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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第三章:アミナス教国編
38/49

33話:この世界の歴史

〜前回のあらすじ〜

城塞都市クヴィスリングでの魔王軍との戦いを終えた後、戦いの詳細を調べるという目的でスーヤ騎士団のエルフの騎士────グラシアによって宗教国家アミナス教国へと向かう馬車に乗せられた勇者アルス一行。

仇敵ザヴォートを討ち取れたことを感謝する戦士ウォルフや、かつての仲間シオンとの他愛ない話を通してアルスはまだ再開出来ていない勇者カリヴァとも早く会いたいという想いを募らせていった。

『ゴトゴト……』


 宗教国家(しゅうきょうこっか)アミナス教国(きょうこく)へ向かう道中────アルス達を乗せた馬車は音を立てながら、いつの間にか深い森の中を彷徨(さまよ)っていた。


 周囲を埋め尽くすは高く()(しげ)樹木(じゅもく)……見渡せばどこまでも深くに根を張っており、永遠を思わせる広大な景色が広がっている。

 その中には大陸北部ではあまり見ない多種多様(たしゅたよう)な動植物達の姿があり、生命の(いとな)みを(はぐく)んでいた。



「すごい森……空がほとんど見えないわ」

「どうやらここはもう…アミナス教国の国境内のようだな」

「色んな植物が咲いてるけど、()()()は……ない、わね」

「……そうみたいだな」


 天を(おお)う深い緑のヴェールの中、葉の隙間から(こぼ)れる金色の糸のような陽光に映し出される植物達を(なが)め……シオンはぼんやりと(つぶや)く。

 その言葉にアルスは反応しながらも、手元の地図を広げて現在地を確かめた。


 大陸の中心に位置するアミナス教国に入るには、周囲を取り囲んでいる"神秘(しんぴ)の森"と呼ばれる……この深い樹海を越えなければならない。



「まさか()()に行けるなんて……夢みたい」

「こんな森の中でちゃんと目的地まで辿(たど)り着けんのか……?」


 国境の内側に入ってからやけにそわそわしてる様子のレヴィンと、対照的にやや厳しい表情で(もっと)もな懸念(けねん)を口にするウォルフ。


「────心配はいらない……我々には森のご加護があるのだから」


 ……その疑問に答える声が、馬車の外から聞こえてきた。


「あっ…グラシア様!」

「あん?どういうことだ…いでっ!」

「グラシア様に失礼でしょ!」

「私は騎士だが貴族ではない……自然体(しぜんてい)で構わん」

「おら、本人もこう言ってるじゃねーか」

「だからってねぇ……!」


 一角獣(ユニコーン)(またが)るエルフの騎士───グラシアを前に一悶着(ひともんちゃく)が起こる中、このままでは(らち)が明かないと考えアルスは質問する。


「森の加護……とはどういうことだろうか?」

「この森は(おの)が意思を持っている……自在に形を変えて私達を目的地まで導き、逆に外敵が迷い込めば即座に土に(かえ)してくれるのさ」


 それに対する色素薄めの金髪を(なび)かせるエルフの答えは……やや難解(なんかい)な言い回しだが、話を聞くにどうやらこの森自体が敵味方を判別し入国者を選別するなど国防の役割を担っているようだ。



「この森に入ってから一匹も魔獣(まじゅう)を見かけなかったのはそういうことか……だから野生動物もこんなに……」

流石(さすが)大陸で一番安全な国と言われるだけはあるわね……一体どういう原理なのかしら?」

「我らエルフ族の()()が成した(わざ)……といったところだな」

奇跡(きせき)?」


 周囲一帯(しゅういいったい)に展開された美しい森林が持つという不可思議(ふかしぎ)な力に感心していたところ、不意にグラシアの口から出てきた"奇跡"という言葉。

 その意味するところが分からず(となり)のシオンと共にきょとんとしていると、それを察したのか聖職者(せいしょくしゃ)の少女───フィルビーが「えっと…」と口を開いた。


「奇跡っていうのは、エルフ族の方が扱う()()()()()()のことですね」

「……魔法とは違うのか?」

「私達の身に宿っている魔力は、魔界から流れてくる瘴気(しょうき)が元……という説が有力ですが、エルフ族の方々が起こす奇跡は文字通り女神様の力によるものなんですよ」

