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第一八話 彼女、襲来


「それでよ、蓮。お前の方はどうなんだ? 少しは鐘月さんとの距離も縮まったか!」

「…またその話か。前にも言っただろ。あいつのトラブルに少し首突っ込んだから接点が出来たってだけで、妙なことは一つもないんだ」

「またまた! 俺の前で誤魔化しなんてしなくていいんだぞ?」

「誤魔化してないわ! …ったく」


 激動の最中にあった夜から一晩が経過し、時刻は再び朝。


 日が差し込み気温もグングンと増してくるこの頃になると、必然的に高校生という身分にある蓮は学校に登校しなければならない。

 しかし、それは別に構わないのだ。


 一般的な感覚とはズレているのかもしれないが彼は特に勉強を嫌っているようなことはなく、むしろ自分から実行する自習だったりは好きでもあったりする。

 その甲斐もあって日々の授業にもさして忌避感を覚えずに取り組むことが出来ているわけだ。


 だがそれはあくまで授業と勉学においての話であって、()()()()()()()に関してはまた事情が変わってくる。

 そう、例えば今まさに目の前でこちらの近況に茶々を入れてこようとする友人とのコミュニケーションであったりだ。


 現在進行形で腹の立つ顔をしながら、つい先日から全く興味が衰えていないらしい友の口からは美穂との関係性について探るような言葉ばかりが投げかけられてくる。

 …向こうがこんなことを語りかけてくるのは他でもない。


 昨日、美穂が蓮に対してひどく親し気なオーラを全開にしながら話しかけてきてしまったのでそこから波及して彼女との繋がりを疑われているのだ。

 具体的に言うと、恋愛的な関係性にあるのではないかと散々探りを入れられている。


 前にも言っていたが彼は蓮に恋人ができることを強く望んでおり、それゆえにくだらない談笑の中で時々彼女を作らないかと促されることもある。

 今までならそれも全ては叶わない願いだから諦めろと返すだけだったのだが…既に状況は変わってしまった。


 あの衆目の下で美穂から好意的な態度を取られたことで様々な憶測が京介の中で巡ってしまったらしく、そのつもりは無いと明言しているのに聞く耳を持たない。

 結局、あれから何度も同じような問答を繰り返しているのが彼らの現状だ。


 なお、当たり前であるが美穂が蓮の家を訪れるようになったこと云々については一切話していない。

 伝えたが最後、振り切れたテンションになった友人から余計なお世話のオンパレードを食らう羽目になるのは目に見えているのだから。


「というかお前は人のことよりも自分の彼女を気遣ってやれよ。俺に構いっぱなしだと向こうも不満なんじゃないのか?」

「あー…それは確かに。あとで存分に構ってやらないと後から文句言われるかもな」


 しかし、会話の流れがこのままではよくないと判断した蓮は少し強引にでも京介の意識をこの話題から向こうの彼女にすり替える。

 語る内容からも分かるように、京介には明確な恋人がいる上その彼女とも非常に仲睦まじいのだ。


 では、その仲睦まじさがどの程度のものなのかというと…所属するクラスが別なので常日頃から一緒にというわけにはいかないが、時間に余裕がある時なら大半は二人一組でいちゃついている姿が散見されるほどである。

 もはや校内でも指折りのカップルとして認識されるほどであって、友人として見かける機会も多い蓮からしても吐き気を催しかねないレベルでラブラブな恋人同士なのだ。


「あいつなら向こうの方から会いに来そうなものだが…それこそお前に不満ぶつけるために」

「…怖いことを言わないでくれ。普段は可愛いから良いけど、怒った時の彼女ほど恐ろしいものは無いんだぞ? まぁいつもはクールぶってても二人でいるときは盛大に甘えてくれるから、そういうところのギャップがまた最高に良いんだが──…」


「………京介? 何を話してる?」

「…………へっ?」


 そんな互いへの愛情が尽きないカップル。

 けれど聞いたところによると京介はともかくとして彼女の方は案外独占欲が強めだったりするらしい。


 なので昨日今日と続いて蓮に構い倒している京介であるが、この状態が続いた場合あちらの対応が激しいことになるのではないかという危惧が生まれる。

 状況次第では蓮もそれに巻き込まれかねないため、それは流石に御免だと思い注意を促したのだ。


 ただ京介もその言葉を一瞬恐れはしたものの、大して効果を発揮することは無くむしろ恋人への惚気にも近い暴露が始まってしまった。

 …こうなったら要する時間は長い。彼女の魅力を存分に語ってやろうと意気込む友の話は区切りがつくまで非常に長時間をかけるのだ。



 ──が、しかし。


 そう語ろうとしていた矢先。突如として響いてきた一見平坦な声色を思わせるクールな言葉。

 そして何より…彼らを見下ろす絶対零度の視線がその人物の正体を何よりも如実に表していた。


「こ、琴葉(ことは)!? ど、どうしてここに…!?」

「…そんなことはどうでもいい。それより京介。今、何を話そうとしてた? …まさか、余計なことを話そうとしていた?」

「そ、それはだな……! え、えぇと何ていうか…」


 ──突然この場に姿を現した一人の少女の名は、天宮(あまみや)琴葉(ことは)


