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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第二章:城塞都市クヴィスリング編
30/48

25話:静まる風

〜前回までのあらすじ〜

城塞都市クヴィスリングでの魔族との戦い。

フィルビーとウォルフは二人で上級魔族ザヴォートを倒すことに成功するも、それはもう一体の上級魔族───紅い龍フラストの計略の内だった事が判明する。

用済みとばかりに二人を強力な炎の竜巻で覆うフラスト。

絶望的な状況の中、炎の竜巻に閉じ込められていたアルス達は……

「…【業火の竜巻(トロンフェルノ)】」


 詠唱(えいしょう)と同時に()り出されたそれは炎と風の複合魔法。

 大嵐の中に放たれた炎は瞬時(しゅんじ)(ふく)れ上がり、周囲に渦巻(うずま)く炎の(まい)を形成した。

 それは(まさ)しく"(あか)竜巻(たつまき)"と呼ぶに相応(ふさわ)しい大技だ。


「くっ……!」

「…ハァッ…ハァ…ッ」


 ────城塞都市(じょうさいとし)クヴィスリングでの魔族との戦いにて、勇者アルスは仲間の少女のレヴィンと共に逃げ場のない灼熱(しゃくねつ)(おり)の中……息を上げながらも必死に(こら)えていた。


 レヴィンが水の防御魔法を展開してくれていたおかげで焼死(しょうし)は防げたものの、今度は息が苦しい……恐らくは周りの炎が急速に酸素を奪っているからだ。


 レヴィンに教えた周囲に展開した水の防御魔法に雷の魔力を撃ち込むだけの簡易的(かんいてき)なものとは違う────豪快(ごうかい)な見た目に反し、緻密(ちみつ)な魔力制御(コントロール)によって(こと)なる自然魔法を組み合わせる事により成せる……恐ろしい複合魔法だ。



