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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第一章

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第二二話 教えたやり方


「…あれ、相坂くんお勉強してるの? 自分から取り組むなんて偉いね!」

「ん、偉いってほどの事でも無いけどな。単に日課になってるからやってるだけのことだし」


 美穂が家に来るようになってから数日が経ち、あれから少しでも日数を経たからか何となく彼らの間でもこの場での過ごし方というのを掴み始めていた。

 結局どれだけ互いのことを意識したところで動きはぎこちなくなるだけなのだから、いっそのこと見栄を張って居心地の悪い時間を過ごすよりも楽な姿勢になった方が何倍も良い。


 おそらくは双方ともにそう考えたからこそ、今となっては特に用事がない時にはそれぞれが好きなことをして暇を潰すようになった。

 例を挙げれば美穂は夕食の下準備をしている最中に彼は休息を取っていたり、またある時は彼女が楽しそうにテレビを眺める横で彼はコーヒーを淹れたりと。


 時折美穂の方から脈絡もなく語り掛けてくることもあるので全ての時間がそうなるわけではないが、基本的には各々が居心地の良い生活を勝手にするという状況に移り変わっていった。


 そして現在もそれは例外ではなく、いつものように夕食の準備を進めてくれていたらしい美穂がキッチンから出てくると…テーブルにて()()()()を広げていた蓮の姿が目に入ったらしい。

 問題集と睨み合い、黙々とペンを動かしながらも真剣な表情で思考を働かせていた彼の集中力に意識を引っ張られたのやもしれない。


「それでも充分すぎるくらい偉いよ! 私だったらそこまで集中することなんてできないし…それにずっと見てたけど、相坂くん毎日ちゃんと欠かさずやってるでしょ? それが凄いんだよ!」

「そうか? まぁ俺はもう慣れたことだから当たり前って感覚しかないけど、鐘月がそう言うならそうなんだろうな」

「はへぇ…勉強できる人のセリフだぁ……もしかして、成績もかなり良かったり…?」

「うん?」


 しかし彼女にも語った通りこれは蓮にとってはさして特別なことでもなく、こうして勉強をするのも何かを思い立って取り組み始めたわけではない。

 むしろこの習慣はかなり前の時期からほぼ毎日のように継続してきた事柄で、それが今でも続いているだけのこと。


 なので謙遜だとかそういうわけでもなく実際に蓮の認識下ではこの習慣は大したことにはならず、取り組んで当たり前のことなのだ。

 もちろんそれが一般的な感覚とはズレていることも自覚はしている。


 普通の高校生なら勉強など取り組むだけ面倒なもので、やるだけ成果も出るし自分のためにもなる…なんて考えている蓮の方が少数派なはず。

 勉学を好んで実践する学生など珍しい部類に分けられるに違いない。

 だからこそ、美穂もその姿を見て感心したように声を掛けてきたのだろうから。


 それと彼女が聞いてきた成績に関する件だが…正直返答には困る。


「成績か…どうだったかな。悪くはないと思うけど、前の試験の順位とか覚えてないからまあまあじゃないか?」

「その答えは絶対まあまあの範囲に収まらないやつだよ…絶対頭いいじゃん!」

「いや、鐘月だって頭悪くはないだろ? 勉強が苦手なんて話聞いたことないし」


 当人が自覚している限りの範疇にはなるが蓮の記憶している過去の成績を振り返ってみるものの、これといって指標になるようなものはパッと思い出せない。

 流石に酷い点数を取っていれば忘れないと思うのでそれが無いという事は酷くもないのだろうが…決して良いとも断言できない。


 ただその通りに伝えれば呆れたようなリアクションが返ってくるだけなので、若干納得がいかない。


「私かぁ…そりゃあ悪くはないと思うよ? 赤点は取らないように努力はしてるし、授業の復習も気が向いたらやるから。でも分からないところで躓きやすいタイプだから…そこで点数を落としちゃいがちなんだよ」

