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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第三六話 思わせぶりにして


 待ち受ける苦難が先にある時間というのは、最初こそ長く感じられるものだが振り返ってみるとあっという間だったりもする。

 今回もその例から漏れることは無く、蓮を含めた同学年の者達はいよいよ訪れてしまった試験本番に対して多種多様な反応が散見されていた。


 自分の結果に自信がある者は手ごたえを感じて満足げな表情を浮かべていたり、逆にヤマを張っていたにも関わらずそれとは全く関係もない範囲が問題に出題されてしまった者は絶望的な情緒を見せていたり。

 とにかく様々な反応が見られたこのテストも返却日を迎えた今日この日。


 自分の答案用紙を受け取った蓮は自分の机上に並べられた点数を目の当たりにしながら、納得したように頷いていた。


「まあまあだな。前より少し点数が上がってる気もするけど…これは鐘月に教えてた成果ってところか」


 周囲のクラスメイトから阿鼻叫喚とした声すら聞こえてくる状況下。

 そのような中で実にあっさりとした態度で己の結果を確認していた蓮は何てことも無いように振る舞っているが、実際のところ彼の結果はそれで収まるようなものではない。


 平均すると全教科で八〇点を超えている最終結果を持ち、クラス内でもトップとは言えないが確実に上位には躍り出ている成果。

 張本人にしてみればこのくらいは当たり前だという認識でしかないので騒がれることこそないが充分以上の結果だと言えよう。


「……で、そっちは何があったんだ。というか、()()は何なんだ?」


 ──と、そうして己の結果を確認し終えた蓮は先ほどから意図的に見ないようにしていた方向。


 すぐ傍の机にて展開されていた、出来ることなら関わりたくはないという思いが出てきそうにはなりつつも、しかし呼びかけないわけにはいかないので嫌々声を掛けた。

 すると、そこにいたのは……燃え尽きたように真っ白な姿へ変貌した()()の姿と、それを慰める少女の二人組。


「………ふっ、笑ってくれよ。こんな点数しか取れなかった俺を…」

「……京介、元気出して? 次のテストは私も教えてあげるから、それで挽回を狙おう…?」

「お前…薄々察してはいたけど勉強してなかったのかよ…」


 その場所で広げられた試験結果を前に燃え尽きているのは、全てを諦めたような表情となった京介である。

 日頃はあれだけ騒がしい様相を呈していた彼がどうしてこんな状態になってしまっているのか。


 この理由に関しては…今も尚広げられている向こうの答案用紙。

 ほぼ全てが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が記されていると言えばもうお分かりだろう。


 あまりにも散々たる結果を前に流石の京介も打ちのめされたらしく、別のクラスであるにも関わらず駆けつけてきた恋人である琴葉の掛け声があっても立ち直れないくらいにはショックを受けたようだ。


 …というか、前々から何となく予感はしていたがこの様子を見る限り京介は試験対策をまともにしてこなかったようだ。

 おそらくは勉強などせずとも何とかなるという、根拠など無い楽観的な考えで挑んだのだろうが…それでどうにかなるほど勉強は甘くない。


 試験の結果に関しては他の誰かの責任でもなく、正真正銘当人の実力次第であるためフォローしてやることも出来ない。


「おい天宮、今回に関しては京介を甘やかさなくていいからな。これを機にしっかり反省させておいてくれ」

「……それは分かってる。いくら何でもこれは駄目。これ以上悪い点を取らないように、今度みっちり勉強させる…」

「頼むぞ、マジで」


 辛うじて京介にも救いがあるとすれば、この現状に対して叱りを入れてくれる相手がいることか。

 最愛の彼女でもある琴葉も流石にこれはマズいと直感したようで、こんな時はただ慰めて甘やかすのではなく厳しくすることも重要だと理解してくれているらしい。


 発言からして彼らの間でも今度の機会に勉強会が開催されることが確定したようだが、噂で聞いた話だと琴葉はそれなりに成績も優秀とのことなので任せておけばいいだろう。

 その点に関しては蓮が割って入ることでもない。


(まぁあっちはこの様子なら大丈夫か。京介は徹底的に絞られるだろうが…そこは知った事じゃない。せいぜい苦労してくれれば───ッ!?)


