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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第一章:ヴァイゼン村編
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5話:魔法の糸

 "雷魔法(かみなりまほう)"

 自然魔法(しぜんまほう)一種(いっしゅ)ではあるが、"火・水・土・風"の基本属性に比べて適性(てきせい)を持つ者が少ないやや希少(きしょう)な魔法。

 その性質(ゆえ)に手数・威力(いりょく)・速度の全てにおいて高水準(こうすいじゅん)であり、万能な魔法と呼ばれている。


「ええいッ!!!」


 ────前方に(せま)る魔族の()れにレヴィンは(つえ)を向け、声を出しながら魔力を放出(ほうしゅつ)する。

 やがて、放出された魔力は『バチバチッ…』と音を立てて雷へと変質(へんしつ)し、魔族の群れに向かって()(そそ)がれた。


「「「ガアアアアアアアアッッッ!!!」」」

 雷をまともに()びた魔族は悲鳴(ひめい)を上げ、黒焦(くろこ)げになって次々と倒れていく。


「やるじゃねぇか…!」

「行くぞ、ウォルフ!」


 その様子を見て口角(こうかく)を上げるウォルフ────そんな彼にアルスは(うなが)して共に前へ出る。

 そんな時、不意に後ろから「あ、待って!」とレヴィンの(あわ)てるような声が(ひび)く。


「私は…魔法の制御(せいぎょ)が上手く出来ないの!下手したら当てちゃうわ!」

「!!」


 続けて彼女の口から出てきた言葉を聞いて、彼女に使用魔法や得意戦法を聞いた時に何も言わなかったことや、魔獣(ヘルハウンド)との戦いで魔法を()たなかった理由が分かった気がした。


「いいから撃て!!」

「はぁっ!?」


 ───しかし今はそんな欠点(デメリット)のことを考える余裕(よゆう)はない。


 強大な敵である上級魔族(シルク)の存在に加え、圧倒的な数の差……それらの劣勢(れっせい)(くつがえ)すには雷魔法による援護(えんご)不可欠(ふかけつ)

 そう考えたアルスは剣で敵を(さば)きながら必死に(うった)える。


「レヴィン……俺を信じろ!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!もう!どうなっても知らないんだから!!」


 その結果……レヴィンはその思いに(こた)えるように後ろから雷魔法を放ち続けてくれた。



「ウォルフ、お前は無理しなくていい!レヴィン達の近くで……」


 ()いでアルスは(となり)で戦っているウォルフに指示を出す。

 前方からの大量の敵と後方からの雷魔法に(はさ)()ちされる危険な状況(じょうきょう)に巻き込まないためだ。


「……ウォルフ!?」


 ───しかしそこで隣にいたウォルフの姿が見えないことにアルスは気付く。


大将(たいしょう)は俺が仕留(しと)める!!」


 不意(ふい)に上から聞こえたウォルフの声に視線を移すと、そこには空を飛ぶウォルフの姿が見えた。

 周囲に風の魔力が発生していないあたり、どうやら風魔法による飛行ではなさそうだ。


「オラァッ!!」


 ウォルフはそのまま大剣(たいけん)を構え、急降下(きゅうこうか)して魔族の群れに突っ込んでいった。

 どんな原理で飛んでいるのかは分からないが、あれならウォルフが後方から雷に撃たれる心配はない。



「【竜の息吹(ドラク・スフル)】!!」


 アルスは安心して後方からの雷を避けつつ、火炎放射(かえんほうしゃ)(せま)()る魔族を()()くしていく。

 何匹かはそれでも咆哮を上げながら突っ込んでくる────その執念(しゅうねん)に感心しつつもアルスは(とど)めを()そうと剣を構えた。


「【不全なる器(パラライズ)】」


 瞬間、後方からフィルビーの声が響くと同時に眼前の魔族の動きが止まり、その隙を突くようにアルスは一気に斬り殺していく。

 何の魔法かは分からないが、おかげで無傷(むきず)()んだ。


「フィルビー、助かった!」

「私は今みたいな麻痺(まひ)の魔法と治癒(ちゆ)魔法が使えます!ただ攻撃魔法の(たぐい)は全然使えません!ごめんなさい!」

「いいや、(いや)し手の存在は貴重(きちょう)だ!頼りにしてるぞ!」


 出会ったばかりで彼女の実力に関しては全く把握出来ていなかったが、どうやらフィルビーは回復魔法や補助系(ほじょけい)の魔法など戦いにおいて重宝(ちょうほう)される魔法を(あつか)えるようだ。

