少年は自分磨きを始め、敵が動き出す
自分の両親だけでなく恩人であるカルレアの両親を救うと決意を新たに
広間で一人一夜を明かした指名手配犯レヴィンは早起きした
昨日の逃走劇の影響で、睡眠中にこむら返りを起こし目が覚めてしまったのだ
脹脛を刺激しないよう腹筋背筋懸垂をしつつ、魔法の逆探知について考えていた。
もし無詠唱以外の魔法は管理出来ているとするなら
俺はもう杖を使わない方が良いのでは…
逃亡してからは無詠唱魔法しか使っていなかった、移動に使うだけならそれで十分だったからだ
ただショイサ村では詠唱していた。その時の痕跡を読み取り杖を特定され
杖を強制的に起動させたりすることが出来るなら現在地まで・・・
カルレアが2階から降りてきた。
『おはよう~~~』
『・・・』
顔を真っ青にしながら無言で返しカルレアも異変を感じ取った
『俺の杖廃棄した方が良いよな?探知されるんじゃないか?』
『む、そうだった...私の予備の杖あとであげるね~』
『助かるよ、カルレアの杖は何か細工してあるのか?』
『自分で1から作っていて、所在を発信する石を取り除いてるのよ』
『そんなのどうやって作ったんだ?』
『杖を分解して成分を細かく分けてみたの魔力を引き出す木材だけじゃなく
二つの物質が合成されてたの』
『1つが魔力を魔法へ変換させる魔石もう1つが転移と雷魔法で合成された呼応石だったわ』
『じゃあ木と魔石を組み合わせて作るだけで安全な杖が出来るって訳か』
『確実に安全って訳じゃないの 都市と田舎の子供に使わせてみたら田舎では来なかったのに
都市では結構早く管理局の人が駆けつけてきたわ』
『豪快な事させてんねえ・・・』
思った以上に危険な橋を渡って生き抜いてきた彼女に血の気が引く
仲間の一人や二人を失ってても不思議ではない
俺は捨て石になれるだろうか
考え込んでいたら首の隠しポケットに入れていた杖を引き抜かれる
『はい、私のと交換~』
『!?何でわかったんだ?』
『昨日手繋いだ時に調べたんだよ~わかんなかったか~』
当時詠唱はしていなかった・・・と言う事は
『俺に声をかける前に、予め解析魔法を自分にかけてたのか?』
『そういうこと~』
『待て・・・じゃあ何で判明した時にでも杖を没収しなかったんだ?』
『えへへ・・・忘れちゃってた君の楽しいお説教のせいで』
『へへ・・・』
苦笑いしつつ返す
俺が下らない説教したせいで危うく一網打尽にさせてしまうところだったのか
無能な味方、恐ろしすぎる
『そのうち探知範囲を拡大されるだろうし私もいつかは魔法使った瞬間に捕まっちゃう』
無詠唱だって探知拡大されたら困るのでは?と思ったが
詠唱を通した魔法の発現のみ感知が容易なのかもしれない
父上が爪痕からなら出来ると反論していたのを思い出した
『カルレアは普通の暮らしに戻れないのか?』
『両親が無事に帰ってきたとしても、各地で惨劇を起こしてる国家が正気に戻るまで
呑気に暮らすなんて恐怖で考えられないわね』
カルレアの両親が生きていて、救えたとしても彼女の戦いは続く
彼女に何を話させても耳が痛くなる、彼女と出会う前の俺は
両親の言葉通り、助けに行かずひっそりと生き抜くと企んでいた
もし彼女の両親を救えたら、当然のように辺境の地で隠れ住むのだと考えていた
でもそれじゃ何も問題は解決していないのだ
彼女を見捨てられる訳が無い
『なら俺はカルレアが呑気に生きられるまで戦うよ』
『相変わらず口だけは頼もしい奴め この~』
呆れ顔をしつつ頭をわしゃわしゃと撫でてくる
『サタテリス 使い魔よ 舞い戻れ』
カルレアは召喚魔法で使い鷹を呼び出した
鷹をよく見ると足に沢山魔道具が付けられている
『ファルちゃんに貴方の杖を預けて遠方に捨てさせるの』
鷹はファルと言う名前を付けてるらしい
よろしくねと少し撫でた後に俺の杖に紐状の魔道具を巻きつけ足に掴ませた
『使い魔よ 3000へ 転移せよ』
ご主人の下に居られた時間は1分も無い、かわいそう
いや俺のせいだわ
『めちゃくちゃ優秀な仲間だな』
『あら私にはもっと頼もしい仲間が出来たんだけど? はいこれ、杖と学んでほしい魔導書』
『妨害魔法と吸収魔法?習った事も聞いた事も無いな』
『戦闘向けだし魔法軍とか魔法管理局でしか使われないわね』
『妨害魔法を展開出来れば私たちが探知を恐れず安心して魔法が使えるようになれるし
貴方の魔力が少ない問題は吸収魔法で解決できる
無詠唱で行使するなら敵に回すと最も厄介になる魔法の2つね』
『最高じゃないか!!使いこなして見せるよ』
