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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第一〇六話 大切にしたいと思った者


 蓮自身、これを彼女に頼むのはどうなのかと自覚しているところもある。


 しかしそれらの自分が置かれている状況を踏まえた上でも、こうすべきだという考えが彼の中にあったからこそ蓮は…はっきりとそう告げた。

 即ち、以前に美穂の方から彼へと告げられていた彼女の胸の内。


 蓮のことを単なる隣人でも友人でも仲の良いクラスメイト止まりでもなく、きちんと異性として好意を抱いていると伝えてくれたあの時の返事を……あと少しだけ待っていてほしいなんて言葉を口にしたのだ。

 分かっている。これが到底許されるような選択肢でないことは。


 だがそれでも、蓮とて彼なりの理由を持ち合わせていたからこそこのような美穂の立場からすれば失礼極まりない対応をしようという決断にまで至っている。


「…いきなりこんな事言って頭がおかしくなったと思われるかもしれないけど、今美穂に伝えたことに嘘偽りはない。そこはちゃんと伝えられてるか?」

「うん、大丈夫…そこはもう疑ってないよ。でもそれなら尚更、蓮くんが待って欲しいっていうのは…?」

「あぁ、良かった。で、肝心のそこなんだがな。……どこまでも自分勝手な我儘でしかないけども、改めて思い返してみるとな──俺はずっと、美穂には助けてもらいっぱなしだってことに気が付いたんだよ」

「……?」


 彼がぽつぽつと語っていくのはこんな結論に至った経緯。

 あちらからすれば脈絡もなく突然宣言されただけなため、少しでもこちらの考えを理解してもらうためにも避けては通れない説明をしていく中で明かしていったのは蓮がこれまでに歩いてきた道のりの軌跡だった。


 そして、そこでふと思い当たったのは──最初から最後まで、隣に立ち続けてくれていた少女に自分が支えられていたという明白な事実。


「本当に今更なことかもしれない。それでも考えれば考えるほどに、俺は最初っから…美穂に助けてもらってばかりだ。その分の恩も、まるっきり返せてないのにな」

「そんなことないよ!! 蓮くんだけが助けられてるなんてことは絶対ない! むしろ、私の方が支えられてるくらいで──…!」

「…ありがとう。そう言ってもらえるのは素直に嬉しいよ。だけど俺自身の考えとして、どうしてもこういう認識があることも事実なんだ」

「……!」


 だからそこで漏らした本心もまた、少なくとも彼にとっては誤魔化しようもない確かな現実として佇んでいた。

 ありがたいことに美穂は蓮一人だけが支えられていたなどという事は一切ないと、強く断言してくれたものの…こればかりは彼女の言葉でも無かったことにするわけにはいかない。


 別に卑屈になったわけでは無い。無意味に自分を卑下しようとしたわけでもない。

 ただ現時点での状況を客観的に捉えた場合、彼の立場がそのように見られてしまう事は少なからずあるという話。

 そのためにも、蓮は少々重くなってしまった場の雰囲気を入れ替えることも兼ねて先ほどの発言の意図を明かす。


「美穂が好きだって気持ちに嘘はない。でも今のままだと、俺が美穂に寄りかかってるだけで…一方的に頼りっきりな状況になっちゃってるんだ。…それは、良くないと思う」

「……うん」

「これは俺一人の我儘で、身勝手な言い分だ。それでも俺は──出来ることなら、美穂と対等な位置に立ってからあの時の返事をしたいと思ってる」

「…………」


 ──ここに至るまで、美穂が蓮にしてくれた手助けは数えきれないほどにある。


 日々の生活から始まり、何気ない時間のサポート。

 更にはそれだけに留まらず、彼の過去に起因した騒動の一部始終まで何の関係もない彼女を巻き込んだ上で助けてもらっていた。


 ではそんな彼女の行動に対して、蓮が何か返せたことはあるのだろうか?


