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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第二章:城塞都市クヴィスリング編
34/49

29話:再会

〜前回までのあらすじ〜

城塞都市クヴィスリングでの戦いで二体の上級魔族を倒した後、聖職者の少女フィルビーが伝えてきたのは新たな上級魔族に相当する存在が迫っているという絶望的な報告。

戦いで消耗した仲間達を守るため、アルスは自分一人で新たな脅威と戦うことを決意する。

そんな決断を止める声、応援する声を受け止めながらも……アルスはたった一人で敵を迎え討つべく走り出した。

 魔族の残党の群れの中を斬り払いながら()け抜けた後……アルスは北側に向け突き進み続けた。

 全ては此方(こちら)に迫り来る新たな上級魔族を迎え討って仲間を守るため。

 ……しかし、接敵(せってき)するまでの間の道程(みちのり)に広がる景色にアルスは息を()む。


 (うずくま)るような姿勢で横たわる人の形をした黒い炭、身体を大きく裂かれた兵士、幼子を(かば)うような体勢のまま諸共(もろとも)黒い槍に串刺しにされた女性の死体……


 ────戦禍(せんか)の波に()まれた後に残った風景(ふうけい)は、自身の故郷(こきょう)である北側諸国で何度も目にした惨状(さんじょう)彷彿(ほうふつ)させる混沌(こんとん)とした地獄。

 周囲には兵士達の奮闘(ふんとう)(あかし)として魔龍や黒い魔族達の死体も散乱していたが……予想はしていた事とはいえ、救ったのよりも圧倒的(あっとうてき)に多くの人の命が失われてしまった事を改めて認識させられ、アルスは()り切れない気持ちになる。



『バサッ……』


 そうして行き場のない思いを抱えながら走り続けていると……(つい)()()()は訪れた。



「どういうことだ……?」


 目の前に現れた強大な魔力の持ち主─────その姿を見てアルスは思わず強い動揺(どうよう)を覚える。

 大空を()ばたく…… 紅い竜巻(フラスト)瓜二(うりふた)つな魔龍(ドラゴン)の姿に。



「そこの人間、私の質問に答えなさい……正直に答えれば楽に処分して()し上げましょう」


 先程倒した(はず)の敵との思わぬ再会。

 信じ(がた)い光景に固まっていると、大空から(ひび)き渡るような声で(あか)い龍が語り掛けてきた。


「このような紅い龍か、黒い(よろい)の魔物を見かけませんでしたか?もしや……あなたが倒したのですか?」


 姿だけでなく声もフラストそのもの……だが口調が奴とは違う。

 同種の別個体か、幻惑(げんわく)系の魔法か、それとも擬態(ぎたい)か……


「……どうしたのですか?耳が聞こえないのですか?それとも口が()けないのですか?……あぁ、イライラする……!」


 ────いずれにせよ情報を渡すわけにはいかない。

 問い掛けに対し口を閉ざしていると、苛立(いらだ)ち始めたのか……次第に(あら)くなっていく紅い龍の語気。


「低脳な人間でも分かるように話してあげたというのに……もういいです、消えなさい」


 やがてその身からは魔力が放出され…… 冷徹(れいてつ)な、吐き捨てるような声色で呪文(じゅもん)が放たれた。


「……【業火の竜巻(トロンフェルノ)】」


 刹那(せつな)、アルスを取り囲むように形成されたのは炎と風の複合魔法である灼熱(しゃくねつ)(おり)


 ────間違いなくこれは上級魔族フラストの魔法だ。


『ゴオオオオオオオオオオオォォォォォ……ッッ!!』


 レヴィンがいない今、この炎の竜巻(たつまき)()(こう)から打ち消すことは出来ない。

 紅蓮(ぐれん)(いろど)られた死の壁が迫る中……アルスは狼狽(うろた)えず息を吐き、身体から魔力を放出していく。


()()()……()()()()()()な」


 そして放出した魔力を全身に(めぐ)らせると……アルスは悠然(ゆうぜん)と、眼前(がんぜん)の炎に向かって歩みを進めた。



――――――――――――――――――――――――



「はぁ……時間の無駄でしたね」


 突如(とつじょ)目の前に現れた赤髪の人間が業火の竜巻(トロンフェルノ)に成す(すべ)なく()み込まれたのを確認し、フォルリアは苛立(いらだ)ちを(まじ)えながら溜め息を()く。


