第十六話 聖女
一度学院に戻ります。
俺たちは直接学院長室に転移する。
「おぉー 戻ってきてくれたんだね」
椅子に座ったまま、ひょうひょうとした態度のホルスト学院長。
一発ぶん殴ろうか?
「ま、まあ落ち着いて! ちょうど今日の昼頃に到着するらしいよ」
俺の感情を読み取ったの焦った様子のホルスト学院長。
「……わかりました。どの門ですか?」
ムサミューズには東西南北に門がある。
「東門だよ」
《聖女についての情報が集まった。護衛を抜け出すつもりらしいから東門ではなく西門の可能性がある》
その同時期に脳内に言葉が響く。
リアの念話だ。
《わかった。そのまま監視しててくれ》
《了解》
「サリア達は東門で待機しておいてくれ」
「わかりました」
「ライム君はどうするんだい?」
「俺は西門に行っておきますよ」
「なにか策があるんだね。わかったよ」
ホルスト学院長も納得してくれた。
そうして俺達は学院長室を出る。
俺は西門の入口についてからしばらく待っている。
そういえば聖女について俺は何も知らないな。
《リア、聖女の特徴とか教えてくれないか?》
《わかった。今念じる》
念話は頭の中での会話なので頭に思い浮かべた情景なども見れるのだ。
映し出されたのは緑髪の少女。
かなり特徴的だ。
《ライム、今そっち行った》
門の入口を見ると人の波の中に緑髪がたなびいたのが見えた。
(追いかけるか)
バレないように俺は尾行する。
その間にリアの調べたことについて聞く。
そしてわかったことはかなり家庭事情が悪いということだ。
《聖女の父親についても頼む》
《了解》
そうして近くからリアの気配が消える。
俺は少し聖女に近づく。
「“索知”」
少し索敵をしてみると敵意を持ったものが大量にいる。
ここの検問は何をやっているんだ?
だが表立っては動けない。
一般市民のいる前で殴ったりしたら面倒なことになるからな。
少しずつ聖女に近づいていく。
リアから聞いた限り相手は聖女をダンジョンに転移させるつもりらしいからな。
さらにその他諸々の計画についても奉告され改めてリアの情報網はすごさを思い知った。
ある程度近づいたら一定の距離を保つ。
そして暗殺者は行動に移す。
転移魔法が刻まれた呪符で聖女は転移させられた。
俺もその瞬間に近づき巻き込まれる。
「な?!」
「残念だったな。暗殺は失敗だ」
暗殺者にはそう言い残す。
視界が晴れると木の根の中のような場所だった。
「ここは……? って、だれですか?!」
「俺はライムというものだ。ホルスト学院長からお前の護衛を頼まれている」
「そうですか…… 私はエミー・ホーリアです」
聖女の名はエミー・ホーリアと言うのか……
そういえば聞いてなかったな。
「ここはどこでしょうか?」
「多分“世界樹”だろ」
「それってSSランクのダンジョンじゃないですか!」
「えっ?!」
「え?」
世界樹がダンジョン、だとっ?!
世界を支える存在がダンジョンになっているとは……
まさかニーズヘッグの仕業か?
だがニーズヘッグとは世界樹の破壊を阻止している竜だ。
やつなら魔物を大量に解き放ちダンジョンのようにできるかもしれないが……。
もしかしたら操られているのかもしれない。
だとすると悩ましいな。
このまま進んで敵を殲滅するか一旦戻るか、
戻ったほうがいいか?
