52話:神秘の森の戦い・前編
〜前回のあらすじ〜
聖地アミナス教国で勃発した人類と魔族の大きな戦い……
空の戦場ではエルフ達が魔王を追い詰め、また他の場所でも国のエース部隊であるグリフォンナイトの活躍により局地的な勝利を収めることに成功する。
一方、時は少し遡り……地上の方では──────
先陣を切ったエルフ達の活躍は目覚ましいものだった。
・一振りの斬撃で広範囲の敵を一気に殲滅した巫女"レイア"
・一角獣の脚力を活かした神速の突進で敵の隊列を崩し、強力な風雷を纏わせた騎槍で道中の魔族を八つ裂きにした"グラシア"
・魔王が放った巨大な火炎魔法を難なく風を纏わせた斬撃で斬り払い、その上で周囲の敵を一掃した騎士団長"ペルデール"
その鬼神の如き強さの前では、前方に広がった魔族の大群は一瞬で屍へと変わり……彼等の軌跡を表すだけのものになる。
文字通り"奇跡"としか言いようがない大きな戦果──────それを成し遂げた天使達が敵陣の中へと姿を消した後……時は進み、現在へと至る。
「【竜の息吹】!!」 「【地獄の業火】!!」
「【不可逆の水流】!!」「【地獄の業水】!!」
「【散りゆく火花】!!」 「【地獄の業雷】!!」
「【風の通り道】!!」 「【地獄の業風】!!」
「【大地の捕食】!!」 「【地獄の業土】!!」
現在、舞台は広大な戦場……その中で起きているのは、巫女達の攻撃から生き延びた魔王軍との熾烈な魔法合戦。
両軍一歩も退かない拮抗した戦い……だが攻め込んで来ている向こうと異なり支援物資が豊富な分、持久戦は防衛側が圧倒的に有利だ。
『バシュンッ!!』『ドゴォッッ!!』
加えて此方の攻撃手段は魔法だけじゃない。
弩砲台と投石機────開戦前に設置された物理攻撃の数々が正面・上空から魔族の群れを襲い、敵の数を確実に減らしていく。
このまま巫女の言う通り敵の戦力を減らしていけば……魔王軍を打ち倒し、ひいては人類長年の悲願である"魔王討伐"を成し遂げられるかもしれない。
「なんだアレは!?」
「死体が生き返っただと!?」
──────そんな微かな期待・優位な戦況は突如、味方の動揺する声と共に亀裂が入る。
その理由は……開戦当初に巫女の斬撃により斃された筈の魔族の一部が起き上がるという異様な光景にあった。
「いや違う!報告にあった新種の魔族だ!!」
生き返った屍────その正体は城塞都市クヴィスリングで戦った、分裂能力を持つ"眼球の魔物"……
奴等は切断された身体を一気に分裂させ、一瞬で膨大な隊列を形成して此方へと襲い掛かる。
「あっちのデカいのはなんだ!?」
「確か"ゴーレム"ってやつだ!!」
そして更にもう一種────ゴーレムと呼ばれた"全身が土で構成された魔人"もまた、両断された巨体を繋ぎ合わせ……此方へと向かって来ていた。
『────────ッッッッッッッ!!!!』
新種の魔族。未知の敵。
味方の魔導士達は一斉に多種多様な属性の魔法を放ち、奴等の沈黙を図る。
・殺傷力の高い火炎放射の魔法
・水流による圧倒的な質量攻撃
・並の生物なら命中した時点で即死する雷
・ありとあらゆる物体を吹き飛ばす強風
・大地を罅割らせて全てを呑み込む魔法
仮に上級魔族が相手だったとしても、これだけの攻撃魔法を一斉に受ければ間違いなく斃れることだろう。
「オオオオ、オオォォォォ……ッッ!!」
──────しかし奴等はそれらの波状攻撃に対し呻き声を上げながらも、一切怯むことなく分裂・再生を繰り返し……大行進を続けていた。
魔王への忠誠心か、知性がなく恐怖が薄いのか、それとも執念によるものか……いずれにせよ正気の沙汰ではない。
まともな精神構造では成し得ない狂気を前に、徐々に味方の隊列は気圧され始め……遂には目前まで敵の接近を許してしまう事になる。
このままでは突破される──────────
「全部隊に告ぐ!!直ちに神秘の森へ退避し配置に付いた後、迎撃態勢を取れ!!」
そう思った直後、場に響き渡ったのは此方の前線指揮官であるスーヤ騎士団員の声。
一点でも綻びが生じれば隊列の崩壊は必至……魔導士達は彼女の号令に従い一斉に動き出す。
「こっちだ!!」
そして勇者アルスもまた……仲間達と共に騎士団員の誘導に従い、事前に指定された配置まで向かうのだった。
・・・
『ドゴォッッッ!!!!』
舞台は移り変わり神秘の森内部──────
目標地点に辿り着いた直後、轟音が鳴り響くと同時に早速敵が現れる。
