42話:訓練の時間
前回の内容と同じになるので、今回はあらすじなしです!
代わりにこれまで説明してきた重要な用語を改めて解説させて頂きます。
※既にほぼ説明してる内容のため、読み飛ばしても問題はないです。
魔王討伐隊:表向きは魔王討伐を目的とした勇士の組織。実態は各国の集団から疎まれた者達で構成される使いっぱしりのゲリラ部隊。
スーヤ騎士団:大国アミナス教国が擁する大陸最強の騎士団。国を率いるエルフ族や上級魔導士のみで構成された少数精鋭の部隊で、大陸の平和のため各国を駆け回っている。
スーヤ教:大陸中央の宗教国家アミナス教国が主体となって布教し、世界中で信仰されている宗教。その原点は大昔地上に降りてきた女神による教えとされる。
エルフ族:かつて女神によって奇跡の力を与えられた元人間。寿命が長く、元人間のため人類に友好的。女神の教えであるスーヤ教を広めている。
奇跡:エルフ族が起こす魔法と非常に良く似た現象。かつて瘴気から人々を守ったエルフ族の御業を讃えそう呼んだとか。一部の地域ではエルフ族への敬意から防御魔法を出す際に「〜の奇跡」という呼称を詠唱のように用いるらしい。
巫女:スーヤ教における最上位の役職。エルフの中から一人選ばれ、就いた者には神の名の一部である「レイア」の名が与えられ、女神の声を聴くことが出来るとされる。
降臨祭:アミナス教国で一年に一回催される行事。当日には普段一般人の立ち入りが禁じられる大聖堂の一部が解放され、そこで舞踏会が開かれる。祭りの終わりには、巫女から民衆へ女神より賜りし啓示が送られるという。
聖地アミナス教国・アミナス兵団訓練場にて行われた二人の貴族姉妹による決闘……
その結果は、勇者アルスの仲間であるレヴィン・トゥローノの勝利となった。
「どーよグラシア様!?俺らの仲間の力はよ!!」
「だからアンタは失礼だってば!!」
その後に繰り広げられた光景は、今回の決闘を認めその立会人を務めたエルフの騎士────グラシアに意気揚々と絡むウォルフとそれを止めるレヴィンの姿。
対するグラシアは「あぁ…認めよう、此方の完敗だ」と平然とした様子を見せる。
「……結局此方が勝ってしまったが、そちらの兵士達は大丈夫なのか?」
相手側から仕掛けてきた決闘とはいえ、実質的に被差別階級である魔王討伐隊に負けたとなれば、アミナス兵団の兵士達の矜持に傷が付き士気に影響するのではないか?
かねてより考えていた懸念をアルスが口にすると、当の彼らを率いる立場のグラシアは一瞬目を丸くした後、軽く微笑んだ。
「決闘に勝った後、最初にするのが相手への心配か?ふっ……周りを見てみるがいい」
「……!」
彼女に促されるまま周囲を見渡すアルス────直後、飛び込んできたのは依然として湧き上がる兵士達の姿、そしてレヴィンや自分達に向けられた賞賛の声の嵐。
他の国では見られないであろう品格の高さ……勇者アルスは眼前の光景に軽く感動を覚えた。
「多くの者は君達の勝利を素直に受け止めている……それが出来ない者も、今の決闘を見て己が認識を改めるだろう」
「それがこの決闘の目的なのか?一体何のために……」
「我らとしても現状の魔王討伐隊を取り巻く状況は本意ではない、ということだ」
そんな中、一角獣の騎士は溜め息を吐きながらも淡々と言葉を続けていく。
「かつての魔王討伐隊は、各国の有望な戦士達が自ら志願するような……真に正義の心を持った精鋭の集まりだった」
「なに……?」
「それがいつしか立場の弱い者達が押し付けられる汚れ仕事と化し……今や発足当初の理念はすっかり形骸化してしまった」
「……」
────それは初めて聞く話だった。
魔王討伐隊が元々スーヤ騎士団の意向により設立された組織だったということは知っていたが、アルスの幼少の頃には隊員の扱いは現在と同じものとなっていた。
内心そのことに疑問を感じてはいたものの、今の彼女の話を前提にすれば納得出来る。
戦いが長期化し戦況が悪化するに連れ……徐々に魔王討伐隊の在り方そのものが歪んでしまったのだ。
「……だが、カリヴァ隊やアルス隊の活躍のおかげで少しずつ風向きは変わっている……今が好機なんだ」
「……?」
「大陸の中心である我が国の兵士達の意識が変われば、いずれそれは大陸中に伝播していくだろう……そのために君達を利用したことについては申し訳ないと思っている」
「……!」
続けて紡がれる一角獣の騎士の言葉────それを聞いて、アルスは漸く今まで掴めなかった彼女の行動の真意を理解出来た気がした。
「……まさか、初めから勝たせるつもりだったのか?」
「何を言う……結果自体は読んでいたが、勝利の女神を呼び寄せたのは紛れもなく彼女自身の実力だ」
結果的に双方の利になった今回の決闘……どうやら一角獣の騎士にとっては見え透いた、掌の上の事象だったらしい。
その先見性────あるいは彼女の上の者による指示か……?