 その力を頼もしく感じながら、アルスは敵を倒し続けていく。



「はぁッ!!」

「やああッ!」

「【不全なる器(パラライズ)】!」


 気が付けば、戦いが始まった当初(とうしょ)よりも大分(だいぶ)敵の数が減ってきた。

 レヴィンの雷魔法とアルスの炎魔法で敵の数を減らし、接近してくる敵はフィルビーが足止めしてアルスが処理(しょり)する。

 そして後方に(ひか)えている敵は、敵陣(てきじん)(もぐ)()んだウォルフが(あば)れ数を減らす…戦況(せんきょう)(おどろ)くほど理想的だ。

 この調子ならいける……と希望を(いだ)き始めた時だった。


「ウォルフ!?」


 魔族の群れの中からウォルフが(すご)(いきお)いで(ころ)がってきた。

 見たところ大きな外傷(がいしょう)はないようだが……確かなのは重厚(じゅうこう)(よろい)を着たウォルフをここまで吹っ飛ばした()がいるということだ。


「あの野郎…!」

 ウォルフはなんとか立ち上がり、前方を(にら)み付けた。

 その先には、やはり敵の首領(しゅりょう)である魔物────シルクの姿が()った。



「……【天の糸(ウラノスレッド)】」


 次の瞬間、シルクは呪文(じゅもん)(とな)えその身体から膨大(ぼうだい)(いと)のようなものを放出(ほうしゅつ)した。

 魔力で出来た魔法の糸…(おそ)らくアレが先程アルスの身体を引っ張り、ウォルフを吹き飛ばした()()()正体(しょうたい)だ。


「どいて!!」


 嫌な予感がした時、不意にレヴィンが前に出て前方に雷魔法を飛ばす。

 先程よりも大量(たいりょう)の魔力を込めた一撃……当たれば相手は一溜(ひとた)まりも無いだろう。


「お願い…当たって!!」

「……【雲の巣(トゥワルボルケ)】」


挿絵(By みてみん)


『ピシャアッッッ!!!』


 ────しかし雷鳴(らいめい)と同時に放たれたそれは、シルクが前方に展開した蜘蛛(くも)()のような糸の魔法に容易(たやす)く防がれてしまう。

 威力(いりょく)には自信があったのだろう……傷一つ付いていない糸の壁を前にレヴィンは「なっ…!?」と驚愕(きょうがく)していた。



「【苦悶の糸(クヴァルスレッド)】」


 しかし(おどろ)いている(ひま)はなく、今度は前方に展開された蜘蛛の巣が分散(ぶんさん)し、一気にアルス達に襲い掛かる。

 咄嗟(とっさ)にウォルフと二人で斬り払うも、まるで波のように糸は絶え間なく押し寄せてきた。


「チッ!この糸……まるで生きてるみてぇだ!!」


 (すさ)まじい手数と速さ────それだけじゃない。

 ウォルフの言う通り、魔法の糸はシルクの指揮(しき)するような動きに合わせて、まるで生き物を思わせる動きで縦横無尽(じゅうおうむじん)に攻め立ててくる。


「【地獄の業火(インフェルノ)】」


 動きが(とら)え切れず防戦一方(ぼうせんいっぽう)の中、(たた)()けるようにシルクは虚空(こくう)から炎を発生させ、アルス達の周囲に展開された蜘蛛の巣に撃ち放つ。


「【妬け堕ちる糸(インフェルノスレッド)】」


 ────瞬間、『ゴオオオオォォォッッッ!!!』と音を上げて周囲の糸は紅蓮(ぐれん)の炎に染め上げられる。


「くそっ…!」


 このままでは焼き殺される……そう考えたアルスは咄嗟に水の防御魔法(ぼうぎょまほう)を展開し、炎を消す─────が、その行為こそが命取りだった。


「くっ…!」

「きゃあ!」

「クソッ…!」

「きゃっ…!」


 他の事に集中力(リソース)()いた結果、魔法の糸の動きを見失い……全員拘束(こうそく)されてしまった。

 その刹那(せつな)、勝利を確信した魔族の雄叫(おたけ)びが聞こえる。


「終わりだ人間共、我が同胞(どうほう)の命を(うば)った(つみ)……(あがな)うがよい」


 動けないアルス達に向かって、敵の首領───シルクは忌々(いまいま)しげに(つぶや)きながら、周囲に放出した魔力を業火へと変質させる。

 アルス達を縛る水気(みずけ)を含んだ糸とは別に展開された糸に放たれた(それ)は、糸を(つた)い……まるで死の宣告(せんこく)とでも言うように少しずつ此方に迫ってくる。


「うぅ……!」


 絶望的な状況の中、不意に聞こえたのはレヴィンの小さな(うめ)くような声。

 思わず目線を移した先……彼女の目からは(なみだ)(あふ)れ出ていた。


 そんな彼女の心の中を反映(はんえい)したかのように……いつの間にか空からポツポツと、雨が()(はじ)めてきていた。

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました! 勇者、魔法使い、戦士、僧侶と王道ファンタジーです。途中の挿絵でより描写のイメージがしやすいです。 この先、レヴィンがどうなるのか、とても気になります!!
前回に続いてシルク関連の感想ですが。 率直な感想、凄く好きな敵キャラだなぁと感じます。 序盤で登場するには早すぎるのではと思うほどに圧倒的な強さ。糸を用いた技を主軸としているのもカッコいいですね…。 …
2025/05/12 19:05 ロクティス
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