『ゴオオオオオオオオオオォォォォ……ッッッ』


 低い(うな)るような轟音(ごうおん)を発しながら徐々(じょじょ)に迫ってくる炎の壁を前にアルスは(あせ)り始める。


 このままでは窒息死(ちっそく)するか、魔力が切れて焼死(しょうし)するか……どの道長くは()たない。

 第一、自分達が閉じ込められてる間に炎の竜巻を放った紅龍(フラスト)がもう一体の上級魔族の黒い魔物(ザヴォート)援護(えんご)に向かえば全てが終わってしまう。



「レヴィン、大丈夫か?」

「うぅ…アルス……?」


  一刻(いっこく)(あらそ)事態(じたい)の中、アルスはレヴィンに声を掛けた。

 (すが)るような目で此方(こちら)を見る彼女の顔は本当に苦しそうで……見ているだけで胸が痛む。

 恐らく今も仲間(アルス)のためにギリギリのところで防御魔法を展開してくれているのだろう。


「俺が防御魔法を張る……少し休め」

「でも……ッ!」


 そう考えて(かば)うようにアルスも水の防御魔法を展開するも、当のレヴィンから返ってきたのは納得いかないといった反応。

 そんな彼女にアルスは「……代わりに頼みがある」と前置きした上で、どうしようもない現状を()()()()()()を伝えた。


「でも、そんなのやったこと……!」

()けだが、やってみる価値はある……前に言っただろう、君には()()があると」


 一瞬及び腰な反応を見せられるも、(なお)も諦めずアルスは言葉を続ける。

 最早窮地(きゅうち)を脱する方法はこれしかない───その意を込めた目で見つめると、レヴィンは根負けしたのか「はぁ…」と溜め息を()いた。


前の戦い(ヴァイゼン村)の時も思ったけど、ろくに魔力の制御も出来ない私を頼るなんてどうかしてるわ……でも、わかったわよ」

「レヴィン…ありがとう」

「別に…信じてるからね」


 呆れたように言いながらも自分に付いてきてくれる彼女に対し、アルスは感謝を()べながら周囲の魔力を(あやつ)り始めた。



 ・・・



 ────次に見えたのは青い空、先程と変わらず炎上する街並み……そして倒れているウォルフを懸命(けんめい)治療(ちりょう)するフィルビーの姿だった。


 それを見たレヴィンが彼女達の元に向かって()け出した直後……アルスの目が(とら)えたのは地面に映る巨大な影。


『ズシイイィィンッ!!!』


 直後、重い衝撃音(しょうげきおん)(ひび)かせながら落下してきたのは、これまでアルスが戦ってきた上級魔族───紅龍(こうりゅう)のフラストだった。


「馬鹿な…こんなことが……!」


 目の前の敵(フラスト)は今し方起きた事象(じしょう)が信じられない様子だった。

 それも当然だろう……何故なら上級魔族である自身の魔法が、ただの人間に打ち消されたのだから。


 紅龍(フラスト)が放った火災旋風に追い詰められた時、アルスは打開策としてレヴィンに指示を出していた。


 ────炎の竜巻と()()()()の風防御魔法を展開してほしい、と。


 風魔法を(あつか)える素質を持っている事は防御魔法の練習に付き合った際に気づいていたが、実戦の投入は初めてだった(ため)この(こころ)みは半分博打(ばくち)だった。


 しかし見事レヴィンは風の防御魔法の生成(せいせい)に成功し、アルスがそれに合わせて水の防御魔法を展開することで前の戦い(ヴァイゼン村)で彼女が起こした大嵐の魔法を擬似的(ぎじてき)に再現する事が出来た。


 ……その結果、相反(そうはん)する属性の二つの竜巻はぶつかり合い、(たが)いに打ち消し合って消滅(しょうめつ)したのだ。



「許さんぞ……人間共……ッ!」

 よろめきながら怒りの声を上げる紅龍(フラスト)────その周りには、数々の魔龍(ドラゴン)の死体が転がっている。


 風魔法同士が相殺(そうさい)し合った結果、場は一瞬(いっしゅん)だけ完全な無風(むふう)状態となった。

 上級魔族のフラストは持ち前の両翼(りょうよく)で、姿勢制御(しせいせいぎょ)と落下速度の緩和(かんわ)を行い着地時の衝撃(ダメージ)を最小限で(おさ)えたようだが、どうやら他の中級魔族(魔龍達)は同じように出来なかったらしい。


「これ以上の()()()()は不要だ……この場でッ!一匹残らず(ちり)にしてくれるッ!!」


 その結果に魔龍達の頭目(とうもく)である紅い龍(フラスト)は完全に激昂(げきこう)し、その身に宿(やど)る強大な魔力を放出させた────が、魔法を発動される前にアルスは地面を()り斬り掛かる。


「グッ……!」

 瞬間、(うめ)き声と共にその身体から鮮血(せんけつ)()うが、その部位は腕……致命傷(ちめいしょう)ではない。


 ────だが、もう上空へ逃がしはしない。


『ヒュッ』『ガキィンッ!』『ザシュッ!』


 一度目の斬撃を防がれた刹那(せつな)、アルスは間髪(かんぱつ)入れずに連撃(れんげき)を続けていく。


 さっき仲間の元へ駆けて行った時の身体のよろけ具合を見るに、レヴィンの体力は恐らくもう限界の筈だ。

 魔力はまだ残っているようだが……先程のような大技(風魔法)を出す余力(よりょく)(すで)にないだろう。

 もしここで取り逃がせば、二度と仕留(しと)める機会(チャンス)(めぐ)って来ない────



「フラスト…様……ッ!」

「今、お助けに……!」


 そんな焦燥(しょうそう)に駆られながら攻撃を続けていると、不意に周囲から声が聞こえてきた。

 どうやら落下した魔龍達の数体が生き残っていたようだ。

 最期の力を()(しぼ)って自分達の将(フラスト)援護(えんご)する気のようだが……


「はぁッ!!」


 ────同士討(どうしう)ちの可能性(リスク)がある以上、容易(ようい)には撃てまい。

 そう判断し、アルスは一切の躊躇(ちゅうちょ)なく紅龍(フラスト)に接近戦を仕掛け続ける。


「構わんッ!撃てェッ!!」


 ……が、予想に反し敵将フラストは号令(ごうれい)を掛け、それに呼応(こおう)した魔龍達から一斉に火炎魔法が放たれた。


『ビュオオオオオオオオオッッッ!!!』


 そして紅い翼がはためくと同時に、周囲に風の防御魔法が展開され────(から)め取られた炎が(まばた)()にアルスと紅龍(フラスト)を取り囲むように再び炎の竜巻を形成する。


