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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第一章:ヴァイゼン村編
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8話:魔族狩り

「そういえば……()()()は?」


 ────泣き()らし、ある程度の落ち着きを取り戻した後にレヴィンから(はっ)された(つぶや)くような言葉は……その場にいないもう一人の仲間の所在(しょざい)に関する言及(げんきゅう)

 その疑問にアルスは肩を(すく)めて答える。


「ウォルフなら、魔族の残党(ざんとう)()って()()()に行った……散々(さんざん)止めたんだけどな」


 魔族の残党(ざんとう)は、暴風雨(ぼうふうう)()んだ後……首魁(しゅかい)たるシルクが倒されたことに気づいて大半が逃げ出した。

 アルスは(わな)やまだ近くに伏兵(ふくへい)───もしくは生き残りの村人(むらびと)がいる可能性(かのうせい)を考え、近辺(きんぺん)調査(ちょうさ)優先(ゆうせん)すべきだと主張したが、ウォルフはその言葉に耳を()さず一人で行ってしまったのだ。



「ウォルフさん、たった一人で……心配です」


 レヴィンが目を覚ますまで待っている間も、アルスが付近(ふきん)の調査をしている間も、そして今も……フィルビーは終始(しゅうし)そんな彼を心配していた。


「私はアイツの心配なんてしてないけど……はぐれても面倒(めんどう)だし、探しに行きましょ」


 そんな彼女の気持ちに応えるように、事情を聞いたレヴィンはいの一番にウォルフが行った方向へと向かい出す。

 アルスもそんな彼女のように続くように歩き出した……


「……?」


 ────そんな時、ふと後ろに振り返って見えたのは村に向かって(いの)りを(ささ)げるフィルビーの姿だった。



 ・・・



 ウォルフを見つけるのは容易(ようい)だった。

 道中(どうちゅう)、ウォルフが(とお)ったことを(しめ)すかのように()()かれた魔物(まもの)死体(したい)が一体……また一体と(ころ)がっていたからだ。


「……」

 その死体で出来た(みち)の先────アルスの視線が(とら)えたのは、最後の一体であろう魔物を前に……無言(むごん)大剣(たいけん)(かま)えるウォルフの姿。


「ウォルフ!」

「……アルスか」


 そこにアルスが()()ると、ウォルフは横目で此方(こちら)を見てから視線を前方へと(もど)す。


()()()……散々逃げ回ってたのに一匹(いっぴき)になった途端(とたん)こうなりやがった」

「……命乞(いのちご)いをしているようだな」


 視線の先の魔物は逃げ切れないと判断(はんだん)したのか、此方(こちら)に向かって(こうべ)()れて(つくば)っている。


「どうせこれから向かうクス伯爵領(はくしゃくりょう)でこの件を報告するんだ……こいつを拘束(こうそく)して生き証人(しょうにん)にしても…」

 その姿を見て、アルスは今後(こんご)(こと)を考えながらも魔物の処遇(しょぐう)についてウォルフに提案(ていあん)を出す。


 ────が、話し終わる前に『ザシュッ……』と(するど)い音を立てて魔物の首が落ちた。


()()()()()()()()証明(しょうめい)なんて、こいつらの親玉(おやだま)(くび)だけで十分(じゅうぶん)だろ」

「ウォルフ……」

魔族(こいつら)に……生きる資格(しかく)はない」


 ()()てるように言ったウォルフの言葉……そこからアルスが感じたのは、彼の魔族に対する深い(にく)しみの感情。


「ここの住人(じゅうにん)を殺したくせに、自分だけ助かろうとする性根(しょうね)が……俺は(ゆる)せねぇ……!」

「……」


 魔族は(いにしえ)の時代から人類(じんるい)戦争(せんそう)を続け、大勢(おおぜい)の人間を(ころ)してきた歴史(れきし)がある。

 そのため大陸に住む人間であれば魔族を嫌悪(けんお)するのは普通の事だが、その事情を考慮(こうりょ)してもウォルフから感じる憎悪(ぞうお)異様(いよう)に深く感じた。



「な、なに……(きゅう)にどうしたの……?」


 何も言えないでいる内に横から()()ずと出てきたのはレヴィン。

 どうやら彼女は憎悪に()まったウォルフの雰囲気(ふんいき)に少し引いているようだ……が、アルスにはある()()()()があった。


「……以前北側諸国(きたがわしょこく)で聞いたことがある…たった一人で魔族を殺し続けている頭のおかしい放浪者(ほうろうしゃ)がいると……」


 ウォルフ────(はじ)めて彼と出会(であ)った時に聞いたその名前にアルスは()(おぼ)えがあった。

 その時はまだ半信半疑(はんしんはんぎ)だったが、目の前の彼の様子を見るにどうやら本当(ほんとう)のようだ。

 前に説明(せつめい)しようとして有耶無耶(うやむや)になってしまった(こと)を、アルスは(あらた)めてレヴィンに(つた)えようと口を開く。


()()()()()()()()()……それが彼の(とお)()だ」

「な、なんでそんなこと……」

「……俺は魔族に故郷(こきょう)の村を(ほろ)ぼされた」

「!?」


 魔族を()る理由……その疑問(ぎもん)に対して答えたウォルフの言葉にレヴィンは衝撃(しょうげき)()けた様子を見せる。


家族(かぞく)も、友達(ともだち)も…俺はあの日、全部失った…耳から(はな)れねぇんだ…みんなの悲鳴(ひめい)が…魔族共(まぞくども)下卑(げび)(わら)いが…」

