38.5話:憧れと弱音
番外編です。この話はアルスがスーヤ騎士団からの誘いに対する相談をシオンとした後の、幼馴染二人の秘密の会話です。
「にしてもアルスさ……改めてだけど、ちょっと雰囲気変わったね」
「え?そ、そうか……?」
それは巫女レイアからの"スーヤ騎士団に入らないか"という誘いに対し、勇者アルスが自身の考えを纏めた後の事だった。
幼馴染の少女────シオンからの思わぬ言葉に動揺を露わにするアルスに対し、彼女は「えぇ……」と言葉を続ける。
「昔よりなんか、すごく頼りになる感じがするもの……正直ちょっと驚いたわ」
「そういうことか……これでも一応一つの部隊を率いる勇者だからな。そう見えたならよかったよ」
「そうね……まるで兄さんみたい」
それは数年間離れ離れになり、久しぶりに再会した幼馴染からの飾り気のない素朴な感想。
兄さん────"勇者カリヴァ"みたいだと言われた赤髪の青年は、思わず「ふっ……」と自嘲的な笑みを浮かべる。
「やっぱり俺は……君の言った通り、無意識に真似てるのかもな」
「え?」
「ずっと、憧れだったんだ……いつも堂々としていて、自分で未来を切り開いていくカリヴァが」
「アルス……」
かつては揶揄われた……いつの間にか染み付いてしまった親友と似たような口調・立ち振る舞い。
"勇者"になってからはより意識的に彼の振る舞いを真似るように……それだけアルスにとってカリヴァは理想的な、まるで物語に出てくるような"英雄"そのものだったのだ。
「彼と同じ立場になってよく分かった……皆を導く勇者になった以上、弱気な姿は見せられないって」
そして同時に、これまでは思い至らなかった勇者としての苦悩にも気付くようになった。
皆の前では自信があるように見せ、その場その場で自信が正しいと思う判断を下しているものの……実際にそれが本当に正しい選択だったのか、後で悩むことも多々だ。
「でもな、本当は不安なんだ……俺はちゃんとカリヴァみたいに正しい判断を、行動を出来てるのかって」
「……」
「ははっ…もしかしたらカリヴァも今の俺と同じように悩んでたのかもな……今更気付かされるなんて」
レヴィン・ウォルフ・フィルビー……他の皆には決して見せることはなかったアルス自身の苦悩。
それを今打ち明けることが出来ているのは……ひとえに相手が幼少期から共に過ごし、家族同然の相手であるシオンだからだった。
尚も自嘲的に笑うアルスに対し、シオンは「そうかもね」とすげなく返すが……
「でもね、アルス……どれだけ近づいても、強くなっても、アナタは兄さんとは違うわ」
「なに?どういう意味だ……?」
「だって……アナタには私がいるもの」
「!!」
──────続いた言葉はアルスが予想してもなかったもの。
面を喰らう勇者に対し、茶髪の少女は普段とは少し違う……真剣ながらも優しさを感じさせる表情で向き直ってくる。
「今だってこうやって話してくれた……私の前でだけは、昔の弱いアルスに戻っていいんだよ」
「シオン……」
「兄さんは私にはそういう弱音見せてくれなかった。だからアナタはちゃんと、私を頼ってよね……アルス」
「……あぁ」
不意に風になって自然を感じさせるいい匂いが流れてくる。きっと神秘の森から運ばれてきたものだろう。
「そうだな、そうさせてもらうよ……今ここに、昔の俺を知ってるのは君だけだからな」
その中には彼女が好きな花の香りも含まれていた気がした。しかしその中に彼女が特に好きだったあの花の姿はない。
カリヴァと無事再会出来たら……いつかまた、故郷に帰って三人で見に行きたい──────
自身を優しく包み込むような甘い言葉を言うシオンに対し、アルスは感謝を述べつつも内心であの頃の夢の続きへと想いを馳せるのだった。




