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傷心中のクラスメイトは何故だか我が家に入り浸る  作者: 進道 拓真
第二章

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第一〇四話 夜の闇に溶け行く中で


「びっ…くりしたぁ! 急に花火が上がってきたから…」

「心臓に悪かったな、今のは…にしても花火なんてどこでやって──あっ」


 何の予告も前触れもなく、突如として巨大な音を響かせながら炸裂していった一発の花火。

 しかしそれだけでは終わらず、むしろ今のが始まりの合図だったと宣言するかの如く次々と二発目、三発目の色鮮やかな花火は目の前の空に打ちあがっていく。


 が、それはあまりにも突然だったために完璧に意表を突かれる形となり、蓮だけでなく美穂までも驚きの声を上げる始末。

 いきなり花火が開始されるなど話題にも出ていなかったはずであるのに、一体どういうことなのかと疑問が浮かび上がりかけて……ふと蓮の脳裏に一つ、ある記憶が蘇ってきた。


「そういえば今さっき思い出したけどさ、どこかのタイミングで美穂…この近くで()()がやってるとか言ってなかったか?」

「え? ………あ! 言ってた言ってた! もしかして、それで花火がってことなの!?」

「多分、というかそうとしか考えられないだろうな。…流石に急すぎて不意を突かれたけども」

「私も驚かされちゃったよ…それならもう少しくらい予告してくれてもいいのにね?」


 そう、彼らは道中の出来事のインパクトゆえにうっかり失念してしまっていたが数時間前の会話を振り返っていくと原因は簡単に判明する。

 確か蓮の記憶が確かであれば、今日この施設に赴いてきた際に途中で多くの浴衣を身に纏った者達が歩いていく姿を散見していた。


 それに伴って美穂からこの近辺で()()()が開催されるらしいとの情報も得ており、おそらくは目の前の花火もそこに伴って予定されていたイベントの一つなのだろう。

 …よくよく見ていけば彼らの周りには花火を一目見るために集まってきていると思われる人混みが形成されつつあるため、この近くでは周知の催しだったのかもしれない。


 何も知らずに出歩き、勝手に驚愕のリアクションを披露していた蓮と美穂の方がむしろ少数派の人間だったわけだ。


「そっかそっかぁ…でもまぁ、そういうことならせっかくだし楽しんじゃわない? あの辺りは人が多いし、私の身長じゃ見えないだろうから…この近くで少し花火も見て行こうよ!」

「いいぞ。特に焦って帰る必要もないし、ゆっくり見て行こうか。…くれぐれも夢中になりすぎて人にぶつからないようにな?」

「もうっ、そのくらい私も分かってるもん! ほらほら! 花火見よっ!」

「どうだかなぁ…」


 が、それならそれでも特段構わないわけで。

 唐突に花火が打ち上げられてきたことに対しては確かに驚いてしまったものの、こうなったら良い機会でもあるため少しの間眺めて行こうと彼女から提案される。


 せっかくの夏らしい催しが目の前で繰り広げられているのだから思い出作りの一環としても、単純に綺麗な物を見ていたいと思う心情的にも彼女がそう言いだす気持ちはよく分かる。

 その程度のことであれば彼も断る理由は持ち合わせていないため、拒否することもなく人混みから少し離れた位置で静かに爆ぜては消えていく美しさを目に焼き付けていた。


「わぁ…! すごいすごい! 蓮くん、今の花火見てた!?」

「見てた見てた。…いくら何でも興奮しすぎじゃないか? はしゃぎすぎると怪我するぞ」

「そんなことないよ! こんなに綺麗な物が目の前にあるんだから…集中して見ないと損なくらいでしょ!」

「言わんとしてることは理解できるけどな。ほれ、焦らなくとも花火は逃げないから少し落ち着いてくれ」

「はぁ~い……だけど、やっぱり綺麗だよねぇ…」


 すると眼前の景色に広がる美しさに意識を奪われたのか、少しの間大人しく眺めていたはずの美穂は興奮したようにはしゃいだ様子を見せる。

 おそらく、というかほぼ確実にこの絶え間なく打ち上げられ続けている花火の豪奢さに魅入られたのだろうが…だとしても少々落ち着いてほしいところだ。


 もちろんそれを悪いことだとは言わないし、多少はしゃぐくらいならつべこべも言わない。

 しかし別に騒ぎ立てたところで花火が逃げるわけでもないのだから、体力を使い果たしてしまうような流れを巻き起こさぬためにもゆっくり見れば良いと彼女に進言する。


 そうすれば美穂にも意図は伝えることが出来たのか、少しだけ不服そうな表情を見せるもすぐに納得してくれたようで静かに頭上をジッと見上げていた。



 ──そんな彼女の姿は、まるで今現在も続く光景の美しさを一瞬たりとも見逃さないようにするかのようで。

 彼女の瞳に反射して映し出される美麗な光景を、少しでも多く記憶に焼き付けようとする様相。

 更に口から意識せずこぼれ出たのだろう、「綺麗」と感想を零す様。


 いつまでも、どんな場所だろうと蓮の隣にいてくれた少女が見せる普段と変わらない態度でありながら……その実、繰り広げられている花火イベントなんかよりも余程彼女の方がその感想は似合う物だろうと蓮は直感していた。

