3話:握手
前半は前回と同じく勇者アルスの視点ですが、
最後の方に別の人物の視点が入ります。
突如として魔獣と戦っていたアルス達の前に現れ、大剣を手に此方に突っ込んでくる大男。
───その狙いはアルスではない。
『ザシュッ!!』
鋭い音と共に地面に落ちたのは、今まさにアルスに襲い掛からんとしていた魔獣の首。
大男はそのまま魔獣の群れを次々と叩き斬っていく。
その動きはとても素早く軽やかで、とても重そうな鎧を身に付けてるとは思えない。
「すごいな…」
アルスは男の動きに感心しつつも、自身も残りの魔獣を狩っていった。
・・・
「ふぅ…ありがとう、助かった」
「あ、ありがと…」
魔獣を全て狩り終え、助力してくれた大男にお礼を述べるアルス。
流石にと言うべきか……普段は刺々しい物言いのレヴィンも、この時ばかりはアルスに続いて素直に礼を言っていた。
「…こんな下りまで女連れて遠足か?良いご身分だな」
───しかし当の大男から返ってきたのは険しい表情と苦言。
思わぬ反応だったのか「…はぁ?」とムッとした反応を見せるレヴィンに対し、大男は「失せろ、死にたくなかったらな…」とだけ言い残して背中を向けた。
「俺は魔王討伐隊の勇者…アルスだ」
「…あぁ?」
去り行く背中を呼び止める様にアルスが名乗ると、男は足を止めて振り向き……何を思ったのか、まるで馬鹿にでもするかの様に鼻を鳴らす。
「はっ…討伐隊か、なら一つ忠告してやる…そこの女…お前、今すぐ辞めろ」
「は…?なんでアンタにそんなこと…」
「戦いの最中ぷるぷる震えてるだけの奴は邪魔だっつってんだよ」
「!!」
不意に自身に向けられたキツい言葉に対し、レヴィンは心底不愉快そうな表情を浮かべ突っ撥ねようとするも、次いで男の口から出てきた言葉にその身を震わせた。
「今回は運が良かったようだが…次はないぜ?お前か、そこの男が死ぬだろうよ…お前を庇ってな」
「うるさい…!次こそは……ッ」
「次なんてねぇんだよ、実戦には」
悔しそうに顔を歪ませながらも必死に食い下がろうとするレヴィン───そんな彼女の言葉はバッサリと切り捨てられた。
それでも目に涙を浮かべながら口をパクパクさせるも、結局は何も言い返せず……
「うっ…うぅ…!」
───終には崩れるようにその場で屈み込み、嗚咽し始めた。
「レヴィン…レヴィン!!」
「…ぇ?」
その様子を黙って見てはいられず、アルスは思わず彼女と目線を合わせるように屈み声を掛ける。
「俺も初めて魔族と戦った時は、君のように足が竦んだ……だから気持ちは分かる」
───それは慰めと共感の言葉。
恐らくレヴィンは実戦が初めてだったのだろう。
突然の魔獣の襲来でそこまで頭が回らなかったが、見た目の若さを考えれば当然のことだ。
そのことを考慮せず敵を彼女に任せようとした自分にも今回の件は非がある。
「焦らなくていい…慣れるまでは俺が何度でも守る…仲間だからな」
……そう考え、アルスは涙を零す彼女に優しく声を掛け続けた。
「心配するな、俺は強い…死にはしないさ」
「う…うぅ…」
その思いが通じたのかは定かではないが、彼女は涙を流しながらも漸く少し落ち着きを取り戻したようだった。
「…立てるか?」
「…ありがと」
アルスが立ち上がり手を差し伸べると、レヴィンは礼を言いながらその手を取りゆっくりと立ち上がる。
顔は背けられよく見えなかったが、アルスはそこで漸く彼女に仲間として受けいられたと感じた。
「…チッ、甘ちゃんが…」
「あ、待ってくれ」
「…今度はなんだよ?」
「名前を教えてもらってもいいだろうか?」
その様子に面白くなさそうな反応をして踵を返す男の背中に問うと、男は面倒そうに首だけ傾け答える。
「……ウォルフだ」
「ウォルフ…?もしかしてお前……」
「知ってるの…?」
「あぁ、北側諸国でちょっとな…」
ウォルフ───男が名乗ったその名にアルスは聞き覚えがあった……のだが、反応を示したレヴィンに説明しようとしたところ、男はその場を立ち去ろうと歩き出してしまう。
