9話:弔い
「……一先ず、村の人達の遺体を埋葬してあげよう……流石にあのままでは忍びない」
ウォルフとレヴィンの言い合いが一段落した後、亡くなった村人達の弔いを提案すると言い合いをしていた二人は素直に頷いて村の方へと戻り始めた。
アルスも二人に続き歩き出したところで、ウォルフを追って村を出た時と同様に一人付いてきていないことに気付く。
「フィルビー……?」
振り返ると、そこには先程と同じように目を瞑り、手を合わせて祈りを捧げるフィルビーの姿があった。
「まさか…君は…」
その祈りが捧げられていたのは────たった今ウォルフが斬った魔物がいた方向。
「この村の人達を……君の大切な人達を手に掛けた魔族を……君は許すというのか?」
「……許せませんよ」
アルスの問いにフィルビーは静かに首を横に振って答える。
「彼等は私から村の皆さんや孤児院の子達……そして神父様まで奪ったんですから……当然の罰です」
「だったら何で……」
「でも……亡くなった命は等しく弔われるべき……それが神父様の教えだったから……私はそれに準じます」
「そうか……強いな、君は」
余りにも真摯な姿勢に感心して思ったことをそのまま伝えると、彼女は「あはは…」と小さく笑った。
「もしも私がほんとに強かったら……力があったら……神父様や、村のみんなを救えたかもしれませんね」
「フィルビー……君は君に出来る最大限の事をやった……少なくとも俺はそう思う……だから、あまり思い詰めないでくれ」
「ありがとうございます……でも考えてしまうんです……村を出ずに残っていれば……無理矢理にでも連れ出していれば……神父様が…みんなが助かる道もあったんじゃないかって……」
自責の念を口にする彼女……その声は震え、目から零れ落ちるのは雫のような涙。
そんな彼女の様子に共感を覚えつつも、アルスは首を横に振る。
「フィルビー……俺もかつて今の君と同じようなことを考えたことがある……でも起こってしまった事は変えられない……その答えは多分、一生出ないよ」
「……」
「ただ……君のこれからの行動で救われる人達はいるかもしれない……俺から言えるのはそれだけだ」
アルスの言葉にフィルビーは何も答えない。
─────後は彼女自身が決める事だ。
そう考え……アルスは村に向かって先に歩き始めた。
・・・
「……終わったな」
「……うん」
「おぅ……」
────もうすっかり夜が更ける頃……漸く村人全員の埋葬が終わった。
「皆さん……ありがとうございます」
埋葬した一人一人に祈りを捧げた後、ヴァイゼン村の住民であったフィルビーはアルス達に深々とその頭を下げた。
「フィルビー……君はこれからどうする?よければ首都まで送り届けるが……」
そんな彼女に対し今後のことを尋ねるとフィルビーはその首を横に振り、真っ直ぐにアルスの目を見つめて口を開く。
「アルスさん……お願いがあります」
「……なんだ?」
「どうか私も……皆さんの仲間に加えてください」
「……!」
回復魔法を使える者の加入────その申し出はアルスにとって願ってもない事だった。
しかし、一般人の彼女を魔王討伐隊に入れる……そのことについては少し気が引ける。
「癒し手に参加してもらえるのは有難いが……いいのか?」
「はい……他に行く場所なんてありませんから」
……しかし、当の彼女には迷いはない様子だった。
「孤児だった私にとって……拾って下さった神父様と…受け入れてくれたこの村だけが世界の全てでした……それさえあれば良いと思ってた……でも、それは浅はかな考えでした」
彼女は孤児院があったであろう瓦礫の山を見つめ、淡々と自身の過去と抱いていた思いを語る。
「私は……唯一人……私と家族になってくれた大切な人を失ってしまった……」
その目からは一筋の涙が流れた。
彼女は涙を拭うと、決意に満ちた顔で言い放つ。
「もう二度と……私のような思いをする方を出したくない……だから私も……貴方達の戦いに付いていかせてください!!」
────その懸命な訴えを見て、アルスは横にいたウォルフやレヴィンと顔を見合わせ……共に頷いた。
皆、彼女が仲間になることについて賛成らしい。
「歓迎するぜ…一緒に頑張ろうや」
「わ、私も…女の子同士よろしくね」
そうと決まり、早速フィルビーに絡み出すウォルフとレヴィン。
そんな二人に続くように、アルスは彼女に向かい手を差し伸べて口を開く。
「神父やここの村の人達の代わりにはなれないが……俺達は君の仲間にはなれる……ここが君の新たな居場所だ……改めてよろしく頼む、フィルビー」
その言葉にフィルビーは一瞬目をパチクリさせた後、差し伸べられた手を取り元気に返事をした。
「はい!不束者ですが…よろしくお願いします!」
────そこでフィルビーが見せたのは、出会ってから初めての満面の笑み。
年相応の可愛らしい少女の笑顔にアルスは少しだけドキッとした。
そんな思いを知らない彼女はそのまま笑顔で言葉を続ける。
「改めて……フィルビーと申します!気安くフィルって呼んでください!!」
その言葉に、内心それはちょっと……とアルスは冷や汗を流した。