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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第一章:ヴァイゼン村編
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2話:魔獣

「ねぇ…ちょっと!!」

 後ろから(ひび)く少女の声が聞こえたのは、トーキテ王国にて勇者となってからしばらく経った頃だった。


 思わず振り返ると……先程仲間に加えた名門貴族トゥローノ家の魔法使いの少女であるレヴィンが肩で息をする光景(こうけい)が目に入る。


「大丈夫か?」

「っ…はぁ……っはぁ……アンタが歩くの(はや)すぎんのよ…!」


 駆け寄ったところで彼女に(うら)めしげな視線を向けられてしまう……どうやら歩きの速さ(ペース)を間違えたようだ。


「すまない、少し休憩(きゅうけい)しよう」


 アルスは自身の配慮(はいりょ)が足りなかった事を素直(すなお)()びて、少女と共に近くの木の下に腰掛けて休憩(きゅうけい)を取ることにした──────



 ・・・



「ふぅ…あのさ、私達今どこに向かってんの?」


 ───数分もすると息が少し落ち着いたのか、レヴィンに声を掛けられた。

 先程よりは険悪な空気ではないのを感じ、少女の問いに答えるべくアルスは口を開く。


「当面の目標は国内にある()()()()()だが、その前に()()()()()()訪問(ほうもん)する」

「わざわざ迂回(うかい)するの?なんで?」

「…住民の安否確認(あんぴかくにん)のためだ」

「え?でも()()が侵攻しているのはまだ大陸北部の話だって……」

「それが…()()目撃情報(もくげきじょうほう)(すで)に南部でも上がっているらしい」

(うわさ)には聞いてたけど本当だったんだ……」


 "魔族(まぞく)"

 ある日突然この大陸タルシスカに現れた人類の天敵の総称(そうしょう)

 古くは悪魔(あくま)とも呼ばれていた時代もあるが、現在では魔物(まもの)や魔族の呼称(こしょう)に統一されている。

 その中で野生動物の習性が強い種族(もの)()()()()、もしくは魔獣(まじゅう)と呼ばれている。


 魔族は現在、大陸北部を中心に領土(りょうど)を広げている。

 残された北方諸国と中央諸国の奮闘(ふんとう)により、なんとか北側で領土の拡大は()い止められはしたものの、魔族が()()から持ち込んだとされる魔獣が大陸中に放たれてしまった。

 魔獣は大陸に生息していた野生動物よりも(はる)かに強靭(きょうじん)かつ凶暴で、それが蔓延(はびこ)った結果、大陸の生態系は破壊されてしまった。

 大陸中が魔族の脅威(きょうい)(さら)されたことにより、都市部の城塞(じょうさい)化は進む一方で、都市外の村や集落は現在減少の一途(いっと)辿(たど)っている。



「…そういうわけで、巡回(じゅんかい)による各村や集落の安否確認が必要なんだ」

「…わかったわよ」


 淡々(たんたん)とした説明に渋々(しぶしぶ)ながら納得した様子のレヴィン……そんな彼女に対し、アルスは出会った時には聞けなかったことを聞こうと考えた。


「ところで、今のうちに聞いておきたいことがある」

「…なに?」

「君の使える()()と得意な戦い方を教えてくれ」


 "魔法(まほう)"とは、人類や魔族が引き起こすことが出来る超自然的(ちょうしぜんてき)な現象のことである。

 詳しい原理は未だ解明(かいめい)されていないが、人間や魔族の身体には魔力(まりょく)という不思議なエネルギーが(そな)わっており、それを放出(ほうしゅつ)変換(へんかん)することで様々な事象(じしょう)を引き起こすことが出来る。

 基本的には火・水・土・風などの自然現象を発生させる()()()()が主流となっているが、それに当てはまらない魔法も多数存在する。



「…急に何?雷魔法に期待してるってアンタ自身がさっき言ってたじゃん」

「戦う(さい)の取り決めはあった方がいいだろう?俺は炎魔法が得意で剣技にも多少心得(こころえ)がある…前衛(ぜんえい)は任せてほしい」

「……」


 ───アルスの問いに返ってきたのはやや刺々(とげとげ)しい言葉。

 しかし仲間の能力を知ることは隊員の命を預かる勇者の立場としては必須(ひっす)……その(ため)根気(こんき)よく話し掛け続けると、彼女も思うところがあったのか目を丸くした。


