邪悪な、許しがたい、異端の。
「ここ、は……カティエの、むらです」
それを言えば、旅人は安心してうなずく。
俺の役目は、それだけ。ほんとうに、それだけ。
長老の魔法で、喉の奥に“それ以外”を封じられて言葉は喉の奥で腐っている。
語ることを奪われた案内人が、それでも語らなきゃいけない日が――来るなんて。
村の掟では、それ以外を話してはいけない。
──いや、正確には「話せないように」されている。
喉の奥に、長老の魔法が“封じ”として埋め込まれているのだ。
俺の声は、もう使えない。
腐って、熱もなく、ただ沈黙だけが眠っている。
おまけに指も無い。
右手は人差し指が、左手は親指と人差し指がない。全部で7本指しかない。
おまけっていうか、足らないんだけどな。
*
俺が暮らしているのは、村の外れ。
門を越えて、さらに向こう。
ひび割れた白い地面、むき出しの岩肌。
……もう、木も草も育たない。
村の連中は、たぶんこう思ってる。
「盗賊が攻めてきたときに、最初に燃やされる場所」
「魔物が出たら、最初に食われる場所」
──つまり、俺は「切り捨てられてもいい」存在。
でもさ、それでいいんだ。
役目があるだけ、まだマシなんだから。
……笑えるよな。
笑えないけどさ。