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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第一章:ヴァイゼン村編
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4話:魔族

「あれは……」

「……女の子?」


 ───アルス達がヴァイゼン村へ向かってから一刻(いっこく)経過(けいか)した時、前方から誰かが走ってくるのが見えた。

 遠目(とおめ)でハッキリとは見えないが、レヴィンの言う通り(おそ)らくは女性のようだ。

 長い(つえ)を持っていることから恐らくは魔法使いだろうか。


「こっちに気付いたみてぇだな…」


 ……そのように考えていると、ウォルフの言葉通り此方(こちら)の存在に気付いたのか彼女は手を振り出す。

 白いベールのような帽子と上着、青い服と長い布……その見た目からは全体的に清楚(せいそ)印象(いんしょう)をアルスは覚えた。


挿絵(By みてみん)


「すみません!貴方方(あなたがた)は一体…!?」


 いよいよ目の前まで来た少女は、軽く息を上げながらも此方の素性(すじょう)(たず)ねる。


 ───近くで見ると、きめ細かい質感の黒髪やその下で(にぶ)く光る額当(ひたいあ)て……クリッとした可愛らしい目が印象的だった。

 ぱっと見た感じ、レヴィンと同じ年くらいだろうか。


「俺達は魔王討伐隊…勇者のアルスだ」

「ウォルフだ」

「……レヴィン」


 疑問に答えると、その瞬間(しゅんかん)「討伐隊の方達が……よかった……!」という言葉と共に黒髪の少女の顔は一気に明るいものになった。


「その……(きみ)は?」

「あっ、すみません……私はヴァイゼン村の教会(きょうかい)のお手伝いをしている……フィルビーと(もう)す者です」

「一体何があった?こんなところまで走ってきて……」


 しかし、アルスが事情を聞くと……フィルビーと名乗った黒髪の少女は再び表情を暗くして、ここに至るまでの経緯(けいい)を話し出す。


「なんだかとても良くないことが起こる気がして……私、村の皆さんや神父様(しんぷさま)避難(ひなん)させようと説得(せっとく)(こころ)みたのですが、結局(けっきょく)ダメで……国の兵団(へいだん)に助けを求めようと村を出たんです…そこであなた方と会って……どうかお願いします!私と一緒に村へ来てください!!」

「おいおい…本気で言ってんのか?正気(しょうき)とは思えねぇな…」

「だが、この国に魔獣(まじゅう)がいたのは事実(じじつ)だ…もしかしたらヴァイゼン村の近くにも…」


 たどたどしくも必死に説明して頭を下げるフィルビー……そんな彼女に対しウォルフは(あき)れた様子を見せる。

 そこでアルスは少し考え込む。


 ───確かに彼の言う通り「予感がした」で起こす行動にしては少々大袈裟(おおげさ)のように思える。

 しかし、先程遭遇(そうぐう)した魔獣(ヘルハウンド)の群れの存在が気に掛かり、そして何よりも目の前で必死に助けを求める少女の言葉をただの妄言(もうげん)だと切り捨てることはアルスには出来なかった。


「急ごう…フィルビー、案内(あんない)(たの)めるか」

「はい!ありがとうございます!」


 アルスが頼みを引き受けることを決めると、フィルビーは晴れやかな笑顔でお礼を言った。



 ・・・


 フィルビーと名乗る少女の案内により、(しばら)くしてアルス達はヴァイゼン村へ辿(たど)()いた……


「これは…!」

(うそ)……」

「クソが……!」

「なんて…ことを…」


 ───しかしそこで目の前に広がったのは、緋色(ひいろ)の炎に(つつ)まれる村の姿。


 その凄惨(せいさん)光景(こうけい)にアルスは()(あせ)を流し、レヴィンは口元を(おさ)え、ウォルフは(くや)しそうに(こぶし)(にぎ)り、フィルビーは(ちから)()く膝を()く。



「先生…!みんな…!」


 フィルビーは放心したような様子で(つぶや)くと、不意に立ち上がりそのまま炎上(えんじょう)する村の中へと入って行った。


「フィルビー!待て!!」

「お、置いてかないでよ!!」

「チッ……」


 その後ろ姿を追ってアルス達もまた、ヴァイゼン村へと足を()()れていく。



 ・・・



 村の中を進んで行くと、何かが集まっているのが見えた。

 生き物ではあるが、明らかに人じゃない。

 ────あれは魔族(まぞく)だ。


 緑色の皮膚をした大柄な怪物、小人のような怪物、犬のような顔を持った怪物、そこには多種多様な魔族がいた。

 その中には先程(さきほど)戦った魔獣(ヘルハウンド)の姿もある。

 ……どうやら悪い予感は的中(てきちゅう)したらしい。


「魔族……!?なんでこんなに…」

「コイツら……まさか()()()か?」

 魔族の()れを前にしてレヴィンは全身を震わせ、ウォルフは(にら)み付ける。


 "魔王軍(まおうぐん)"