 …彼の答えは、否だ。

 自分はあれほど献身的に尽くしてくれていた美穂へ膨らみ切った恩義を積み重ね続けただけであり、ずっとこちらの事情で振り回してしまっていた。


 確かに好意の感情は明白なものとなったかもしれない。

 現時点からでも、関係を先に進めることは可能かもしれない。

 しかしそれをしてしまえば本来蓮が抱えるはずだった負担のみを美穂に押し付け、反対に彼は彼女の負担を一つとして背負わないまま歩いていくという不健全な関係値が組み上がってしまう。


 ……そんなのは、あまりにも卑怯でしかないだろう。


「本当にごめん。だけど、もし頼めるなら──ちゃんと俺が美穂の事も支えられると言えるようになってから、返事をさせてほしいんだ。……ずっと勝手なことばかりで、ごめん」

「…………」


 ゆえに蓮はこう言う。

 美穂の想いに対する返事をするのは、こちら側だけが寄りかかるのではなくきちんと自分も彼女の事を助けてやれるという自信を持ってからにしてほしい、と。


 とてつもなく勝手な我儘であることは百も承知。

 場合によっては、こう告げただけで愛想をつかされてしまいかねない可能性も彼とて理解はしていた。


 けれどもそれらのリスクを抱えても尚、この過程を決して無視はしたくないと思ってしまった。

 そこに対する返答は、怒りの罵声か。呆れた失望か。

 実際には一分も経過していない短い時間だっただろうが、その僅かな時が酷く長く感じられた蓮の意識へと投げかけられた言葉は……心底呆れたような声色で。


 しかしながら、その次に紡がれた言葉の数々は──奥に潜む彼女の()()の色を静かに反映させたようなものであった。


「──…全くもう、蓮くんってば。ちょっと真面目過ぎじゃないかな?」

「…ッ、否定のしようもない……というか、不誠実なことは分かってる。もちろん美穂が受け入れたくないって言うなら、その時は俺も──…むぐっ?」

「はい、蓮くん一旦ストップ! とりあえず、私の目を見て?」


 まさしくやれやれと言わんばかりの態度を露わにしながら、苦笑いをしつつ声を出してきた彼女。

 その言い方に、やはりこんな理屈では駄目だったかと蓮も一瞬諦めの心境を表に出しかけるも…それは不要な思考だ。


 何故なら、次の瞬間に意識せず視線を傍の地面に落とそうとしていた彼の頬をいきなり両手で掴んできたかと思えば、強制的に声を張り上げた美穂によって彼女と視線を無理やり合わせられたからだ。


「蓮くんにも色々言いたいことがあるんだろうけど、一つだけ確認させてほしいの。蓮くんは、私の事が女の子として好き──そういうことで合ってるよね?」

「お、おぉ……そうだよ」

「はい、よろしい。つまり、私たちはお互いにお互いの事が好きだってことが判明したわけだけど…その前に、今の状態だと蓮くんは私に助けてもらいっぱなしだからお返事はまだ出来ない、だよね?」

「……はい」

「うん、オッケー。…………まぁ、私的にはそこにたっっくさん言いたいことが山のようにあるんですが。そこは今は置いておくとして」


 すると次に実行されてきたのは、美穂による一連のやり取りの再確認。

 そこで改めて問われたのはこれまでの会話で最も重要だと思われるポイントを的確に抜き出した質問で、一度そう言われることで彼の方も少し思考に冷静さが戻ってきた気がする。


 …最後のボソッとした美穂の呟きの中には、心なしか背筋が凍り付きそうな恐ろしい迫力が混ぜ込まれてきたような気もするがその点はスルーさせてもらおう。


 ともあれこう尋ねてきた美穂は蓮の言葉を一言一句聞き逃さぬよう真剣な面持ちで頷き、何度か脳内で反芻するかの如く首を縦に振っていた。

 そうすれば続けて彼女は言葉を重ねてくる。

 同時に吐き出された、何とも深すぎる()()()もセットで。


「……はぁ~………あのね、一個言わせてもらってもいい?」

「な、何でしょうか」

「…蓮くん、重く受け止めすぎ! そんなに大きく考えられてたって私知らなかったよ!? 真面目にも程があるでしょ、もうっ!!」

「え?」


 …そこで投げかけられてきたのは、彼も予想だにしていなかった声量のオンパレード。

 またぶつけられた内容もてっきり諭されでもするのかと思っていれば、全くそんなことはなく。


 むしろ正反対に全力の声色で、蓮が悩み続けていた思考回路に対し驚きを隠せない美穂自身の叫びが夜の空気に乗って運ばれていった。


「いいですか! まず、私を好きって言うならもう少しそれらしい雰囲気を出して! あまりにもいきなり言うから驚きすぎて頭がショートするかと思ったよ! ていうか真っ白になっちゃったでしょうが!」

