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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第一章

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第二〇話 彼なりの信用


 美穂と連絡先を交換したことで更なる騒動を巻き起こした気がしないでもないのだが、幸か不幸か当人たちはそのことに気が付いていなかった。

 それよりもあの時はお互いに相手のことしか見えておらず、彼女がふとした拍子に見せてきた蕩け切った表情に蓮も…思わず見惚れかけてしまう始末。


 …美穂に特別な感情など抱かないと考えていたばかりだというのに、この体たらくとは自分で自分が情けなくなってくる。

 もっと理性を強く保たねばとも思うが…まぁそれは追々の課題としておこう。


「…ん、来たっぽいな」


 現状はそこに意識を掛けている余裕はなく、既に時間としては学校の授業も一通り終わり放課後。

 いつもの如くこれといった用事もない蓮は早々に自宅まで帰宅し、ほんの束の間の彼一人の時間というのを満喫していた。


 以前までであればこのまま気楽な時が明日になるまで続き、日が昇ったのならまた学校で授業を受けて再び帰宅する。

 時折京介から誘われて外出することもあるがそれは稀なことで、ほとんどの日はそんな生活サイクルで過ごすのが今日までの日常であった。


 とはいえそれも今日で終わり。

 ついこの前約束を交わされたばかりのこともあって蓮一人で過ぎ去っていく毎日は一旦の休息であり、これ以降の時間はそこにも一つの彩りが加えられるのだから。


 日頃は鳴らされることも無いインターホンが鳴らされたことを皮切りに、彼女がやってきたことを察した蓮は足早に玄関へと向かう。

 そこにいる人物の正体は分かり切っているので躊躇うことも無く鍵を開き、そのままドアを開けていけば…予想通りの少女が佇んでいる。


「随分と早かったんだな、鐘月。まぁとりあえず上がってくれ」

「うん! 本当はもっと早く来ようかなと思ってたんだけど…相坂くんが帰ってくるよりも前に来ちゃったら待たなきゃいけないからね。もちろんそれも悪くは無いけど、ちょうどよく来れて良かったよ!」

「あぁ、言われてみれば早すぎても入れないのか。…そうだな」


 玄関を開いた先にはこれまた透き通った声を出しながらやってきた美穂の姿があり、その様相もついさっき学校で見ていた制服とは打って変わってベージュのシンプルなブラウスと、全体が白で構成されたロングスカートを纏っている。

 しかしそれだけでも十分すぎるほどに人目を惹く魅力を感じられるのは、彼女自身の持った魅力ゆえだろう。


 ただそれにばかり注目していても仕方ないので事前の約束通り、ここまでやってきた美穂を拒むことなく出迎えようとして…彼女に指摘されて気が付いたが確かに美穂は蓮が自宅にいなければ家には入れないことに思い至る。

 防犯セキュリティ上はそれが普通だし何も問題はないのだが、住人である蓮しかここに入るための鍵は所持していない。


 …ふむ。そうなると一応は美穂もこれから放課後や休日はここで過ごすと宣言しているわけだし、それは少し面倒かもしれない。

 日によっては蓮がドアを開ける暇がない時だって考えられる。それにそもそも彼自身が家に居ない時間だってあるのだ。


 そんな時にここへ来た彼女を家の外で待ちぼうけさせたりなどすれば、そんな光景を見かけたご近所からどんなことを想像されるか分かったものではなくなる。

 ……流石にそれは困りすぎるので、あまり軽々と渡すべきではないことも重々理解しているがこれは仕方ないだろう。

 必要なことでもある。


「鐘月、先にリビングで適当に過ごしておいてくれ。好きなことしてくれたらいいし、俺も後でそっち行くから」

「え? あ、うん……わ、分かった」


 他に対策が浮かべば良かったのだがそう都合よく思いつくはずもなく。

 美穂に不便をかけるのも過程はどうあれ忍びなく思えてしまうので、曲がりなりにも蓮とて世話になるわけなのだから要らぬ苦労をさせたくはない。


 まだ彼女のことを信頼しきったわけではないが…少なからず、美穂がこういった物を悪用するような性格ではないということは理解している。

 であればこちらもそれなりの信用と誠意は見せるべきなのだろう。




「待たせたな鐘月。ほい、これだけど多分必要になるだろうから貸しておく」

「…うん? これ、なぁに?」


 先に美穂を部屋に向かわせてから別行動をしていた蓮は()()()()を回収に向かい、まだこの家に慣れていないからかキョロキョロと物珍しそうに辺りを見渡していた美穂に声を掛ける。