「なるほどね。それは少しもったいないな」

「うん…こういうのって他の人に聞いても分からないって返されることが多いから、どうしても理解できないまま置いてけぼりになっちゃって──」

「……ふむ。なら、俺がその分からないって部分()()()()()? 手助けになれるか確約は難しいけど」

「…え、本当!?」

「うおっ!? …か、鐘月。近い!」


 蓮の説明を聞き、美穂は自分がそこまで勉強に秀でているわけではないことを明かした。

 特に抜きんでて悪いというレベルでもないらしいが、それでも他者に誇れるほど優れているわけではないと。


 …では、それなら蓮も不意に彼女が分からないと言う範囲を教えてみようかというアイデアが思い浮かぶ。

 正直な所、赤の他人に教鞭を振るえるほど彼も自信があるかと問い詰められると微妙なところなのだが勉強に関してはそれなりに続けてきた身だ。


 あからさまな恩の押し付けを目的としたような行為は好まないが…これくらいの小さなものであれば構うまい。

 それに美穂の方も、蓮の提案を受けて乗り気な様子を見せているので気を遣ってくれたわけでも無いはずだ。


「じゃあ私も勉強道具持ってきてもいいかな? 実は少し課題をやろうと思って持ってきてた物があるから…」

「いいぞ。ここで待ってるから取ってこい」

「うん、ありがとうね!」


 やることが決まればそこからの行動は早く、彼女も自宅から持ち込んでいたらしい勉強道具があるとのことなので軽い足取りのままそれを取りに行った。

 …思わぬ展開から実施の決まった勉強会であるものの、偶にはこういったことも悪くはないか。




 ──蓮から申し出た美穂との勉強会だが、予想外にその進行はスムーズかつ順調に進んでいったと言える。


「……そこはそうじゃないな。公式通りにやるんじゃなくて、別の方式に当てはめると解けるんだよ」

「……おぉ、凄いよ! 今まであんなに復習しても分からなかったのに、こんなに簡単に解けるようになるなんて…!」

「そんなら良かった。とはいっても鐘月は元々土台がしっかりしてたからな。それが無かったらここまで順調に理解も出来てないだろうさ」


 美穂が開いていた問題集を目にしながら向き合う位置に座っていた蓮は彼女の躓いたというポイントを改善するために指導に徹していたが…それも実際のところは大したことも無い。

 というのも、存外彼女は勉強が出来ないというよりは応用の範囲に突入すると頭がこんがらがってしまうタイプであって、基本の知識に関してはむしろ優秀なくらいだった。


 しかしこういうタイプの者はどうしても少し入り組んだ問題に立ち向かう時、決められた公式のやり方に従って解決しようとしてしまう傾向が多い。

 ただこの手の問題に対してはそれぞれ最適な解法が用意されているため、それさえ教えてしまえば抜群に改善できるのではと思った結果…それは大正解。


 今現在も己が解き明かしてみせた難問を目にしながら感動したように言葉をこぼしていたので、自身の確かな成長を実感しているのだろう。


「相坂くんって…教え方も上手なんだね。すっごい分かりやすかったよ!」

「…まぁ、俺には勉強くらいしかできないからな。他の運動なんてからっきしだし、得意なことがあるわけでも無いから何となく続けてたらこれくらいできるようになったってだけだ。鐘月だってしっかり取り組んだらこれくらいは出来るようになるさ」

「そんなことないよ! 私一人だったら絶対ここまで上手に人に教えることなんて出来ないし…()()()()()()()出来たことだもん! だから…教えてくれてありがとうね?」

「…っ! …はいよ、どういたしまして」


 …そうすると、今解き終えたばかりの問題を見つめていた美穂は一転して蓮へと感謝を伝えてくる。

 混じりけの無い、どこまでも純粋な喜びに満ちた彼女の雰囲気を伴ったその言葉は他のどんな褒め言葉よりも彼に胸に突き刺さり。


 ──どういうわけか、美穂に認めてもらえたような気がして込み上げる羞恥心ゆえか無意識に彼女から微かに赤くなった顔を逸らしてしまうのであった。


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