"眼球の魔族の群れ"と"二体の土の魔人"
どちらも今し方自軍の隊列を崩壊させた元凶であり、強力な分裂・再生能力と厄介な特性を持つ難敵……
「レヴィン!俺と一緒に攻撃を!【竜の息吹】!!」
「う、うん……!【散りゆく火花】!!」
気付けば声が出ていた。差し迫った状況だったからだろうか。
降臨祭の一件以降気まずかった彼女に対し、アルスは自然と指示を出し共に魔法を放つ事に成功する。
『バチィッ!!』
しかし直後、突然割り込むように現れた土魔人の巨体によって攻撃が防がれてしまう。
直撃していれば少なくとも眼球の魔族を倒せていたであろう二属性の高火力魔法……それを奴は正面から受け止めたのだ。
恐ろしい耐久力──────だが、動きが鈍くなっている。恐らくレヴィンの雷魔法が効いたのだろう。
「オラァッ!!」
刹那、その隙を突くようにウォルフが飛び上がり、動けない敵に向かって勢いよく大斧を振り下ろした。
彼の"重力方向を操る固有魔法"により重厚な鎧の重量が加わったその威力は凄まじく、土の魔人は一瞬で真っ二つと化す。
「ゲッ!!」
「キモッ!!」
────その直後の事だった。
突如として嫌悪感を露わにするウォルフとレヴィン。
原因は彼等の視線の先……叩き割られた土魔人の奥から新たに現れた存在にあった。
「ア……ア……オアア、ア……ッッ!!」
それは"異形の化け物"としか形容しようがない……無数の触手と眼球の集合体。
『ギョロッ……』と一斉に此方へと向けられる視線────同時に奴の全身から強力な火炎が一気に放たれる。
「"風の奇跡"!!お返しよ……!!」
上級魔族の必殺技に匹敵する範囲・威力の魔法……それを受け止めたのはレヴィンの防御魔法だった。
彼女はそのまま詠唱により防御魔法を変質させ、敵に向かって跳ね返すように撃ち返す。
「──────【風の通り道】!!」
それはアミナス教国に滞在している間、彼女が新たに習得した風の中級魔法だ。
強風により巻き上げられ、大幅に威力を増した火炎魔法は……逆手に取られるように元の持ち主たる異形の化け物を瞬く間に消し炭へと変えたのだった。
「やった!……ってあ!?」
敵を倒した後、レヴィンが見せたのは歓喜を表すガッツポーズ。
きっと攻撃が命中したのが嬉しかったのだろう────が、直後にその声は取り乱したようなものに変わってしまう。
その理由は恐らく……というか間違いなくたった今彼女が火炎魔法を放ったのが、神秘の森内部である事に気付いたからだろう。
当然その後には大火事が……
「あれ……?」
──────発生しなかった。
普通なら森に引火し大惨事になる筈が、逆に火炎の方が霧散し何処かへと消えてしまったのだ。
まるで最初から……何事も起こらなかったかのように。
「大丈夫……っぽい?あの話、本当だったんだ」
目の前で起こった不可思議な現象に訝しむ様子を見せるシオン……彼女の呟きを聞いて、アルスは開戦前に聞いた話を思い出す。
今回の大戦における人類側の総大将である巫女曰く、なんでも神秘の森は全体が強大な奇跡の力で守られており並大抵の魔法による攻撃・介入を一切受け付けないとのこと。故に今回の戦いの舞台として選ばれたのだとか。
────今の現象を見るに、どうやらその効力は本物のようだ。
『ドゴォッッ!!』
そんなことを考えている間に、ウォルフとフィルビーがもう一体の土の魔人を倒していた。
フィルビーの麻痺の魔法で敵の動きを封じ、その間にウォルフが大斧による一撃を叩き込む……城塞都市クヴィスリングで黒い上級魔族を相手に共に戦っていた事もあり、二人の連携力は抜群みたいだ。
「ったくよぉ……なんだったんだ今のキメェのは」
「魔力の質から考えて……恐らく目玉の魔族の集合体みたいなものかと」
一先ず現れた魔物を全て倒し軽く息を吐く二人……だがその後ろでは既に、斧で粉々にされた筈の土魔人が再生を始めていた。
「二人共!後ろだ!!」
「きゃあっ!!」
「!?」
アルスの声に反応し、二人は即座に臨戦態勢へと戻る────が、同時に後方から聞こえたレヴィンの悲鳴に振り返ると、その先にはもう一体の土魔人の姿が。
恐らく最初に倒した一体目が復活したのだろう。
「私に任せて!【純朴なる愛】!!」
仲間を守るべく剣を構えるアルス────しかしそれよりも早くシオンが盾を構え、その先端から何かを発射した。
刹那、敵の身体から一気に植物が生え……土の巨体を拘束し出す。
『ズシイィィンッッッ!!!!』