 たった一人で向かってきたから余程(よほど)自分の強さに自信があるのかと思い、話しかけてみたが……どうやらただの(捨て駒)だったようだ。

 自身の配下を倒したという四匹(よんひき)の邪魔者を始末(しまつ)するために態々(わざわざ)出てきたというのに、とんだ期待外れだ。

 さっさと先に行って皆殺しに……


「ッ!?なんだ……ッ!?」


 ────思考を(めぐ)らせながら先に進もうと翼をはためかせた時、不意にフォルリアは()()()()()()拘束(こうそく)され、その動きを止められた。



「お前は……!」


 引っ張られた先にいたのは、たった今焼却(しょうきゃく)した(はず)の赤髪の人間。

 どうやって業火の竜巻(トロンフェルノ)から抜け出した?────それを考えるよりも早くフォルリアは反撃の呪文を(とな)える。


「【熱閃光(ソーラー・レイ)】……!!」


 自身が今変身している"(あか)竜巻(たつまき)"の異名を持つ龍族(フラスト)の切り札である魔法。

 極度(きょくど)圧縮(あっしゅく)状態から解放された炎の魔力は、(あら)ゆる物理防御を融解(ゆうかい)する破壊光線と()す─────


「グッ……!?」


 しかし放つ瞬間、再び()()()で首があらぬ方向に(かたむ)けられ熱線が(くう)を切る。

 同時に『ダンッ!』と地面を()る音が鳴り(ひび)き、気付けば目の前には剣を振り(かぶ)りながら接近してくる(赤髪の人間)の姿があった。


「【業風の刃(ヘルトゥル・ラーマ)】!!」


 斬られる────そう感じた時、咄嗟(とっさ)に動いた翼が防御魔法のように展開したのは大気を変質させた不可視(ふかし)の刃。

 刹那(せつな)、フォルリアの拘束が()けて身体が自由になる。


「チッ……」


 直後、舌打ちが聞こえると共に此方(こちら)(せま)っていた赤髪の人間は空中で身を(ひるがえ)軌道(きどう)を変えるという有り得ない芸当(げいとう)を見せ、建物の上へと降り立った。



「どうして……」


 ────今度はちゃんと()()()


 先程から此方の動きを拘束し、攻撃の狙いをもずらしてきた()()()……その正体に、フォルリアは身を震わせながらも目の前の敵に問い(ただ)す。


「どうしてお前が、()()()の魔法を使える……!?」


 ()()()()()()()あの老耄(おいぼれ)と同じ……魔力から糸を生み出し操る魔法。

 偶然(ぐうぜん)同じ系統の魔法の使い手なのか、それとも……

 知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい



「アハッ……いいですねアナタ、私……興味(きょうみ)()いてきちゃいましたァ」


 火災旋風(かさいせんぷう)に完全に囲まれた状態から脱出し、シルクだけが使えた筈の糸魔法を使う人間……

 有り得ない事態の連続に、好奇心を刺激されたフォルリアは先程とは打って変わって笑みを見せ……口を開く。


「申し遅れました、私の名はフォルリア……周りの者達からは"全能"の二つ名で呼ばれています」

「……」

「さぁ、私にも教えてください……あなたの名を……あなたのことを、もっと……!」


 まるで新しい玩具(オモチャ)を見つけた幼子(おさなご)のように目を(かがや)かせ、目の前に獲物(えもの)に名乗り、語り掛けるフォルリア。

 ……対し、赤髪の人間は先程と変わらず沈黙(ちんもく)を守り、鋭い目で此方を(にら)み付けていた────まるで(かたき)でも見るように。


「つれないですね……まぁいいです、無理矢理調べますから……」


 その反応に、フォルリアの興奮(テンション)冷水(れいすい)を浴びせられたように急速に冷めていく。

 ────下等種族(虫ケラ)分際(ぶんざい)で……自分の思い通りにならないなら、壊れてもいい。

 そんな暗い殺意を(もっ)て魔力を放出し、自身の身体そのものを変質させ始める……



 彼女の使用魔法は"偏幻自在の愛(フェア・フォルメン)"