その背中にアルスは声を掛ける。
「待ってくれウォルフ…よければ俺達と一緒に来てくれないか」
突然の提案にレヴィンは「えぇっ!?」と驚きを見せ、対照的にウォルフは「はぁ…」と溜め息を吐いていた。
「馬鹿言え、誰が…いや待てよ」
その反応に、一瞬ダメか……と軽く落胆しかけたところ、ウォルフは言葉を止めて振り返りアルスの方に目を向ける。
そしてジロジロと値踏みするように観察したかと思えば、ニヤリと笑って言った。
「そこのお荷物はともかく、お前とは組む価値があるかもな……アルス」
「誰がお荷物よ!私は反対よ!こんな奴!!」
「落ち着けレヴィン、今の戦いぶりの通り彼は強い…味方にすれば間違いなく頼りになるはずだ」
凄い剣幕で反対するレヴィンにアルスは諭すように言葉を返す。
たった今揉めたばかりの相手だ……怒るのも無理はないが、今後の旅を安全に続けるなら戦力になる者の加入は必須。
そのように説明するとレヴィンは「…う」と言葉を詰まらせた。
「決まりだな…俺だって強い奴と組めた方が都合が良い」
そこでウォルフは呟くように言うと、今度は軽薄そうな笑みを浮かべてその手を差し出した。
「それに…その嬢ちゃんのことも心配だしな、俺も守ってやるよ」
「嘘よ!絶対嘘!!」
「決まりだな、よろしく頼む」
「なんでよ!!」
利害が一致したとして、アルスは快くその手を取り握手を交わす。
その隣で怒るレヴィンを見て、しばらくこの二人の間は自分が取り持たなければ……とアルスは思った。
「…んで、お前らはどこに向かってんだ?」
「今は近隣の村の安否の確認のため、ヴァイゼン村に向かっている」
「巡回か……それなら急いだ方が良いんじゃねぇか?」
「…どういうこと?」
「そうだな…魔獣が此処にこんなにいるのはどう考えても異常だ」
────その後、仲間になった大男に現在の目的地を伝えると返ってきたのは険しい顔だった。
レヴィンはその意図を読めなかったようできょとんとしていたが、アルスには察しが付いている。
目撃情報自体はあったとはいえ、大陸南部にこれだけの数の魔獣が徘徊していたらもっと大きな騒ぎになっていた筈。
恐らくこの件は国も把握していない事態なのだろう。
ウォルフに同行を促したのも最悪の状況を想定しての事だった。
「先を急ぐぞ…ヴァイゼン村の人達が危ないかもしれない」
「ちょっと!どういうことか説明してよ!もう…」
「何もねぇといいがな…」
こうしてアルス達一行はトーキテ王国領内にある村の一つ……ヴァイゼン村に向けて進み出した。
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「お願いします…先生、どうか村の皆さんに避難を呼びかけてください!」
「一体どうしたんじゃ急に…」
「なんだか胸騒ぎがするんです…何か恐ろしいことが起こるような…」
トーキテ王国領の村の一つにして、孤児院が併設された教会が建つヴァイゼン村……その教会内にて、運営に携わる司祭は困惑していた。
「ですからお願いします…!私の言葉ではダメでも先生なら…!」
助祭にして自らの養子でもある少女が突然村人を全員避難させるよう訴えてきたからだ。
普段は聞き分けが良く大人しい子の必死な様子は真に迫るものがあったが、それは到底無理なお願いだった。
「…無理じゃよ…この村には子供とワシのような年寄りしかおらん…あの長い道を越えて移動するなんてとても…それにこんな小さな村…どうせ国は助けてくれんよ…」
司祭の諦めたような言葉……それを聞いた少女は何を思ったのか突如として背中を向けて走り出す。
「だったら…私が助けを呼びに行きます!」
「待てフィル!!お主はダメじゃ!お主は…」
司祭は慌ててその背中に手を伸ばし呼び止めるも、言い終える前に少女の姿はなくなり……開いたドアと司祭のみがその場には残された。