第2章 ゼロ階層への招待
その夜。譲は妹の病室で仮眠を取り、深夜一時にログインした。
廃墟ステージ《メネフタス洞窟》。黒曜石の壁面に、不気味な紋章が浮かび上がっている。
(鍵をここで使えってことか?)
譲がタグをかざすと、視界が白く爆ぜた。
次の瞬間、システムUIが赤く染まる。
《警告:あなたは第零階層へ遷移します》
《当層ではHPゼロ=ニューロン破壊信号が送信されます》
《ログアウト機能は制限されます》
鼓動が高速で跳ねた。冗談じゃない、とログアウトコマンドを連打する。しかしウィンドウは無情にも「ERROR 404」。
視界に揺らぐ深紫色の虚空。その中心から、か細い少女の声が漏れた。
「……きこえますか。あなたが、最後の“鍵保持者”……?」
そこには真っ白なローブをまとった少女が立っていた。瞳は琥珀色、髪は淡い藤色――NPCではあり得ない、複雑な感情が宿る眼差し。
「私は……ルチア。あなたを、待っていました」
譲は剣を構える暇すらなく、言葉を失った。
そして遠くで轟く鐘の音。同時に、現実世界の心電図アラームが妹の病室で鳴り響く。
ゲームと現実、その境界線が融解していく。譲は深く息を吸い、初めて震えのない声で少女に告げた。
「――教えてくれ。世界を救う方法を」