 自身の身体を好きなように変質・拡張させ、自身・他者の求める理想の姿になれる……彼女だけが扱える唯一の魔法。

 修練(しゅうれん)を重ねた現在では、触れた者の細胞を解析(かいせき)再現(さいげん)することで他者そのものに変身出来る(いき)にまで達した。

 魔力量と魔法の相性が全てのこの世界において、(あら)ゆる存在の多種多様な魔法を自在に使う事が出来る……彼女が"全能"の二つ名で呼ばれる所以(ゆえん)能力(ちから)だ。



「【地獄の鋼禍(デヴォル・ジリエーザ)】……【天の糸(ウラノスレッド)】」


 そして今、眼前(がんぜん)標的(ひょうてき)を確実に殺すために()った姿は……元々の紅龍(フラスト)に加え、ザヴォートとシルクの性質を掛け合わせた新たな理想の自分。


 ────変身後、フォルリアは自身の身体から漆黒(しっこく)の糸を無数に放出し目標へと一気に撃ち放つ。

 人体程度であれば容易(たやす)くズタズタに引き裂けるであろう金属製の糸の嵐を前に、赤髪の人間は剣を構えていた。


 その光景にフォルリアは内心ほくそ笑みながら全ての漆黒の糸に雷の魔力を流す。

 地獄の鋼禍(デヴォル・ジリエーザ)は魔法耐性の高い金属物質を生み出す魔法だが、金属である性質上……雷魔法だけはある程度通してしまう────その欠点を逆に利用するのだ。


『バチィッ!!』


 しかし、その目論見(もくろみ)は人間が黒い糸を斬り払った瞬間に激しい火花が飛び散ったことで(つい)える。

 雷の魔力同士がぶつかり合った時に発生する現象(げんしょう)……どうやら(たが)いに考える事は同じだったようだ。


『ドゴォッ!!』


 (まばゆ)い閃光が散り、暗黒色の波が斬り(きざ)んで倒壊(とうかい)させた建物に既に標的(赤髪の人間)の姿はない。

 ────建物からまた別の建物に魔法の糸を引っ掛けて縦横無尽(じゅうおうむじん)に移動し、此方(こちら)に向けて接近してきていた。


小賢(こざか)しい……【雲の巣(トゥワルボルケ)】」


 恐らく魔法の撃ち合いでは勝てないと判断し、接近戦に持ち込むつもりなのだろうが……そうはさせない。

 そう考えたフォルリアは即座(そくざ)に周囲一帯に黒い蜘蛛(くも)の巣を張り(めぐ)らせる。

 これでもう此方に近づく事は出来ない……後は大量の糸の(やいば)(もっ)て、ゆっくりと追い詰めて蹂躙(じゅうりん)するだけ……


 ────そんなフォルリアの思いを余所(よそ)に、赤髪の人間は魔法の糸から手を離し……展開された黒い糸に向かって飛び降りていた。


「……は?」


 その自殺行為同然の行動に、フォルリアの思考に一瞬の空白が生まれる。

 刹那、『カァンッッ!!』と甲高(かんだか)い金属音が上がると同時にフォルリアの視界には刃を振るう赤髪の人間の姿が広がった。


『ザシュッ……』


 反射的に防御したものの、斬られたのは意識の外に置いてあった……背中に生えた片翼(かたよく)

 瞬間、フォルリアは姿勢制御(バランス)(くず)()逆様(さかさま)に落下する。


「なッ……」


 ─────にが起こった?

