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Truth Of Legend  作者: 座敷猫
第二章:城塞都市クヴィスリング編
18/38

16話:盗賊

〜前回までのあらすじ〜

クス伯爵との交渉の末…無事にヴァイゼン村での魔族討伐の報酬を貰えることになったアルス達一行。

しかし話はそこで終わらず…クス伯爵より新たに城塞都市への救援に向かうよう命じられた。

翌日、伯爵の用意した馬車で移動を開始し始めた一行だったが、その裏では何らかの思惑が暗躍しており…?

『ゴトゴト…』


───クス伯爵(はくしゃく)との謁見(えっけん)の翌日…アルス達は物資(ぶっし)を乗せた大きな馬車の中で揺られていた。


「改めて送って頂きありがとうございます」

「いえいえ…どの道護衛(ごえい)が必要なのでむしろ有り難かったですよ」

伯爵より派遣(はけん)された馬車の御者(ぎょしゃ)に礼を述べると、軽く会釈(えしゃく)を返された。



国家間の移動では魔獣(まじゅう)に襲われる危険があるため、貿易や物資の輸送(ゆそう)の際の護衛(ごえい)を魔王討伐隊が(にな)う事も多い……それ故この手の任務はアルスにとってはお手の物だった。


それに、大陸南方のトーキテ王国から中央の城塞都市(じょうさいとし)クヴィスリングまでは移動にかなりの日数を要する。


元々()()()()()のため北方へ(おもむ)くつもりだったアルスにとって、伯爵からの提案(馬車による送迎)は渡りに船な好条件であった。



「しかしあの領主(クス伯爵)…どうにも()えない感じだったな…」

「あぁ…今回の依頼もなんだか()()()()感じがするぜ…」


…しかし、()()()()という理由があったとはいえ、高圧的だった伯爵の態度が一転した事がどうにも釈然(しゃくぜん)とせずモヤモヤした思いを小さく吐き出すと、ウォルフも同じ思いだったようで軽く(うなず)いていた。



「アルス…ありがとね」

───そんな(よど)んだ空気の中、不意にレヴィンがお礼を言ってきた。


「…?何の事だ?」

「あの伯爵に…私達のためにしっかり意見してくれたこと」

「あぁ…勇者(リーダー)として当然のことをしたまでだ…それに感謝するのは俺の方だ」

「え?」

「いや…なんでもない」

「…?そう…変なの…」

微笑(ほほえ)む彼女に首を軽く横に振って言葉を返すと、彼女は不思議そうな顔をしていた。


元々報酬(ほうしゅう)について(とぼ)けられたら何かしら手を打つつもりではあった。


"分かってるわよ…あんなの一々気にしてたらキリないって…でも…悔しいじゃない…!私達…あんなに頑張ってきたのに…"


───しかしあそこまで強気に交渉(こうしょう)出来たのはひとえに屋敷(やしき)に入る前にレヴィンの()()()()を聞いたことにより考えが少し変わった影響が大きかった。


彼女の純粋(じゅんすい)な訴えがあったからこそ…仲間達に報いるためにあの場で正しい行動が出来たのだと、アルスは感謝していた。



「にしても…あの(ジジイ)の焦った顔…ふふっ…スカッとしたわ」

「ちょっとレヴィン…声が大きいですよ…」

そんなアルスの思いなど露知(つゆし)らず、レヴィンは思い出したように笑ってフィルビーに(たしな)められていた。

……聞こえたのか前の御者が凄い顔で此方(こちら)を見ていた。



「と、ところで…これから行く()()()()()()()ってどんな場所(ところ)なんですか?」

不意にフィルビーが誤魔化(ごまか)すように咳払(せきばら)いしつつ、次の目的地について聞いてきた。

その疑問にアルスは「そうだな…」と口を開いた。


"城塞都市(じょうさいとし)クヴィスリング"

