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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第一章

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第三一話 見る相手


 京介と琴葉、そして美穂の対面がなされてしまったことで発生した混乱であったが仕方なく思いつつも事情を説明すれば一応は納得させることにも成功した。

 そして必須事項でもあったこの件に関する口止めもひとまずは了承を得られたので、これで美穂と蓮のプライベートでの関係性が漏れることは無いだろう。


 もちろん絶対ではないことは重々承知の上であるが、それでも言っておくのとおかないのとでは雲泥の差があるためしないという選択肢はない。

 …この状態を知られたことで京介からやたらと騒がしい妄想を押し付けられることは半ば確定してしまったがそれについてはもう諦めた。


 いちいち否定していくのも面倒だが、あの友人の性格を振り返ればいくら弁明しようとも事実を自分の都合のいいように捻じ曲げるくらいは容易くしてくる。

 そんな相手にムキになる方が余程体力を消耗させられるというのは身をもって知っている真実だ。


 と、まぁそういった流れもあって波乱続きだったこの対面も時間が経てば区切りはつく。

 ふとした瞬間に家の時計を確認した京介の方からここを退散するということを告げられたので見送り……彼の場合は自宅ではなく、彼女である琴葉の家に赴くというのは分かり切っているが引き留める理由もないのでそのまま見送った。


 別れ際に『二人の時間を邪魔しちゃ悪いからな…頑張れよ!』という謎の応援を貰ったが返答は渾身の拳骨一発である。

 慈悲はない。ふざけたことを抜かしてきたあちらが悪いのだ。


 何はともあれこうして戻ってきたいつもの時間。

 消耗した体力やら削られたメンタルやらは一向に戻る気配を見せないものの、ともかく嵐は乗り切れたと思っても問題は無いだろう。


 そうしてようやっと取り戻した普段通りの日常。

 だが…その部屋で漂っている空気感だけは、今まで蓮が置かれていた状況とはまた少し違ったものとなっている。


「…その、ごめんね? 相坂くん」

「ん、どうしたんだよ。急に謝ってきたりなんてして」


 いつもと何ら変わらない静けさが舞い戻ってきた部屋の中央にて座り込む美穂の姿は、日頃のそれとは異なり溢れんばかりの活発さが鳴りを潜めてしまっている。

 時間が経てば普段の調子に戻るかとも思っていたので特に触れることも無くそっとしておいたのだが…不意に彼女から向けられてきたのは一言の謝罪文。


「だって…その。不注意だったとはいえ私のせいで橋本君と琴葉ちゃんにここのことがバレちゃったでしょ? 相坂くんはずっとバラしたくないって言ってたのに、私がちゃんと確認しなかったからあんなことになっちゃって…怒らせちゃったよね」

「……鐘月」

「ううん、言い訳はしない。今回の責任は私にあるもん。だから…本当にごめんなさい。許してもらえるかどうかは分からないけど、謝らせてほしいの」


 ──どうやら、美穂は蓮の思っていた以上に今回の失態を気に病んでいたらしい。


 さっきまでは琴葉と共に楽し気なテンションを保っていたように見えていたものだが、おそらくあれは他の者の目がある中では下手に沈んだ姿を見せまいと気を張っていた状態だったのだろう。

 しかしそれも彼らが退散していったことで張り詰めていた糸は切れ、内心に蓄積されていた申し訳なさが表に出てきてしまった結果…といったところか。


 その様からはかねてのあっけらかんとした明るさはどこにもなく、心の底から自身のミスを悔いているのだと伝わってくる。

 素直に頭を下げる様子からもその意思の固さは顕著なものだろう。



 ……けれども、そこには一つの()()()()があると言わざるを得ない。


「…あのさ、先に言っておくけど今回のことで俺は鐘月が悪いとは思ってないぞ?」

「………へっ?」

「いや、だってそうだろ」


 真剣な雰囲気を滲ませながら頭を下げてくれていた美穂には申し訳なく思うが、大前提として別に蓮は美穂に怒ってもいないし原因があるなんて微塵も考えていない。

 まさかそんなことを言われるとは夢にも思っていなかったのか、想定外の言葉を返された美穂は気の抜けた声を漏らしていたがそもそもの根本がすれ違っているのだ。


 何せ、この件に関して蓮は彼女が悪いとは塵ほども考えておらず、むしろ悪いのは……全くの別にあると思っていたくらいなのだから。


「そりゃまぁ、鐘月が連絡の確認に気が付かなかったのも多少は関係してると思うけどな。でも今回のことは…正直悪いのは俺の方だよ」

「え…っ?」

「そもそもあいつらを招いてなかったらこんなことにはなってなかったし、鐘月にも()()()()()()()()は無かったんだ。だから謝るのならこっちの方で───」

「ちょ、ちょっと待って!? …ひ、一つだけ確認してもいいかな?」

「……何だ?」


 美穂は全ての責任が自分にあると思っていたようだが、蓮の認識では真逆。

 彼女が罪悪感を感じる必要性など皆無であり、まず振り返ってみればこの家に京介たちを招くと決めたのは他ならぬ蓮自身だったのだ。


 もちろん諸々のリスクは承知の上だったからこそアクシデントを回避するために手は打っていたし、対処するための準備は進めていた。

 されどそれだって絶対のものではなく、実際に美穂と彼らが顔を合わせる事態を迎えてしまっていた。

 そんな状況の起点となるように判断を下していたのは、元を辿れば蓮によるものなのだから。


 ゆえに謝るべきは美穂ではなく蓮の方。

 そう思ってこちらからも面倒なことに巻き込んでしまったと頭を下げようとすれば、彼女は困惑したような声色でこんなことを問うてくる。


「そ、その…相坂くんは私が迷惑をかけるようなことをしたから怒ってるわけじゃ…ないの?」

「うん? ()()()。誰もそんなこと言ってないだろ」

「で、でもだって! 相坂くんは前からこの家のことを誰にも話さないようにって言ってたでしょ? それは相坂くんが他の人に知られたら面倒だから秘密にしてる、って…ずっと思ってたんだけど」