 速すぎる、防御魔法を出す暇がなかった……!

 糸を踏み台にした?何故細切れにならない?

 なんで下等生物(人間)がこんなに強い……!?


 想定外の連続に動揺する間、落下する身体は真下に張り巡らされた蜘蛛の巣へと向かっていく。

 身体を斬り刻まれるのを待つ中……真上に見えたのは此方を見下ろす赤髪の人間の姿。


「うああああああああアアアアアアアッッッ!!!」

「ぐッ!?」


 ────文字通りプライドをズタズタに引き裂かれた全能のフォルリアは、せめて憎き怨敵(赤髪の人間)を道連れにすべく腕を触手へと変質させ、その身体を()らえる。


「【地獄の鋼禍(デヴォル・ジリエーザ)】……ッ」


 落下する数秒……呪文(じゅもん)(とな)える声だけが空に響き渡った。



――――――――――――――――――――――――



『ドゴオオオォンッッッ!!!』


 ────(つか)の間の浮遊感の後、耳を(つんざ)くような轟音(ごうおん)と共にアルスの身体を(つらぬ)いたのは鋭い衝撃(しょうげき)


 敵を斬り裂き、他の建物に魔法の糸を引っ掛けて離脱(りだつ)しようとしたところで拘束され地面に叩き付けられたのだ。

 フォルリアと名乗った魔物の身体が肉壁(クッション)になったおかげで即死は(まぬ)がれたものの……高所から落下した衝撃(ダメージ)は凄まじい。



「はぁ……ハァ……ッ」


 全身に走る強烈(きょうれつ)な痛みに(うずくま)る中、(かす)む視界が(とら)えたのは……フォルリアの残骸(ざんがい)である肉片(にくへん)が辺り一面に散乱する光景。


「……?ぐ……ッ」


 その中にたった一つ……(ひか)(かがや)()()を見つけ、確認すべく立ち上がろうとするも身体は動いてくれない。

 最早(もはや)限界だった。


「まだ……まだ俺は……死ぬわけには……ッ!」


 それでもアルスは(あきら)めず、来た道を戻ろうと()(つくば)りながらなんとか前進し始める。

 今の……()()()()仲間達の無事を確認するまでは死ねない────その想いだけが、瀕死(ひんし)になって(なお)、彼の身体を突き動かしていた。


「う……ッ」


 ……しかし現実は無情(むじょう)であり、これまでの無理が(たた)った結果、アルスの視界は急速に暗転し始めてしまう。



「────【癒しの魔花(フロル・ヒール)】」


 薄れゆく意識の中、誰かの声が聞こえた気がした。



 ・・・



「う……」


 次に意識が戻った時、真っ先にアルスが気が付いたのはいつの間にか引いている全身の痛み。

 なんとか生き()びることが出来たようだが……一体誰が助けてくれたのだろう?


「……?」


 そんな風に考えながらゆっくりと目を開けると、目の前に見えたのは誰かの人影。

 視界がまだ(かす)んでいるせいでよく見えないが……相手が女性である事は(かろ)うじて判別(はんべつ)出来た。


「フィルビー……か?」


 自身を治療(ちりょう)してくれたと思われる事から、思い当たる人物の名を()げたところ……それを聞いた目の前の人物はクスッと笑う。


「私を忘れたの?アルス……」


 ────自身の名を呼ぶその声は、聞き覚えがあるものだった。


「君は……」


 徐々(じょじょ)鮮明(せんめい)になっていく視界……(うつ)ったのはサイドポニーに(まと)めた落ち着いた色合いの茶髪を(たずさ)えた女性。


挿絵(By みてみん)


「私よ!幼馴染(おさななじみ)のシオン!」


 ……アルスが勇者になる前の、()()()()()()の姿だった。

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― 新着の感想 ―
最新話まで読了しました。 まさにダークファンタジーと言うべき世界観がとても好みで、特に主要キャラクター達がすごく魅力的で愛を感じました。 挿絵などでイメージの補強もされ、読みやすかったです。 バトルの…
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