いずれにせよ、底が知れないとアルスは感じた。
「とにかく……共に戦うことは叶わなかったが、君達には期待している」
そのようにエルフ族に対して一種の畏怖のようなものを覚えていると、それまで周囲の兵士達に目を向けていたグラシアは此方に振り向き……手を差し伸べてきた。
「魔族に怯える人々のため、共に頑張ろう……アルス隊の諸君」
「あぁ……」
アルスはその行為を前向きに捉え、迷わず差し伸べられた手を取る。
魔族という共通の敵と戦う者同士……味方であればこれほど心強い存在はない。
思惑通りに事を運ぶその手腕は少しばかり恐ろしくも感じるが、結果的に行動を見れば双方のためになるように従事している。
何よりもこれまで関わった限り、彼女自身は高潔で信頼に値する人物であると勇者の勘は言っていた。
「──────グラシア」
そんな時、不意に聞こえてきたのは目の前の騎士を呼ぶ誰かの声。
その先にいたのは……獅子を彷彿とさせるような一人の大男だった。
エルフ族特有の尖った耳、ウォルフに並ぶ体格、何よりも男から感じるただならぬ雰囲気……
強い────相当な実力者だ、と一目見てアルスの直感は警鐘を鳴らす。
「団長……」
男からの呼びかけに振り返り反応するグラシア……彼女が放った言葉に仲間達が一瞬ザワつく。
次いで上がるシオンの「今、団長って……」という声に答えるように、レヴィンは突如姿を現した男の素性を説明する。
「う、うん……あの方がスーヤ騎士団の団長……ペルデール様よ」
その名前は説明されるまでもなく知っている……大陸タルシスカにおいて"最強の剣士"の称号を恣にしているエルフのもの。
幾多の戦場において数々の奇跡を起こしてきた彼の活躍は大陸中を駆け巡っており、アルスのようにスーヤ騎士団員の詳細に明るくない者でもその名を知らぬ者はいない。
「すごく強そう……だけど目、お怪我されたんでしょうか……?」
そんな大陸最強の騎士団の団長を前にして、仲間の少女───フィルビーは心配そうに呟いていた。
彼女の言葉通り、ペルデールと呼ばれた男の左眼は黒い眼帯で覆われている。
きっと魔族との戦いで付いた負傷だろう。
─────そうやって一行がザワついている間にも、グラシアとペルデール……二人のエルフによる会話は進んでいく。
「朝から人集りが出来てるかと思えば……お前の差し金か?」
「えぇ、団員達の刺激になると考え承認しました……団長にはお気に召しませんでしたか?」
「いや、そうでもない……今、国中が注目している存在……おかげで私も興味が沸いた」
やがてペルデールは顎に手を当て感心したように呟くと、何を思ったのかアルス達に向かってゆっくりと歩き出した。
瞬間、場に緊張が走る。
一角獣の騎士も「団長、何を……?」と訝しげな視線を送るが、それらを意に介することなくスーヤ騎士団の団長は一行の前に足を止め……その手を差し伸べる。
「どうだ君達……今日だけでも訓練を共にしてみないか?」
直後、彼の口から放たれたのは思いも寄らない提案。
余りにも唐突な出来事だったが、アルス達は抗うことなく流れのまま……アミナス兵団の訓練に参加することになったのだった。
・・・
時は流れ……訓練を終えた頃、日は傾き辺りは暗くなりつつあった。
「……」
宿への帰路に就く中、一行は誰も口を開かなかった。
訓練の疲労が話をする気力を奪ったのだ。
アミナス兵団の訓練にはスーヤ騎士団から教官が交代で付くらしく、今回アルス達は一角獣の騎士が課した訓練項目を次々と熟していった。
「はぁ…はぁ…」
しかし、これまで身体の鍛錬をしてこなかったレヴィンにとってそれは過酷な内容だったのだろう。
息を切らしながら歩いていた貴族の少女は、不意によろりとふらついた。
「おっと……大丈夫?」
「肩、貸しますね」
「あ、ありがとう……」
────が、それを彼女の近くにいた二人の少女が支える。
今回の訓練で、レヴィン・フィルビー・シオンの三人はグラシアから直々に接近戦における体捌き等を教わっていたようだった。
