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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第二章:城塞都市クヴィスリング編
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21話:黒鉄のザヴォート

〜前回までのあらすじ〜

遂に火蓋を切られた二度目の大規模な魔族との戦い。ヴァイゼン村の時よりも激しい魔族の軍勢の攻撃から、何とか要救助者達を守り切ったアルス一行。

そんな状況に痺れを切らし、遂に敵将である二体の上級魔族が本格的に動き出す……!


※今回はフィルビー視点のお話です。

 "フィルビー……ウォルフの援護(えんご)を頼む"


 城塞都市(じょうさいとし)クヴィスリングにて始まった魔族との戦いの中、聖職(せいしょく)(たずさ)わる少女フィルビーは勇者(リーダー)であるアルスの指示を受けて二体の上級魔族の片割れである黒い魔物……ザヴォートと対峙(たいじ)していた。


「さて……どちらの獲物(えもの)から仕留(しと)めてやろうか……!」


 全身を(おお)鋭利(えいり)な形状の漆黒(しっこく)(よろい)、身体から放たれる強大な魔力……ゆっくりと近づいてくるその姿は威圧感(いあつかん)で満ち(あふ)れていた。



「「「グオオオォォォォッ!!!」」」


 敵は黒い魔物(ザヴォート)だけではない。

 手柄を上げんと 咆哮(ほうこう)と共に雪崩(なだ)れ込んでくる魔族の群れ……その光景はヴァイゼン村の惨劇(さんげき)彷彿(ほうふつ)とさせる。



「ウォルフさん!下がってください!!」

「!?おい!何を!?」


 ──思わず(すく)みそうになる足を(ふる)い立たせ、フィルビーは前へと出た。


 仲間達の奮戦(ふんせん)により大分減らせたとはいえ、依然(いぜん)として数で圧倒的に劣っている。

 前衛がウォルフしかいない今、上級魔族(ザヴォート)と他の魔族を同時に相手取るのは困難。


 ……そう考え、フィルビーは身体から魔力を放出して眼前に迫る魔族の群れに向かって呪文(じゅもん)(とな)えた。


「〜♪」


 ──それは彼女が幼い頃に知った魔法。

 心地(ここち)よい子守唄(こもりうた)のような詠唱(えいしょう)を聴いた魔族達は『ドサッ…』と音を立ててその場に倒れ()す……()()()()()()()()



「まだそんな魔法を隠していたか……!」

 フィルビーの魔力範囲外から事の様子を見た敵将の黒い魔物(ザヴォート)忌々(いまいま)しげに(つぶや)きながら後方へ大きく飛び、両腕を構えた。


「【地獄の鋼禍(デヴォル・ジリエーザ)】……【魔弩(ウロボクス)】!!」

 そして詠唱と同時に腕から複数の黒い突起物とっきぶつを生やし、『ガヒュンッ!!』という音と共に撃ち放つ。


 ──────速い。


『ギィンッ!』

 (にぶ)い音と共に(はじ)かれた漆黒の凶矢(きょうし)……間一髪(かんいっぱつ)、前に出てフィルビーを守ってくれたのはウォルフだった。


「俺の後ろに付け!!」

「は、はい!」


 お礼を言う間もなく黒い魔族(ザヴォート)の元へ一直線に駆け出したウォルフ……その後をフィルビーは(あわ)てて追い始めた。

 魔力量の多い上級魔族(ザヴォート)に引き撃ちを徹底(てってい)されれば一方的に不利な消耗戦(しょうもうせん)になってしまう。

 ───ウォルフの判断が最善(さいぜん)だとフィルビーは信じた。


「フン…いつまで()つものか…!【魔弩(ウロボクス)】!!」

 そんな考えを嘲笑(あざわら)うかのように、先程とは()にならない数の凶矢を黒い魔物(ザヴォート)は撃ち放ってきた。


「はっ!大した威力(いりょく)じゃねぇな!!」


 嵐のような攻撃を前にして、ウォルフは(ひる)まないどころか挑発(ちょうはつ)するような言葉さえ吐きながら、手に持った大剣と重厚(じゅうこう)な鎧を(もっ)て弾き……後ろにいたフィルビーを守りながら前進する。