 魔族が大陸への侵攻(しんこう)を目的に徒党(ととう)を組んで生まれたとされる組織の名。

 高い知能を持つとされる()()()()の魔物を主体に構成されているという。



「……!」

 此方(こちら)の声に気付いたようで、魔族の群れは一斉(いっせい)に振り向く。

 そしてアルス達をじっくりと観察(かんさつ)したかと思えば、今度はヒソヒソと何かを話し始めた。


「ひっ……」

 その様子は(あま)りにも不気味(ぶきみ)で、(となり)のレヴィンは震えながら後退(あとずさ)る。


「あぁ…そんな…」


 その最中(さなか)、聞こえてきたのはぽつりと(つぶや)くフィルビーの声。

 見ると、彼女の視線は魔族の群れの下……散乱(さんらん)している()()()()()()()()()()()に向けられていた。


「──────ッ!!」


 瞬間、アルスは激情(げきじょう)()られ、魔族の群れに突っ込んでいた。

 後方から聞こえるレヴィンの「アルス!?」という呼び掛けにも構わず魔族の群れを斬り殺していく。


「ぐっ!?」


 ────しかし、突如(とつじょ)としてアルスの身体は固まる。


 腕が動かない……まるで()()()()()()()に上から引っ張られているようだ。

 そうしていると不意に身体は引っ張られるように後方へ投げられ、魔族の群れとの距離(きょり)が生まれる。


「シルク様……!」


 声が聞こえてきた魔族の群れに視線を戻すと……その中から一際(ひときわ)大きい(かげ)(あらわ)れる。


挿絵(By みてみん)


 ────その魔物は、まるで昔読んだ本に出てきた悪魔のような姿をしていた。



小奴等(こやつら)……()()()か……こんなに早く見つかるとはのぅ」


 悪魔のような魔物は、此方を忌々(いまいま)しげに(にら)み付けて(つぶや)く。

 その瞬間、周囲の空気が一気に重くなったように感じた。

 (すさ)まじい威圧感プレッシャー、そしてこの強大な魔力反応……間違いなく()()()()()だ。



如何(いかが)致しましょう?()()()()……」

「情報を持ち帰られては厄介(やっかい)だ……ここから生かして帰すわけにはいかんな」

「では、ここの先住民と同様に……」

「そうだ……ようやく安寧(あんねい)の地が手に入るかもしれぬのだ……ここで終わるわけにはいかぬ」


 固まるアルス達を余所(よそ)に魔族達は会話を続ける。

 周囲の魔族の態度を見るに、シルクと呼ばれた悪魔のような魔物はどうやらこの魔族達の首領(しゅりょう)のようだ。


「皆の者よ……立ち上がれ!ここより我らの新たな世界が始まるのだ!!」


 そしてどうやら高いカリスマ性と統率力(とうそつりょく)を持っているらしい。

 奴の言葉により魔族の群れの血気(けっき)がどんどん増していく。



「ヤバいよ……どうすんのアルス!?」

 その光景にレヴィンは声を震わせながらもアルスに指示を(あお)ぐ。


 敵の数が多すぎる上にあのシルクという魔物……恐らく数人の人間で(かな)う相手ではない。

 ここは一旦(いったん)引いて、王国の兵団の助力(じょりょく)を得るのが最善(さいぜん)……内心怒りに震えながらも仲間達の安全のため、アルスは冷静に指示を出すことに決める。


「皆、ここは一旦撤退(いったんてったい)を……」

「皆さんを、よくも……!」

「クソ共が……!!」

「!?」


 ────しかしそこで突如(とつじょ)フィルビーとウォルフが前に出てきた。


「このような暴挙(ぼうきょ)……許されませんよ……!」

「ぶっ殺してやる……ッ!!」


 完全に臨戦態勢(りんせんたいせい)の二人は最早何を言っても止まる様子はない。

 仲間を見捨てて逃げることなど勇者として出来ない───その時点でアルスの中に撤退(てったい)選択肢(せんたくし)は消えた。


「俺も戦う…だがレヴィン、君は…」


 ……しかし、まだ実戦経験(じっせんけいけん)(あさ)く命を張る覚悟(かくご)もないであろうレヴィンを巻き込むのは違う。

 そう考えたアルスは彼女に避難を(うなが)そうとした。


「…生憎(あいにく)だけど、庶民(しょみん)を見捨てて逃げるほど私は落ちぶれてないの…!」


 ……がレヴィンもアルスの思惑に反し、前に出てきて(つえ)(かま)える。

 杖を持つ手は依然(いぜん)として震えていたが、そこには気丈(きじょう)な貴族の姿が確かに()った。


 ────前に出て構える三人の姿を見て、アルスは(はら)(くく)りそれぞれに指示を出し始めていく。


「レヴィン、君は雷魔法の準備(じゅんび)を…なるべく強力なのを頼む」

「わ、わかった…!」


「ウォルフは俺と共に前に出て、後ろの二人を守りながら敵を倒していくぞ」

「あぁ…!」


「フィルビーは可能なら、後方から俺達の援護(えんご)を頼む」

「はい!」


 全ての指示を出し終えた後、いよいよ自身も前に出て剣を構えた。

 誰も死なせない……そう固く心に(ちか)って─────



「さぁ同胞達(どうほうたち)よ…ゆけいッ!人間共を皆殺しにせよ!!」


 同時に敵側も首領であるシルクの号令(ごうれい)が掛かり、一斉(いっせい)に襲い掛かってくる。


 ……こうしてヴァイゼン村でのアルス達、魔王討伐隊と魔族の戦いが(まく)()けた。

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― 新着の感想 ―
前回村を飛び出した女の子、もといフィルビーさんがアルスさんと合流できたものの、時既に遅し……村が絶望的な惨状になってしまいましたね…… ここまで斜に構えて冷たい印象だったウォルフさんが、見ず知らずの村…
シルクが口にした「安寧の地」という言葉。この言葉一つで、読者の視点が「悪を正義が討つ物語」から「みなの幸せを追い求める物語」に動いたように感じました。 人間たちにも魔族たちにも譲れないものがある。だか…
2025/05/12 18:41 ロクティス
こんにちは!Xではみかん、こちらではしらつゆとして活動をしているみかんです! RT企画への参加ありがとうございます。作品、ここまで拝読いたしました! とても、とても面白いです。 まず、それぞれの強…
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