「いや、それは別に言い淀むところでもないし…」

「黙らっしゃい! …あと、私に助けた貰ったとか頼り切りだとか気にしすぎなの! 私がそのことを負担に思わない人間だって、蓮くんが一番よく知ってるはずでしょ!!」

「そりゃそうだけども……流石にそれを当たり前と思うのは人として駄目だろ」


 すると次々と放たれてきたのは、おそらく美穂がこれまで言いたかったのだろうが場の雰囲気もあって口に出来ずにいた文句の数々。

 もはやその勢いは彼女自身にさえ止められるものではなく、心なしか顔を赤くしながらこちらを注意してきた。


 …ただし、聞いただけで分かるのはその全てが彼のことを心の底から想うが故の言動であるということ。

 一見厳しく感じられる指摘も、根底にあるのは蓮を大切に思いやる愛情なのだと理解しているからこそ傷つけられるような事は皆無だった。


「むうぅ……むうぅぅぅ…! …もちろんね、蓮くんがそんなに真剣に考えてくれたんだっていうことは嬉しいと思ってるよ。ただ、その悩み方が真剣すぎるの! もう少し塩梅を調整して!」

「んな理不尽な…」

「はぁ……ふぅ…! ひとまず、私の言いたいことはこれで全部だから……で、あとは──蓮くんが言ってたお願いへのお返事だね」

「……っ」


 が、その一方で内心に昂る不満が消えたわけでは無いらしく。

 何とか美穂の中で決着がつけられたようでパンパンに膨らんでいた頬こそ空気が抜けていったものの、表情は相変わらずジト目のままだ。


 …さりとて、その後において。

 気のせいか周辺の雰囲気すらも一時的に集中力が欠けてしまいそうになる勢いを伴っていた美穂の熱はひとまず収まりを見せ、話題は再び核心部分へ迫る部分に。


 彼女の態度が信じられない程あっけらかんとしたものだったため、思わず流してしまいそうにもなるが…要するに、美穂が言う返事とは先ほど蓮が口にした頼み事への答えだ。

 美穂の想いに対する答えを出すのはあと少しだけ待って欲しいという、彼の身勝手な要望への返答。


 少しでも早く聞いておきたいと思う傍ら、その内容を知ってしまうのが怖いだなんて矛盾した心境が同時に発生してしまいそうになる。

 しかし自分から言い出した話である以上、何も聞かずにおわらせるなど到底許されることではない。

 ゆえにどんな結果が彼女からもたらされようとも蓮はそれを大人しく受け止めようと改めて覚悟を固め直し……静かにその時を待つ。


 だが、ある意味では気になって仕方がないと思っていた複雑な心持ちの最中に向けられてきた言葉は、想定していた展開など優に上回るものですらある。


「──うん、いいよ。そのお願い、受け入れてあげる」

「……っ、ほ、本当にいいのか?」

「何で蓮くんが聞き返すのさ…こんな時に嘘なんて言わないよ。今一回言った事だけど、お返事をしてくれる時まで待ってあげるよ」


 とある瞬間を境に返されてきた答えは、まさかの了承の意を示すもの。

 美穂が彼の失礼極まりない懇願に対し受け入れる姿勢を見せてくれるという、僅かな可能性としてあり得るかと思いながらも実際には受け止めてもらうのは難しいだろうと思っていた道筋。


 けれども彼女はそんな蓮の予想を裏切り、非常にあっさりとした声色で彼の返事を待つと言ってくれていた。

 ただそれもよくよく問うてみると彼女とて、何の理由もなしに蓮の申し出を聞き入れたわけでは無いようで。


「……でも先に言っておくと、私も別に考え無しにこんな事言ってるわけでは無いからね? ちゃんと理由はあるので! そこは忘れないように!」

「…なるほど?」

「まずそもそもこっちとしては、こう言っちゃうとアレかもしれないけど……蓮くんがもう少し時間を使ったとしても使わなかったとしてもあまり変わらないの。だからどっちにせよ同じっていうのが大きいかな」