「終わりだ…ゴミ野郎!!」

 そして黒い魔物(ザヴォート)の前で飛び上がり、空に向かって大剣を(かか)げた。


「…学習能力(がくしゅうのうりょく)がないのか?貴様は」

 自身に振り下ろされる大剣を前にして、黒い魔物(ザヴォート)は冷めたような反応を見せながらウォルフに向かって腕を掲げて詠唱する。


「そんなに死にたければ、その鎧ごと貴様を(つらぬ)いてくれるわ……【魔槍(ボル・グニル)】!!」


 ───それは先程レヴィンの防御魔法、ひいてはその中にいた自分達に向けられた殺意の(かたまり)のような魔法だった。


『ギュイイィィィィンッ!!!』

 大量の槍を一繋(ひとつな)ぎにしたような造形(ぞうけい)の漆黒の巨槍(きょそう)は、耳障(みみざわ)りな金属音と共に高速で旋回(せんかい)し……上から落ちてくるウォルフを待ち構えている。


 空中では(かわ)しようがない─────




「かかったな!!」


 ……恐らくはそうした相手の心理を利用した陽動(フェイント)だったのだろう。

 ウォルフは不敵な笑みを浮かべて、巨槍に突っ込む寸前(すんぜん)で円を描くように身を(ひるがえ)した。


 ()()()()()()()()()()()()でなければ成し得ない回避方法に「なッ…!?」と驚愕(きょうがく)を示す黒い魔物(ザヴォート)……その頭部にウォルフは勢いのままに大剣を()(はら)った。






「なるほど…さっき予備動作なしに私に向かってきたのといい……貴様は()()()()()を持っているようだな」


 ───しかし、その完全に意表(いひょう)を突いた(はず)だった攻撃も黒い魔物(ザヴォート)には及ばず……腕の外殻(がいかく)によって容易(たやす)く防がれてしまう。


 ……だが、一瞬(いっしゅん)でも(ザヴォート)の動きを止めることが出来た。


「【不全なる器(パラライズ)】!」

「グッ!また……」


 精密(せいみつ)魔力操作(コントロール)により放たれた麻痺の魔法はウォルフの身体を避けて黒い魔族(ザヴォート)の動きのみを停止させ、その隙にウォルフは「まだだ!!」と大剣を手放すと共に(ふところ)から取り出した細身の剣で突く。

 大剣より速い攻撃……(たと)麻痺の魔法(パラライズ)の効果が切れたとしても防御動作が間に合わない(はず)


『ガキィンッ!!』

 ───しかしそれすらも黒い魔物(ザヴォート)の対応は上回り、外殻の隙間から新たに黒い槍を生やすことで攻撃を防いだ。


 重力操作による陽動(フェイント)や細身の剣での攻撃……初見の筈の攻撃に連続で対応する戦闘の才覚(センス)……

 直接対峙して初めて感じた上級魔族の強大さに、フィルビーはその身を震わせた。



「ウォルフさんごめんなさい…やっぱり麻痺の魔法(パラライズ)の効きが悪いみたいです…」

 攻撃に失敗し、大剣を回収しつつフィルビーの元まで後退したウォルフにフィルビーは深々と頭を下げた。


 麻痺の魔法(パラライズ)の効果が薄い原因……上級魔族特有の強大な魔力に魔法の威力(いりょく)緩和(かんわ)されてるのもあるだろうが、それにしても黒い魔物(ザヴォート)他の上級魔族(フラスト)以上に効果が切れるのが早いように見える。