勿論実戦では前衛の自分やウォルフが彼女達を守るのが基本ではあるが、それでも仲間の生存率が上がるよう指導してもらえたのは隊を率いる勇者として有り難かった。
「大丈夫かよ?お嬢様……随分とシゴかれたみてえだな?」
「うっさい……大体、アンタの方はどうなのよ?ペルデール様に稽古をつけてもらってたみたいだけど」
フィルビーに支えられつつ歩くレヴィンに顔を覗き込むようにして揶揄うウォルフ。
そんな彼にレヴィンがシッシッと手を振りながら言葉を返すと、ウォルフは「あぁ、アレか……」と少し苦い表情を見せる。
「チッ……強いとは思ってたがまさかあれ程とはな」
「あぁ、まるで俺達の動きが全て見切られてるようだったな……」
女性陣が一角獣の騎士から直接指導されていた一方で、アルスとウォルフは今回スーヤ騎士団の団長であるペルデールからの要望で彼と手合わせを行なっていた。
しかし結果として、ペルデールにまともに攻撃を当てることは叶わなかった。
二対一という此方に有利な条件だったにも関わらず、彼は木剣一本でアルス達の攻撃を受け切り圧倒したのだ。
最後の最後に攻撃を掠らせる事が出来たのがせめてもの救いだったが……
「そんな、アルスさん達が……?」
「やっぱ凄いのね……スーヤ騎士団って」
「俺も少しは強くなったと思ったんだがな……流石に落ち込むぜクソッ」
その事実にフィルビーとシオンは驚きを見せ、ウォルフは肩を落としていた。
一方で落ち込む彼を見て思うことがあったのか、レヴィンは「別にそこまで落ち込まなくてもいいんじゃない?」と声を掛ける。
「ペルデール様はほら……たった一人で上級魔族を何体も倒してる本物の英雄だから」
「あんな奴らを一人で!?化け物かよ……」
────しかし、続く言葉がウォルフの肩をより一層下へと落とした。
彼女にしては珍しい彼への励ましのつもりだったのだろうが……
「……世界はまだまだ広いってことだな」
伸し掛かる事実に、勇者アルスは軽く溜め息を吐く。
この数ヶ月、アルス達は確かに強くなった。
上級魔族を三体も倒し、当初は見習い魔法使いのレベルだった仲間もアミナス兵団の魔導士を倒せるレベルまで成長した。
しかし、世界にはまだペルデールのような猛者や全能のフォルリアのような怪物も存在している。
これからの戦いで仲間達と共に生き延びるには、より強くならなければならないだろう。
「追いつけるよう、俺達も頑張ろう……!」
ここしばらく、平和に過ごしていたが戦いはまだ終わりじゃない。
そんな想いを込めて気を引き締めるように声を掛けると、仲間達は応えるように静かに頷いた。
「それはそうとさ……アルス!約束、忘れてないよね?」
「レ、レヴィン……」
しかしその直後、詰め寄ってきた金髪の少女の勢いにアルスは思わず怯まされてしまう。
「あ、あぁ……確かダンスの誘い、だったか……?」
「そ!明日から一緒に練習するわよ!!」
「アールス、私とも踊ろーねっ♪」
「なっ……!シ、シオンは関係ないでしょ!!」
「シオンも踊れるのか?」
「勿論!私が優しく教えてあげるねっ」
「ちょ、私を置いて話進めないでよ!」
気が付けば、先程までの重苦しい雰囲気は全くなくなっていた。
そして翌日から……アルス達は一日の内の一部の時間を踊りの練習に費やすようになった。
その他にも舞踏会用の衣装を買いに行ったり、共に鍛錬したり魔法や戦術の勉強をしたり……たくさんの時間を仲間達と共に過ごした。
これまで戦い続きだったアルスにとって、それらの日々はとても充実していて幸せな思い出になった。
そして降臨祭まであと数日と迫ったある日、勇者アルスの元に一角獣の騎士から報せが届く。
────大陸南部トーキテ王国の一領主……クス伯爵を捕らえた為、異端審問会に証人として出廷してほしい、と。
お疲れ様です。
お読み頂きありがとうございます。
本文ラストの"クス伯爵"って誰だよって方は
15話、16話を読み見返して頂くと幸いです↓
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