「そう言われてみると、()()()()()……魔法と少し違う感じがした気がするわね」


 確かにシオンの言う通り、城塞都市(じょうさいとし)クヴィスリングでの戦いの時に間近で見た────グラシアの放った雷からは魔力とは少し(こと)なる……何か神秘的なものを感じた気がする。

 だが、どちらにしろ……


「信じられないな……これだけ広大な森を作り出す力が存在するなんて」


 一つの国を(おお)う規模の超常(ちょうじょう)現象(げんしょう)を発生させる力……確かにこれは魔法をも超えた……奇跡と言わざるを得ない。


 ────フィルビーから説明された信じ(がた)いような話を前に呆気(あっけ)に取られていると、不意に感じたのは誰かの視線。

 ……思わず目線を向けると、そこで金色(こんじき)(ひとみ)と目が合う。


「……?どうした」

「いや、なんか意外だなって……ウォルフはともかく、アルスは何でも知ってると思った」

「いや、知らないことだらけさ……エルフ族についても、この国についても」

「おっ、アルスも俺と同じか!気が合うな」

「はぁ…北方の教育レベルが知られてしまったわね」


 目をぱちくりさせるレヴィンからの言葉に率直(そっちょく)に答えるアルス。

 その答えを聞いて(うれ)しそうにウォルフが肩を組んでくる────それを尻目(しりめ)にシオンは呆れたように軽く溜め息を()いていた。


 彼女の言う通り、大陸北部における教育のレベルは恐らく他の地方に比べて低い……もとい(かたよ)っていた。

 その理由は、当時から大陸北部は魔族との抗争(こうそう)が激しかったため……生き残る事と戦う力を身に付ける事が最優先とされていたからだ。

 (ゆえ)にアルス達は、大陸中で信仰(しんこう)されているスーヤ教についてさえ、魔王討伐隊の制度以外の事ついてはろくに学ばされてこなかった。


 ……ウォルフに関しては彼が幼い頃に村を滅ぼされて、以後は放浪(ほうろう)生活を送っていたようなので、そもそも教育の機会自体がなかったのだろう。



「そういうことでしたら私が色々とお教えしましょうか?これでも一応、聖職者(せいしょくしゃ)(はし)くれなので……」


 ────そんな風に知らない事だらけのアルス達を前に、小さく手を上げて説明を申し出てくれたのは……先程も奇跡の力について教えてくれたフィルビーだった。

 瞬間(しゅんかん)、「「おぉっ」」と小さく歓声(かんせい)()く。


「どこから説明(いた)しましょうか?そうですね……皆さんエルフ族についてはどの程度知ってますか?」

「大陸の長い歴史の中で、人間を幾度(いくど)となく助けてきた友好的な種族……ということくらいしか」

「すごい長生きするんだろ?俺の村の(じい)ちゃんが言ってたぜ」

「あとは……スーヤ教を主に布教(ふきょう)してるのもエルフ族なんだっけ?」


 (ほお)に手を当てたフィルビーから出された問いに、レヴィンを除いたそれぞれが好き好きに答えると……彼女はうんうん、と(うなず)きつつ言葉を続ける。


「そうですね……では、どうしてエルフ族が人間(わたしたち)に友好的なのかは知っていますか?」

「いや……」

「なんでだ?」

「それは……エルフ族も元々は私達と同じ人間だったからなんです」

「!!」

「えっ!そうなの……?」

「まじかよ……」


 その口から出てきた衝撃的(しょうげきてき)な内容に思わず目を見開くアルス。

 同様に驚いた様子のシオンとウォルフに対し、フィルビーはそのままゆっくりと語り始めていく。


「はい……今より(はる)か昔、大陸に生きる人々がまだその身体に魔力を宿(やど)していなかった時代……」


 ────この大陸で生まれた全ての生命(いのち)の母である女神……()()()()は自らが生んだ人々を愛し、言葉や文字……果ては文化といった数多くの叡智(えいち)(さず)け、時には奇跡の力を用いて人々に幸福を(もたら)しました。