 なのでこれから苦労するだろう友の様を予感しつつも、完全に自業自得の身から出た錆でしかないので同情することも無く項垂れる京介を見ていると…突然、背後から透き通る声と何かがぶつかるような()()を同時に味わった。


「相坂くん、やったよ! 今回のテスト私すっごく良い点数だったよ!」

「…鐘月、もう少し静かに近寄ってきてくれ。お前がぶつかってくるもんだから倒れかけたぞ」

「あ、ごめんね? でもすぐに報告したかったからつい…ほら見て! これ!」


 蓮の背中に柔らかな感触を押し付けながらも飛びついてきたのはさっきまでここにはいなかったはずの美穂である。

 彼女はその表情からも読み取れる溢れんばかりの喜色を全開にしながら自身の答案用紙だと思われる紙の束を蓮に見せつけており、実際に見てみると…確かに良い結果がそこにはあった。


 美穂が喜ぶだけはあり、ザっと全教科眺めてみても平均で七〇点は固い。

 教科によってはそれを超えているものさえ見受けられるので、文句なしに高得点を獲得できたと胸を張っても許される結果だろう。


 ここにいながら燃え尽きている京介なんかとは雲泥の差だ。


「えっへへ~…相坂くんに勉強を教えてもらったからその成果が出たのかな? もう感謝しかないよ!」

「…いいや、それは鐘月の努力の結果だ。俺はあくまでサポートしただけだし、わざわざ感謝されるようなことでもない」

「それでも私は相坂くんに感謝してるの! だからお礼くらいは言わせてほしいんだ。それくらいはいいでしょ?」

「はいはい…分かったよ」


 余程嬉しかったのかはにかむ様な笑みを崩すことも無く、正面からストレートな感謝を伝えてくる美穂の言葉には彼の遠慮も通用しない。

 いかなる言葉を選ぼうとも、蓮のおかげだというスタンスを維持してくる美穂の褒め言葉を前にしてしまえば最終的にはこちらの方が白旗を上げざるを得なくなる。


「………ん、二人とも仲が良さそうで何より」

「あっ、琴葉ちゃん! ふふん、そうでしょ? 私の中で相坂くんへの好感度はうなぎのぼりだからね!」

「それは見てれば分かる。…それにもう少しで夏休みだから、美穂もテンションが上がってるってことは」

「え…私ってそんなに分かりやすいかな?」

「……美穂はすぐに顔に出るから」


 すると蓮が諦めて彼女の高まったテンションを受け入れたのと同時に、次は傍にいた琴葉から美穂に話しかけてきた。

 以前の邂逅からすっかり気が合ったらしい彼女らは今や校内でもタイミングが合えば話し合うほどに仲を深めており、二人ともが周囲も認めるほどの美少女であるためその度に注目を集めているようだ。


 一部の者からはクールな雰囲気を放つスレンダー美人な琴葉と、少し低めな背丈でありながら体躯は暴力的なものを誇る美穂のアンバランスさが人気を博しているらしい。

 捉えようによっては姉妹のようにも見える微笑ましさもまた噛み合っているのだろう。


 …自身の身長を若干コンプレックスのように思っている美穂に伝えれば憤慨してきそうなので、絶対に口にはしないが。


「ま、まぁそれはそうとテストさえ終わったら夏休みだもん! 琴葉ちゃんも一緒に遊ぼうね?」

「……ん、後で空いてる日程を送っておく」

「ありがと! じゃあそこでスケジュール決めるとして……」


(…随分仲が良いこった。まさかあの出会い方からここまで親しくなるとはな…多分性格の相性が良かったんだろうけど。それに仲が良いことは悪いことではない、か)


 目の前で繰り広げられる女子同士の会話にはさしもの蓮も口を挟むことは出来ず、朗らかな雰囲気を保って組み上げられていく予定をただ見守るがまま。

 ワイワイと賑やかさを増していく風景に微笑ましさを覚えながらも、美穂の交友関係が広がるのは良いことだと思っていた。


 …そうすると、そんな彼の視線に気が付いたらしい美穂はこちらにだけ見えるように思わせぶりに口角を上げると──こっそりと、こう囁いてきた。


「──心配しなくても、私の予定で一番優先してるのは相坂くんだからね? そんなに不安そうに見つめてこなくても大丈夫だよ?」

「な…っ!? …違うっての。そんなこと思ってもない」

「ふふっ、強がらなくてもいいんだよ? 琴葉ちゃんと仲良さそうにして不安にさせちゃったかなーって思っただけだから」


 眼前で蓮のことを会話から放り出してしまっていたことを気にでもしたのか、美穂は蠱惑的な声で最優先は彼だなんてことを言ってきた。

 …別に見ていたのは美穂に対する独占欲を滾らせていたからでも琴葉と仲睦まじそうに会話を弾ませていたことに嫉妬の炎を燃え上がらせていたからでもない。


 単にこの光景を穏やかなものだと認識していたからこそ観察していただけなのだが…美穂からそう言われると途端に意識してしまいそうになる。


「………やっぱり、二人は仲良し。良いことだと思う」

「これを仲良しって言えるかどうかは甚だ疑問なんだが…」


 小悪魔めいた笑みへと一転した美穂の態度には抗えるわけもなく、どこか艶めいた魅力を思わせる彼女の前では無意識に動揺を誘われる。

 そのようなやり取りを見て傍観者の立場となっていた琴葉からは仲が良い、なんて評価をされたがその判断にはとても異を唱えたいところだった。


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