第五話 その後
熱が出たときってテンション高いですよね?その勢いで書きました。
サリアに連行された部屋はなかなかに豪華だった。王女と皇女なら当たり前だが、一つ気になることがあった。
「なんでベッドが一つしかないんだ?」そう、部屋は多数あるのにベッドはキングベッド一つだけだ。「ふふ、ちゃんと要望通りですね。」サリアが微笑む。聞かなかったことにしよう。
ここはなんとしてでもサリアの思惑を阻止せねば! 「俺は別のところで寝るよ。ソファもあるし、必要なら創るかr……」「駄目です! ライム様にだけ我慢させることはできません!」サリアは止めることができないとわかった。
「でも……ルディもいるわけだしな……」「ライムが嫌じゃないなら……別に、いいけど……」俺はルディにも反対してほしく名前を出した。だが、ルディは赤い顔を手で隠しながら小さな声でつぶやく。さらにサリアが追い打ちをかける。「ライム様は私たちがお嫌いですか?」
「え、ちが……」「いえ、嫌ならいいのです無理を言ってしまい申し訳ありません……」俺が否定する前にサリアの目に大粒の涙が浮かぶ。くっ……! 卑怯な……「わかったよ……」「ふふ。」サリアは笑う。なんとでも言え……
「じゃあ俺行ってくる」「どちらへ?」「大浴場」俺はもう時間が遅いことに気づき、大浴場へ向かった。「それではライム様後ほど」「遅かったら待っててあげるから」サリアとルディと別れたあと、俺は男湯の中に入った。「誰もいないな……」遅い時間のため誰もいないようだ。
俺は体を洗い風呂に浸かる。「あぁ〜。やっぱこれが一番だよな。誰もいないのはいいことだ」俺は一人で呟く。人混みとか裸の付き合いとかあんまり好きじゃないんだよな。
「先にベッドの端を確保しておこう」俺はせめて二人の間で寝ることがないように早めに上がろうとする。が、ここで誰か入ってくる。「あれ? 誰もいないと思ったら人がいるじゃないか?」金髪紫眼のスラリとした男だ。サリアに似ているな。
「あれ? もしかして君がライム君かい?」目をつけられた。「はい。どうして知ってるんです?」「いや〜、サリアや学院長からよく名前を聞いているからね」まじか……変なこと話してないといいが。
「それにしても体が仕上がっているね? サリアや学院長の話だともっと線が細い感じなんだけど……。」「それじゃあ時間ないんでそろそろ上が……」「まあ待ってくれよ。君からも話を伺いたいんだけど? サリアとはどこまで?」優しく肩を掴まれるが、思いっきり頭に血管が浮かんでいる。
「どこまでって? どういうことでしょうか?」俺は誤魔化そうとするが肩を掴む手にさらに力が入る。「まだ僕の名前も入ってないでしょ〜? 落ち着いて? ね? 僕はサリアの兄のアレクだよ。それで……サリアとはどんな関係なのかな?」アレクの手にさらに力が入る。
「どんな関係って言っても……爆発熊に襲われていたのを助けただけですよ?」「にしてはサリアは君のことを話す時すご〜く嬉しそうなんだよ。入学式が終わったあとに僕に話しに来てくれてね? それだけじゃないと思うんだけど〜?」く……どうにかして逃げ出さなければ……
「ほんとにそれだけですよ? 心配ならサリアに直接どうぞ。それでは!」俺は肩にかかる力を振りほどいて風呂を出る。「お〜い? まだ終わってないよ〜?」アレクはまだ何か言っているが俺は無視する。二人が上る前に急がねば!
