22話:紅い竜巻フラスト
〜前回までのあらすじ〜
魔族の侵攻に遭い戦火に包まれる城塞都市クヴィスリングにて始まった二体の上級魔族との本格的な戦い。
ウォルフとフィルビーが黒い魔物ザヴォートと対峙してる間、アルス達は……
"魔龍族"
古来より存在する魔竜と類似する特徴を持つ魔族。
ほぼ全ての個体が炎・風の自然魔法の扱いに長ける他、飛行能力を保有しているなど戦闘に秀でた種族である。
そのため過去の戦争において幾度も人類を苦しめてきた……
「散開せよ!人間共に我ら龍族の力を思い知らせてやれ!!」
───城塞都市クヴィスリングでの戦いの中、敵将の片割れである紅龍フラストの号令を皮切りに周囲の魔龍達が一斉に空高く舞い上がる。
人類の魔法の歴史において、姿勢制御に繊細な魔力操作を要する事から習得難易度が高いとされている風の飛行魔法……
目の前に光景を見るに、どうやら魔龍族は背中に生えた翼を姿勢制御に用いる事によりそれを克服しているらしい。
『『『『ゴオオオオオォォォッ!!!』』』』
───感心した刹那、そのような思考の隙など与えないとでも言うように上空から炎の雨が降り注がれる。
「"水の奇跡"!!」
人海戦術による火炎魔法の嵐……通常であれば有利相性であっても押し切られてしまうだろう数の暴力を、レヴィンの水防御魔法はアルスの期待通りに事も無げに防ぎ切った。
……とはいえ、このまま一方的に攻撃されていては魔力の枯渇による敗北は必至。
「【散り行く火花】!!」
「ええいッ!!」
状況を打破するべく、アルスはレヴィンと共に雷魔法を空に向けて撃ち放つ。
「チッ…魔力が足りないか…!」
───が、アルスの魔法は魔龍達が周囲に展開している風の魔力により届く前に霧散してしまい……
「もうっ!今日調子良いからいけると思ったのに!!」
レヴィンの魔法は明後日の方向に飛んで行ってしまった……。
やはり防御魔法を会得したからといって、すぐに攻撃魔法を当てれるほど魔力操作が上達するわけではない。
「それだけの魔力も宝の持ち腐れか……!」
攻撃手段のないアルス達を嘲笑うような紅龍の声……それと共に上空から放たれる火炎魔法がより一層その激しさを増す。
「くっ…!ウォルフがいれば……」
───こんな時、上空に構える敵に攻撃するのも容易だっただろうに……。
一向に止まない攻撃の嵐を前に防戦一方の中、思わず出掛かった言葉をアルスは深く呑み込んだ。
ウォルフは現在、フィルビーと共にもう一体の敵将である黒い魔物───ザヴォートと戦っている。
上級魔族が相手である以上向こうも苦しい状況な筈……。
そんな時に勇者である自分が弱音を吐いてはいけないと、アルスは今一度奮起して思考を巡らせた。
生半可な魔力の魔法では、遠距離にいる上に周囲に風魔法を展開している敵に攻撃は届かない。
打開するにはレヴィンの高い魔力が必要だが、現状の彼女では攻撃を命中させるのは難しい。
それならば……
「アルス、何か言った?」
「……レヴィン、俺に考えがある…協力してほしい」
「ほんと!?何でも言って!!」
───考えた末に辿り着いた結論を、希望を見出したように明るい表情を見せる仲間にアルスは伝え始めた……
・・・
「……これでいい?」
「あぁ、十分だ…ありがとう」
……数分後、自身の剣に雷の魔力が付与されたのを感じ、アルスは礼を述べた。
"魔力付与"
物質に魔力を纏わせる基礎的な魔力操作技術の一種。
実戦においては剣や槍などの武器に炎や雷の魔力を付与して殺傷力を上げるために使われる事が多い。
実際にヴァイゼン村での上級魔族との戦いにおいても、剣に雷を付与することで戦いを優位に進められた。
『バチバチッ…』
剣から感じる彼女の膨大な魔力……素の状態では不可能だが、アルス自身も扱う事が出来る雷の魔力に変質させた今ならある程度操ることが出来る。
「やっちゃって……アルス!!」
仲間の鼓舞する声に応えるべく、防御魔法の範囲外に出たアルスは上空へとゆっくりと剣を向け…深呼吸をする。
───レヴィンが剣に付与した雷の魔力を、自身の雷の魔力を媒介する事で代わりに魔法を発動する……それが上空から一方的に攻撃される不利状況を覆すために出したアルスの答えだった。
「【散り行く…花火】!!!」
口に出したのは先程と同じ詠唱───しかしその威力は桁が違う。
「「「グオアアアアアアアアアァッッ!?」」」
レヴィンの魔力を借りて放った一撃は、風の魔力に妨害されることなく複数の魔龍を貫き……墜落させた。
『ビュオオオオオオオオオオオオ……ッッッ!!』
───しかし、魔龍の群れの中心に届く直前……突如前面に巨大な風の防御魔法が展開され、樹枝状に伸びた雷の軌道は逸らされてしまった。
「もしやと思ったがこの様な芸当も出来るとは……どうやら悠長に構えている暇はないようだ」
それを出した魔物……物憂げな声を発する紅龍の姿を見て、アルスは戦慄した。
……やられた。
完全に不意を突いた筈の……雷魔法での速攻にも対応された。
早く、次の手を考えなければ……
「なるべく魔力は温存しておきたかったが…これ以上、仲間を死なせるつもりはない…!」
考えている間も紅龍の身体から放出される魔力が膨れ上がっていくのを感じる────大技が来る。
「……【大いなる嵐】」
身構えた次の瞬間、周囲に巨大な竜巻が展開された。
「くっ…!」
耳を劈くような鋭い咆哮のような音と共に少しずつ近づいて来る暴風に対し、思わず身体に力が入る。
巻き込まれれば一溜まりも無い……アルスと同様の危機感を覚えたのか、隣にいたレヴィンは水の防御魔法を展開した。
「くっ……魔力が乱れる……ッ!!」
───しかし、展開された防御魔法は先程よりも遥かに小さい……どうやらこの竜巻が魔力の操作を阻害しているようだ。
「…【地獄の業火】」
徐々に迫る暴風に追い詰められる中、不意に紅竜の詠唱が聞こえた。
「まずい!!」
「えっ!?」
詠唱と同時に突如発生した炎の魔法は竜巻の中でその勢いを増し……
「…【業火の竜巻】」
────"紅い竜巻"となってアルス達を呑み込んだ。




