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ブートブーリン・ブーゲンブルー

ブートブーリン・ブーゲンブルー

作者: 一飼 安美

 私の小学校には、つまらないうわさ話がたくさんあった。この小学校は前は墓地だったんだ~とか、三つ目のトイレを使うとオバケが出る~とか。三つ目の扉は掃除用具入れじゃない。くーだらない、って聞き流してたら「ないはずの三つ目があったら怖いじゃん!」って言う子がたまにいた。だから、そんなものないの。私はあんまり相手にしなくて、呪文も唱えたことがない。怖いことや不思議なことがあったら、これを言えばいいなんてこれもつまらない話。ブートブーリン・ブーゲンブルー。なにそれ?ぶーりん?飛んでくの?肝試しの前や、先生に怒られた後に、冗談で唱える子がたまにいたけど私はしない。意味ないもん。何言ってんのよ。だから、中学生になったらそんな話はなくなると思っていた。


 中学校には、まだ怪談話があった。人体模型なんて動かなくても気味悪いんだから付け足さなくてもいいのに、中学校でも変わらないんだなあ。夕方の学校で、わーって騒いでいる子がいて、オバケを見た!なんてみんなの目を集めたがる。廊下を歩く泥の塊?ゲームのしすぎじゃない?って思っていたら、同級生の一人がつまらない話を蒸し返した。


「でんでんアブラムシ!」


 ……私が小学校のときに、そんなうわさ話があった。小学校の低学年が使う油粘土で作りかけの工作があって、誰かがかたつむりを作ろうとした。でも途中で飽きちゃってそのままにして、粘土はどこかに行ってしまった。粘土がどこかに行ったからって誰も問題にしなくて、なくした!で話はすんだ。……もしかしたら、油粘土のかたつむりは、いつか最後まで作ってもらえると思って待っていたんじゃないか。作ってもらえないから、作ってくれる人を探しに行ったんじゃないか。そんな話だった。あったよね、そんな話!って聞かれて、さあ、って聞き流した。私は忘れ物を取りに来ただけ。教室に戻って、ノートを探してすぐに帰る。そのつもりだった。


 日が暮れて暗くなった廊下に、いた。作りかけの粘土細工。殻のない、蛞蝓のような、大人みたいに大きな、でんでんむし。迫ってくる。近づいてくる。私は、動けなかった。体中からドロドロした何かを染み出させて、目の前に迫った粘土の塊。そのとき、後ろから声がした。


「見つけた!」


 さっきの同級生が、息を切らせていた。探していたらしい。手に持っていたのは、破いたノートとヘアゴムでできた紙細工。私が作ったの。遅くなって、ごめんね。そう言って同級生は、粘土の塊に紙細工を載せた。ブートブーリン・ブーゲンブルー。そう呟いて笑顔を見せると、粘土細工は体中から油が染み出て、小さくなって縮んでいった。もう動かなくなった古い粘土の塊を、同級生は拾った。校庭のどこかに、置いておくらしい。私はノートを手に校舎を出るときに、自分が何を見たのかわからなくなった。現実なのかな。夢なのかな。……ブートブーリン……。そう言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。


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