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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第一章

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第二話 介入のやり方


(ふぅ……あれから結構経つけど、全く動く感じがしないんだよな。もういっそのこと帰るか…? でもなぁ…あのまま放っておくっていうのも…)


 蓮が何故だか膝を抱きかかえて涙をこぼしているクラスメイトを見つけてしまってからというものの、三十分ほどが経過したがこれといった変化は無し。

 既に手元にある缶コーヒーは中身も尽き、ただただもう片方の手にあるビニール袋の重みを実感するだけの無為な時間が過ぎるだけだったがこうなると流石の彼も飽き飽きしてくる。


 一応は同級生という接点があるので放置は忍びないという判断から公園の複数ある出入り口の傍に立ち、それとなくトラブルに巻き込まれやしないかと横目で時折見守る。

 ……客観的に考えれば完全にこちらが不審者のような出で立ちとなってしまっているが、ここまで通報されたような雰囲気はないので大丈夫だと思いたい。


 ともあれ、困った事に変わりないのは膠着してしまった現状だ。

 一向に帰る素振りを見せない美穂を見てはいたがいくら何でもこれ以上は待ち続けるのも限界が近い。


 そもそも彼らの間にはこんなことをする義理も縁もないのだから、いっそのこと何も知らなかったふりをして帰ったところで問題もないのでは…なんてことを考えてしまう。

 だが、そんな思考も再び悲しそうに顔を伏せるあちらの姿を見てしまうと言い表しようもない罪悪感が湧き出してくるのだから不思議だ。


「──…なあなあ、嬢ちゃんみたいな可愛い子がこんな夜遅くまで何やってるんだ? もしよかったら家まで送っていってやるよ!」

「……け、結構です。放っておいてください」


(ん…? って、おいおい! 鐘月のやつ、ナンパされてるじゃねぇか! …いやそうなりそうだとは思ってたけど、本当にそうなるやつがあるかよ!)


 ──しかしながら、そこまで考えたところで不意に公園の中から聞こえてきた聞き覚えの無い野太い声。


 何やら不穏な空気を感じ取った蓮が視線をそちらに移してみると、いつの間に近づいてきていたのかいかにもガラの悪そうな様相を呈した男一人が美穂に声を掛けてきていた。

 …確かに彼女ほどの容姿を持つ物がこんな夜間に出歩いたりなんてしていればこんなこともありそうだとは蓮も予想していたが、いざ実際にそうなると動揺を隠せない。


 向こうも流石に見知らぬ相手から話しかけられてしまえば泣いてばかりもいられないと思ったのか、震える声を無理やり抑え付けながら返事をしていた。

 それでも、そんな淡い抵抗が通じるのであれば最初からあの男も声掛けなんてしていないだろう。


「遠慮なんてしなくていーからさ! ほら! こう見えても俺って結構紳士的で有名なんだぜ?」

「は、放してください! 迷惑です!」


(…っ! あいつ…! 流石にもう見てるだけってわけにもいかないか…だけど俺が行ったところで止められる保証なんて──!)