「……あぁー…そういうことか」


 美穂が困惑しながらも問いかけてきたのはこんな話になっている大元の部分。

 前々から彼が美穂にも言い聞かせていた、二人での生活に関連したことは外部の誰にも明かさないという約束。

 その()()についての箇所であった。


 彼女が言いたいことは理解できる。

 つまり美穂は彼の発言の意図を、『このことがバレたら蓮に面倒な事態が降りかかってくるから』といった解釈でこれまでの時を過ごしていた。


 もとより美穂と初めて会った時から面倒ごとは積極的に回避しようとしていた彼のことだ。

 そう思われても仕方がないとは思うが…正しいことを述べると、その捉え方は間違っている。


 …これに限っては、あまり素直に話したいことでもない。

 何しろ蓮がこのようなことを再三繰り返して忠告していたのは、彼自身が面倒ごとに巻き込まれるのを回避するため、だけではなく───。


「…ふぅ、確かにそれも間違っちゃいない。ただ、俺がそう言ってたのは…ほれ」

「んん……?」

「……俺の家で一緒に過ごしてるなんて周りのやつに知られたら、()()()()()()()()()()()()それは嫌だろうと思ったんだよ」

「…っ! そ、それって…!」


 ──結局のところ、結論を言ってしまえば()()()()()だったからだ。


 勝手な思い上がりだというのも自己満足だというのも理解はしている。

 それでも、このことが仮に他の連中に知られることがあれば真っ先に被害を被ってしまうのは他でもない彼女なのだから。


 ゆえにこそ、彼は自分の面倒をここまで見てくれる少女に今以上の負担を強いたいとは思っていなかったのだ。


「このことがバレたら良くも悪くも噂は流れる。それこそ俺と鐘月が付き合ってる…なんて根も葉もない噂とかもな。だけどそんなのはお前に迷惑をかけるだけだ。こんなパッとしない、地味なやつと関係を疑われるなんて面倒以外の何者でも──…」

「──相坂くん、それは違うよ?」

「…鐘月?」


 美穂は良い意味でも悪い意味でも、学校だろうと外だろうと目立つ。

 それは容姿然り、性格然り。


 あらゆる要素に注目を引き付ける魅力を兼ね備えた少女である彼女は、それ相応に高い人気を誇っているのだ。

 そんな相手と、蓮のようなパッとした特徴も持たず冴えない男子がただならぬ関係にあるなどと噂されれば…美穂の感性が疑われもするだろう。


 そうなってしまったら彼女とて不快なはずだ。

 ただのクラスメイトに過ぎない男子との関係を疑われるなど、双方にとって利がないことは避けなければならない。


 この一心で彼女とのプライベートでの繋がりは秘匿するように言いつけてきたわけだ。

 …だとしても、美穂はそんな彼の口にした言葉を優しく否定してきた。


「相坂くんは地味でもないし、パッとしないなんてことも無い。私からすれば他のどんな男の子よりも優しくて…素敵な人だと思ってるんだよ?」

「…鐘月がそう思ってたとしても、周りはそう思わないって話だ。いくら褒めてくれても俺の見た目が地味なものには変わりないんだから」

「…うーん、それも私にとっては疑問なんだけどね。だって───ほら」


 蓮の自分と美穂は明らかに釣り合っていないという、無意識に自身を下げるような発言に対して彼女は穏やかな微笑を浮かべて否定してくる。

 彼は地味でも何でもなく、その心根は優しさで満たされているのだから関係ないのだと。


 …ただそれでも、美穂がそのように評価してくれたとしても蓮が冴えない容姿をしている事実は変わらない。

 周囲からしてみれば彼の印象は教室の隅で京介と絡むだけの目立つことも無い男子で、これといった特徴があるわけでも無い。


 だからこそ、美穂が蓮との距離を縮めてくれているこの状況に納得をしない者もいるわけで…蓮もその評価には頷いている。

 しかし、彼女だけは違う。


 彼の言う事を真正面から受けて尚、どこか()()()()()()()()様な反応を露わにする彼女は不意に蓮へと近づいてくる。

 すると、蓮のイメージを地味なものに変えている大きな要因でもある目元までかかってしまっている前髪に触れてきたかと思えば…満足げに微笑んでいた。


「…うん、やっぱり相坂くんは地味なんかじゃないよ。確かに一目見ただけじゃ目立つことは無いかもだけど、こうやって見てみれば…ちゃんと格好いいもん」

「…それは言い過ぎだ。髪を上げたくらいで変われるなら苦労はしない」

「むっ……事実なんだけどなぁ。まぁ今ここで言い聞かせても多分聞いてはもらえないよね。…でも一つだけ覚えておいてほしいのは、ちゃんとすれば相坂くんも格好良くなるってこと!」

「はいはい。ありがとな」


 垂れていた前髪を上げられたことで露わとなった蓮の顔立ちは、さほど悪くもない。

 特筆して目立つようなことはないがしっかりと清潔感が維持されているのとある程度整った目鼻をしているため、美穂の言う通り容姿をきちんとすればその素材の良さに気が付く者も現れるだろう。


 もっとも本人にそうするつもりが皆無なことと、今までの生活から蓮は自分の容姿が多少は見れるものであるとも認識していないので軽く流していたが。


 …それでも、彼の自分を卑下するような発言を正面から否定してでも蓮には蓮の良さがあると言ってくれたのは───少しだけ、嬉しく思ったことも事実だ。


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