さっそく家を飛び出し魔導書を片手に練習し始める
カルレアが朝食を用意してる間にリレアが広間に現れた
実は一番早く起きていたのはリレアで、朝の話は全て盗聴されていた
頼りにならない指名手配犯のおかげで姉や身の危険を感じていたからだ
レヴィンは家の外で妨害魔法を詠唱から練習しているが
埒が明かないと見かねてリレアは手伝いに行く
『我が領域を侵す 全ての魔法を 遮断せよ!』
レヴィンは中庭で妨害魔法の呪文を唱えているが
魔力が杖に集中されるだけで何も発現しない
『少年に支配された魔力よ、我が意のままに転じ、水へと変じヨ』
『ウボボボボボ』
レヴィンは不発に終わった魔力の分だけ杖から大量の水が顔を目がけて放水される
『まず魔法の効果範囲も対象範囲もおかシイ
ザコが広大な範囲を定めて、全ての魔法を遮断できると思うナ
まず小さな範囲から、得意な魔法を遮断シロ』
リレアはレヴィンが水を被ってる間にめちゃくちゃ早口で指導した
『ゲッホ....師匠!...有難うございます!』
レヴィンは水が直撃した時はムカついたが、助言もしてくれた彼女に心から感謝した
リレアが使ったのも妨害魔法の1つだった
『やる気は認めるケド、間違った方向はダメだから即座に指摘スル 吸収魔法から練習シロ』
『ですが俺は安心して魔法が使える環境を』
『今の雑魚魔力量じゃ1日に練習できる時間が短イ、遠回りダ』
反論の余地が無い、今までの経験上詠唱魔法を発現されても
直ぐに無詠唱魔法に転化出来る訳じゃない
杖を使わない為、自分の中で魔力を練り上げ放出した後に自分で操作して魔法の形を作る
『才覚、素養、だけじゃなく時ニハ残虐性のような性格だって魔導に通ずる
各地で凄惨な殺戮を起こしてる者は想像を絶する使い手なってる筈ヨ』
性格の悪さを極めれば妨害や吸収魔法に繋がる可能性もあるのか…
俺は急ぎ吸収魔法から学ぶことにした
食事や休養を挟みつつも、日が落ちるまでリレアが手取り足取り付きっ切りで教鞭を執り
リレアだけでなくカルレアまで魔力を譲渡してくれため習得する事は出来た
『我が魔力を 塵芥から 奪取せよ』
どうやら吸収魔法は、他者の物を自分が本来の所有者であると強く認識する事が大切のようだ
詠唱でも、そして無詠唱でも草木や小動物に宿る魔力を吸収する事に成功した
流石に無詠唱だと消費する魔力よりも奪える魔力が圧倒的少なくて役に立たないが一歩前進だろう
────── 一方そのころ魔法管理局 アーケヴィンス一族捜査本部では
『いやあ、まさか副局長がやられるとは』
部長のフィディが驚いた顔で演技した
その会議に出席していた男女6人、一部は笑っている
副局長の座席に座るレヴィンの父、ディーン・アーケヴィンスに注目が集まる
『いやいや、僕は死んでませんてぇ~体乗っ取ってやっただけぇ
余命僅かなところに、良い使い手が現れてくれて助かりましたねえ』
『本当にガルダ様なのですか?そいつに上手く乗っ取られてる訳では無いと』
監察官のスミリィアは心配しつつ杖を握りしめている
『民間人に遅れは取りませんよぉ~乗っ取った事で逃亡中のレディン君の情報もわかりましたし
最後に転移したのはディアス共和国の東ですねぇ。母親は既に殺したので
息子は明日にでも殺しに行くつもりでしたよ』
『そのつもりなら何故乗っ取った後すぐに潰しに行かなかった?』
局長のバジゼドは部下であるガルダの失態は責任を負わされる形になる為吠える
『元の体で使えた魔法を慣らしてました、それに逃走中のレヴィン君に僅かな猶予を与えて
同じ志を持つ者を協力者として引き寄せたなら私達にとって都合が良い事でしょう?』
バジゼドが興奮のあまり不利にならないよう仲介が入る
『本件は引き続きガルダに任せてあげなさい、彼を副局長に推薦したのは次官であるミェリアだ』
美壮年かつ35の歳で登り詰めた総裁ダルグスは責任の所在を明確にしつつ
妖艶な雰囲気を放つ美女ミェリアを睨みつける
ミェリアは沈黙し続け調査官に視線を移す
『・・・そんな急ぐ必要もないでしょう、無詠唱を行使できるとは言え
調査では村一番の雑魚魔法使いだと私と部下達で判断しました』
調査官のケドアは事実を報告した
部長のフィディはガルダが何をしていたか知っているが身に危険が及ぶため沈黙している
『・・・では異論がないという事で私がこのまま本件の対処を務めさせて頂きますねぇ?』
ガルダはレディンの父親の顔でニタニタ笑いながら発言した
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