の間の自由とも言える夏休みが始まった。

 やろうと思えば様々なことができる貴重な機会。


 当然、蓮もこの長い時間を有効活用していつもとは違ったことに取り組んでいる…()()()()()()()()


「…うぅん、結局夏休みになってもあまり私たちの過ごし方って変わってないような?」

「まぁこれといった予定も特に入ってないからな。この暑さで外に出かけたいとも思えないし、買い物以外では家に籠ってるさ」


 灼熱の炎天下と化した外気とは対照的に、冷房によって快適な室温に保たれた部屋の中で蓮と美穂は午前のひと時を過ごしていた。

 しかしそこで張り切って特別な行動を起こすような気配は一切見られず、むしろ緩やかな普段と変わりない光景が展開されているのみ。


 流石の美穂もこれはどうなのかと思ったのか怪訝な感情を顔に浮かべて言葉を並べていたが、そう言われてもこの様式に変化など無い。

 元々インドア派である蓮は大前提として積極的に外へ出向くような性格をしておらず、用事か何かで必要に駆られれば別だが基本的には家で時間を潰すのが主となる。


 またとない休みなのだから、こういった時くらいはこんな過ごし方をしても罰は当たるまい。


「出掛ける予定でも無ければこの熱気の中に飛び込もうとは到底思えないし。鐘月がどこかに行くって言うならそれも止めないけどな」

「それもそっか。私もどっちかと言うと外に行くよりはお家でのんびりしてたい派だし…偶にはこういうのも悪くないね」

「だろ?」


 すると美穂も蓮の意見に少し考える仕草を見せると結果的には納得してくれたようで、自分の脚を抱き寄せるとはにかみながら彼に緩んだ表情を向けてきていた。

 …相も変わらず警戒も何もあったものではない、油断しきった態度だがこれも彼女が言うように蓮のことを信頼してくれているからこそ見られる姿なのだろう。


 これだけの魅力を併せ持った少女からここまでの信用を与えられているのだ。

 であればこちらは、せいぜいそれを裏切るようなことがないように注意しておこう。


「…そういえばふと思ったんだけども、鐘月は休み中に予定とか入ってないのか? お前なら周りから誘いくらいあっただろ」

「あー……そのことね。うん、相坂くんの言う通り他の人から夏休みに遊ばないかってお誘いはあったよ? ただ…その、ね?」

「なんだよ。こっちの料理のこととか気にしてるなら遠慮しなくてもいいんだぞ? そこで鐘月のことを縛り付けておきたいわけでもないんだから、無理にする必要はないしな」


 と、そこで蓮の頭に思い浮かんできたがこの休み期間に関する美穂のスケジュールに関して。

 今ではこうして彼の家で過ごすのが当たり前となった美穂ではあるが、蓮は生活を送る上でのルールの一つとして美穂が友人から遊びに誘われた時には蓮の食事を作らなければならないからといった理由で断る必要はないと彼女に言い聞かせていた。


 最初こそ特段明言しておくことも無いかと考えこそしていたものの、実際にそのような場面になった時彼女は間違いなくその辺りのポイントを考慮してしまう。

 存外責任感の強い美穂のことなのだ。

 蓮に気を遣ってあちらの交友関係を狭めたいなどとは微塵も思っていないのでこれは必要な宣言である。


 なのでそこから波及して誘いがあったのなら遠慮せずに行ってきていいと伝えると、何とも言い表しにくい複雑な面持ちとなった彼女から返事が返ってくる。


「ううん、お料理に関しては私の方からしたいって思ってることだから無理なんてことはないよ? ただ遊びの誘いを断った理由はそれじゃなくって…えっとね。学校がお休みになる前にたくさん()()から遊ばないかって呼び止められて……」