だが、そんな俺の抵抗虚しくサリア達はもう上がっていた。「遅いわね? 寝てたのかしら?」ルディが睨みつける。「待つのが嫌なら先に行けよ?」「なっ?! 別に……いやってわけじゃ……」「さぁ? 戻りましょうか?」ルディは小さな声で否定するが、サリアの声にもみ消される。
俺は諦めの境地に至っていた(絶対に誤解されるよな……王女と皇女に挟まれたりなんかしたら……)なんとしてもベッドの端を確保しする。そして寝相が悪いふりをして落ちる。完璧だ。
だが、そんな考えも二人の行動によって不可能となる。サリアとルディが俺の腕を掴んできた。「一緒に戻りますよ?」サリアの笑顔から、逃さないという意思を感じる。ルディは顔を背けているが、腕に入る力からそれがよく伝わる。
「……、わかったよ……」俺は諦めたもう無理だ。せめて今のうちに言い訳を考えておこう。俺は二人に引っ張られ部屋につく。そのままベッドの端に行こうとしたが、当然のように端をサリアとルディが確保する。
俺は躊躇っていた。「どうしましたか? 真ん中が空いていますよ?」サリアに催促される。もう仕方ないか……。俺がベッドの真ん中に入るとサリアとルディがくっついてくる。ルディの胸の感触が伝わってくる。だめだ、感覚をシャットアウトしよう。
使徒になるとこんな事も出来るから便利だ。だが、サリアの胸もこれはこれで……まずいな、早くシャットアウトしないと……。
─俺は感覚を切ってから眠る──
朝起きると二人がさらに密着していた。互いの吐息がわかるほどに。動けないじゃないか。先に起きたのはサリアだった。「うぅ……ライム様……おはようございます」「あぁ、おはよう」「なんでこんなに顔が近いんで……あっ!? すいません」サリアは慌てて離れる。
「できればルディも剥がしてくれない?」ルディは俺の腕をがっしりと掴んで離さない。「ああっ! はいっ!」サリアが慌ててルディを引っ剥がす。底までしなくてもいいんだが……。「起きて! ルディ!」「うぅん……なによ?」ルディもようやく起きた。
「今日は一年の予定表が配られる日だぞ?」「あっ! そうだった!」「そうでしたね」俺が一応伝えておくと案の定、二人は覚えていなかった。
俺はそのまま部屋から出る。着替える必要はない。ドア枠を過ぎると服が制服に変わる。「「え?」」「どうした?」二人は驚いているが俺としてはどうしてかわからない。「服が変わった?」ここでようやく理解する。「そういうことか。少し部屋をいじったんだよ。」二人は信じられないと言う顔をしている。
「それより早くいかないと間に合わないぞ?」 「「あ?!」」すでに時間は八時を回っていた。ホームルームが八時十五分だ。俺は一人で教室に向かう。
席についてしばらくすると二人が追いついていた。「さすがに酷くない(ですか)?!」息切れしながら同時に言ってくる。俺? 黙秘権を使う。
「皆さん席についていますか?」エリル先生が教室に入ってくる。「急ですが今から魔境探索です。」「「「「は?!」」」」ほとんどの生徒が驚いている。「それでは皆さん校庭へ移動してください。」
魔境探索とは入学生の一大行事だ。ムサミューズの周りには魔境と呼ばれる魔物が大量にいる森がある。そこを抜き打ちで探索するのだ。当然命の危険があるし、覚悟を決める時間なんてない。死亡者は出たことはないが。
俺はこの日を待っていた。魔境探索は隠れて二人を強化するチャンスだ。適当に魔法の暴発で二人が吹き飛んで、俺が追いかけて、魔境の奥地まで行ったら訓練する……
完全な自作自演、だがどうでもいいんだよ。二人は才能の塊みたいなものなんだし、もったいないからな。
俺は筋書きをどうするか考えながら校庭へ移動する
…
……
………
今、反動が来ています。次は少し遅れるかも……?
〜裏話〜
その後の夜について……
夜、抱きついてきたルディは「思ったよりガッチリしてる……。」と、言ったらしい。それに対してサリアはふふっと笑いながら「でも、こうしていると安心します」と、言ったのだと。
ここで読者諸君は俺がどうしていたのか気になるだろう。寝ていたのだ。感覚を完全に切ってからすぐに眠った。
朝起きたときに思ったんだよ。(あれ? これってアレだけの感覚を切っていたらよかったんじゃないか?)と。かなり惜しいことをしてしまった。完全にミスした。もっと楽しめたはずなのに……。
校庭へ向かう俺の頭の中はこれについて六割以上考えていた……。