「もしかして、案内するだけでEXPもらえる!?」
──それから、だ。
あの出来事があったあとも、
日常は、ゆっくりと、でも確実に戻ってきた。
結局、世界はそう簡単には変わらない。
けれど、その日だけはちょっと違った。
井戸の水が、まだ残っていた。
いつもの濁った泥水じゃなくて、少しだけ──透明だった。
誰かが、今日は汲むのを遠慮してくれたのか。
それとも、ただの雨あがりか。
どっちにせよ、俺には珍しい「ラッキー」だった。
やることは変わらない。
たまにやってくる旅人に、たったひとこと。
「ここ は カティエ の むら です」
──それだけ。
それしか、言えない。
でも、それだけはちゃんと伝える。
最近は、変な腹いせもしなくなった。
ギャンブルにビギナーズラックはつきものだ。
賢い奴は、そこでやめる。俺は、賢い。たぶん。
……それにしても、でかかったなぁ。
あの魔法使いのアレも、戦士のアレも、目に焼きついてる。
……ちょっと、目のやり場に困ったけどな。
──それからだろうか。
旅人が、増えはじめた。
「ここはどこですか?」のあとに、
「水鏡の篭手があったという村……」
なんて言う者もいるようになった。
あのふたりのことを、まるで伝説みたいに語る人もいた。
「何か武器はありますか?」と聞かれたときは、
俺はぶんぶんと首を振るだけ。
でもな。
「薬草はありますか?」って聞かれたときは──
教えることにした。
亜麻を採りに行く途中で見つけた、小さな薬草地。
地面にしゃがみこんで、地図を描く。
「ここ」って、小指で示す。
危ない道は、
「です! です!」って叫びながら、バツ印をつける。
言葉は少ない。けど、ちゃんと伝わる。
冒険者たちは、ちゃんと聞いてくれる。
俺も、時間をかけて伝える。
気持ちって、意外と、伝わるもんなんだな。
お礼にと、ちょっとだけ薬草をおすそ分けしてくれる人もいた。
……ほんとは、亜麻がほしかったけど。
そこまでは、さすがに伝えられなかった。
それでも、もらった薬草を煮詰めて、チンキにしておけば、
怪我した人に使えるかもしれない。
ポーションってやつになるのかな。
……たぶん。
そんなことを考えながら、
いつものように、リヴォルヴの毛を撫でていたら――
──目の前が、光った。
【EXP +2】
まただ。
たまに目の前にチカチカ出てくる、謎の表示。
村の誰に聞いても、返事なんか返ってこない。
でもそのとき、はじめて見る表示が続いた。
【レベルアップ】
【水魔法 獲得】
……俺は呆然とした。
リヴォルヴは草をくちゃくちゃしながら、ぱちぱち瞬きしている。
(……なんだよ、これ)
よくわからない。
でも――
悪くない。
今日も、ちょっとだけ、悪くない日だった。