 腰まで伸ばされたストレートロングな黒髪と全体的にスレンダーな体型を併せ持ち、またその顔立ちもかなり端正なものを持っている。

 蓮もよく知る美穂とは異なって可愛いというよりも美人と表現した方が適切な美少女であり、人目を集めるだろうことは容易に想像できる。


 しかしその容姿に反して彼女の全身から漂うオーラはかなりクールなもので、表情もまたほとんど動くことは無い。

 少なくとも蓮は彼女の感情が大きく動くところをほぼ目にしたことが無いため、時折京介から聞く彼女の甘え方とやらは誇張が入っているのではないかと疑ってもいる。


 とまぁそのように語ってきたわけだがお察しの通りこの彼女。琴葉こそが今も尚動揺しまくりの京介が交際している恋人その者である。

 あとは強いて言えば蓮の友人にもカテゴライズはされるが…別に彼女とは二人きりで話すことがあるわけでも無いので親密かと問われると微妙なところ。


 ……それに今は、現在進行形で彼女の瞳から降り注がれる()()()()()が発露している真っ最中なので全く落ち着けもしない。

 多分原因については…先ほど京介が大声で語っていた会話だろう。


「……相坂君も、久しぶり。いきなりだけど…さっき京介から、何か聞いたりした?」

「……いいや、俺は何も聞いてないな。うん。二人が普段どんな感じでいちゃついてるのかとか、そんなことは全く耳にもしてないぞ」

「…そう。ねぇ、京介? 私言ったよね?」

「……は、はい」


 もうこの段階で割と察せてしまったが、未だ冷たい視線を変えようともしない琴葉から問いかけられたので蓮も正直に答える。

 …その答え方も少し間違えたかもしれないと、返答した後で若干考えたが被害を受けるのは別に蓮でもないので構わないかと意識を切り替えておいた。


「二人でいる時の話は、恥ずかしいからしないでって…私言ったよね? …京介は、約束を破る悪い子になっちゃった?」

「あ、あのぉ~……ど、どうにか見逃していただくことは出来ませんか?」

「……駄目、お仕置きする。相坂君。ちょっと席を外すけど…いい?」

「れ、蓮! 俺たち親友だよな! し、信じてるぞ!」

「………そうだな」


 とどのつまり、琴葉がここまで怒りを表に出しているのは先ほど京介が漏らしていた会話内容。

 パッと見ただけではクールに見える琴葉が実は、裏では……という暴露をされかけたことに羞恥心と激怒を覚えている、ということらしい。


 …要は、京介の完全なる自業自得だという話だ。

 誰しも普段表に見せている姿とは違う側面の自分をバラされたりすれば大なり小なり怒りもするだろう。今回のことはまさしくそれである。


 口ぶりからしてそのお仕置きとやらも実行することは決定事項らしく、首元をガシッと掴んだかと思えばそのままズルズルと京介は引きずられていく。

 構図としてはまさに罪を犯した囚人とそれを罰する刑務官にしか見えない。


 しかし彼もこのままでは己がどんな末路を辿るのかといった点に関しては流石に悟ったようで、最後の希望と言わんばかりに蓮へと助けを求めてくる。

 それでも蓮が友の救援要請に素直に応じるかと問われたら、また別の話。


「こっちのことは気にしなくていいから、存分に二人の時間を満喫してきてくれ。是非ともそうしてくれると助かる」

「…ありがとう。じゃあ京介、行こっか…?」

「ちょっ!? 蓮、助けてくれよ!?」


 見殺しにするような形になって友には申し訳なく思うが、ここでどんな口出しをしたところで彼の方にも火の粉が飛んでくるだけだと判断した。

 だったら余計な被害が来てしまう前にあちらに加担しておいた方が遥かにマシだという、合理的な選択による行動である。


 そうして自分の意見を伝えたことで、相変わらず声色は淡々としたものでありながらもその奥底から感じ取れる激情だけは末恐ろしいものを滲ませる琴葉の手によって京介は連行されていった。


 彼らの顛末に関しては…蓮の知ったところではない。


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