当然暴れ出し、激しい抵抗を見せる土の魔人……だが何かに躓いたか、次の瞬間には盛大に音を立てて倒れ伏してしまう。
図らずも生まれた攻撃の機会……だが、この敵はどんな攻撃を受けても復活する再生能力を持っている。
上級魔族をも上回る不死性……一体どうすれば倒すことが出来るのか────────
「身体の中に一際魔力反応が強くて硬いモノがある……そこが弱点です!!」
「!!」
未知の敵の攻略法という迷宮を前に、不意に天啓のように降りてきたのはフィルビー・マーガレットの声。
彼女の指示を聞いてアルスはハッとする。
どんな攻撃を受けても復活する再生力────それは確か以前戦った"全能のフォルリア"も同じだった。確か奴の場合は……
『─────ドスッ』
記憶を手繰り寄せ、見つけた答えを確かめるように……勇者アルスは土の巨体に剣を突き立て、深々と突き刺す。
瞬間、奥の方から『パキィッ……』と乾いた音が聞こえ……動きが止まった魔人の身体はボロボロと朽ち果てていった。
「やはり、そうか……」
その光景を前に、アルスは確信する。
フォルリアの身体の中にもあった光る結晶────恐らくはそれと同等の効力を発揮する"再生の核となる物体"がこの魔人の中にも入っていたのだろう、と。
「だが、どういうことだ……?」
しかし一方で、彼の中に新たな疑問が生まれてしまう。
確か、一角獣の騎士から聞いた話によれば結晶は……
「アルス!こっちも終わったぜ!!」
「あぁ……助かる」
──────どうやら向こうも無事に土の魔人を倒せたようだ。
ウォルフから声を掛けられたことにより、アルスは一旦巡らせていた思考を止め、戦いに貢献した仲間達に労いの言葉を掛け始める。
「シオンもありがとう……今の敵を倒せたのは君が動きを止めてくれたおかげだ」
「え?あー、うん!まぁねっ」
「盾から何か飛ばしてたが、アレはなんだ?」
「ふふんっ驚いた?アレはね……私の新兵器!アミナス教国の加工屋さんって凄いんだから!」
「加工屋?」
その際に戦闘中に気になった事をシオンに聞いてみた結果、判明したのは彼女は自身の兄から託された盾を、今後の戦いに備えて自分用に改造していたという事実。
彼女曰く、小型の矢を盾の内部に装填し魔力を込めて発射出来る仕組みらしい。
先程敵の身体から直接植物魔法が発動したのも、彼女の魔力を付与した矢を直接撃ち込んだ為とのこと。
「なるほどな……それで敵の足を拘束して転ばせたわけか」
「……」
「シオン……?」
「そこなんだよねー……ねぇアルス、これ見てよ」
疑問が解消され納得するアルス……一方で、シオンはどこか浮かない表情を見せる。
普段とは異なる雰囲気に気付き声を掛けると、彼女は地面の方を指し示すのだった。
──────その先にあったのは、たった今倒した土の魔人の残骸。
大半はボロボロに崩れてはいるものの……一部朽ちることなく残っていた奴の足には木の根っこが絡み付いていた。
「これは君が……?」
「ううん……この森、どうにも私の魔力も受け付けないみたいで……さっきから魔法が使えないの」
「なに?味方側の魔法もダメなのか……」
「そうみたい……だからわざわざ、さっきみたいにして魔法を発動させたのよ」
「ならこの根っこは偶然か?それとも……」
シオンが言うには、先程土の魔人を転ばせたであろうこの木の根は……彼女自身の植物魔法由来のものではないらしい。
それならばたまたま生えていたそれに偶然敵の足が絡まったという事になるが……それにしては根の絡まり方が少々不自然に感じる。
それこそ魔法で操りでもしなければこんな風には……
「そういえば……」
──────考え込んだ末、アルスの頭の片隅で再び過去の記憶が甦る。
"この森は己が意思を持っている……自在に形を変えて私達を目的地まで導き、逆に外敵が迷い込めば即座に土に還してくれるのさ"
確かアミナス教国に訪れた当初、一角獣の騎士はそんなことを言っていた。
あの言葉をそのまま受け取るならば、敵を躓かせたこの木の根っこも神秘な森自体が起こした現象の可能性が高い。
「とにかくごめんアルス……私、今回の戦いはあまり全力出せそうにないわ……代わりに防御魔法とかの援護は頑張るから」
「わかった、無理はしないでくれ」
確証はまだ持てない……が、嘘か真かは、このまま戦いを続けていけばいずれ判明するだろう。
アルスはシオンを気遣いながら、そのように考え……次の敵襲に備えて剣を握り直すのだった。