「私は……」

 やがて口が開きかけた……が、そこで彼女の言葉は止まり再び下を向いてしまった。


「まぁその気になったら教えてくれ……そろそろ行こうか」


 やはりまだダメか……と一旦ず親睦(しんぼく)を深める事を(あきら)めてアルスは立ち上がる。


「あのさっ!」

 ───歩みを始めた時、再び後方から少女の声が響いた。


「ん?どうした?」

「私、ほんとは……」


 レヴィンは強張(こわば)った表情で口をパクパクさせていた。

 何か伝えたい事があるようだが……


「……待て」

「…え?」


 ───その言葉をゆっくり待っている時間はなさそうだ。

 ……すぐ近くに()()がいる。


『ガサッ……』

 オロオロするレヴィンを余所(よそ)に剣の(つか)に手を置きつつ周囲を警戒(けいかい)していると、不意に側の草陰(くさかげ)から()()()が出てきた。


 ────ヘルハウンドだ。

 魔族が大陸に放った(おおかみ)のような姿をした魔獣(まじゅう)…それも一匹ではない。

 魔獣(ヘルハウンド)は群れを形成し、アルス達に向かって威嚇(いかく)しつつゆっくりとその距離を詰めてきていた。


「ひっ!魔獣(まじゅう)!?こんなに…」

「…レヴィン、君は後方から援護(えんご)を頼む」


 身体を震わせながら後退(あとずさ)るレヴィンを(かば)うように前に出て、アルスは剣を構え臨戦態勢(りんせんたいせい)に入る。



「「「グオオオオオォォオッ!!!」」」

「……【竜の息吹(ドラク・スフル)】」


 咆哮(ほうこう)を上げながら襲い掛かってくる魔獣の群れ────アルスは一切動じる事なく呪文(じゅもん)(とな)え……群れの半数を焼き払った。


「「「ガアアアアッ!!」」」

 それを見た魔獣の群れは突如(とつじょ)として散開(さんかい)をした。

 狙いを(しぼ)らせないつもりか……どうやら言葉を話せなくとも本能的な知能は高いらしい。


「レヴィン!何体か頼む!!」


 散り散りになった素早く動く敵に魔法を正確(ピンポイント)に当たるのは至難(しなん)(わざ)……しかし速度に(すぐ)れる雷魔法であれば────

 戦いながら思考を回転させ、アルスは後方に(ひか)えている仲間(レヴィン)に指示を出した。


「ぇ…ぁ…」


 ……しかし、どういう訳か当の彼女は顔から汗を流し硬直(こうちょく)していた。

 足が今にも(くず)れそうな程に身体は(ふる)え、目は(およ)いでいる。

 一体どうしたのか……


 ───気を取られた一瞬で、アルスの横を複数の黒い影が通り抜けた。


「しまった!」


 魔獣が向かう先は───今動かないでいるレヴィンだ。

 迫り来る危機に彼女の顔は蒼白(そうはく)になり……やがて、覚悟したように目を(つぶ)った。


「くっ…!」

 今ならまだ間に合う────アルスは剣を構えて動けない彼女の元へと駆け出す。


『ザシュッ!!』

 しかし次の瞬間には、(するど)い音と共にレヴィンに襲い掛かった魔獣達の胴体(どうたい)は真っ二つになっていた。


「え…?」

 レヴィンは目を見開いていた…… 突如(とつじょ)として前に現れた()()()()()()の姿に。


「だ、だれ……?」」

「……」

 レヴィンの問いに対し男は答えず、代わりにアルスの方を見た。


 逆立(さかだ)った灰色の髪、身に(まと)いし重厚(じゅうこう)(よろい)、そして顔に付いている傷跡(きずあと)……

 今し方魔獣を叩き斬った大剣が、その屈強(くっきょう)そうな印象をより強めている。


 ───男の(ひとみ)にアルスの姿はなく……後ろの魔獣の姿を唯々(ただただ)無機質に映していた。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
態度が刺々しい割に、魔法の話になると口が重くなるレヴィンさん……家元は雷魔法が得意な名門のようですが、魔獣に魔法で対応できなかった辺り、魔法を扱えないタイプだったりするのでしょうか? もしくは魔法に何…
Xから来ました。 王道ファンタジーでとても面白いです! 挿絵もあり続きが気になりました!
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