「今から戻るか?」
「戻れるのですか?!」
「一応なんだな、そうだな少し待ってほしいかな」
今戻ってもまた狙われるだけだろう。
《エリス、聖女を狙う奴らの確保をしてくれ》
《わかりました》
エリスならすぐに捕まえてくれるだろう。
「何か狙われるような心当たりはあるか?」
「多すぎてわかりませんね」
聖女なら当たり前だろう。
聖女とはギリシュ教国で一人しか存在しない聖魔法の申し子のようなものだ。
さらにエミーの母親は教皇でありかなりの人望を集めている。
もう母親は亡くなっているが、次期教皇として進路を爆走している。
そのためエミーを狙うものなどあふれかえるほどいるのだ。
「ライムさんはサラスの生徒なのですか?」
「そうだな」
「!! この気配は……?」
「ニーズヘッグに気づかれたか」
俺はエミーを抱え移動する。
壁が砕け、漆黒の龍が現れる。
「愚かなる聖女とその護衛よ、我が糧になると──ライムだとッ?!」
俺がいると気付いた瞬間に逃げ出すニーズヘッグ。
「おいおい、挨拶もなしに逃げ出すなんてひどいじゃないか」
どうやら操られているらしい。
いつものニーズヘッグならば俺に向かって全力疾走して飛び込んでくるだろうからな。
ニーズヘッグを捕まえるとかなり暴れる。
「少し静かにしろ」
首元にチョップをいれて気絶させる。
「“解呪”」
解除すると発光しどんどん小さくなっていき人型になる。
最終的には黒い服を着た小さな少女の形で落ち着いた。
「もしかしてその娘は……?」
「ニーズヘッグだ」
エミーは信じられないといった顔をしている。
かなり人懐っこいぞ?
「そろそろ戻るとするか」
俺は転移魔法を発動する。
目を開けるとそこにはサリア達がいた。
「それはニーズヘッグではないですか」
真っ先に反応したのはエリスだ。
ニーズヘッグは神龍でもあるからな。
だが自分の同僚をそれ扱いとは……
俺は無言でニーズヘッグをエリスに手渡す。
「え? 渡されても困りますけど……」
さっきからサリアの目が怖いんだ。
「そ、それじゃあ依頼も終わったしホルスト学院長に報告しに行くか」
「あの〜…… 私は?」
エミーが申し訳無さそうに手を挙げる。
「一緒に転移させますよ」
そう言ってエミーも転移させる。
これは聖女も連れて行ってホルスト学院長へのプレッシャーを高めるためでは断じてないので安心してもらいたい。
その後ホルスト学院長は襲撃にあってしまったことを隠蔽することや賠償を求められた時の準備でとても忙しかったらしい。
自業自得だな!
キャラ設定
エミー・ホーリア
略称:なし
種族:人間 性別:女
髪色:緑髪 瞳色:緑 髪型:ストレート
身長:171cm 体重:48kg カップ数:E
一人称:私 二人称:貴方
ライムを呼ぶ時:ライムさん
ギリシュ教国の聖女。幼い頃に母が死んでからは父は荒れており、複雑な家庭環境で育ってきた。
ニーズヘッグ
略称:ニグ
種族:神龍 性別:女
髪色:黒に紫のメッシュ 瞳色:紫
髪型:ツインテール
身長:142cm 体重:最大85t
カップ数:AA
一人称:我 二人称:おぬし
ライムを呼ぶ時:ライム
神龍の一柱であり、闇を統べる龍。世界樹の防衛を神々から任されていたがいつからか操られてしまった。ライムの過去を知る数少ない存在の一人。
〜裏話〜
遥か昔──
「ライムっ!」
「急に抱きつくな! は・な・れ・ろ」
「無理だっ! もう少しこのままにさせてくれ!」
会うなりライムに抱きついたニーズヘッグはライムの胸に顔を埋もれさせながらしっかり掴んでいる。
「いい匂いがするな」
「俺は芳香剤か何かか?」
「そういう意味ではない!」
ライムは心底めんどくさそうな顔をしている。
(流石はライムだ。この我がここまでして照れもせぬとは)
そこへ衝撃の事実が飛び込む。
「すまないが世界樹の防衛をお願いしたいんだが」
「嫌なのだっ! それではいつライムに会うのだ!」
「知るかよ! これは決定事項なんだ」
ライムはニーズヘッグを剥がしてそう言い放つ。
ニーズヘッグは今にも泣き出しそうだ。
「ちょっといいかな?」
いつの間にかヒューがいた。
そのまま涙目のニーズヘッグに近づき耳元で囁く。
「ライムは仕事をしっかりできる人が好きらしいよ?」
その言葉でニーズヘッグは覚醒した。
「わかった! 我に任せるが良い!」
そしてニーズヘッグは世界樹の防衛の任についたのだった。
場面の展開を3行空白空けることで分けるようにしました。
具体的には場所が変わったときなどです。