「……男子?」

「そこで何日にここで集まらないかとか、二人で出かけないかって言われたんだけど…そういう人って皆、私の()()ばっかり見てくるんだよ」

「…あぁ、察したよ」


 ……楽し気な笑顔とは打って変わり、絶え間ない苦労を経験してきた者のような雰囲気となった美穂から語られたのはその一文だけで全てを察してしまえる内容。

 彼女が言うには休みとなる前に大勢の男子達から遊びの誘いを受けはしたものの、声掛けをしてきた者は揃いも揃って彼女が指摘した箇所。


 下から重たそうに持ち上げられて大きく弾んだ胸部と、それに比例するかのように豊かな柔らかさを兼ね備えた下腹部に目を向けてくる者が大半だったとのこと。

 …まぁつまり、美穂に声を掛けた男子諸君は()()()()()()を無遠慮に晒してきたということだ。


「大勢で遊ぶとかならともかく、そんな人たちと二人で遊びに行くのはちょっとね…だから出掛けるとしたら琴葉ちゃんと一緒に遊びに行くくらいかな」

「その判断は正解だろうな。つか、誘う立場なのに女子にそんな目を向けるとか正気か…? んなことしたら断られるって分かり切ってるだろうに」

「まぁ近くにいる女子がこんな凶器を持ってたら魅力には抗えないんじゃない? 分かってても視線は誘導されるというか…その理論でいくと相坂くんなんて全然見ようともしないのにね?」

「……見ないようにしてるんだよ。あと揺らすな、はしたない」


 彼女から話を聞いて、蓮が真っ先に抱いた感想は遊びに誘っておきながらそんな目を向けるなど正気を疑うといったものである。

 これが親密な仲にある者だというのならまだ理解はできたものの、単なる友人…あるいは知人の関係性でしかないのなら美穂を誘う際にそんな欲を見せるなど言語道断。


 本人はバレていないとでも思っていたのかもしれないが、現実問題として欲望の矛先にされていた美穂には全て筒抜けなのだからもっと誠実な対応をしろと言ってやりたい。


 幸いにも当事者たる美穂はそんな経験を踏まえても気にした様子もなく自分の胸を果たしてどこが良いのかと考え込みながら揉んでいたが…柔らかさを主張するように形を変えていく様子は目の毒に過ぎるのでやめていただきたい。


「んっふっふ~…それに比べると相坂くんの対応は紳士的なものだよ。少しくらい見ちゃってもいいのにね? 怒らないし、むしろウェルカムなくらいだったり?」

「紳士的じゃなくてこれが普通の反応なんだよ。…鐘月こそ、そういう言動は控えろ」

「無理! だってこうやってると相坂くんが挙動不審になってくれるし…正直に言うと、そんな反応されちゃうと楽しくってね。ほらほら、周りと比べても中々のものでしょ!」

「こいつは堂々と何を宣言してるんだ…」


 ただそう口出ししたところで止まってくれるような相手ではない。

 それどころか蓮が彼女の動き一つ一つに目を奪われかけそうになるほど、より笑みを深めながらこちらを揶揄いにかかるのが美穂という少女だ。


 現に今も彼のリアクションをつぶさに観察しながら、自身のプロポーションをアピールでもするかのように少しずつ距離を縮めてきた。

 その上で見せびらかすように彼女の両手で持ち上げられた胸をこちらに近づけてくるものなのだから、どうにかして視界からそれを外さんとするので対応は精一杯になる。


 …一度本当に、美穂には慎みというのを教えてやった方がいいのかもしれない。


「あ、もしかして相坂くんったら私の下着の方が気になってたりする? もうしょうがないなぁ~! …ちょ、ちょっと恥ずかしいけど今私が着けてるのは、ピ──…」

「気になってないわ! 言わなくていいんだよ、そんなことは!」

「…むぅ~、途中で遮ることないじゃん! せっかくの機会なんだし聞いておいた方がお得でしょ!」

「頼むから恥じらいってものを持ってくれよ…はぁ。俺は少し買い物行ってくるから、鐘月はここで待っててくれ」

「はーい…」


 どうあっても蓮にだけは過剰にしか思えない距離感を維持してくる美穂の対応に呆れながらも、このままではマズいということを直感して彼も一度撤退の選択肢を選んだ。

 不幸中の幸いか、今日の買い物担当は彼の番なのでそれを理由として立ち上がればこれといった反論を受けることなく家からの脱出が成功した。


 何だか非常に疲れた気分になってしまったが…美穂のグイグイとした距離だけはどうにかならないものかと頭を悩ませつつも蓮は蒸し暑さが広がる外の道に出ていくのだった。


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