 こういう時に限って嫌な予感というのはことごとく当たっていく。

 一瞥もせず申し出を断った美穂の容姿を確認したからか、男の視線は明らかに彼女の身体つきを狙った粘っこいものへと変化していた。


 そうしてそんな目になれば当然、こういう輩は簡単に諦めてくれない。


 言葉だけの抵抗も虚しく、自分の欲望を隠そうともしない態度で表面的なだけの薄っぺらい優しさを語る男に腕を掴まれ、美穂が赤くなった目元を痛みで歪ませていた。

 そしてその一部始終を見ていた蓮も何とかしなければと考えはするものの、現状を打破できるような手段がそうパッと思いつくわけもない。


 もはや万事休すかとも思い、諦めかけたその時。

 ……視界の端から近づいてきた一つの()()を彼が見た途端、蓮は迷わず助けを求めに行った。




「はっはっは、そこまで嫌がらなくてもいいだろ~? 悪いようにはしないからさ!」

「だ、だからやめてくださいって言ってます! しつこいですよ!」


 ──美穂にとって、今日はとにかくツイていない日であった。


 朝は心地の良い天気に身を包まれて学校に向かえたかと思えば、その後の展開は彼女自身にとっても予想外に過ぎることの連続。

 まさか家に帰宅し、そして両親も帰ってきてから()()()()()()()になるなど夢にも思っておらず…感情の赴くままに外へと出てきた結果がこれだ。


 美穂とて、馬鹿ではないし理解もしている。

 こんなところで自分一人が泣いていたところで事態が好転するはずなど無く、それどころか今に至ってはまともに会ったことすらない男に絡まれてしまっている。


 その原因たるものは…まぁ間違いなく、彼女の肉感的に過ぎるこの体型なのだろう。

 高校生にしては低い傾向にある身長に対し、引っ込むところは引っ込みながらも出るところはこれでもかと主張を激しくする彼女のスタイル。


 生まれてこの方、呆れるくらいに男の目に晒されてきたものだが何度経験してもこの粘ついた視線にだけは慣れそうもない。

 …それに今回に関しては、いつにも増して誘いが激しすぎる。


 今現在の彼女は男からその細い腕を強引に掴まれ、振りほどこうとするも筋力に差がありすぎてそれすらも叶わない。

 こんな放っておいてほしい時に限って面倒なことになるなど、もはや厄日か何かと疑いたくもなるが残念なことに全て現実。


 そして現実であるがために都合の良い救いの手などあるわけもないと彼女は知っているのだ。

 しかしこのままではマズいことも分かっている。

 こんな男の言う事を大人しく聞いたままではどんな目に遭わされるかなど容易に想像がつき、よからぬ展開になることは誰であろうと理解出来てしまう。


 けれど美穂一人では手の打ちようがないこともまた変わらぬことであって、一体どうしたら……そう頭に考えがよぎった瞬間。


「──すいません、こっちです! さっきから女子に絡んでる男がいるので、お巡りさんも来てください!」

「……えっ?」

「な…っ! け、警察だぁ!?」

「こらそこ! 一体何をやっているんだ! 女の子から手を放しなさい!」


 …あまりにも突然、周囲に響き渡るよく通った少年の声。


 夜間の静けさに似合わない焦った感情を滲ませながら登場したのは大して目立ちもしない見た目をした蓮であり、その傍には()()()の姿があった。

 そう、これこそがあの数秒で彼の見出した希望。

 何ともタイミングよく近所を巡回していた警官が彼の傍を通りがかったので、公園内で女子に無理やり迫っている男がいると伝えて同行してもらっていたのだ。


 その効果はまさに覿面と言う他ない。


「くそっ! お、俺は何もやってねぇよ! もう行くからな!」

「あ、待ちなさい! …すみません。そちらの方は大丈夫でしたか?」

「え? あ、は、はい……だ、大丈夫です」

「そうでしたか…今こちらの子から報告を受けたので向かって来たんですが、何もなかったなら良かったです」

「報告…? あ、相坂くん?」


(ん? 何だ、俺の名前も知ってたのか。普段話すことも無いから興味なんて持たれてもないかと思ってたし、ちょっと意外だな)


 いくら高圧的な態度を気取っていようとも、流石に警察官を相手にするのは分が悪いと悟ったのか男は悔し気な声を漏らしながら走り去ってしまう。

 結局場を掻き乱すだけ掻き乱して終わり方は呆気ないものであったが、それよりも今気にするべきは美穂の方だろう。


 一応警官の方から確認もあったので大丈夫だとは思っていたが目立って暴行を受けた様子もないので一安心といったところか。

 …しかしそうした会話の最中で、警察官から近くにいた蓮のことを伝えられると美穂は呆気に取られた様子で彼の名をぽつりと呟く。


 こちらとしては彼女も一部の男子からかなりの人気を誇る相手だったためにある程度の情報も得ていたが、向こうからすれば蓮の存在は目立たないクラスメイトの一人でしかない。

 なので当たり前のように名前なんて知られていないものだと考えていたがこの分だとそうでもないらしい。


 少なくとも存在を認知はされていたようだ。


「あー…えっと。ありがとうございました、警察官さん。ただあの男がどっか行っちゃったので、そっちの方は任せても良いですかね? こいつは一応俺の()()なので、家まで送り届けてきますから」

「ほう、そうだったんですね。分かりました。ではこちらの方は責任をもって対応させてもらいましょう」

「すみません、色々と面倒を掛けてしまって…」

「気にしないでください。彼女が無事であったならそれが一番ですから。それでは、お二人ともあまり帰りが遅くならないようにしてくださいね」

「はい。分かってます」


 ──しかしそうこうしている間にも着々と会話は進んでいき、ここまで同行してもらった警察官に蓮が感謝を伝えるともう大丈夫だからあの男の対処を頼みたいと伝える。


 既にどこかに行ってしまったので探すのは難しいかもしれないが、放置しておくと後々どこかで揉め事を起こしそうだったのでそこに関しては一任させてもらいたかったのだ。

 するとあちらは朗らかに笑いながら快く了承すると、彼らが学生であることを見抜いたのか帰る時間が遅くならないようにとだけ忠告を残して立ち去った。



 …そして結果として、残されたのは蓮と美穂の二人だけ。


(さて、ここからどうしたものかね)


 予想もしていなかった形で介入を果たしてしまったこの現場。

 トラブルの種を追っ払えたのは良いものの、その後のことに関しては完全なるノープランであったために思わず蓮も腕を組んで考え込んでしまいそうになる有様であった。


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