第九話 愚痴と特例
昨日に続き今日も投稿、投稿頻度がよく変わりますね。
ムサミューズに向かって歩いてると上空から人がふってきた。
「無事かいっ?!」
ホルスト学院長だ。
「はい、もちろんですよ」
「ギリギリでしたけど」
二人が律儀に答える。
「よかった…… それとライム君? その肩の虹色の小龍は?」
俺の肩には咄嗟に小さな龍形態になったエリスがとまっていた。
龍形態では複雑に光が反射し、虹色のように見える鱗を持っている。
「私の従魔ですよ」
サリアとルディがバッとこちらを振り向いてくる。
“《私》なんて礼儀正しい言葉遣いできたんだ”
と言いたげな顔だ。
「そうなんだ…… ごめん。サリアさんとミルディアさんは先に帰っててもらっていいかな?」
「二人だけで歩かせるつもりですか?」
俺が一人になると何か問い詰められそうだ。食い下がるわけには行かないな。
「それなら私の転移魔法で帰せばいいし、不安なら君の従魔を護衛につければいいと思うよ。」
ホルスト学院長も食い下がるつもりはないらしい。
「わかりました。ホルスト学院長お願いします。」
俺が何か言う前にサリアが了承してしまった。
「ちょ──」
「わかった。それじゃあいくよ! “転移”!」
止める間もなくホルスト学院長が転移魔法を発動してサリアとルディ、エリスを転移させる。
「それじゃあ、ライム君にいくつか質問があるんだけど?」
「──なんですか?」
もう逃げることはできないな。
「堅苦しいことはなしでいくよ。まず一つ目、僕の転移魔法に干渉したの君だよね?」
「──はい……」
「別に怒ってないんだよ? ただ、サリアさんとミルディアさんのお父さんの相手が大変でね? 愚痴を聞いてほしいだけだよ」
そこからホルスト学院長の愚痴が始まる。
─転移されたあと────────────
「ホルスト学院長! どういうことですか?! サリアはどこへ?!」
学院長室でホルスト学院長に対し金髪の中年の男が叫ぶ。
サリアの父、リオル・フォン・フェイルだ。
「それは俺も気になるな。ミルディアが行方不明だとは…… しっかり説明してくれるんだろうな?」
黒いソファに座っている赤髪の中年の男が重苦しく呟く。
ミルディアの父、イフルス・ヴァルテトだ。
「落ち着いてください。行方不明となっておりますが現在全力で捜索中です。」
「だが! もし、サリアに何かあったら!」
リオルは引き下がらない。
「まず、行方不明となってしまった原因をお話します。移動中に襲撃されないように私の転移魔法で魔境へ送り込みました。ですが、私の転移魔法に誰かが介入し転移地が変わりました。おそらくは魔境4thほど……」
「魔境4th?! そんな……」
リオルは崩れ落ち、イフルスも下を向いている。
「ですが、お二人は生きているでしょう。」
「「!?」」
「転移魔法とは繊細です。座標が少しずれると死んでしまう。転移された三人のうちサリアさんとミルディアさんはどんな事があっても亡くならないように何重にも保護魔法と蘇生魔法、回復魔法がかけられていました。絶対に二人を生かそうとしています。」
「ならば、犯人は生きているサリアとミルディアに用があった、ということだな?」
イフルスがまとめる。
「はい。それに転移された三人には“ライム”という生徒がいます。彼がいる限りは安全でしょう」
二人は初めて聞く名を挙げたホルスト学院長を見る。
そこへ扉が開かれる。
「ライムに関しては私が保証します!」
アレクだ。
「ア、アレク…… それで、そのライムというものはどういった者なんだ?」
リオルは突然の息子の登場に戸惑いつつまたも出てきた者の名前について聞く。
アレクにそれ以上言わせずにホルストが口を開く。
「私が説明しましょう。ライムは三人の首席の一人です。ですが、その強さは頭一つ抜けています。実技試験では上位闇魔法である“暗黒星”を使っています。それも完璧に」
闇魔法自体が制御が難しく、才能により左右をされやすいものであるのにその上位である魔法など宮廷魔導師にもいない。
「だが、そのライムとやらが主犯である可能性はないのか?」
イフルスがもっともな疑問を抱く。
「確かに、その可能性は否定できませんが、それならば他にもっとチャンスがあったはずです。今更行動に移すとは考えにくい。」
「わかった。信じよう。」
「イフルス! そんなに簡単に信じていいのか?! わかるだろ! 子供の命がかかっているんだぞ?!」
「うるさいぞリオル。今俺達が動いたところで何ができる? 魔境4thなどどうやっていくのだ? 軍を動かしたらその隙に国が落とされるぞ」
感情的になっているリオルに少し辛辣な言葉を投げる。
だが、事実だ。
「く…… それはそうだが……」
「ともかく、今は私達“首学サラス”にお任せください。必ず無事に保護します。」
「わかった…… 信じよう」
リオルもなんとか納得する。
ホルストはこんな事を考えていた。
(もし死んでいても存在した実録があれば蘇生できるし、ライム君はそういった事も知ってそうだから何か素体を持ってきてくれるでしょ!)