 人々は女神様を(あが)(たてまつ)り、その()(がた)い教えを世に伝え、広めました……これが私達が知るスーヤ教の原点です。


 ……そして女神様は知識だけでなく、その奇跡の力さえも人々に与えるようになりました。

 女神様に見初(みそ)められ、力を与えられた人はエルフという新たな種族として生まれ変わり、女神様と同じ奇跡の力を(あつか)えるようになったのです。

 エルフとなった人達は女神様と同じように奇跡の力を用いて人々を助け、()()に人々が(おびや)かされた時も聖なる結界(けっかい)を張ることで守りました。


 人々はそんなエルフ達を神の一族……(また)は天使として崇め、救いを求めました。

 やがて人々はエルフ族の(みちび)きや、女神様が(のこ)した教えを支えに立ち上がり、瘴気(しょうき)(おか)される危険のない結界が張られた場所を起点に一つの国を作りました。

 それこそが今、私達がいる……スーヤ教の発祥地(はっしょうち)────アミナス教国なんです。



「なんか……すごい話」

「あぁ……」


 黒い髪と瞳を持つ少女から(かた)られた……途轍(とてつ)もなく壮大なこの世界の歴史の話に圧倒されるアルス。

 その中で、同じく話に聞き入っていた隣のウォルフが「ところでよ……」と口を開いた。


「さっきから話に出てくる瘴気(しょうき)ってなんだ?」

「魔界から流れてくる悪い空気よ……今は大陸中を(おお)ってるわ」

「さっき人々を脅かしたって言ってたよな?俺らはやばくねーのかよ?」

「大丈夫よ、今の人類は瘴気に対する耐性を持ってるらしいから」

「それに……このアミナス教国内には未だに結界が張られていて瘴気を防いでくれているらしいです」

「ほーん……だから空気がこんなうめぇんだな」


 話を聞いたウォルフからの質問にレヴィンは少し呆れた顔をしながらも答え、フィルビーはそれに補足(ほそく)の説明を付け足す。

 そんな彼らの様子を見て、アルスも話を聞く中でふと沸いた疑問を()()()()に聞こうと口を開く。



「……グラシア殿(どの)貴方(あなた)は実際に女神様に会ったことはあるのだろうか?」


 昔読んだ聖典(せいてん)では、女神は遠い昔に天界へと(かえ)ったと(しる)されていた。

 フィルビーの話を聞くに、エルフ族ならばあるいはその実在を知っているのでは……と思ったが、当のエルフの騎士は静かに首を横に振った。


「……悪いが、女神様のことを軽々しく語るのは戒律(かいりつ)により禁じられている」

「そうか……突然すまない」

「ただこれだけは言っておこう……スーヤ様は今も(なお)我々を見守り、(みちび)いて下さっていると」

「……?どういうことだ?」

「一年に一度の()()()……スーヤ様は(いま)だに()()を通して私達に啓示(けいじ)を与えて下さっているのだ」

巫女(みこ)?」

「スーヤ教の最高指導者(トップ)教皇(きょうこう)様のことよ……実質的にはアミナス教国の国王と同じね」

「エルフ族の中から選ばれた巫女は……この世界で唯一人(ただひとり)、女神様の声を聞くことが出来るらしいです」


 会話の中、不意にレヴィンとフィルビーが入ってきてヒソヒソ声で補足情報を付け足していく。

 それを聞いたらしいグラシアは目を(つむ)って頷き、続けて口を開く。


「その通り……そして巫女には神の名の一部である()()()の名が与えられ、女神様に代わり人々を導く(にん)が与えられるのだ」


 グラシア、フィルビー、レヴィン……彼女らの話を聞いて、アルスは口を閉じ改めて痛感した。

 スーヤ教……エルフ……女神……巫女……────どうやらこの国は、自身が想像していたよりもずっとこの大陸において重要な土地である……と。



 ・・・



『ゴトゴト……』


 ……しばらくしてアルス達を乗せた馬車は神秘の森を抜け、(ようや)くアミナス教国の市内へと入っていた。

 視界に広がったのは先程周囲を囲んでいた翠緑(すいりょく)の世界とは異なる純白の建物(ぐん)


『ギッ……』


 やがてアミナス教国の首都(しゅと)ヤーラへと踏み入った馬車は、音を立てて大きなお城のような建物の前で止まる。


 ────(そび)え立つ、その建物の前には多くの人集(ひとだか)りが出来ていた。


 馬車を降りた後、アルスが見たのはその場に(ひざまず)き……(おが)む人々の姿。


「おぉ……レイア様……」

「ありがたや……」


 上を見上げる彼等(かれら)……その視線の先────建物の一室からは、一人の美しい少女が此方(こちら)(のぞ)いていた。


挿絵(By みてみん)

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