 ───恐らくは奴の身を(おお)っている漆黒(しっこく)の鎧のような外殻の影響(えいきょう)もある筈だ……アレからは高密度の魔力を感じる。

 レヴィンの水と雷の複合防御魔法を見た上で突っ込んできたのも恐らくは魔法への耐性に自信があったからだろう。


「せめて…もう少し近づく事が出来れば、動きを止められる時間を増やせるかもしれませんが……」


 つまり……遠距離からの麻痺の魔法(パラライズ)ではまともな効能(こうのう)は期待出来ない。

 (わず)かな(すき)を作る程度では、細身の剣での攻撃しか間に合わず…今のように防がれてしまうだろう。

 咄嗟(とっさ)に出した槍の防御……その上から攻撃を通せる威力を出せるのは、ウォルフの大剣しかない。

 ───大剣で攻撃出来る決定的な隙を生む……その(ため)にはもっと近づかなくては。



「へっ……」

「ウォルフさん……?」

 苦しい状況(じょうきょう)で必死に思考を(めぐ)らす中……不意に聞こえてきた仲間の笑い。

 戸惑(とまど)うフィルビーに対し、当人(ウォルフ)は不敵な笑みを浮かべながら「…奴を見てみな」と(うなが)してきた。


「チッ…小賢(こざか)しい真似を……!」

 ────そこには鎧に覆われていない箇所(かしょ)から血のようなものを流し、苛立(いらだ)ちを見せる黒い魔物(ザヴォート)の姿が()った。

 そして…よくよく見れば漆黒の鎧自体にも何箇所か亀裂(きれつ)のようなものが走っている。


「攻撃を防がれた時、もう一本の剣で刺してやった……どうやら見えない部分の防御は出来なかったみてえだな」

「なるほど…だからあんな鎧で身を守っていたんですね…」


 そんな敵を見て楽しそうに言うウォルフにフィルビーは感心した。

 普段から隠し持っている双剣……その一振りを使った先程の頭部への攻撃自体が、黒い魔物(ザヴォート)の視界を(ふさ)いで本命の攻撃(もう一振りの刃)を当てるための陽動(フェイント)だったらしい。


「それに、()()()()()()……」

「あぁ、どうやら奴の鎧の防御力も完璧じゃあねえようだな……へへっ」


 それにこれまで防がれてきた攻撃も、目の前の敵の姿を見る限り一切無駄になってはいない。

 何度も打ちつけた大剣の重みや、大量に降り注がれた瓦礫(がれき)の嵐……その積み重ねが黒い魔物(ザヴォート)強固(きょうこ)な鎧に(ほころ)びを(しょう)じさせたのだ。



「このままぶっ叩きまくって…ぶっ殺す!!行くぞフィルビー!!」

「はい!ウォルフさん!!」


 その事実にフィルビーは希望を見出し、頼もしい仲間と共に目の前の敵に向かって走り出した。


 なるべく接近し麻痺の魔法(パラライズ)を漆黒の鎧に覆われていない部分に撃ち込む。

 そうすれば大剣で攻撃する隙が生まれ、いずれは鎧を打ち(くだ)き奴を倒せる筈だ……勝機(しょうき)は十分にある。






『パキッ…』

 ───そう思った時、前方から(かわ)いた音が(ひび)くのが聞こえた。


「認めてやろう…」

 音の出所(でどころ)黒い魔物(ザヴォート)……何事かを(つぶや)くその姿は、気のせいか先程よりも亀裂が広がっているように見える。


「はっ!やっぱもう限界みてえだな!!覚悟しやがれ!!」

 勝利を確信したのか、声を上擦(うわず)らせながら嬉々(きき)として大剣を構えるウォルフ。

 その間も『ピシッ…』『ピキッ…』と亀裂は増え、やがてそれは全身に広がっていき……



「……【武装解除(ギア・リベレ)】」

「え?」


 ────次の瞬間、甲高(かんだか)破裂音(はれつおん)と共に凄まじい数の黒い破片(はへん)がフィルビーに襲いかかって来た。


「うっ…!」

 瞬間、足に(するど)い痛みが走る。

 不意に飛んできた飽和(ほうわ)攻撃……初見(しょけん)で回避し切るのは不可能だった。


「クソがッ!あの野郎……ッ!!」

 痛みを(こら)えながら仲間の安否(あんぴ)を確認すると、飛び込んで来たのは顔や鎧の隙間に何本も破片が突き刺さっている痛ましい姿。


「一体、何が……」

「……どうやら貴様らは下等種(かとうしゅ)の中でも少々(しょうしょう)上等な獲物(えもの)のようだ」

「!!」


 ───状況を確認しようとした時、その場に黒い魔物(ザヴォート)の声が(ひび)き渡った。


「敬意を(ひょう)し…この"黒鉄(くろがね)のザヴォート"が全力で相手をしてやろう」


 即座(そくざ)(つえ)を構え、視線を向けるフィルビーだが……そこには今まで戦っていた黒い鎧の魔物の姿はない。


「さァ……処刑(しょけい)の時間だ……!!」


挿絵(By みてみん)


 ────そこに()ったのは、悪魔(あくま)のように凶悪(きょうあく)な笑みを浮かべる……異形(いぎょう)の魔物の姿だった。

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― 新着の感想 ―
水のないところでこのレベルの水遁を……ッ! レヴィンちゃんが頑張る姿は可愛いですね(΄◉◞౪◟◉`) 一章でもそうでしたが魔族が単なる脅威ではなく、感情のある敵陣営として描かれているのが好きです。ど…
魔族との戦い再び!激アツですね フィルとレヴィン、自信がついてきましたね、成長を感じられます( *´꒳`* ) 歌の戦法は他と被らないフィルらしさがあっていいですね。これなら魔族にも勝てるのでは?と思…
激戦の中でフィルビーとウォルフの連携が熱いですね〜!! フィルビー視点も新鮮でとても楽しいです! 敵のパワーアップでピンチに……ドキドキが止まりません!
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