「大した度胸(どきょう)だ……その心意気(こころいき)に敬意を(ひょう)し、この"(あか)竜巻(たつまき)"のフラストが一騎討(いっきう)ち……受けて立とう!!」


 逃げ場のない紅蓮(ぐれん)の檻の中、紅き龍(フラスト)は此方を(たた)えつつ(かか)げた腕を振り下ろす。


「くっ……!」


 (するど)鉤爪(かぎづめ)による攻撃───それ自体は単調(シンプル)な技だが、上級魔族の(パワー)()って行うその威力(いりょく)熟練(じゅくれん)の剣士の斬撃に匹敵(ひってき)する。

 直撃すれば即死……その危機的(ききてき)状況にアルスは焦燥感(しょうそうかん)を高めながらも斬撃の嵐を紙一重(かみひとえ)で回避していく。


 この狭い空間(炎の檻)の中、敵の攻撃を完全に(かわ)し続けるのは不可能だ。

 その上、先程と同様に周囲の炎上のせいで空気が薄い。

 相手も条件は同じだろうが……このまま戦いを続ければ生命力の差で此方が先に倒れるのは明白。

 それならば……


『ヒュッ』『カァンッ!』『ザシュッ』


 ─────攻める!!

 一気に決着を付けようとアルスは怒涛(どとう)の攻撃を展開していく。


「まさかあのザヴォートに(せま)る速さの人間がいるとはな……面白い!」


 しかし、どんなに斬撃を入れようと上級魔族特有の高い再生力が全てを()()してしまう。


「だが所詮(しょせん)は人間……そう長くは()つまい……!」


 (フラスト)もその強みを十分に理解しているのか、(あざけ)るように笑いながら防御の体制を取る。

 どうやら接近戦は()が悪いと判断し、消耗戦(しょうもうせん)に切り替えるようだ。


「ふぅ…」

 細かい斬撃は無意味……一撃で、確実に致命傷(ちめいしょう)を与えなければ。

 アルスは一息()きながらも剣を構え直し、覚悟を決める。


「決着を、付けさせてもらう……!!」

「来るがよい……人間ッ!!」


 ─────これが最後の攻防だ。



『ガキィッ!』『キィンッ!』『カンッ!』


 全身全霊(ぜんしんぜんれい)を込めた猛攻(もうこう)……それを紅い龍は的確に(さば)き致命傷を防いでくる。

 やはり防御に(てっ)されると(くず)すのは難しい。

 体力の限界(タイムリミット)が迫る中、目の前の壁は果てしなく高く見えた。


「はあァッ!!」


 それでもアルスは一切攻撃の手を(ゆる)めない。

 決して(あきら)めず……何度も、何度も(やいば)を振り続ける。


『ザシュッ!』『キィンッ!』『ザシュッ…』


 ……そうしていく内に少しずつ斬撃が入る回数が増えてきた。

 ────このままいけば、自分が倒れるよりも早く倒せる。


「馬鹿な…ッ一体何者だ……ッ!?」

「さぁな」

「ッ!!」


 少ない攻防の中……敵の動きを見切り始めてきたアルスは勝利を確信し、動揺(どうよう)を隠せない目の前の敵(フラスト)に剣を振り下ろす。


『ビュオオオオオオオォォッ!!』


 しかしトドメの一撃が届く直前、突如(とつじょ)発生した突風(とっぷう)にアルスの身は吹っ飛ばされた。


「チッ……」


 悪足掻(わるあが)きの風防御魔法───強制的に距離を取らされたが、おかげで周囲を覆っていた炎の壁も取り(はら)われた。

 次こそトドメを……



「アルス!!」


 ────そう考え体勢を立て直したところで、不意に後方から仲間の声が(ひび)く。


「レヴィン……フィルビー達の様子は?」

「まだウォルフの治療(ちりょう)中よ……アルスは大丈夫なの?」

「あぁ…君はフィルビー達の側に付いてやってくれ」


 上級魔族のザヴォートと戦い満身創痍(まんしんそうい)なフィルビーとウォルフ……その二人を今守る事が出来るのはレヴィンしかいない。

 そう考えたアルスは彼女に仲間の事を(たく)し、自身は改めてもう一体の上級魔族フラストの討伐(とうばつ)へと向かった。



「なるほどな……そういうことか」

 その先に()ったのは、身体から強大な魔力を解き放つ紅龍(フラスト)の姿。