「ん…?」


 ビシッと指を指しながら説明されてきた彼女の理由とやらであるが、曰く美穂としてはそう宣言されてもされずとも結果は大して変わらないと言う。

 …何となく分かるような、分からないような。

 要点が抜けてしまっているので今の発言だけでは全容を掴むに足りていないものの、言い分はこれで終わりではないらしくつらつらと語られていく。


「だって思い出してみてよ。私、今から以前に蓮くんに好きって伝えてからもう一か月近く待ってるんだよ? そこからあと少しかかるとしても、大差は無いと思わない?」

「……いや、それは違うんじゃないかな。多分」

「そう? まぁ~蓮くんはそう言うよねぇ。…だけどね、どちらかというと私は()()()気持ちの方が強いくらいだったもん」

「嬉しい……とは?」


 美穂があっけらかんと語る説明は捉え方次第では理解も出来るようで、また別の受け止め方によっては少々ズレているとも思える。

 確かに蓮は今の時点で約一か月の期間、美穂から想いを伝えられてから明確な返事をせずに時間を過ごしてしまっていた。


 であればそこから更に返答が延びてしまうと言われても、元々いつ返されるかも分からなかった答えが来ることには変わらない、と。

 ……一見理屈が通っているようにも聞こえてしまうので納得しかけそうになるも、とはいえこの言い分を相手側の美穂が口にするならともかく提案者である蓮が言うのは違うだろうと彼も自分に言い聞かせた。


 何はともあれひとまずは美穂の言う事を一通り聞き届けることとして、大人しく耳を傾けることに。


 ──するとそこで向けられてきた彼女の感情の全てと柔らかく浮かべられた微笑は、今の蓮をもってしても見惚れてしまいそうなほど可憐な佇まいだった。


「そっ。だってねぇ…今までは蓮くんも私を好きか嫌いかハッキリしてくれなかったけど、()()()()は違うってことでしょ? 今日ちゃんと私を好きって伝えてくれたし、それなら言ってくれるお返事の方も内容はほとんど決まってるようなものじゃない?」

「…っ、それは……確かに、そうだよ」

「うんうん! …だったらね、私も文句はないよ。元々結果が分かってなかった状態から、一番良いお返事を蓮くんがいつかくれるって約束してくれたんだから──ふふっ、今は純粋に嬉しいんだ!」


 …実際、美穂の言う事は一つも間違っていない。


 今日の出来事を経て蓮の心境にも様々な変化が生まれ、彼女への想いを自覚した。

 しかしそこで関係性を先に進めるためには彼自身の頼りがいのなさが問題であり、あと少しでも対等な立場にならなければ自信を持って返事をすることは出来ないと思ってしまった。


