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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第一章

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第二六話 反省見えず


 ──人というのは、成長する生き物なのだと思う。


 それがどれだけ過酷な環境であれ、摩訶不思議な状況下であれ。

 時間さえ経ってしまえばいつの間にかそれを『当たり前のもの』として認識するようになり、いつしか困惑することさえ無くなる。


 あるいは、それこそが人間の強みと言えるのかもしれない。


 ……しかし、だ。

 そんな人の基本原則と言い換えても差し支えない性質であるが、近頃の蓮だけは不思議なことにどれほど同じ環境下に置かれようとも慣れてくるような気配がない。


 分かりやすく言うと、美穂との距離感に対して適応できるような気が一向にしないのである。

 少し前から縁を持つようになり、今となっては同じ屋根の下で過ごすようにすらなった相手。


 あの少女の過剰なほどに近づけられてくるアプローチだけは如何に経験を積み重ねようとも対応できるような気がせず、毎度毎度彼が困惑させられる状況が続くだけ。

 …けれども、どういうわけか蓮ではなく彼の()()に限っては少しずつ美穂の動向にも慣れてきたような空気が感じられもするのだ。


 まぁこれに関しては驚きもない。

 何しろ、美穂は大げさな誇張もなく隙さえ見つければ蓮に構うような行動をあたかも周囲に見せつけるようにして振る舞う。

 流石に四六時中絡みっぱなしというわけではなくとも、何度も何度も繰り返すように続けられたら見慣れもする。


 今や周りからは美穂が話しかけに来ても『あぁ、またか』といった程度のリアクションしか返されないため、蓮の平穏な生活という意味合いでは助かってもいるが。

 …いや、一概にそうとも言い切れないこともまた確かではあるか。


 大半の生徒からはそのような反応を返されるに留まってきた蓮の高校生活も、未だ美穂に熱を上げる一部の男子生徒からは羨望と嫉妬の入り混じった視線を向けられるので平和を取り戻したとは言い難い。

 …こちらとしても美穂の動向はそうするように命じているわけでも強制しているわけでも無いので、そのような感情を向けるのは勘弁してほしい。


 このままでは、いつか激情の暴走を始めた彼らの手によって何か危害を加えられるのではないかと嫌な妄想が膨らみかねない。



 ──とりあえず、その辺りは一旦置いておこう。


 重要なのは彼の日常がそのようなものへと変化したということ。

 そして、蓮の日々に劇的な変化を与えた発端の全てにあの少女の姿があるということだ。


 ……ただ、今。


 異彩な経緯を経たことで変わりつつある七月の日常の中、大勢のクラスメイトの話し声でガヤガヤとした賑わいを見せている教室の片隅にて蓮は呆れた顔を浮かべながら一つの()()に耳を傾けていた。


