プロローグ 世界が終わる日
そして宣告は続く。
「カウントゼロ時、サーバ全域に《大洪水》が発生します。全都市は海中へ没し、全NPCは消失します。あなたがたプレイヤーは、ただ一つ――」
ノアの声がわずかに震え、譲は凍りつく。
「――“生き延びる”か、“滅びる”か、選択してください」
十六歳の夏。譲の人生は、ゲームも、現実も、静かに“終わり”へ向かい始めた。
プロローグ 世界が終わる日
低く唸る風圧が、荒廃した石畳を削っていく。
ゲーム内暦7月7日。夜空を覆う巨大モニタに、真紅のカウントダウンが浮かんだ。
「――《大洪水》まで、あと一〇〇時間」
その瞬間、中央広場に集っていた数万人のプレイヤーたちが、一斉に息を呑んだ。
篠宮譲もまた、その人込みの片隅で固まっていた一人だ。
(七周年記念イベントって……運営、正気かよ。)
頭上のモニタに映るのは、システムメッセージを読み上げる少女型ホログラム。《ノア》。NAO の守護神としてプレイヤーに愛されてきたマスコットだ。しかし今、その瞳は感情の読めない虹色で輝いている。
そして宣告は続く。
「カウントゼロ時、サーバ全域に《大洪水》が発生します。全都市は海中へ没し、全NPCは消失します。あなたがたプレイヤーは、ただ一つ――」
ノアの声がわずかに震え、譲は凍りつく。
「――“生き延びる”か、“滅びる”か、選択してください」
十六歳の夏。譲の人生は、ゲームも、現実も、静かに“終わり”へ向かい始めた。