 ただ、それは逆に言えば返事をするだけの一歩を踏み出せないということであって…美穂に渡す返答の内容自体は、既に決まり切ったものでしかない。

 つまるところ、その箇所を聞くことが出来ただけでも彼女としては大満足だと。こう言ってくれたのだ。

 更にそこで浮かべられた満面の笑みさえも目の当たりにしてしまえばもうこちらから何かを言う事すら不可能である。


 それほどまでに今の美穂は全身から喜びのオーラを溢れさせていて、彼の卑屈な言葉さえも無理やり引っ込めてしまうから。


「…でももちろん! だからと言ってただ待つだけなのは釈然としないから、一個条件は付けさせてもらうよ! そのくらいは良いよね!」

「当然だ。散々こっちの我儘を聞いてもらってるんだし、拒否はしないよ。で、条件ってのは?」

「んんっ、それはね──…」


 そしてそんな折、突如としてここまでの笑顔を振りまいていた表情を切り替えて凛とした立ち振る舞いになった彼女が告げてきた事。

 まとめると蓮の要求は呑むので、その代わりに自分も一つ要望を出させてもらうと伝えてきた彼女の発言に対し特段拒否の姿勢も見せず彼も小さく頷いて受け入れる態度となる。


 ここまで美穂にはこちらの事情を一方的に押し付けてしまっていたのだ。

 ならばせめて一つくらいはあちらの我儘も聞いておかなければフェアではないのは道理。


 よって彼もどんな内容だろうとここだけはしっかりと受け止めようと決め、彼女の条件とやらの中身を聞きに行く。



 そうすると、明かされてきたのは何とも彼女らしく──どこまでもいじらしい内容で。

 蓮にとっても拒否する理由など一つとしてない、美穂らしい可愛らしさに溢れたものでしかない。


「──…これからはちゃんとしっかり、私の事を一番に見てくれること! 好きって言ってくれたんだから、他の女の子ばかり見てたら許さないよ! そこは約束して!」

「…………く、ぷふっ」

「むっ…蓮くん、何笑ってるのさ。今変なことなんて言ってないよ?」

「あぁいや、ごめんな。笑うつもりは無かったんだが……その、何というか。あまりにも美穂が可愛いことを言ってきたからさ」

「…可愛い!? …そ、そんなこと言っても誤魔化されないからね!! とにかく約束して! 私以外の子と仲良くしすぎないでっ!」


 内心、どんなことを要求されるのかと恐れもしていれば…告げられるのは何てこともない。

 ただただここからは他の相手などではなく、彼女自身のことを最優先に見ること、なんて。


 蓮からすれば、言われるまでもなくそうしようと決めていた事項だっただけにその点を美穂から指摘されたことに面食らい、思わず笑い声を零してしまう。

 だがその反応が自分の言葉を軽く捉えられたと解釈されてしまったのか、若干ムキになって詰め寄ってくる美穂には……改めて真っすぐに瞳を見据え、きちんと宣言しておく。


「分かった、約束するよ。俺もああ言った以上は美穂を一番に見るし、他の相手も邪険とまではいかないけど…内側に入れることは無いって明言しておく」

「……ふぅむ、嘘は無さそうだね。うん、よろしい! ならこれでこの話は一旦おしまいだね」

「そうだな。美穂もありがとう」


 真摯に向き合い、出した結論は決して最適解と呼べるような代物では無かったはずだ。

 だとしても美穂はその答えを杜撰に扱うことなく、むしろ彼の意思を最大限尊重して受け入れる優しさまで見せてくれた。


 …この恩に報いるためにも、ここから先は蓮自身も更に努力を重ねていかなければならない。


「さて、それならここからは…どうしよっか。花火ももう少しで終わりみたいだし、ここも混み合いそうだから少し早いけど帰っちゃう?」

「…そうしておこうか。色々あったし、身体も休めておきたいし。あと、これ以上美穂に負担掛けさせるのはアレだからな」

「ふふ、相変わらずこっちまで気遣ってくれるんだ? ならオッケーだよ。一緒に帰ろっ!」

「了解……っと! …急に腕を取ると危ないぞ。どうした?」

「んへへぇ…せっかくの機会だし、帰るまでこのままで行かない? 蓮くんも好きな女の子に抱き着かれるなんて、幸せでしょ?」

「……そりゃ嬉しいに決まってるけども。分かった分かった。だけどもう少しだけ力を緩めてくれ」

「はーい!」


 だが……少なくとも、今この瞬間だけは。

 曲がりなりにも彼女へ想いを吐露し、更なる一歩を進むと決意したこの時ばかりは。


 花火に彩られた空の下で、好意を抱く少女に腕を取られながら帰路を辿っていく蓮の胸中に満たされていた安心感に浸るのも少しくらいは許されるだろうと、そう思った。


「あっ、そうそう。ねぇ蓮くん、さっき私お返事貰えるまで待つって言ったよね」

「ん、言ってくれたな。それがどうかしたのか?」

「それなんだけど…もちろん焦らせたいわけでは無いよ? ただ、その上で──私の方も、蓮くんにもっともっと好きって思ってもらえるように頑張るつもりだから…ね。…んふふっ、覚悟しておいた方がいいよ?」

「……ッ! …頼むから程々にしてくれ。俺の理性が持つ範囲内でな…」

「ふっふっふ~、考えておいてあげるよ!」


 道すがら、ふとした瞬間に耳元で魅惑的な色を滲ませながら囁く彼女の吐息を傍に感じつつも。

 静かに深まっていく夜の中で、より強まっていくと明言されたに等しい美穂の誘惑を受けることが気が付いた時には確かな現実となりつつ。


 彼らの夏は、その賑やかさを衰えさせることなくひとまずの幕を下ろしていくこととなる。


これにて第二章、完です!


二人の夏休みにて巻き起こった日常の数々でしたが、ようやくこれで一段落……そして、互いの想いを再認識した美穂と蓮のお話は次なる第三章にて続いていきます!


どうぞそちらもお楽しみにしてくださいませ!

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