「ならば、もう一つの()()()らえ……!!」


 その魔力はやがて奴の体内に収束(しゅうそく)し……高密度の魔力反応を(とどろ)かせる。

 口振りから推測するに、恐らくは業火の竜巻(トロンフェルノ)以上の大技────危険だ。


「……仲間は見殺しに出来んだろう?」


 その狙いはアルス自身ではなく、後方に(ひか)える仲間達。

 どうやらアルスが(かば)うのを見越し、確実に攻撃を当てるつもりのようだ。



「フン……兵法(へいほう)としては正しいが、戦士としてのプライドは捨てたか……()()フラスト」

「……」


 絶対的な危機(ピンチ)の中、咄嗟(とっさ)に口を()いて出たのは苦し紛れの言葉。

 その安い挑発(ちょうはつ)に対し、紅龍(フラスト)(しば)沈黙(ちんもく)を見せた後、やがて「全ては勝つため……!」と口を開く。


()とはいえ我も軍の将……我が種族存亡(しゅぞくそんぼう)のためならば、どのような悪逆非道(あくぎゃくひどう)にも手を()め…必ず勝利しなければならない……!」


 最後に「例え、同胞(どうほう)をこの手に掛けようとも…!」と()(くく)紅龍(フラスト)───その静かに燃ゆる眼を見てアルスは、眼前の敵から上に立つ者としての強い苦悩(くのう)……そして覚悟を感じた。


本末転倒(ほんまつてんとう)だな……結局はお前もあの黒い魔族(ザヴォート)と同じというわけか」

無駄口(むだぐち)はもういい……終わらせるぞ……!!」


 そんな強い覚悟を持った紅い龍が此方の挑発に乗ることは最早(もはや)ない。


 ──────来る。



「【熱閃光(ソーラー・レイ)】……!!」


 次の瞬間、アルスの視界を覆ったのは(まばゆ)い光。

 高密度に圧縮(あっしゅく)された炎の魔力の(かたまり)……その見た目と魔力反応だけで理解(わか)る。

 直撃(ちょくげき)すれば骨すらも残らない、と。


『バシュウウゥゥゥゥ────ッ!!!』


 詠唱(えいしょう)と共に紅龍(フラスト)の口から放たれた熱線に、アルスは手も足も出なかった……









「……何故(なぜ)だ」


 熱線は文字通り全てを消し飛ばした。

 轟くような高音と共に地面を(えぐ)り、跡形(あとかた)もなく命中した建物を粉微塵(こなみじん)にした。


 ────アルス達のいない()()()()()()を。


「何故貴様が……()()()()を……!?」

「……()()()()()()よかった」


 たった今、起こった事象に明らかな狼狽(ろうばい)を見せる紅い龍(フラスト)

 その隙を突くようにアルスは一瞬で距離(きょり)を詰め……


『ドスッ……』


挿絵(By みてみん)


 ────急所であろう心臓目掛けて剣を勢いよく突き刺した。


「オオォォォ……ッッ!!」


 (あか)い血を吐きその場に倒れ伏す紅龍(こうりゅう)───その姿にアルスは「終わりだ……紅い竜巻」と告げる。

 ……すると、聞こえてきたのは「クク……」と笑う紅龍(フラスト)の声。


如何(いか)なる理由があろうと……同胞(どうほう)を裏切り……手に掛けた(むく)いか」

 血を大量に流しているにも関わらず、その表情には何故か(うす)()みが浮かんでいるように見えた。


「だが…それでも我は…仲間を……!」

 その声は段々と弱々しくなり……やがて力尽(ちからつ)きたのか完全に止まる。


 ────そんな紅龍(フラスト)の生命の息吹(いぶき)と同調するように、気付けばあれだけ猛威(もうい)を振るっていた強風は(すで)に静まっていた。

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― 新着の感想 ―
きたー! ホントにドキドキしっぱなしでした! そして新しい挿絵も素敵! めちゃくちゃ面白かったです♪
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