56話:極限戦闘
〜前回のあらすじ〜
神秘の森での戦いに一区切り付いたアルス達を突如襲ったのは、魔王の魔樹魔法により支配された蠢く森そのものだった。
圧倒的な物量に一行はそのまま押し潰されそうになるも、ギリギリのところで"神秘の森の加護"に助けられて事なきを得る。
その後……仲間の大半と逸れた先でアルスが聞いたのは森全体に響き渡る恐ろしい咆哮。
恐怖心を覚えながらもその先に仲間達も向かってると信じ、シオンと共に瘴気に侵された森を駆け抜けると────その先には三人のエルフと魔王が激戦を繰り広げる光景が。
魔王の猛攻に抗うエルフ達だったが、やがて限界が訪れた時……一角獣の騎士"グラシア"はその身を魔樹に捕えられてしまうのだった。
最早躊躇している場合ではなかった。アルスは迷いなく茂みの中から飛び出し、剣を構える。
"魔王ハイルに直接触れられた者は生命力を奪われてしまう"
──────開戦前に巫女が言っていた言葉通りなら、グラシアは現在絶体絶命の危機だ。
今は何とか全身に奇跡の力を纏わせて必死に堪えているようだが、それもいつまで保つか分からない。
必然的にやるべき事は決まっていた。
『ザシュッ!!』
禍々しい瘴気を放つ魔樹に近づき、炎の魔力と渾身の力を込めた剣で叩き斬る──────刹那、「アルス!?」と声を上げて宙を舞う一角獣の騎士。
「【翠の庭園】!!」
その身体を、後から追い付いたシオンの詠唱により発生した花植物達が優しく受け止める。
奇跡の加護の効力により、神秘の森自体は凡ゆる魔法の影響を受けない筈だが……どうにも現在は普通に植物魔法が使えるようだ。恐らくは魔王から何らかの干渉を受けたことにより、ここら一帯の加護の力が消失してしまったのだろう。
『ハァ……また新たなお人形か……!!』
味方を救い、安堵したのも束の間……前方から巨大な木竜────魔王ハイルの不機嫌な声色が場に響き渡る。同時に、アルスの身体が強張り冷や汗が流れた。
開戦時の遠方から視認していた時とは違う。実際に目の前で相対して感じるこの恐怖感……魔獣に睨まれた草食動物とはこんな感覚なのだろうか。
『命を張って救う価値など無いというのに、哀れな……!!』
そうしている間に大樹の枝を思わせる奴の腕が大地に根を張り、攻撃態勢に入る。
これまでエルフ達に向けられていた圧倒的なまでの暴力・殺意が此方に向けられる──────!!
『────────【地獄の業土】』
瞬間、呪文と同時に奴を起点として地面に亀裂が入り……此方に向け一気に広がり出す。
魔族にとっての基本的な土魔法なのだろうが、規模が巨大過ぎる。
通常土魔法は巨大な質量を動かすという自然魔法の中ではやや特異な性質上、多人数で魔法を同時に発動することで漸くまともな攻撃力を発揮するものだが……それを目の前の怪物はたった一体で、これだけ広範囲への作用を成し遂げたのだ。
まるで大自然の意思そのもの、規格外の範囲攻撃に対しアルス達は成す術なく────────
「これ、ヤバ……っ!!」
────呑み込まれようとした時、既の所でシオンが大地を経由して広範囲へと展開した翠の庭園が堰き止める。
地上に張った植物魔法で大地の罅割れが止まった理由……それは恐らく彼女の固有魔法の効果による影響だろう。
"魔力吸収"────凡ゆる攻撃魔法を吸収し無効化する……シオンがアルスと生き別れてから新たに目覚めた、魔法戦闘が主軸なこの世界においては反則的とも言える強力な能力。
城塞都市クヴィスリングでの"全能のフォルリア"との戦いでアルスを救ってくれたその魔法の効力は、驚くことに魔王相手にも有効なようだ。
『ほゥ……【自然なる淘汰】!!』
……が、そんな無法な力を前にして尚、魔王は動じる事なく次なる呪文を唱える。
それは────先程エルフ達に向けていた周囲の自然そのものを鋭利な形状に変質させ全方位から一斉攻撃を仕掛ける……強烈な殺意を具現化したような魔法。その範囲・規模は少し前に戦った上級魔族の必殺技の比ではない。