中央諸国に()る都市の一つにして、魔王軍の侵攻を防ぐ…人類における大陸防衛の(かなめ)の一つ。

都市周辺および内部には多数の弩砲台(バリスタ)投石機(カタパルト)が設置されており、これまで何度も魔王軍を撃退してきた実績を誇っているという…


「す、すごい場所(ところ)なんですね…!」

アルスの説明にフィルビーは感心したようにうんうんと頷いていた。

反面……レヴィンとウォルフはどこか不安そうな顔をしていた。


「でも…そんな鉄壁(てっぺき)要塞(ようさい)救援(きゅうえん)を求めるなんて…」

「…あんま戦況(せんきょう)が良くねえのかもな」



───そんな風に話していると、突如(とつじょ)『ギッ…』と音を立てて馬車が止まった。


何かあったのかと周囲を確認すると、そこにはゴツゴツした巨岩(きょがん)と砂漠のみが広がっていた。

どうやら何もないようだが……


「…どうしました?」

「いえ…ここらで一旦(いったん)休憩しようと思いましてね」

「いいんじゃない?私ちょっと気分悪くなっちゃったし…」


アルスの質問に振り向かずに答える御者……その提案に賛成したのはレヴィンだった。

どうやら馬車の揺れで酔ってしまったらしく、ふらふらしながら降りようとしていた。





「危ねえ!!」

「きゃあっ!!!」

────レヴィンが馬車の外に出る直前、突如(とつじょ)としてウォルフが彼女を抱き寄せた。


『ドスッ!』

同時に馬車の内部に(にぶ)い音が伝わってきた。


「なに!?なんなの…?」

当然の事にレヴィンは(ひど)動揺(どうよう)していた。

……そんな彼女をフィルビーに任せ、アルスはウォルフと共に武器を手に馬車を降りた。


「これは…」

馬車を確認すると、車体に一本の短剣(ダガー)が突き刺さっていた。

どうやらさっきの鈍い衝撃音(しょうげきおん)の正体は()()のようだ。

だとすると…これを投げたのは─────


「兄ちゃん達よぅ…良い装備持ってんじゃねえか」

「有り金と持ち物…全部置いていきな」

「それと馬車を寄越せ…そしたら命だけは助けてやる」


───短剣が投げられたであろう方向を見ると…そこには武器を持った集団がいた。


男達は全員覆面(ふくめん)をしておりその顔は(うかが)えないが……どうやら狙いは此方(こちら)物資(ぶっし)のようだ。


「こいつら…盗賊(とうぞく)か?」

「またかよ…ったく…そこらに魔獣がいるかもしれねぇってのによくやるぜ…」

アルスが自身の推測(すいそく)を口にすると、隣でウォルフが呆れたように言った。


大陸中に危険な魔獣が闊歩(かっぽ)する今の時代……数を減らしていた盗賊という存在と短期間に二度も遭遇(そうぐう)するとは……魔獣がまだ少ない大陸南部かつ資源が少ない乾燥地帯といった条件(ゆえ)だろうか。



「どうやら要求を()む気はねえみたいだな」

「なら…死ねやッ!!」


───そんな風に考えていると、盗賊達は武器を手に躊躇(ちゅうちょ)なく(おそ)い掛かってきた。


「きたぜ、どうするよ?」

「確かめたいことがある…無力化(むりょくか)しよう」

大剣に手を掛けながら指示を促すウォルフに答えつつ、アルスは(さや)から剣を抜き構えた。


「なに余裕ぶってんだぁ!?」

「てめぇらはここで終わりだ!」


盗賊達の内の二人が先陣(せんじん)を切り向かってきた。

素早い身の(こな)し…ある程度戦い慣れてるような動きだ。


「「ぐっ!?」」

────だが、余裕で見切れる程度だ。

(せま)ってきた盗賊二人をアルスは剣の平打ちで、ウォルフは素手であっさりと制圧した。


「へぇ…野盗(チンピラ)にしては良い動きだな」

「あまり油断するなよ、ウォルフ」


アルスはそのままウォルフと共に盗賊達の元に向かい…圧倒(あっとう)していった。

やがて…盗賊達の間に動揺(どうよう)が走った。



「こいつら…強いぞ!?」

「だったら()()()人質(ひとじち)に…」

「させねえよ」

「がっ…」


まともに戦っては勝ち目がないと見たのか、突如(とつじょ)馬車に向かって走り出した盗賊…それすらもウォルフはすぐに追いつき気絶させた。


「くそっ!こんなの聞いてねえよ!

「強すぎる!逃げ…」


───それを見て逃げ出した残りの盗賊を、アルスは制圧した。



「ふぅ…これで全部か?」

「あぁ…」

手で汗を(ぬぐ)一息(ひといき)つくウォルフの言葉にアルスは(うなず)いた。


……気付けば、盗賊を全て倒し終えていた。

強力な魔族と戦い死線(しせん)を越えてきたアルス達にとって盗賊など最早(もはや)敵ではなかったのだ。



「よし、何か(しば)る物を…」

ウォルフと同様に一息ついた後、アルスは盗賊を拘束(こうそく)しようと馬車の方を振り返った。




「きゃあっ!!」

「フィル!?…あんたフィルに何してんのよ!?」


───すると馬車の前でフィルビーが()()に拘束され、首元に短剣を突き付けられている光景(こうけい)が目に入った。


「…何のつもりだ?」

「黙れ…俺の言うとおりにしろ!()もなきゃ今すぐこの女を殺す…!」


静かな怒気(どき)(はら)んだアルスの言葉に、御者の男は(にら)み返して(おど)し付けてきた。


「簡単な仕事だって聞いてたのに…なんで討伐隊(ごと)きがこんなに強えんだクソが…ッ」

───最初から嫌な予感はしていた。


態度を一変(いっぺん)させ、あっさりとこちらの要求を呑んだ伯爵…此方にとって都合の良すぎる送迎の申し出…


冷や汗を流しながらブツブツと(つぶや)く御者の言葉を聞いて、恐らく全ては仕組まれたことだとアルスは()()した。



「テメーが野盗(こいつら)頭領(ボス)か?」

「何が目的だ?伯爵の命令か?」

「黙れっつってんだろ!!」


ウォルフと共に()(ただ)すと、御者は怒号(どごう)を上げ…数秒後、短剣をアルスに向けて言った。


「おいお前、今すぐ隣の男を殺せ…そしてお前も自害しろ!!そしたら女共の命だけは助けてやる…!」

その言葉に、御者の後ろにいたレヴィンは「何を勝手なことを…!」と怒りを(あらわ)にして杖を構えた。


「おっとぉ?撃てば仲間に当たるぞ?それでいいのかぁ!?」


直後、御者はフィルビーを盾にするように振り返った。

その下劣(げれつ)な行動にレヴィンは「くっ…!」と悔しそうな声を出しながら杖を下ろした。



『チャキッ…』

───その一瞬の隙をアルスは見逃さなかった。


レヴィンの行動のおかげで御者の注意が此方から()れた… 今なら()()()