 そしてそれと同時に彼女に手渡した物……一本の()を何とも軽い調子で手渡されたがその詳細についてまでは考えが至っていないらしい。


 とはいえ彼としては教えないわけにもいかないので、至極あっさりと語らせてもらった。


「それ、この家の()()だから自由に使ってくれ。俺がいない時とかは鍵を開けてやれないこともあるだろうし、そういう時じゃなくても好きに入ってくれたらいいから」

「……え、うえぇっ!? う、受け取れないよこんな大切なもの!」

「どうしてだよ。別に俺は気にしないぞ」


 が、彼女の掌に乗せられた鍵の正体が蓮の自宅の合鍵だと伝えられ、なおかつそれを託されたことを理解した美穂は酷く慌てた様子となる。

 ワタワタとしながら鍵を落とさないように丁重に扱う様からは先日のような強引さは感じられず、むしろこちらを心配するような姿勢すら見られた。


「どうしてじゃないよ!? だってこれがあったら相坂くんがいない時にお家に入って悪いことだって出来ちゃうんだよ! そんな軽い感じで渡したら駄目でしょ!」

「なんだ、鐘月はうちに盗みにでも入るつもりだったのか? 初耳だが」

「いや絶対にしないけどね!? そうじゃなくてそういうリスクがあるっていう話なの!」

「俺だってそのくらいは考えてあるさ。でも鐘月ならそんな真似はしないって思ってるし、実際やらないだろ?」

「うっ……それはまぁ、やらないけど…」


 美穂がこれほどまでに動揺する素振りを見せていたのはひとえにポンと手渡された物の重要さをしっかりと把握していたことと、それを当たり前のように渡してきた蓮の態度があまりにも軽かったから。

 彼女の言う事も分かる。


 実際合鍵なんて身内以外の相手は渡すべきではないし、第三者の手に流れてしまえばどうなるかなど容易に想像がつく。

 少なくとも碌なことにならないのだけは確実だ。


 しかし蓮とてそのくらいは留意している。

 彼だって防犯意識が無いわけではないし、むしろその辺りの意識は周りよりも高いくらいだ。


 これでも長い間疑似的な一人暮らしを続けてきたのだから防犯面を疎かにすれば危うくなるのは蓮自身であり、それゆえにこういった信用するべきか否かの判断力は自然と磨かれていった。

 その判断に従えば、美穂が下手な真似をするような人間ではないことくらいはこの短い付き合いの中でも理解できる。


「こっちとしても玄関に一回一回向かうのは面倒くさいし、どうせ鐘月がこれからもここに来るならいつかは必要になるものなんだ。お前なら悪用しないって信じてるからな」

「むぅ……むうぅ…! わ、分かったよ! …じゃあこの鍵は大切に使わせてもらうね。で、でも絶対に失くしたり他の人に見せたりはしないから!」

「あぁ、その辺の管理は任せる。必要が無くなった時に返してくれたらいいし」

「全くもう……こういう事をサラッとやられると心臓に悪いよ。…相坂くんって案外大物だったりする?」

「俺は信用できるような相手を見極めてるだけだ。鐘月ならそこら辺は問題ないって判断しただけだよ」

「…し、信用…! え、えへへ……そっかぁ。相坂くんにとって私は信用できる相手なんだね」


 最終的に合鍵を受け取ってくれた美穂の態度に蓮も安堵しつつ、これで彼女がいつ何時やってきても問題は無くなった。

 この判断が間違っていたのかどうかはまだ断定も出来ないが…まぁ、問題もあるまい。


 もしこれで鍵を悪用されるようなことがあればそれは蓮の人を見る目が間違っていたからであって、それならもう仕方がない。

 それに彼もただ関係ない相手に鍵をばら撒いたわけではない。


 蓮なりに下手な真似はしないだろうと信用した美穂だからこそ、ここまでの物を渡したのだ。

 何故か彼の言葉に嬉しそうに頬を綻ばせている彼女の様子を目にしながらも、蓮はひとまず無事に必要事項を達成できたことに人知れず安堵するのであった。


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