普通の人間に捌き切るのはどう考えても不可能……──────思わずそんな思考が過ってしまう飽和攻撃を前に、シオンは迷いなく植物の壁を防御魔法のように全面展開させていた。
「はぁ……ッはぁッ……!!」
「シオン!無茶────」
「するよ!兄さんならそうしたから……ッ!!」
「くっ……!」
大技を発動する彼女の息は依然荒い。しかしいくら止めたくても、アルスは奴の攻撃を止める手段を持ち合わせていない。
故に今だけは、魔法に対する最強の盾を持つ彼女の力に頼る他なかった。
「!?」
「え……」
──────しかし、そんな縋るような想いも次の瞬間には打ち砕かれてしまう。
衝突の瞬間、突然変質した樹木群が元の形に戻ると同時に、周囲を覆っていたシオンの植物魔法が一気に枯れ果ててしまったのだ。
動揺するアルス達……その僅かな隙に、後方に控えていた鋭利な魔樹が一気に雪崩れ込んでくる。
死──────────────
「〜♪」
全てが終わった……そう思った直後、目前まで迫っていた樹木達に突如として鋭い亀裂が入りバラバラに崩れ散っていく。
予想を超えた展開の連続に思わず呆然とするアルスだが、直後……上空から聴こえてきたのは透き通るように綺麗な歌声。
「アルスさんにシオンさん、ありがとう……グラシアを救ってくれて」
「……感謝する」
見上げれば、その先には二人の天使────"巫女レイア"と"騎士団長ペルデール"が舞い降りて来ていた。
彼女達も直前まで空中まで飛んでくる魔王からの追撃への対処に追われていた筈だが……どうにか間に合ってくれたみたいだ。
剣を一振りしただけで広範囲の凡ゆるものを切断してしまう強力な斬撃……開戦時にも見せていたその力で窮地を救ってくれたようだが、一体どんな原理の力なのか……
『──────【終焉の息吹】』
そこまで思考を巡らせた時だった。
不意にアルス達の眼前を、視界が潰れてしまう程に眩い虹色の光が襲う。それは……降臨祭の日、まるで宣戦布告かのように国中に降り注がれた厄災と同質の魔法。
「……ッ!!」
肌に直で感じる巨大かつ禍々しい……高密度の魔力反応にアルスは戦慄する。
魔力を凝縮して放つだけでも相当高度な魔力操作技術を要する行為だというのに、それを複数の属性を織り交ぜて同時に行うとは……
────次元が違う、本当の意味で桁違い、完全な化け物だ。
『ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!』
次の瞬間、高音と共に極限まで収束された魔力の塊が極太の光線として解き放たれようとしていた。直撃すれば細胞の一片すら残らないだろう。
仲間の手を取って回避に移ろうにも、激しい閃光で味方の正確な位置と敵の狙いが分からない状態では恐らく困難。最早これまでか……
『ガッッッッッッッッッ!?!?』
──────思わず諦めかけた刹那……アルスは目撃した。
放たれた光線がまるで瞬間移動でもしたかのように発動者である木竜の背部を貫く不可解な光景を。
同時に巫女が畳み掛けるようにその巨躯に向かって不可視の斬撃を放っていく。
『クカカッ……今のは、中々効いたぞ……ッ!!』
……だがしかし、それでも魔王は生きて笑っていた。
全身が原型を留めない程に粉砕してはいたものの、強大な魔力を凝縮した漆黒のオーラを展開することで弱点部位である結晶を守ったようだ。
「くっ……!!やはり私の力だけでは……」
その様子に肩で息をしながら悔しそうな声を上げる巫女……状況を鑑みるに、どうやらまた彼女に助けられたらしい。
しかしここまで大技を連発してきた影響か、その奇跡の力は開戦時より確実に減少している。このままではジリ貧だ。
助力しようにも余りに次元が違いすぎる規模の戦い──────アルスは自身の無力さを歯痒く思った。
「アルス殿、助かった……礼を言わせてくれ」
「あぁ……ところで今の状況は?」
そんな時、不意に聞こえたのは先程助けた一角獣の騎士であるグラシアの声。アルスは軽く頷きつつ、現在の戦況の確認を行う。
「見ての通り、芳しくはない。ゴホッ……この瘴気のせいでな」