一気に踏み込むべく…アルスは剣を構え、姿勢を低くした……




挿絵(By みてみん)


「〜♪♪」


その時だった。

歌が()こえた…綺麗(きれい)な歌声だ。


「「!?」」


歌声の主はフィルビーだった。

意表(いひょう)を突かれたのか、突然な事に御者とレヴィンは驚きを見せていた。


──その歌は、以前にも聴いたことがあるものだった。


ヴァイゼン村の戦いで暴走したレヴィンを(しず)めるためにフィルビーが使用した…歌うような詠唱(えいしょう)特徴的(とくちょうてき)()()()()()()()()()()()()()()()()




「なん…だ…こ…」

その歌を聴いた御者は身体の力が抜けたようにふらつき…なんとか踏ん張り抵抗しようとしたが、(つい)には『ドサッ…』と音を立てて倒れ動かなくなった。



「フィル…今の歌は…?」

「生物を眠らせる魔法です…正確には()()()()()()()んですが…」

「ヴァイゼン村でお前も()らったろ…忘れたのか?」


フィルビーとウォルフの説明にレヴィンは「そ、そうなんだ…」と納得(なっとく)しつつも「でも…」と言葉を続けた。


不思議(ふしぎ)な詠唱ね…心が安らかになる…本当の歌みたいだった」

「そうだな…とても美しい歌声だった…」


ぽつりと出たレヴィンの感想にアルスは共感した。

聴いてるだけで安心するような、とても(いや)される…いい歌だった。


「ど、どうも…」

そんなアルスとレヴィンの感想にフィルビーは…はにかんだ笑顔を見せてくれた。


「おい!んなことよりさっさとこいつら縛るぞ!」

───場の空気が(ゆる)まり掛けた時…不意にウォルフの大きな声が(ひび)き渡った。



・・・



「…つまり、全て伯爵の差し金だったってわけか」


御者含めた盗賊を拘束した後、アルス達は尋問(じんもん)を開始した。

初めは反抗的だった盗賊達もウォルフの軽い拷問(ごうもん)によりすっかり心を折られ、洗いざらい全てを吐き出していた。


……どうやら彼らは伯爵が差し向けた刺客(しかく)だったようだ。

覆面(ふくめん)を取ったところ、伯爵の屋敷(やしき)の前でアルス達に絡んできた衛兵(えいへい)達と同じ顔が何人か並んでいた。


「俺らを使うことで王様からの()()()()()って命令を表向き達成しつつ、その上で俺らを消して報酬(ほうしゅう)の回収しようとするとはな…ふざけやがって…」

「しかも私達の()()まで横取りしようとしてたなんて…あの狸爺(たぬきじじい)許せない!!」


盗賊…もとい暗殺者(あんさつしゃ)達の話を聞いたウォルフとレヴィンは(こぶし)を震わせて腹立たしげに言った。


彼ら(暗殺者)の話を聞くに…どうやら伯爵はアルス達を消すことで、魔族討伐の手柄まで自分達のものにする算段(さんだん)だったようだ。



「タヌキ…?どちらかというとキツネさんみたいなお顔でしたが…」

(いきどお)るウォルフとレヴィンに対し、フィルビーは一人(ほお)に手を当てて考え込んでいた。

────そういうことじゃない。



「……」

アルスは(あご)に手を当て、これからどうするか考えた。


伯爵が自分達の命を(ねら)っていると判明(はんめい)した以上、もうクス伯爵領に戻るわけにはいかない。


クヴィスリングに向かうにしても、馬車を操縦(そうじゅう)していた御者が敵からの刺客だったため、今後馬車を使って移動するのも難しい。


しかし徒歩で移動したのでは…恐らくは救援(きゅうえん)が間に合わない。

───完全に手詰(てづ)まりだった。



「全部吐いたから…せめて俺の命だけは助けてくれぇ…!命令に(したが)っただけなんだ…!」

「あぁ!?テメェなに一人だけ助かろうとしてんだよ!!」

「チクショウ…!あんなジジイの言うこと聞かなければ…」

「…!」


……そんな時、ふと必死に命乞(いのちご)いをしてウォルフに怒鳴(どな)られる御者だった男を見て、アルスは()()を思い付いた。


「…なら、一つ頼みを聞いてもらおうかな」

「…へ?」


アルスの突然の言葉に、御者は目を丸くしていた。

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自分で状況を打破するフィル、かっこよすぎた!! アルス冷静さと決断力ほんとすき...。 この後どう動くのか、気になりすぎます!!
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