 内心で浮かべたこの思考を外に漏らすようなミスこそ犯さずとも、間違いなく彼はそう確信している。


 それほどまでに蓮の意識は隣にいる美穂へ奪われてしまっていて……彼女に対して、蓮はとっくのとうに───…でいるのだから。


 …いいや、もうここまで来てしまえば隠す意味など無いか。


「……あっ、今の花火とか特に可愛かったよ! また同じの打ち上げれくれないかな~。ね、蓮くんもそう思わない?」

「そう…だな。そうだといいな」

「…? 蓮くん、何だか反応が薄いね。それにジッとこっちばかり見てるけど……はっ!? もしかして、私に見惚れちゃったとか!? …って、そんなわけないかぁ。蓮くんは素直じゃないから──…」

「いや……それで合ってるよ。正直言うと、少しばかり美穂に意識を奪われてたんだ」

「────ぴゃいっ!? れ、れれれ蓮くん!? 急に何を…っ!?」


 何気ない会話の途中。

 パッと花開いた猫にも似た形状を思わせる花火が打ち上げられた瞬間、それまでも一つ一つに感動するようなリアクションを見せていた美穂だったがこれにはより一層大きな反応を見せる。


 そしてその感動を蓮にも分かち合おうとしてくれたのか、大きく瞳を輝かせながら湧き上がる情緒のままに言葉を投げかけていて…そこで、蓮の()()に気が付いたらしい。

 異変といっても大それたものではないが、実際彼は先ほどから頭上の花火に集中せず隣の美穂の方向にばかり視線を移していた。


 きっと彼女が違和感を抱いたのもその点であって、事実その指摘は正しいもの。

 ただ美穂が一つ誤ってしまった点があるとするのなら、彼女は蓮のそのような行動を自分に見惚れていたのではないかと冗談交じりに指摘したことであり……そこまで全部含めて、嘘偽りない真実だったことだ。


 そう、要するに美穂は蓮を動揺させようとしてあのようなことを発言してきたのだろうが…揺さぶられたのはむしろ彼女の方。

 このイベントが始まってから、最初から最後まで()()()()()()()()()などと明かしてきた彼の言葉によって一気に頬を赤らめ、視線をあちこちに彷徨わせる。


 しかしこれは嘘でも冗談でもその場しのぎの誤魔化しでもない。

 全部が全部、純然たる事実であって偽る必要すらない本音でしかない。


 だからこそ今述べた素直な感想も……この後に呆気なく伝えられた彼の()()も、一切の虚偽など存在しない単なる本心だった。


「なぁ美穂、こんな時に言うのもなんだけどさ…一つだけ、いいか?」

「はいっ!? …な、何かな? まだ心臓の鼓動が収まってないから出来ることならもう少しだけ時間が欲しいかもだけど…」

「悪い。でも今じゃないと、いつまでもズルズル引き延ばしかねないからさ。出来るだけ早くこれは言っておきたいんだ」

「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ。なぁに…?」


 もはや隠す意味はない。


 胸中に蓄積していた想いを自覚してしまった以上は隠し通すだけ無意味であって、そもそも彼にそんなことをするつもりは皆無だ。

 何しろ美穂には、彼女の想いを明かされてから散々待たせてしまった月日がある。


 …今までは自分の感情に確信が持てていなかったから、一歩を進むだけの勇気も出せていなかった。

 されどこの時、今となっては過去の出来事を払拭することが出来た達成感とも相まってようやく認識した物もある。


 ならばこれ以上は美穂にも……曖昧な返事のままで待たせる理由も無くなった。

 ゆえに彼はこの時、今日の一件を経たことで自覚した思いの丈の熱量はそのままに…吐露した。



「俺さ、美穂の事───好きだよ」

「………え?」


 ──彼らの上空で、一際大きな花火が爆ぜた直後。


 耳の奥まで届きそうな爆発音が静かな夜の闇に溶けていった後に、蓮から美穂へと伝えらえたのは……紛れもない、たった一つの()()だ。


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