49話:罪を滅し、来たれり
〜前回のあらすじ〜
降臨祭の日、魔王によるアミナス教国・首都ヤーラへの攻撃を皮切りに幕を開けた人類連合軍と魔王軍の戦い……
人類を率いるスーヤ騎士団でも指折りの実力者であるエルフ達が先陣として切り込む中、遂に人類の宿敵たる魔王"ハイル"がその姿を表した──────!!
※今回はエルフ族の騎士であるグラシアが視点の話です
「──────まだだ……定まれ……!!」
前方に立つ樹木の魔物……奴が漆黒の外套の隙間から出した触手状の枝を拳のように握り締めたその瞬間、身体から放たれる滅紫色の魔力が収束していき……別の色へと変貌を遂げる。
それは、全てを喰らい尽くす闇──────
先程巫女の不可視の斬撃を正面から防ぎ切った滅紫色の魔力の鎧を更に凝縮したオーラ……
その防御力が如何程のものか、これまで幾多の戦場を一角獣と共に駆け抜けてきたグラシアであってさえ、計り知れるものではなかった。
"魔王ハイル"
魔界で生まれた最初の魔物にして、長年に渡り大陸タルシスカに攻撃を仕掛けてきた魔族の長。
その容貌はスーヤ騎士団員のみが閲覧出来る過去の戦争の資料で見たものとは異なっていたが、その身から放たれる禍々しくも絶大な魔力と対面しただけで息が詰まる凄まじい威圧感……
「魔王……ハイル……!!」
────そして何より、実際に対峙した経験のある巫女が今し方発した言葉から考えて、奴こそが魔王ハイルであることは疑いようがない。
「我が騎士グラシア……魔王までの道を、その手で切り開くのです」
「往け……!!あの忌々しき樹海までの道を切り開くのだ」
人類連合軍と魔王軍、双方の長の命令が戦場に響く。
瞬間、魔王の命に応えんと巫女の攻撃に怯んだ筈の魔族の大群が再び押し寄せてきた。
「行くぞ!ユニコーン!!」
それに対しグラシアもまた、自らが役目を果たさんと一角獣の背中に巫女を乗せ戦場を駆け出すのだった。
「────【一角獣の行進】!!!!」
魔王を神秘の森に到達させるわけにはいかない……その想いを乗せて放つ技は一角獣の突進と構えた騎槍、そして雷と風の奇跡の合わせ技。
一角獣の力により底上げされた威力は凄まじく、文字通り放たれた魔法ごと敵の隊列に大きな風穴を空けた。
「────【地獄の業火】!!!!」
その奥から迫り来るは魔王の業火。
魔族にとっての基本的な魔法……だが魔王が放つソレは、他の魔族が放つモノとは比べ物にならない程に大きく一気に広範囲へと広がる。
水の防御結界────人の子達が使う防御魔法に相当する技で防ぎ切れるか。
一瞬の判断が死に直結する戦場……目の前を覆う灼熱の壁を前にグラシアが表情を顰めた、その時だった。
『ビュオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』
突如目の前に大きな影が飛び出て、風の奇跡を纏いし剣で業火を斬り払う。
それを成したのは……広げた翼で一角獣達に追走してきた大陸最強の剣士────ペルデール。
「〜♪」
刹那、彼の働きに続いて巫女が再び歌を刃に乗せて魔王へと斬撃を放つ。
「「「グギャアアアアアアアアアアッッッ!!!」」」
……が、最初の一撃と同様その攻撃は魔王に損傷を与えるには到らず、周囲の魔族達を両断するだけの結果に終わった。
原因は明らか……開戦当初から奴の身体を覆うドス黒い闇のオーラだ。
他の魔族とは一線を画する魔王の魔力を凝縮させたであろう魔力の盾は、魔法による攻撃を一切寄せ付けない圧倒的な防御力を誇っていた。
──────ならば、接近戦しかない。
「……【魔樹降誕】」
軍勢を切り払い、いよいよ目前まで迫ったグラシア達に対し魔王は新たに呪文を唱える。
直後、地中から這い出て此方に襲い掛かるは瘴気を撒き散らす大量の樹木──────
「二人共、アレに捕まってはなりません!!」
瞬く間に周囲に展開される飽和攻撃を前に巫女が叫ぶ。
魔王に触れられた者は、その生命力を奪われる……決戦前、彼女はそう言っていた。
恐らくは、この樹木を介してもその条件は満たされてしまうのだろう。
『バキャア……ッ』
全方位からの物理攻撃をグラシアは騎槍に、巫女と騎士団長は剣に奇跡の力を乗せて一気に粉砕した。
窮地を切り抜けた矢先、砕かれた樹木の隙間から姿を覗かせた魔王は感情を発露するように顔の奥底の結晶を光らせる。
「久しいなァ……スーヤ・レイア」
「会いたくはありませんでした……ハイル」
嘲笑うような呼び掛けに眉を顰める巫女──────彼女は既に魔王の背後を取り、剣を構えていた。
「いきますよ……!!」
主の呼びかけに合わせ、グラシアは再び騎士団長と共に攻撃態勢を取る。
今度は三位一体……大陸における最高峰の実力者三人による同時攻撃。
『ドンッッッ!!!!』
通常の上級魔族であれば確実に仕留められたであろう連携技────その結果は新たに地中から出現した樹木に阻まれ、あるいは軌道を逸らされ失敗に終わってしまう。
「愚かな……瘴気がなければ私を倒せると驕ったか?」
この硬度、そして圧倒的な物量……魔法だけじゃない。物理攻撃に対する耐性まで……!
────魔王が誇る絶対的な防御力に驚愕を見せるグラシア。
「これで終わりだ……!!」
その間にも『メキメキ……ッ』と音を立てて周囲の樹木が再生・膨張し、此方を押し潰さんと迫ってくる。
これだけの範囲の攻撃……最早グラシア個人の力で捌き切れないのは明らかだった。
「ありがとう……二人共」
だが、この戦いは一人じゃない。
巨大な影に押し潰される寸前、聞こえてくるのは巫女の静かな声。
「おかげで魔王にここまで接近することが出来ました」
次の瞬間、世界は一変する。
大量の樹木は一気に斬り払われ、光差す先に広がるは──────これまでと全く異なる景色。
「なッ……!?コレは……」
天地がひっくり返る。平衡感覚がなくなる。
突如として起きたその現象に、流石の魔王も動揺を隠せない様子だ。
「近年の大陸への本格的な侵攻、そして我が子達の誘拐と虐殺……遂に本性を現したようですね」
身体が風を切る中、透き通るのは魔王に語り掛ける巫女の言葉。
普段は優しく穏やかな彼女だが、奴に向ける瞳に満ちているのは冷たくも激しい怒りの感情だけ。
「魔王ハイル────覚悟なさい……!!今日この場を以て、アナタという罪を浄化して差し上げましょう」
長年の宿敵に向け剣を構え、力強く宣言する我らが巫女……レイア。
彼女の、グラシア達の真上にはどこまでも広大に続く美しい自然──────"神秘の森"が広がっていた。