「頼む、蓮! 今日、少しだけお前の家に避難させてくれ!」

「……それよりも、もっと詳しい経緯を教えてくれ。避難って何だよ。穏やかじゃないな」


 喧騒に包まれた教室の中でも一際張り上げられた声でそう嘆願してくるのは、机に頬杖を突きながらも向かい合った蓮に頼み込む京介である。

 必死に頭を下げ、もはや机上に擦り付けているのではないかと思うほどに真剣な様相。


 けれどその相談に対する肝心の中身は明かされておらず、相談されている側としても胸中にクエスチョンマークが浮かぶだけだ。

 それに発言のチョイスにしても、避難などと平和的ではない。


 ともかく詳しい話を聞かなければ何事も進められないので一度向こうを落ち着かせて経緯を聞き出そうとする。

 するとあちらから語られてきた内容は、こんなものであった。


「実は、それがな…諸々の事情があって、しばらく()()()()()()()()()んだ」

「えっ……おいおい、大丈夫なのかよ。一体何があったらそうなるって言うんだ? 親と喧嘩でもしたか…?」

「喧嘩……まぁ、そうとも言えるかもな。何せうちの親と来たら、こっちの意見なんてまるで聞いてくれやしないんだ」


 …何があったのだろうと思い話を聞く姿勢を整えていけば、そこで語られてきたのは予想以上に深刻な気配を思わせるもの。

 まさかの自分の家に帰れなくなったという、通常であればまず出てくることが無いだろう驚きの事実を前に蓮でさえも思わず心配の情が湧き出てきてしまうほど。


 よもやこちらの知らぬ間に、友人の家で何かがあったとでもいうのか。

 場合によっては自身に出来る限りの範囲で力になってやろうと考えながらも、そのまま詳しいことを聞いていく。


「だから今日一日だけ、少しだけ蓮の家に寄らせてほしいんだ。泊まり先に関してはこっちの方で何とかできるからさ」

「そりゃ…そのくらいならいいけど、どうしたんだよ? 京介がそこまで言うなんてよっぽどのことだろ」

「……あぁ、実はな」

「何だ?」

「実は───うちの親に、琴葉の家に黙って泊まりに行ってたことがバレたんだ!」

「………んん?」


 ──だが、その次に放たれてきた言葉。


 これまでの付き合いの中でも一番と言えるくらいに真剣な雰囲気を滲ませていた親友の姿から、まるで親と仲違いでもしたかのような説明が繰り返されたことで心配さは高まる。

 ただ、そこから彼の恋人の名前が飛び出してきたことでこの重い雰囲気は一瞬にしてどこかに吹き飛んでしまったような気さえする。


「……待て、どういうことだ。京介お前…親と喧嘩して家を飛び出したとかじゃないのか?」

「いやな、聞いてくれよ蓮! それがさぁ…この前琴葉とデートに行ってその帰りに向こうの家に泊めてもらったんだけどな? その時にうっかり親に連絡すること忘れてて…帰ったらメチャクチャ叱られたんだわ」

「…で?」

「そしたらうちの親、連絡を忘れたくらいで『反省するまで遊びに行くのは禁止!』なんて言い出したんだぜ? そんなこと言われたら家も飛び出すしかないだろ!」

「……完全にお前の自業自得じゃねぇか! 反省しろよ!」


 つまるところ、京介の言い分を聞いていけば向こうの親から何か無茶苦茶なことを言い付けられたとかそんなことでは全くなく、どこまでも彼自身の無責任な行動を反省するように言いつけられたらしい。

 そりゃあ親としては自分の子供が連絡もなく家に帰ってこなかったら、心配だってするだろう。


 至極当然のことを言われたとしか感じられない。


「つーわけで、親の怒りが収まるまでどこかに避難しようと思っててな。だから頼む! お前の家に少し寄らせてくれ!」

「その前に京介は誠心誠意謝ってこい。全面的にそっちが悪いだけだろうが」

「無理だ! こればっかりは俺も大人しく引き下がるわけにはいかないんでな…そこについては譲れん」

「お前ってやつは……」


 どう考えても京介に非があるとしか思えず、しかしこちらには謝る気が毛頭ない。

 一応京介の両親とも頻繁にではないが会った事がある蓮からすると、あの人たちが脈絡もない罰を与えるとは思えないし意味もなく子供の行動を縛り付けるような人物ではないというのは知っている。


 だからわざわざ京介に対して反省するまで遊びを禁止、なんて言い出したからには相応の理由があるからこそであって、早いところ謝った方がすぐに解決することは明白なのだ。

 しかしそのつもりが彼には微塵もないため、堂々巡りな状況に陥っている友の現状を客観視して頭を抱えたくもなった。


「……なら、分かった。とりあえずうちに来るのは許可してやるよ。でも俺の家に居ることはそっちの親にも連絡するからな。その条件なら飲んでやる」

「げ…っ!? …まっ、それはしゃーないか。じゃあ交渉成立ってことで……おーい、()()! 蓮が来てもいいってよ!」

「………ん、ほんと?」

「…天宮? いつからいたんだよ…っていうか何でそこで隠れるような真似を……いや、待て。もしかしてお前ら…」


 ──すると、そこで京介が唐突にも名前を呼んだのは彼にとっての恋人の名。


 いきなりそのようなことをしてきたので面食らったが、それに構うことなくその声に応じるかのように教室の扉から姿を現したのは話題の一人でもあった少女、琴葉。

 クールな雰囲気と容姿を併せ持ち、人目を惹く美人さを兼ね備えた彼女は特に驚いた様子もなく当たり前といった風貌でこちらに近づいてくる。


 …が、そこで蓮は一つの()()が浮かぶ。

 この状況。条件付きとはいえ京介が我が家に来ることを限定的に許可した直後に呼び寄せられた琴葉の存在。


 まるで、その要素が指し示した展開というのは………。


「おう! 蓮の家だけど…俺と琴葉の()()で行かせてもらうからよ! よろしく頼むぜ!」「先に言えよ!」


 …嫌な予想というのは当たるものだ。


 直前に思い浮かんだ想像が外れてくれるような都合のいい展開は残念ながら訪れず、そのままの勢いで蓮は京介だけでなく琴葉までもが家にやってくるという。

 つまり、最も身近なカップルが自宅に襲来するという事実を前にして、胸の内に溢れた本音を叫ぶのであった。


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