 明後日(あさって)の方を見て(つぶや)くウォルフ……その手は少し(ふる)えていた。


「だから俺は魔族を絶対許さねぇ…!!」


 ……やがてその手をグッと(にぎ)()めて、宣言(せんげん)するように強い口調(くちょう)で言い放つウォルフ。

 (あま)りにも壮絶(そうぜつ)過去(かこ)に……アルスも、他の二人も言葉を失っていた。


挿絵(By みてみん)



「……お前だってそうだろ?フィルビー」

「!!」


 不意(ふい)にウォルフから投げ掛けられた同意を求める言葉────それに対してフィルビーは狼狽(ろうばい)したように身体を震わせ、「わ、私は……」と言葉を()まらせていた。

 当然(とうぜん)だ……彼女もウォルフと同じように()らしていた村を魔族に滅ぼされたのだから。


 ────結局(けっきょく)、村の中を調査した結果……判明したのは生きている人間は一人としていないという事実だけ。

 ……必死(ひっし)に戦ったにも(かか)わらず()()()()()()()()()()という悲惨(ひさん)な結果だけがその場に残ってしまったのだった。



「……」


 その現実(げんじつ)実感(じっかん)してきたのか、フィルビーの表情(ひょうじょう)徐々(じょじょ)(くら)くなっていく。

 そんな彼女の様子を見兼(みか)ねたのか、(かば)うかのようにレヴィンはウォルフの前に出た。


「ちょっと!女の子を(いじ)めないでよ!!」

「あぁ?お前にゃ…」

「そ、それより…アンタ、私に(あやま)りなさいよ!!」

「…はぁ?」

「アアアンタ私に(えら)そうに言ったわよね!?ふ、震えてるだけとかお荷物(にもつ)だとか…あと次はないって…こ、今回は私…ちゃんと貢献(こうけん)したわよ!!」


 突然(とつぜん)上擦(うわず)った声で早口で(まく)し立てるレヴィンに、ウォルフが見せたのは困惑(こんわく)の表情。

 やがて、「はぁ……」と溜息(ためいき)()いて口を開く。


調子(ちょうし)()んな、今回はたまたま(うん)が良かっただけだ…魔法の制御(せいぎょ)が出来ないってオメーの致命的(ちめいてき)欠点(けってん)はまだ残ってんじゃねーか」

「う…」


 その反論(はんろん)図星(ずぼし)だったようで、レヴィンも言葉を詰まらせる。

 その直後、ウォルフは頭を()きながら言葉を続けた。


「ただ……今回オメーに助けられたのは事実だ……その、ありがとよ」

「!ふ、ふんっ……最初(さいしょ)っから素直(すなお)にそう言いなさいよ……」


 その(わず)かながらの(ねぎら)いの言葉に対しレヴィンはそっぽを向く。

 どちらも素直じゃないな……と二人のやり取りを(はた)から見ていたアルスは感じた。


「はぁ……なんだか馬鹿(ばか)らしくなったわ」

「それはこっちの台詞(せりふ)よ!大体アンタが……」


 そんな風に考えていると、また二人が言い合いをし始めていた。

 (けっ)して良いことではないが、不思議(ふしぎ)と先程の不穏(ふおん)な空気が若干(じゃっかん)(やわ)らいだように感じる。


 ……もしかしたらレヴィンはこれを(ねら)って突拍子(とっぴょうし)もないことを言い出したのだろうか。

 (さわ)がしい二人を(なが)めながら、アルスは勝手(かって)感心(かんしん)していた。

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― 新着の感想 ―
ウォルフさんの過去。それは彼が魔族狩りに身を投じるには十分すぎる理由で、「失うことの辛さ」を知っているからこそ戦場における厳しさを他者にも示しているのだと感じました。彼のそうしたスタンスというのはこの…
2025/08/28 12:28 ロクティス
古き良き古典的なハイファンタジーな物語ですね。懐かしみながら疲れずに楽しませて頂きました。今後の話がどう展開していくのか気になります。
ツンデレっぽいけど頑張り屋のレヴィンが可愛いですね。かなりワイルドなウォルフさんが一番好きです。懐かしさの残るストーリーが逆に新鮮でした!
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