────────────────────
「って、感じなことがあってね。大変だったんだよ。」
「ソウデスカ」
そんな事俺に言われても知らんがな!
「それと二つ目だけど…… あの肩に乗ってた龍ってもしかして神竜?」
「──はい……」
「あ〜…… やっぱりか…… それじゃあ最後、三つ目の質問していいよね?」
駄目と言えるわけもなく強制的に答えることになる。
「ライム君って創造神ティファと関係があったりする?」
「!!!」
「やっぱり? サラスには禁書庫があってね、そこは軌跡神ヒュパスの領域に繋がっていて、よくライムという使徒について聞いているんだ。」
「チッ…… 言ったのはパス…… じゃないな、ヒューか」
「あははっ! すごいね。最古の神を呼び捨てだなんて。その通り、言ったのはヒュー様だよ。」
軌跡神ヒュパスは一つの体に二つの意志が宿っている。
未来を司るヒューと過去を司るパスだ。
パスはきっちりとしていて天界の話なんて漏らすわけがないが、ヒューならまぁ言ってしまうかもな……
あとでシバく。
「さすがに僕の手に負えないな…… ライム君はもうSランクでいいよ。特例だけどね」
こうして俺は特例でもう卒業できるようになった。
今回は新キャラが二人出てきましたね。
キャラ設定
リオル・フォン・フェイル
種族:人間 性別:男
年齢:43歳 身長:186cm 体重:77kg
髪色:金髪 瞳色:紫
一人称:俺 二人称:お前
サリアの父であり、フェイル王国の国王。
イフルス・ヴァルテト
種族:人間 性別:男
年齢:43歳 身長:191cm 体重:88kg
髪色:赤髪 瞳色:青
一人称:俺 二人称:貴様
ミルディアの父でありヴァルテト帝国の皇帝。
ヒュー
種族:神 性別:女
年齢:未来は永遠に続くため測定不能
身長:164cm 体重:43kg
髪色:空色 瞳色:空色 髪型:ショート
一人称:わたし 二人称:あなた
軌跡神ヒュパスの二つの人格のうちの一人。未来を司る。活発で天然。
パス
種族:神 性別:女
年齢:過去に際限はないため測定不能
身長:164cm 体重:43kg
髪色:栗色 瞳色:栗色 髪型:ショート
一人称:わたし 二人称あなた
軌跡神ヒュパスの二つの人格のうちの一人。過去を司る。あまり喋らないがかなり優しい。
〜裏話〜
「それでね! ライムとティファがすごい仲良てくね! この前なんか──」
「そうですか……」
私はホルスト。目の前にいる空色の髪と瞳をもった女性は軌跡神ヒュパスの人格の一人であるヒュー様だ。
(できればパス様のほうがいいな……)
パス様とは軌跡神ヒュパスの人格の一人であり冷静だが冷徹なわけではなくとても優しい。
優しいで言えばヒュー様も同じなのだが……
(めちゃくちゃ喋るんだよな……)
今日ここに来たのは行方不明の三人の手がかりを聞きに来たからだ。
それなのに別の話をされて少し機嫌が悪くなっていく。
そんな事を考えているとヒューがムッとした顔をする。
「あ! 今うるさいとか思ったでしょ?!」
「そ、ソンナコトアリマセンヨ……」
「ひっ?!」
「! どうかなされましたか?!」
ヒュー様が急に体を押さえてうずくまる。
「見えた……」
「え?」
「ライムが私に怒る未来が見えたの!」
ヒュー様は未来を司る力を持つだけあって未来を見ることができる。
「だめ! これ以上話さない…… じゃないと私死んじゃう……」
どうやらライムにとってはされたくない話だったらしい。
(自業自得だろ…… 僕知〜らない!)
そうして僕は禁書庫を出る。