35.5話:掴めない女子会
三章番外編です。相変わらず読み飛ばしても本編読むのに支障はありません。
この話は35話でのアミナス教国での取り調べ後、自由行動が開始されフィルビーとシオンがアルス達と別れた後の話です。
「ふむ……なるほどねぇ」
真っ二つに折れた杖を凝視する魔道具店の店主。
その難しい顔に、聖職者の少女────フィルビーは「ど、どうですか……?」と問い掛ける。
不安そうな表情の少女の声に、店主は顔を上げ笑顔を見せるのだった。
「酷い状態だが、大丈夫……直せるよ」
「ほ、ほんとですか……!?」
「あぁ、これまで大切に扱われてきたんだろうね……良い杖だ、絶対直すよ」
「あ、ありがとうございます……!よろしくお願いします!!」
フィルビーは何度も頭を下げた。
城塞都市クヴィスリングでの上級魔族"ザヴォート"との戦い……その過程で激しく損傷してしまった杖の修理は困難を極めるかと思ったが、どうやら杞憂に終わったらしい。
「よかったね、フィルビーさん」
また数日後に────店主の言葉を背に、店から出ると共に行動していた一人の女性が声を掛けてきた。
可愛らしい頭巾に、サイドポニーに纏めた落ち着いた色合いの茶髪が目を惹く少女……彼女は自分達の隊長である勇者アルスの幼馴染だ。
「はい!シオンさん!!」
「でも、新しく買い直さなくてよかったの?せっかくこの国に来たのに」
瑠璃色の瞳をパチクリさせながら不思議そうに聞いてくるシオン……その疑問は当然のものだ。
フィルビー達が現在滞在している大国────アミナス教国は、世界の中心故に武器・防具・魔道具の品揃えが豊富だ。当然、望めば今使っている杖よりも良い物が手に入るだろう。
ただ、フィルビーにはどうしても杖を変えたくない理由があった。
「はい……その、この杖は……家族から頂いた大切な物なので」
「へぇ〜……ご両親から?」
「私がいた孤児院の神父様です……もう、お会いすることは叶いませんが」
「あっ……ごめん」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
それを聞いたシオンは目を丸くした後に顔を逸らしたが、当のフィルビーは特段気にしなかった。
神父を、共に過ごした村の人々を、孤児院の子供達失った失った悪夢のような一夜……当時は中々立ち直れずにいたが、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
ちゃんと受け止めて、前に進まなければ────そんな想いを笑顔を浮かべたまま胸に言葉を返すと、シオンは話題を変えるように「ところでさ……」と口を開く。
「フィルビーさん……私達、何処かで会ったことないかな?」
「えっ?」
刹那、思いもしない質問に固まるフィルビー。
前に幼馴染を前に見せた冗談の類かと思ったが、振り向いた先の彼女の表情は真剣そのもの。
「うーん……ぅーん……?ごめんなさい……覚えてないみたい、です」
「そっか……いいのいいの!私の勘違いだったみたいだから!それより次は教会巡りだったよね?」
「はい、聖職者の端くれとして聖地の教会の方々に挨拶しないわけにはいきませんから」
「私、教会とかあんま行ったことからちょっと楽しみ〜♪やっぱ御神体に顔が二つあるミイラとか飾ってるのかしら?」
「どこの知識ですかね……?」
なんとか思い出そうと頭を捻った末……何も出ずに謝ると、彼女は気にしてない風に笑顔を見せる。
どこか煙に巻かれたような……掴みどころのない性格の彼女。
フィルビーは軽く戸惑いを覚えながらも、彼女と共にアミナス教国の教会へと向かった。
・・・
「〜♪」
教会に入ったフィルビー達を迎え入れたのは美しい聖歌────その主は祭壇の前に並ぶ聖職者達。
その前には親子連れが一列に並んでおり、皆それぞれ自分の番を静かに待っていた。
「アレは何やってるの?洗脳……?」
「ちょ、ちょっと!違いますよ……!アレは洗礼の儀……子供達に一人ずつ女神様の加護を与えてるんです」
目の前の光景に訝しげな視線を送るシオンに対し、フィルビーは口を塞ぐように慌てて説明し始める。
"洗礼の儀"
それはこの国のみならず、大陸に住むほとんどの人が生まれて間も無く受ける儀式のこと。
通常大陸で子供が生まれた場合、出生の報告が届出として各教会へと魔王討伐隊を通して送られる。すると、教会から何名か聖職者が派遣……もしくは教会が近い場合は親子が出向き、赤ん坊から幼子に至るまで洗礼の儀を受けるのだ。
その内容はエルフ族によって作られた特別な歌によって女神の加護を与えるというもの。
「ふぅん……私も受けたのかな?覚えてないや」
「まぁ小さい頃の話なんで、覚えてなくて当たり前ですよ……あはは」
「フィルビーさん、失礼を承知で聞くけどさ……神様の加護なんてホントにあると思ってる?私、今まで生きててそんなの感じたこと全然ないんだけど」
「"ある"────そう思うのが大切なんだと思います……実際には効果がなかったとしても」
説明を終えた後も尚怪訝な表情を浮かべるシオンに、フィルビーは穏やかな笑顔で返す。
そう、加護が実際にあるかどうか……そこは重要ではないのだ。この大陸を生きる人々は常に魔族の脅威に怯えている。
だからこそ女神という心の支えが必要で、加護があると思うことで少しでも前向きに生きるのが大事なのだろう。
「思いの力、か……確かにそうかもね」
「シオンさん……?」
「私も"アルスに会いたい"って思ってなきゃ、今こうしてここにいなかったろうし……そういうことだよね!シオンさん?」
「は、はい!きっとそう!多分そうです……!!」
フィルビーの言葉に、シオンは何やら納得したように頷き再び明るい笑顔を見せた。
共に過ごし絆を深める────そんな彼女の言葉から始まったこの女子会は、一先ず良い結果を迎えられたようだ。
フィルビーは幸福と安堵感を覚えつつ、当初の目的を果たすべくゆっくりと祭壇の方へと歩みを始めるのだった。




