7話:お礼
「すごい魔力だ…!」
「規格外だな……これは」
「レヴィンは天才ねぇ」
「トゥローノ家も安泰だな、ハハハ」
これは……
「何をしているのレヴィン!!」
「家が滅茶苦茶だ……」
「早く制御出来るようになりなさい!」
昔の……
「いつになったら魔法の制御が上手くなるんだ?」
「他の兄妹達はとっくに一人前だというのに」
「お前のような愚図…私の妹とは認めないわ……消えなさい」
記憶……?
「ノーコンのレヴィン!また失敗したのか!」
「あの子……名家のくせに……」
「あれだけの魔力も、上手く扱えないんじゃぁ……宝の持ち腐れだな」
「レヴィン!なんなのこの成績は!!」
やめて……
「この先魔導士としてやってけるかどうか……」
「もう他のとこに嫁がせるのはどうだ?」
「あの言葉遣いじゃねぇ…」
「縁談も失敗か……」
「一体何なら出来るんだ?お前は」
「レヴィン、この家にもうお前の居場所はない」
「お前は我がトゥローノ家の恥だ」
「魔王討伐隊に推薦しておいた」
「精々死なないように頑張るんだな…ハハハ」
待って……
「─────さん」
見捨てないで……!
――――――――――――――――――――――――
「レヴィンさん!!」
「ぇ…?」
「すごい魘されてましたが…大丈夫ですか?」
「あれ……私…何を……?」
ヴァイゼン村での魔族との戦いが終わってから数十分後……レヴィンが漸く目を覚ました。
ゆっくり起き上がりつつ目の周りを擦る事情を呑み込めていない彼女に対し、ヴァイゼン村の助祭だった少女フィルビーは屈みながら優しい口調で語り掛ける。
「私の魔法で少し眠ってもらいました…レヴィンさん、あの後自分の魔法を抑えることが出来なくて……」
「……あ」
その説明に、レヴィンはハッとした表情になる。
────ヴァイゼン村を襲った魔族の群れの首領であるシルクを倒した後、アルスはウォルフに再び引っ張られてレヴィンとフィルビーの元へ戻り、暴風雨を止めてもらおうとした。
……が、レヴィンは自身の魔法の制御が出来ず嵐は止まらなかったのだ。
「あ…ぁ……」
そのことを思い出した為か、レヴィンの顔は見る見るうちに青ざめていく。
「私、また迷惑を……」
その目からは今にも涙が溢れそうだ。
やがて彼女は俯いて何かを言おうと口を開き……
「ごめんなさ…」
「ありがとうレヴィンさん!」
────が、その時フィルビーの声が彼女が言おうとした言葉を掻き消した。
「ぇ……?」
そんな突然の感謝の言葉に、レヴィンは目に涙を浮かべながらきょとんとする。
「レヴィンさんのおかげで…私達助かりました!」
「あぁ…お前があそこで嵐を起こしてくれなかったら…俺達は死んでいただろう」
そんな彼女に対し、捲し立てるように感謝を伝え続けるフィルビー……それに続くようにアルスも礼を述べる。
「勝てたのはお前のおかげだ……ありがとう」
「……」
すると、レヴィンは少しの間放心したように固まり……
「うっ…う゛ぅ゛…」
────やがて嗚咽した。
「アルスさん!?女性を泣かせちゃダメですよ!」
「え!?いや…違うと、思うぞ…?」
その光景を見たフィルビーに不意に怒られアルスは思わず動揺するも、次に見せられたレヴィンからの反応でそれが杞憂だと気付く。
「ありがとう……ありがとう……!」
────レヴィンは泣きながらも、噛み締めるように何度も何度もアルス達にお礼の言葉を口にしていた。
そんな彼女の様子を見て、アルスとフィルビーは少しの間お互いの顔を見合わせ……やがて笑顔を浮かべた。