「はぁはぁ……この濃い瘴気、一体何なんですか……?」
「奴の……魔王ハイルの仕業だ」
────結果、グラシアの口から判明したのは以下の事実。
・侵入した上級魔族の仕業で"神秘の森"から巨大な魔樹を生成されてしまったこと
・魔王の干渉により森の一部が取り込まれ、結果この一帯が濃度の高い瘴気が蔓延する"魔樹の森"と化してしまったこと
・現在戦っている巨大な木竜こそ、魔王ハイルであること
それらの情報は、自軍の最高戦力を以て神秘の森上空で魔王を倒すという……当初の作戦が崩壊してしまった事を表していた。
「アルスさん、シオンさん……お二人ともまだ戦えそうですか?」
説明を終えた後、不意に前方から巫女の声が聞こえる。その問いに、アルスはシオンと共に頷きを見せた。
正直言ってまだ頭痛と身体の怠さを感じるが、先程に比べれば慣れたのか大分マシになってきた……シオンの方も息の荒さが軽くなってる辺り同様のようだ。
「ではお二人は援護として奴が生み出す他の魔族の相手を……魔王の直接の相手は私達でします」
「……分かりました」
「ただし、奴が大地を操ろうとした場合はシオンさん……先程の様にアナタが止めてください」
「え?でも私の魔法、さっき破られて……」
「アレは恐らく奴の魔樹が直接アナタの植物に触れたためです……そちらの方は私が対処するのでご安心を」
「は、はい……」
次いで出される巫女の指示と説明……
それに対するシオンの疑問への答えを聞くに、先程のシオンの植物魔法が枯れた謎の現象は、魔王の"触れたモノの生命力を奪う"能力により起こったものらしい。
────内心納得するアルスを余所に、巫女は「よろしい」と言って次の指示を出していく。
「それではグラシア、間も無く先程呼んだ一角獣が来ます……貴方はこの場から離脱し、他の子達の助けに向かってください」
「なッ!?レイア様、何を……!!」
「奴に侵蝕されたのはあくまで森の一部……まだ生きている領域まで戻れば、加護によりアナタの天力も回復するでしょう」
「ですが、貴方を置いていくなんて私には……!!」
その指示に対し一角獣の騎士は必死に食い下がる様子を見せるも、彼女は「……最早状況は変わったのです」と首を横に振る。
「しかしやる事は同じ……奴の手駒を減らし、全ての戦力を奴に差し向けなければ……!ですからグラシア……改めてお願いです」
──────そして太い唸り声と共に一角獣が到着するのと同時に、高らかに剣を掲げ……力強く宣うのだった。
「神秘の森を侵す上級魔族を殲滅し、各部隊をここに集結させてください!!」
彼女の言葉にグラシアは苦い顔をしながらも「……分かりました」と了承し、一角獣に跨って走り出す。
「団長、アルス殿、シオン殿……どうかレイア様の事をよろしく頼む……!!」
「あぁ……わかった」
去り際に彼女が残したのは自らの主の身を案じる言葉。それに対しアルスは短く返すと、彼女と同じように自身も与えられた役目を果たさんと剣を握り……前方に向け構え出す。
『────【星の産声】……!!ククッ……さァ、遊んでやれ……!!』
その先で待ち構えていたのは、傷付いた身体を再生させ完全復活した魔王ハイル……そして奴によって新たに生み出された夥しい魔族の姿。
「三人共、ここが運命の分かれ目です……!どうか未来を切り開くため、力を貸してください……!!」
多勢に無勢、周囲の穢れの濃い瘴気、何よりも強大な敵である魔王────そんな絶望の中、巫女であるレイアは一切臆する様子なく剣を構えて前に進んでいく。
「いくぞ、シオン……!!」
「えぇ……!!」
そんな彼女に倣い、勇者アルスもまた……今現在側にいない仲間達の安否を気にしつつも、絶対的な窮地であるこの場を切り抜けるため、今はただ前へと進むのだった。
読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
次回からまた一旦視点が変わる予定です。
把握の方をよろしくお願い致します。




